SCP-CN-2000-4


アーカイブ ꙮ-007-19391012


以下の内容はO5-7が携帯する簡易式レコーダーから回収されました。

O5-7: またSCP-8260か……いつもの方法でやってくれ。書類を削除し、ハーンとその他の者に徹底的に記憶処理を施し、その後に類似する別の方向で研究を再開するよう暗示をかけろ。次の『Nature』誌に軽微な記憶除去ミームを加えるんだ。これで何度目だ?

[編集済み]: 八回目です。

O5-7: 財団以外で八回もこの現象が発見されるとは………待てよ。

[編集済み]: どうしましたか、教授?

O5-7: ……ニック、財団内部で、私は最初にSCP-8260を発見した人間だ。監督評議会はこれを異常現象だと見なすことで一致し、その後収容対象に加えた。だが——私は一人の物理学者として、この現象がいかに普遍的で、いかに容易に発見され得るかを良く知っている。

[編集済み]: ……それは、確かに。それとそれ以外の物理法則には特に区別はありませんからね……。

O5-7: このオブジェクトを引き継いだ時、君はどう思った?

[編集済み]: 私は……実を言えば、何も考えていませんでした。私は、それは収容されねばならないと感じました。

O5-7: 私が言いたいのはつまり……君はそれを異常だと感じたのか?

[編集済み]: いいえ。しかし何を異常と呼ぶのですか?私にはそれとそれ以外の異常との明確な区別が付きませんでした……

O5-7: この話題から離れよう。話をSCP-8260に戻すと、これに対する情報制限は二度と行わない。この件は、誰にも話してはならない。監督評議会員にもだ。

[編集済み]: なんですって?でも、SCP-8260は1948年のインシデントで最大の鍵となる異常の一つではないのですか?

O5-7: その通りだ。我々はやりすぎたんだろう、ニック。以前君たちに送ったメッセージを忘れるな。この異常は自然の成り行きに任せよう。

この件は他言無用だ。発生しなかったように振舞えばいい。我々が異常とみなすものを、財団以外の人間がどう扱うのかを見てみたい。更に興味があるのは……それが正常にどう影響を与えるかだ。

800px-Fission_chain_reaction.svg.png

SCP-8260-EXのプロセス図。

アイテム番号: SCP-8260-EX

オブジェクトクラス: Euclid/ThaumielReleased

特別収容プロトコル: SCP-8260及びその異常効果は全世界に対して秘匿されます。SCP-8260に関する全ての研究、実験及び科学論文は財団の監視下に置かれ、一般に対してはSCP-8260が存在しないと通知してください。同時に、SCP-8260の潜在的な有益性を考慮し、財団は物理数学研究所(PMRI)の直接管理下においてSCP-8260に関する研究を行います。

SCP-8260に関する全ての収容プロトコルは解除されます。

本プロジェクトは、O5-7自らが指揮・実施します。

説明: SCP-8260-EXは重元素原子に発生する異常な現象です。この現象は元素番号Z>90の原子に多く見られ、92番のウラン(U)で最も多く見られます。

SCP-8260-EXの観察可能な効果は下記の通りです。十分なエネルギーを有する中性子と重い原子を衝突させた場合、後者が破裂します(このプロセスを“核分裂”と呼称)。このプロセスでさらに多くの中性子が放出されるため、十分な量の重い原子核が一カ所に集中していれば、このプロセスは持続し、最終的に大量の蓄積された原子核が短時間のうちに分裂します。このプロセスにおいてエネルギーが放出されます。

制御を受けない条件下では、SCP-8260-EXインシデントの発生は大量のエネルギーを瞬間的に放出し、これにより壊滅的な結果がもたらされます。同質量の条件下では、SCP-8260-EXが発生させるエネルギーは既存の科学反応に由来するエネルギーよりも遥かに膨大となります。制御された条件下では、SCP-8260-EXの放出するエネルギーは優れたエネルギー資源になると思われます。

本技術の潜在的な破壊性と利用見込みを考慮し、現在財団はSCP-8260-EXに対し、財団内部の限られた範囲での開発利用を認めています。更なる研究は現在進行中であり、SCP-8260-EXのエネルギーを用いた兵器の開発が促進されています。

本技術の潜在的な破壊性と利用見込みを考慮し、SCP-8260-EXの情報は他の非異常組織へは秘匿されず、正常な物理現象と解釈されます。担当職員は正常世界に対するオブジェクトの使用を引き続き監視し、オブジェクトが正常性の安定に与える影響を確認し、SCP-Laplaceの兆候を確認してください。

オブジェクトはReleased(解放済み)に再分類されました。






アーカイブ ꙮ-008-19451102





O5-7へ:

君が以前観測した並行世界から得た情報は正しかった。我々は現在、ドイツが戦争を起こしたがっていることを確信している。

ワンが手紙を送ってきた。私に、ズデーテンを併合するというドイツの提案を呑むよう、イギリスとフランス政府へロビー活動をしに向かうよう提案している。これがどれ程の効果があるのか疑わしいが、もし支持しなければ、確かに戦争は一触即発かもしれない。

今思えば、我々がこれまで考えた、数多くの戦争の到来を遅らせる措置——ソビエトとドイツの関係を緩和することを含む——等は、実際には戦争の到来を加速させているかもしれない。ワンがあの時言ったことは正しかった。戦争の種子は第一次世界大戦が終息した時には既に撒かれていたのだ。

私は、我々がこの戦争をどれほど阻止できるか自信を持てない。対策を講じるための時間を稼ぐためにも、可能な限りそれを後に遅らせるしかあるまい。

O5-4




O5-4およびO5-7へ:

おめでとう。イギリス人、フランス人そしてドイツ人はミュンヘン協定に調印した。これによって、英仏独間の矛盾は幾分か緩和されただろう。彼らも我々の工作に全面的に協力したいらしい。

今なら、やや楽観的な見通しを立てられるだろう。この戦争は回避できるか、少なくとも早期に勃発することはないだろう。

これは君達の功績だ。君達と、そしてインサージェンシー全隊員を祝福しよう。

君達は暗闇の中で戦っている。財団は正常の維持、人類保護のために君達が払った犠牲を永遠に忘れない。

O5-1




O5-7へ:

ドイツにいるスパイから連絡を受けた。ほぼ確実に、リッベントロップがソビエトとの協定に署名するためにモスクワへ飛ぶようだ。協定の内容についても聞いた……彼らは開戦し、ポーランドを分割するつもりだ。

何という皮肉だ。当初は彼らの関係の緩和は我々の望みでもあったが、今奴らは我々が最も心配した状況を現実にしようとしている。奴らがポーランドに進入すれば、英仏が黙っているはずが無く、きっと戦争が起こるだろう。この情報をワンとイギリス政府に知らせるために人を送った。彼らはようやくドイツの野心を認識し始めたが、それでもまだドイツとの交渉を望んでいる。

私は戦争を回避できるなんて幻想はまったく抱いていない。監督評議会の指示は断固として実行しなければならない。それだけのことだ。その上、ここまで事態が発展してしまったのだ、もう財団が制御できるものではなくなっている。

O5-4




O5-4及びO5-7へ:

君達も既に知っているだろう、今日早朝四時四十五分、ドイツ軍がポーランドへ侵攻した。

我々が全力で回避しようとした戦争が、予想通り始まってしまった。

だがまだ終わっていない!計画を調整して、どんな犠牲を払ってでも我々の収容体系が正常に運用されるよう保護しなければならない。特にアノマリーがヴェールの外の科学研究機関に再発見されないよう注意せねばならない。

O5-1




O5-4へ:

この戦争でドイツ、あるいは日本が勝利した場合、彼らが何をしでかすのかを分かっているだろう。違うか?

SCP-8260の情報は既に不可逆的に漏洩した。これも君は知っているはずだ。我々は遅すぎたのか?分からない。だがどうあっても、ソビエト、アメリカそしてドイツは既にそれに気付いている。

収容プロトコルは既に役に立たないが、我々にはまだ一縷の望みがある。もし干渉しなければ、最初にSCP-8260を使った兵器を開発するのは、間違いなくドイツだ。私はアメリカ政府とソビエト政府に、財団のSCP-8260に関する情報を引き渡すつもりだ。

一方だけがこの技術を持てば、それは災厄となるだろう。だが皆がこの技術を持ったならば、それは自ずと抑止力のバランスを形成するだろう。

これからアメリカ軍の高官に会わねばならない。この件については君の助けが必要になるかもしれない。

O5-7




O5-7へ:

全世界が今日、広島のキノコ雲に注目している。たった一発の異常技術に由来する爆弾が街一つを壊滅させた。最も重要なSCP-8260が何故アメリカの手中に落ちたんだ?努力不足を言い訳にするな。関連技術に触れた者が協力しない限り、このレベルの兵器は到底完成させられないというのに。

これまでに、唯一SCP-8260に接触した組織は財団だ。私の知る限りの状況を見れば、アメリカのSCP-8260を用いた兵器開発に君が協力したことは確実だ。

物理学者として、SCP-8260の最初の発見者として、君はSCP-8260がどれ程恐ろしいかを事前に十分理解していただろう。君がなぜこんなことをしたのかまったく理解できない。新たな現象の背後に隠された不確実性に対する人類の好奇心は無限だ。この研究が明るみに出た後で、後続する核技術の研究——核分裂や核融合等——が正常性をどれほど破壊するだろうか?人類に安息の日は二度と訪れず、SCP-8260というダモクレスの剣の下で永遠に生きるだろう。今、少しでも力のある国家ならば、何時でも気まぐれに人類を滅亡させられるのだ!

君の行為は財団への反逆だ。君は監督評議会全員に説明しなければならない。

O5-1




O5-1へ:

申し訳ない、だが私は自分の研究に何の問題もないと考えている。

アメリカの新型兵器開発に協力したことを認めよう。だがSCP-8260の技術は既に漏洩していた。君は他のタイムラインが発展した過程をよく知っている。まさか、世界大戦の遅延を試みたのは我々だけだとでも?SCP-8260は既に八回も独自に発見された。八回だ!例え我々が情報の封じ込めに最大の努力を払ったとしても、ドイツは遅かれ早かれそれを発見しただろう。

そんな結果になるよりはむしろ、双方同じスタートラインに立たせて、その力を使わせた方が、恐らくは人類にとってより有益だろう。その上、あなたが二十年求めた目標——戦争の終結は、ここに実現した。まさにSCP-8260の功績だ。

私とロバート・オッペンハイマー、オットー・ハーンそしてアルベルト・アインシュタインは長く共同研究していた。彼らのSCP-8260に対する考えは、財団物理学研究員の誰よりも成熟している。何を根拠に、SCP-8260を我々の収容下に置くことが、彼らのやり方よりも良いと言うのだ?

SCP-8260がもたらすのは脅威だけではない、それはエネルギー源なんだ、ワン。それは無限の可能性だ。どのような恒星系文明であれ、母星の束縛から逃れるためには科学燃料だけに頼ることは出来ない。そんな考えは甘すぎる。SCP-8260が出来ることは、我々の想像を遥かに超えている。それは兵器を生み出すだけではなく、発電も、地形を変えて大型施設を建造することすら可能なんだ。それは我々が宇宙へ踏み出し、星へ到達するために必要な梯子だ。これらは容易に想像できるだろう。そんな技術を我々の手中に収めることは、自らの欲望でカナリアを鳥籠に閉じ込め、自由を奪って自分たちのためにだけ歌わせる、身勝手な姫君のようものだ。

人類の不確実性に対する要求はずっと存在していた。異常と呼ばれるものが、この点を掻き立てることは疑いが無い。ではこの間、我々は一体何をしてきたのだろうか?

O5-7




監督評議会によるインサージェンシープロジェクトに対する評価及びプロジェクト中止可否の表決

SCP-8260の収容違反により、このアノマリーは既に深刻な影響を与えた。人類の歴史の歩みは永久に改変され、正常性の形成に対して不可逆的な損傷をもたらした。財団は既に、SCP-8260の特性を理解することで発見し得る更に多くのアノマリーを確認しており、これらアノマリーに対する封じ込めプロトコルは既に不可能となっている。

現在、O5-7率いるインサージェンシーチームが収容する能力を有さず、更にはこの収容違反を促進したことを大量の証拠が示している。主要な責任者として、O5-7は責任を追及されねばならず、O5-4及び彼以外のインサージェンシー幹部も相応の責任を問われねばならない。インサージェンシープロジェクトの実行は現在、巨大な損害を生み出している。監督評議会は、このプロジェクトを継続することは財団がプロジェクトを開始した当初の目的、更には財団の核たる原則——脅威の確保、異常の収容、正常性の保護——にすら大きく違反すると考えている。

よって、監督評議会は、インサージェンシープロジェクトを直ちに中止し、監督評議会が当該チームの全ての権限を回収するべきであると考える。

ナンバー 賛成 否決 棄権
O5-1
O5-2
O5-3
O5-4
O5-5
O5-6
O5-7
O5-8
O5-9
O5-10
O5-11
O5-12
O5-13

賛成9-反対3-棄権1、議題は可決された。インサージェンシープロジェクトは即刻中止される。

O5-7及びインサージェンシーの主要責任者に対する問責は、後日行われる。




全監督評議会 殿:

良い知らせがあります。今日、逆説的な保険証書の18番目の情報を受け取りました。このメッセージが発信された時間はまだ追跡できていませんが、それが21世紀末以降であることは確認できました。

1948年には何も災厄は起こりませんでした。我々は人類文明の保護に成功したのです。

SCP-711オブジェクト担当チーム




以下の内容はO5-7が携帯する簡易式レコーダーから回収されました。情報は1936年1月23日に記録されました。

エイドリアン・クリステンセン: ……君が私の要求に応えて、危険を冒して我々に連絡をしてくれて嬉しいよ、教授。

O5-7: 何という事は無い。私もまた、インサージェンシープロジェクトの一人で、まだ財団に所属しているというだけだ。ある意味では私たちは同じだ。

エイドリアン・クリステンセン: ああ……確かにそうだな。それで、君は1948年に結局何が起こったのかを知りたいんだろう?

O5-7: そうだ。

エイドリアン・クリステンセン: 逆説的な保険証書は……ほぼすべてのタイムラインで——我々の歴史の進展から大きく逸脱しない限り、同じ状況になる。彼らは1948年12月に送信された逆説的な保険証書を受け取る。観測できた状況が君達に告げているはずだ。他の財団に問いただしても、同様の答えが返ってくるだろう―—

“1948年に、戦争中のどこかの国、それはイギリスかもしれず、アメリカあるいはドイツかもしれないが、独自に何らかの異常技術を発見する。この異常技術は奇跡かもしれず、核物理学かもしれず、現実理論かもしれない。いずれにせよ、彼らはこの技術を戦局に転用して戦争に勝利するが、その後は正常性が不可逆的に破壊されてしまう。”

O5-7: その通りだ。

エイドリアン・クリステンセン: それが君の関心事ということならば、1948年には確かに何かが起こった。確かに似たような状況が現れた。だが、それがこの大戦で人類を壊滅させることは殆ど無かった。概して言えば、この技術が世界を壊滅させるほど発展する前に、いずれかの勢力が戦争の勝利を勝ち取っていた。さらに言えば、壊滅するような事態では、誰も逆説的な保険証書を送信できっこない。SCP-8900-EXを思い出してくれ。色が現れたことに対して、絶望顔で“人類は滅亡した”なんてメッセージを送る奴がいるか?

本当の災厄とは、それ以来、財団自らが社会全体の進行に介入し、社会の隅々まで年金の如く広がり、人類社会の一挙一動を監視し、人類未来の発展を念入りに、財団の望むように形成することだ。不確実性は二度と無い。可能性は二度と無い。未来は“確定”に変わってしまうのた。

O5-7: それじゃあ、逆説的な保険証書の文字列17は——

エイドリアン・クリステンセン: それはきっと“レジスタンス”が送ったメッセージだろう。こうしたレジスタンスは財団の一員かもしれないし、我々のようなカオス・インサージェンシーかもしれない。我々はこの確定した運命に抗っている。

人類社会を隅々まで監視しようと企ててはならない。人類が得るべき未来を人類に返そうじゃないか。

O5-7: だが、異常インシデントは確実に勃発した。まさか、それらに対応するべきじゃなかったというのか?

エイドリアン・クリステンセン: 異常とは何だ?教授、異常とは何だ?

O5-7: 君達は正常な文書で異常とは何かを明確にした。正常な文書の外にある存在、それが異常だ。

エイドリアン・クリステンセン: ならば、我々が正常な文書を更新する根拠は何だ?

O5-7: (沈黙)……分からない。

エイドリアン・クリステンセン: 我々はずっと、正常性はコントロール可能で、定義さえできるものと考えていた。忘れるな。財団が全てに介入し、不確実性を消去する理由、それもまさに正常性と呼ばれるものの維持のためだ——実際には、異常なんてものは初めから存在しなかった。1948年には何も起こらなかった。それは本来、人類史上の正常な発展の一環であるはずだ。人類は元々その時期に核兵器、あるいは奇跡兵器、あるいはフィクション理論テクノロジーを発明するはずなんだ。

強いて何かが起こったと言うならば、それは財団——あるいは今の“正常性”——が人類の運命を確保したことだ。

O5-7: 違う、財団は人類のために戦っている。正常性と人類は決して対立関係にはない。

エイドリアン・クリステンセン: 勿論違う。人間は自身の身体の細胞と対立関係にあるか?いや、対立しない。それでも、免疫系等は老化したり病に冒されたりした細胞を同様に排除するだろう?

O5-7: つまり、財団は人類と敵対し得ると?

エイドリアン・クリステンセン: 私は人類文明が破壊されたタイムラインから来た。我々の世界では、財団は三百年前に正常性と自身の秘密の使命を発見し、自ら全てのアノマリーを解放して、人類絶滅計画を開始した。

O5-7: ……財団が人類を絶滅させる?そんなことができるのか?秘密とは何だ?

エイドリアン・クリステンセン: 全ての人間の魂の奥深くには、同じもの——不確実なものを探求し、発見し利用したいという欲望が隠されている。この好奇心と期待感は人類文明を絶え間なく発展させてきた。この過程は人類が既存の正常性を突破する過程であり、それは“異常を発見”または“異常を創造”する過程とも言える——結局、彼らの定義によれば、正常性を超越したものが異常なんだ。

人類は少しずつ不確実性を探求してきた。それは正常性が少しずつ破壊されたことを意味する。全ての人間は生まれながらにして正常性の創造者であり、同時に生まれながらにして正常性の反逆者でもある。人類社会の全てが完全に財団の制御下に置かれている、我々の世界も例外ではない。不確実性がまだ存在する限り、正常性が財団の望み通り永遠に維持されることは、決してない。

財団はこのことに気が付いた。初めに、大多数の財団職員が、自分が一生を懸けて戦い続けた“正常性”の最大の敵が自分自身だと気づき、何人かは自分の行為が実際には人類の未来を埋葬することに気が付いた。一部の財団上層部は、“それが人類に進入した異物”の影響であると結論付けた。絶望的な感情が財団職員中に蔓延し、かなりの人間が自ら命を絶つことを選択した。

要するに、財団上層部は、異常の根絶を保証し、正常性を維持する唯一の方法——“心を鬼にすること”——を理解せざるを得なかった。一部の特別な人間を選び、ヴェールの外の正常性を転覆させ得るすべての人類を殺害させた。彼らの目的は……人類発展の一切の不確実性を排除し、人類の運命を固定し、正常性を永遠に持続させることだ。

財団職員以外では、一部の反抗勢力だけが生き残って、その中に我々も含まれた。我々は財団と戦い続けたが、我々の失敗は既に取り返しがつかないようだ。

O5-7: 分からない……それは筋が通らない。財団は正常性と呼ばれるもののために、人類の未来を犠牲にして、人類を虐殺できるのか?私が見たどんな財団も、そんな極端な組織では絶対になかった。

エイドリアン・クリステンセン: 君の見た財団は、まだその恐るべき一面を覚醒させていないだけだ。財団の残酷な正体は、まだ“世界秩序の平穏な進行の維持”というご立派な名分の下に隠されている。だが既に逆説的な保険証書のメッセージを受け取った以上、奴らの魔の手が既に人類社会の隅々にまで伸ばされ始めたことは明らかだ。

もし私に間違いが無ければ、君達が恐れることは私が先ほど話した、全世界の科学技術を確保する計画と似ているんじゃないか?

O5-7: ……それなら、人類の虐殺はどうだ?君達の財団だけがそうしたのか?他の並行世界ではどうだ?

エイドリアン・クリステンセン: 私達だけじゃない。いくつかの並行世界では、人類全体が神となり、その後全人類が財団に収容された。他の並行世界では財団が定期的に意図的なXKクラス世界終焉シナリオを引き起こし、その後に四角い孔に入らない丸い釘を使って世界を再構築し、一つの時間内で無限に循環する世界を確立した。58%の並行世界は2300年に壊滅した。

世界が無限の循環に陥っても、人類文明があっさりと滅亡しても、いずれにせよ現在の正常性を伝承しようとする者だけが生き延びる。

O5-7: ……理解した。

(沈黙)それで……君は君達の世界で、どう動くつもりなんだ?

エイドリアン・クリステンセン: 大したことはやれなかったのかもしれないがね、教授。これが我々の最初の会見で、最後の会見でもある。明日——正確には、私のタイムラインでは西暦2020年2月1日に、狂った財団連中が他の並行世界へ進入することを防ぐために、こちら側のアイティダポータルを徹底的に爆破するつもりだ。カオス・インサージェンシーの組織は既に崩壊寸前だ。我々は利用できるすべてのテクノロジーを使用して、我々の戦闘できる全てのメンバーを武装させた。それでも……やはり十分ではないように感じられる。

だが、我々は己の運命を奪還することは絶対にあきらめない。例え最後の一兵卒になっても、我々は闘争を続ける。明日、私自身も前線に立って、財団のクソ野郎どもと戦いに行く。

O5-7: (沈黙)……それなら、君が我々を訪ねたのは、どうしてだ?

エイドリアン・クリステンセン: 我々のタイムラインには、ある理論がある。それはカオス理論と呼ばれる。宇宙のような複雑なシステムでは、始まりのごく小さなずれがシステムの進歩につれて巨大な差異をもたらす。たった一匹の蝶が南半球で羽ばたけば、西北太平洋で巨大な嵐を引き起こすかもしれないんだ。

我々の運命も、全てが不確定だ。カオス・インサージェンシーのメンバーはカオス理論を自らの魂に刻み込む。我々は運命に決して屈服しない。既定された運命を打破できるチャンスがごく僅かにでもあれば、我々は皆立ち向かう。

君達も同じだと信じているよ。我々は既に失敗したかもしれないが、君達にはまだチャンスがあるんだ、教授。





アーカイブ ꙮ-009-19461102
《プロジェクト・エマージェンシー最終レポート》結論部分抜粋





CHAPTER VI. 結論

プロジェクト・エマージェンシーの研究中、我々は財団の過去22年間の収容行為をすべて調査した。周知の通り、財団が対象を収容する判断基準は“その対象が正常性を破壊するか否か”であるため、正常と異常の明確な境界が必要となる。財団はこのために《正常な文書》を制定した。これは極めて機密性の高いドキュメントである。これは何が正常で、何が異常かを定義するのだ。

しかし、財団は自身が想定するほど強大ではない可能性がある。我々は本当に正常性を定義する権利があるのだろうか?正常性は本当に我々が定義した通りに発展するのだろうか?

財団の行動基準はほぼ《正常な文書》と呼ばれるものに準拠しているにも関わらず、実際は正常な文書は“異常”の線引きには大した拘束力が無いことが判明した。この点は、並行世界の財団の行動にも見られる。一部のタイムラインでは、財団は人類を滅亡させ、あるいは人類全てを収容した。もし《正常な文書》が本当に有効ならば、正常性そのものは人類に依拠した概念であるはずだ。したがって、人類を収容することは、正常性自体を収容することと同義である。これは財団の基本的な行動基準と背反し、《正常な文書》もまた何ら拘束力のない虚偽のパラドックスとなる。

SCP-Laplaceとはエントロピープール理論に基づき、自身を正常性と融合させると共に、人類文明が絶え間なく増大する不確実性に依存したまま、未来に向けて発展することを阻止するアノマリーだ。この異常性を探り当てるために、我々は正常性そのものを対象とした研究を行い、前述した統計学的な結論に至った。

要約すれば、正常性とは事実上主観的な概念、つまり人類の比較的安定・熟知した周辺環境の知識の総和、あるいは“人間が熟知する全ての事象の総和”と表現されるものである。全ての人間は自分の“正常性”についての理解と知識を有し、客体的な“正常性”として、社会の全人類の“正常性”への集合認識を構成する。また、熟知した環境は常に人類自身に更なる快適さを感じさせる。逆に言えば、不確実性は潜在的なリスクであることを意味している。このため、正常な概念における“正常”の意味は、それ自体が確実性を内包することを仄めかしており、正常性は自ずと維持、現状保護へ向かう傾向にある。そして人類の持続発展に必要な不確実性自体はこの確実性に抵触するため、当然ながら正常性に許容されない。

人類の個人間の社会行動は、正常性自体を普遍的かつ複雑に内包し、人類自身の行為も正常性自体の行動の一部となる。つまり、正常性とは有機体であり、正常性を組織するものは数多の“細胞”——“人類個人の正常性への認識”なのだ。エマージェンシー理論1によれば、このシンプルな基本ユニットが複雑なシステムを形成すると、形成された複雑なシステムは往々にしていくつかの基本ユニットを単純に加算しただけでは得られない性質を有する。これは一部の特性を実施するためは基本ユニット間の相互作用に依存せねばならないためである。このため、人類が主観的に認識する正常性は、全く似通った、基本ユニットで構成される複雑なシステムであると見なされる。

エマージェンシー理論のありふれた一例が、人間自身である。つまり、人間自身は細胞で構成されているが、人間を構成する細胞をすべて積み上げても人間の特性を全て有するわけではない。細胞を単純に積み上げたもの自体には複雑な思考と運動を行うことができないが、人間はそれが可能である。こうした新しい性質は異なる細胞間の共同作用によって実現しており、これがエマージェンシー(emergence)と呼ばれる。

類似する現象が正常性の概念中にも同様に存在する。システムの複雑性は相対的な正常性となって、各個人の正常性の認識中には含まれていないことを示している。この点で正常性は自我を持った巨大な有機体であると言える。これはユングの集合無意識概念の説明に類似している。人類社会では、現状を打破しようとする人物が常に存在し得るが、重大な変革に直面したり、社会が問題を選択したりする際には、人類社会全体の雰囲気はより保守的になる傾向がある。これは正常性“意思”を体現している。正常性、そして正常に物質化されたキャリアとしての人類社会自体は、不確実性をあまり受容しない。人類社会が現状を変える必要性を感じていない場合、このような集合無意識中の思考は、常に既存の“正常性”を保護する傾向にある。

しかし、エマージェンシー理論はまさにこれを予言していた。もし我々が“正常性”を独立した存在とみなし、“正常性”の観点からこの問題を考えれば、この保守はかなりの程度で人類の意思ではないことが分かるだろう——つまり、実際は正反対なのである。満遍なく存在しているように見えるこの集合体無意識は、一人一人の人間が持っているものではなく、人類の意思が出現したものなのだ。それは正常性の思想、つまり人類が正常性を停滞させるのではなく、正常性が独自に人類を保守的な傾向にするのだ。言い換えれば、“正常性”は自身を保護し、自身が不確実性と直面することも、自身が“新たな正常性”に置き換えられることも望んでいないのだ。

プロジェクト・エマージェンシーの研究目的は、正常性の中の何が周辺環境の不確実性を弱体化させ、同時に人類の好奇心と発展し続ける空間を抑制するかを研究することである。これらによる効果は確実に人類を現状に満足させ、人類文明の形態を二度と発展させなくするが、これは“正常性”が長く維持され続けることも意味する。

プロジェクト・エマージェンシーチームの研究は、最終的に次のように結論付ける。人類の不確実性の発展を阻害するアノマリーは存在しない。人類の発展の不確実性を削除するのは、正常性自身が内在する性質である。




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