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「伍玖」と「O5-13」の面会記録(テキスト転写)
<記録開始>
<「伍玖」が「O5-13」の執務室へ入室>
「O5-13」: (スーツに気にしながら呟く)またキツくなったか……はあ、これが最後の一着なのに。破れると母球から仕入れるのは大変だぞ、クソが。(顔を上げ)誰だ?伍……(眉を顰める)「李然」の前任者は誰だ?
<「伍玖」は「O5-13」の質問に答えず、そのまま机の前へ来る>
「伍玖」: (汗で濡れた書類を両手でゆっくりと渡す)張致虔。(右手は机につけ、動きに力が入っていないように見える)今の職は貴方に任されたものなので、礼儀だけは尽くします。(声を震わせながら)「O5-13」様、ご……ご神恩……ご神恩代理人の儀式中の助手から渡された、権限書類、によると、私は再三に、確認しましたが、その助手は、確かに、母球の任意個体に対する、生命……の支配を、行使する権限があります。制限は、32人以内。その……その命令により、貴方を通じて、「O5-1」「O5-2」「O5-3」「O5-4」「O5-6」「O5-7」「O5-8」(間を取って目を閉じる)O5――「O5-9」「O5-10」「O5-11」に自……自裁命令を言い渡す、復活は、不可です。(数秒の沈黙)辞任届を出します。礼儀は尽くしました。権力臨界点での生活がさぞ愉快なものになるでしょう。先生に何かがあれば(目を大きく開いて「O5-13」を見つめる)、貴方は後悔することになります。
<「伍玖」はその場を離れようとする>
「O5-13」: (目を見張り口を大きく開いて、数秒の間を置くと、困惑の様子で周囲を見、やがて去ろうとする「伍玖」に視線を向け顔を上げる神よ!(若干、声を嗄らしながら)ついにやったぞ!はははっ!ついにやったぞ!大敵は去った!大敵は去った!ハハハハッ!!!
<「伍玖」は足を止める>
「O5-13」: (笑いをこらえる様子で)君……君たちがまさか本気で、私が権力臨界点に罹っていると思い込んでいるなんて!は……(口を抑えて笑いを止める)そんなこと誰が言ったのさ!本当に……本っ当に可笑しくてどうにもならない、ハハハハッ!君たちが内通者をあぶり出そうとあれこれをやる度に笑いがこみ上げてくるものだよ。私がO5だからって、「人類を愛する高尚な品格」を持っているからって、私を対象者から外しただろう?これぽっちも私のことを疑っていなかったなんてな。私だってそんな品格を持ちたいがな。残念ながら、この命は神に拾われたものだ。
<「伍玖」は突如、左手を来客用椅子につけ体を支え、右手で眼鏡をかけ直すも斜めにしてしまう。その後、右手を震わせながら腰につける>
「O5-13」: ようやくだ、ようやく。随分と長い間待たされたものだ。はははっ。「9」の老獪がようやく引っかかってくれたのだ!!!「伍玖」君よ、恨むなら私を恨むなよ。「9」と「7」の連中がわるいのだ。子球の財団から情報が入った。子球の伍玖君や財団の公式報告書から、正真正銘、決定的な証拠をな。曰く、「9」と「7」が保守派に潜入したO5と結託して、議会の政権を武力で奪取しようと企んでいると。しかも、母球の全天命教徒と四星共栄組織も全て粛清しようとしていると。内部分裂を目論むばかりか、神に抗おうとするなんて!この死にたがりが!
<「伍玖」は右手で銃を取り出そうとするが、左手でそれを抑える>
「O5-13」: (間を置いて、手でペンをいじりながら)だが、これほどの朗報が入ってくるとは。さすがの私も困惑してしまうものだ。(軽く溜息)「9」が自ら死の道を選んだ以上、私はもう包み隠す必要がない。はあ、この数百年間、ずっとどういう思いをしてきたのか分かるか?退屈だ。本当に、本っ当に退屈だ。退屈だけじゃない(ペンを置く)、他に何があると思う?吐き気さ。吐き気がするだけでなく、戦々恐々としていたのさ!戦々恐々と!!!(ホログラムプロジェクターを思い切り叩く)君も分かるだろう?「9」は権力に執着していないように見えるが、思えば全てを取り戻せることをな!神恩代――「ソレ」の言った事は冗談とでも思っているのか?「伍玖」君、君がよく知っているという彼が、失墜したと思う彼が、一体まだ何を掌握しているか分かるか?君には黙っているかもしれないが、彼自身がよく分っているに違いない!今、母球において一切の権力の源は、我が神の何者にも――ほぼ何者にも打ち負けない力によって維持されているのだ。つまり、「ソレ」に認められた者だけが、真に子球を統治する権力を有するということだ!それが誰なのか、さすがに分ってきているだろう!?彼はただこの全てを手放しているだけだ。彼が欲しいとさえ思うと、権力の構造なんて彼の思うがままじゃないか!?
「O5-13」: (身だしなみを整え、立ち上がり、窓越しに遠くの意識復活装置を眺める)本当に、もう我慢ならない。先の言葉も、かねてより言いたかったことだ。そして今、ついに憚ること無くそれを口にすることができる! (振り返り)我が神のおかげさ!天命教教徒の暴動で非人道的な扱いを受けていなければ、無残な死に方をしていなければ、神によって復活されていなければ、まだ可笑しい正義を振りかざして、くだらない原則を堅持して、意味もないO5の職務を全うしていたところだ。真に役に立つことが何かも知らずに!(思い切り机を3回叩く)私が無残な死を遂げたあの時、「9」はどうしていたのさ!?南極の氷面へ何分間か土下座して、何言か喋って、それで何かされることもなく、また世界の大統領だと!?いいだろう。権力臨界点に罹った彼が、我々が生涯をかけて守ってきた世界を無茶苦茶にしたことはもういい。せりあがって我々を名ばかりの参謀部とやらに追い込んだことももういい。あの時の私も甘かったものだ。疾患者だから彼のせいではないとも思った。戦後は生かしてくれていい職をくれるからまあまあ良かったじゃないかと思ったよ。それが何だ?クソだったのさ!私が惨たらしく死んだのは誰のせいだ?彼のせいじゃない、別の誰かのせいでもない、私のせいなのさ!私が、何にでも順応しようとしたせいなのさ!このクソみたいな世界を護って、クソみたいな人類を生かして何になる?鉄の拳より有用なのか?人類の精神やらO5の名誉やらが何になる?生きることよりも重要なのか?結局、君たちに権力臨界点の罹患者と呼ばわりされる!たわけが!悪行の限りを尽くした「9」が、ちやほやされるなんてことあってたまるか!
<「伍玖」の右腕は垂れ、若干中腰になりながら、左手は椅子の背もたれを押さえている>
「O5-13」: (右手で「伍玖」に指さす)教えてやろう!神に復活させてもらったおかげで、自分の生き方を見直す機会があったのだ。覚えておけ――手に力がある時だけ、頼れる力がある時にだけ、心配せずに、人間みたいに生きることができるのだ……大層、いい生活をしているようだが、君には鞭で叩かれる感覚を知るはずもなかろう。ましてや火あぶり、皮剥ぎ、肉を切り落とされる感覚を!私は……私は、自分の右腕を、あの狂った天命教教徒どもに焼かれる情景をただ眺めて、アノマリーで命を永らえた副作用で気絶することもできなかった。口を塞がれ、絶叫を上げることもできなかった。ただ、ただ眺めて、眺めて!名誉?精神?復活させられた時から、私は分かってしまったのだ。そんなものより、苛まれずに生きるほうが大事だと!
「O5-13」: しかも(息継ぎ)しかも、今日という日まで、この数百年も待ったことが起こる日まで、私はずっと戦々恐々としていたのだ。数百年間の努力が水の泡にならないように、吐き気をこらえて権力臨界点を偽装して、「9」の注意をそらしてきた。それで彼に気づかれないうちに議会の絶対多数を保守派議員にし、正々堂々と母球の権力機関にも手を出すことができたのだ!そのおかげで、「9」が自ら死の道を行かなくても、一戦を交えるための駒は揃えてある。勝算はほぼ無いが、少なくとも、彼に言いなりだった頃のような――零ではない。ふん、笑いがこみ上げてきただろう?数百年も気持ち悪いキャラを演じて、ただ注意をそらすだけなんて、馬鹿の所行だっただろう?はっ、確かに笑える。だが力不足の私にとっては、これが機会になるのだ。数百年も我慢したものだ。臥薪嘗胆と言ってもいい。それは何のためだ?今日のためなのさ!「ソレ」に認めてもらい、合法的に統治権を、母球の全てを手中に収め、生きるための今日に辿り着くためさ!(数秒間を置いて、席に戻る)失礼。だが、私の努力は無駄に終わることはなかった。退屈な数百年間、吐き気がする数百年間を乗り越えて、ようやくこの時が来たのだ。
「O5-13」: はあ、全くだ。ここで激昂しても意味が無いというのに。私の欲しい全てがようやく手に入れるのだ、激昂してなんになる。しかし、本当に腹が立つものだ。(身を乗り出して、しげしげと顔色の悪い「伍玖」を見定める)この様子だと、カマじゃなく本当のようだな。ほっとしたよ。しかし、君を見てると、過去の悪い記憶ばかり思い出すな……他人からすれば、私は絶大な権力を持ち、誰でも一捻りで潰せるように見えていた。だが知っているか?目撃者の処理のような「9」が気軽にできることでさえ、私は注意深くやらなければならなかった。あの件は知らないかもしれないが、あれは本当に窮屈だった。子球の伍玖君を君と間違えた時、意識復活装置があるかぎり復活だってできると分っているのに、歴史偏差のことがバレないように毒と記憶処理剤入りのお茶を飲ませるのも、「9」の報復を恐れて随分と躊躇したものだ。だが、この全てが過去になる!ハハハハッ!「9」が銃口に向かって死に、それで私が解放される情景を想像すると、笑いが堪えられない!全てがこんなに完璧になるとは!ああ、そうだ、チョコレートを食べるかい?心配無用だ、毒なんて入ってないぞ!今更君をはめるなんて必要ないからな。(乱暴に机に置いたチョコレートの箱を持ち上げ、強引に開けようとする。力の入りすぎか、スーツの脇が破れる)ハ……(嗄れたような笑いを発し、その後口を開けたまま沈黙した。荒い呼吸を抑えこもうとする様子を示した)ようやく破れてくれたか、窮屈だったものよ。(破れた方の袖を引きちぎり、スーツを脱いで適当に地面に投げる。その後、包装紙を剥いてチョコレートを食べ始めた)
<部屋隅の監視カメラからの映像によると、「O5-13」が話をする間に、「伍玖」はずっと地面に俯いたままの姿勢を保っている。ただ、話の後半で瞳孔が散大していた>
「O5-13」: チョコレートというものは、甘みの中に苦みがある。私の境遇と、まさしく同じではないか?ハハハッ。もう芝居をうつ必要もなく、全てを掌握し生きるための力を手に入れたが、苦みは味わえなくなるものだ。勝利が早くも訪れてくれたおかげで、数十年も入念に仕込み、完遂するまで何百何千年を要する計画も、結局途中までしかやらずじまいだ。人が生きるためには楽しみが必要さ、特にこの、何をやっても数十数百年かかるところではな。権力臨界点を偽装したのは確かに退屈で吐き気がするが、演じることの楽しみは多少なりともある。長期化するばかりの計画も、実行していると楽しく思えてくる。至上の楽しみが訪れる今、あんな小さな小さな苦い楽しみが……今後はもう味わえないのは実に残念だ。計画のことは誰にも伝えていない。「レーニン」君にも遠野君にもな。信頼出来るものは自分しかいない。だが今――もうどうでもいいことだ!「9」は死に、計画を喋ったところでどうってことはない。ぜひ、君にもその残念さを知ってもらいたいものだ。演じることの一番の楽しみが何か分かるか? (微笑み、「伍玖」を見る)稚拙な演技をわざと披露することだ。演技が稚拙なほど、権力に夢中になっているように見えるほど、「9」は私のことを軽視する。何も知らない彼を見ていると、ますます楽しくなってくるのだ。急進派を追放したことに随分と余裕のようだったが、どうせ無くしたらいつでも取り戻せると思っていただろう。ハハハハッ。残念だが、独裁慣れした彼は知らない。配下を人間として、兄弟として扱ってこそ、その恩恵を受けるものだ。消耗品として扱えば、いずれ足をすくわれることになる。権力臨界点を演じきっていると、他の者にも分ってもらえなくなったのが実に遺憾だが、今日のことを見れば理解してくれるだろう。計画が続行された場合、君以外の全員が彼を裏切れば、ゆっくりと仕掛けて、偶然を装って決定的な偽証を作ってやるつもりだ。そうすれば、時間こそかかるが、今日のように彼は終わる。まあ、私にとって時間は大して問題ではないがな。私は、生きるための力を手に入れる――我が神自ら認定する合法的な統治者に。
「O5-13」: 全く、運命はいたずらなものだ。子球の干渉が計画の邪魔になると思って、「9」に巻き返される危険を冒してまで、計画を繰り上げて会議で彼を急進派ごと追放した。と思いきや、子球の干渉がまさか幸運をもたらしてくれるとは!子球の財団が確固たる証拠を提示してくれたおかげだ。武力で我が神に反抗するだと?これが「9」の真意だったとは、私が彼をはめた時に使った口実よりも馬鹿馬鹿しいじゃないか!やはり、この死に損ないは当初我々を陥れた時のように横柄で、傲慢極まりない。全能なる神の力を目の前に、まだ妄想などしているとは。しかしどうだ、まさかこの私に計画がバレるなんて思わなかっただろう?ハハハ。恨むなら私ではなく、子球の財団を恨むことだな。
<「伍玖」は目を閉じ、辛そうにに立ち直ろうとする>
「O5-13」: まあ、君が信じなくてもいいさ。私のツテで入手した情報は嘘をつかない。子球の財団、伍玖君とO5-9の身辺につけた監視装置は嘘をつかない。子球の伍玖君が遠野君にインタビューした時に落としたメモリの中の資料は嘘をつかない。私が動くまでもなく、焦って計画を動かそうとするなんて、子球の財団のデータベースに侵入した甲斐があったのだ。ハハハハ。全く、運命はなんと予測不可能なものか、歴史はなんと気まぐれなものか。暇すぎて研究員時代の情報技術能力を思い出すついでに、子球の財団の情報やら入手して計画の修正を図ろうとしただけだったが、まさかあの能なしの集まりを激怒させてしまい、なにやら探ってくることになるとは。探ってきたと思いきや、まさか「9」の造反の証拠を掴んだとは。如実に報告するしかないだろう?ハハハハッ。「9」が何の細工をしたのか、手配しておいたはずの子球の四星共栄に連絡がつかないが、この際はもうどうでもいいことだ。全ての罪は彼にある。私を陥れた報いだ。ついでに、神のご恩にも報いることができた。ほら、私を恨む理由はどこにもないだろう?後悔することになるなどとふざけたことを言ってないで、全てが終わったのだ。
そうだ。ついでに教えてやろう。私の計画、その名前がなんて言うか分かるか?「新生」と名付けたのだ。「新生」計画、私の新生がな。ふん、もともとは「新生」を書いたダンテの愛するベアトリーチェにちなんで、ベアトリス計画と名付けるつもりだったが、回りくどい表現はやめだ。回りくどいことは嫌いさ。O5を務めた時でも、人類を守った時でもな。計略を巡らすことも、やむを得ない場合でもない限りやらない主義だ。だが、他の道は存在しなかった。O5としての職務を全うして悪いか?「当初の理想」に従って悪いか?残念ながらもう手遅れだ、全てが終わったのだ。「9」が悪事に働かなければ、私もやむを得ない状況に追い込まれていなかったし、彼も死ぬことはなかった。彼の自業自得だ。<「伍玖」はよろめきながらドアの前へ行き、そこで立ち止まった。顔が真っ青になっている>
「伍玖」: (「O5-13」に背を向け、呆然と自分の両手を見つめ、凄惨に笑いながら呟く)終わった。全てが終わった。人類が、この瞬間で、終わった。(「O5-13」に顔を向け)貴方、全てを……子球の、徹底抗戦を……白状したでしょう?
<「O5-13」の笑顔が消え、チョコレートの外箱の紙くずをいじっていた右手も動きを止める。数分ほど沈黙>
<数分掛かって、「伍玖」は足を引きずりながら退室。ドアを締めようとしたが、締め切ることができなかった。その後、廊下の手すりにつかまって、数歩前へ出る>
<「伍玖」がもう退室しているにもかかわらず、「O5-13」は視線をドアからそらそうとした。その後、立ち上がり、ドアに背を向け物を探す素振りをしたが、動きがピタリと止まる>
「O5-13」: (数秒後、長い溜息をし、ドアの方向に向かってまっすぐ立ち、通常の声量で)私は、やっていない。
<返事が聞こえたのか、「伍玖」は振り返ってドアの方向を数秒間注視し、また視線を戻す>
「伍玖」: (廊下で執務室のドアに背を向け、弱々しい声で)貴方は信じないかもしれませんが、先生は、こんなことをしていません。
<「伍玖」は苦痛そうに行政解禁令と思しき青い棒状物体を取り出し、数秒後に消失>
「O5-13」: (「伍玖」の声が聞こえなかったのか、依然としてドアの方向を注視し、呟く)私は、まだ……人間だからな。
<記録終了>
終了報告書: 面会後、「O5-13」は十分間、「伍玖」の退室するドアの方向を注視した。その後、笑顔を浮かべ頭をゆらすと、ホログラムプロジェクターを起動させ動画を視聴し始める。監視カメラにキャッチされた内容によると、動画の内容は母球で制作された映画と思われる。ただし、同時に行われた心理分析によると、対象は動画の内容に集中できなかったと考えられる。
「向死」計画前半部分の成功を記念し、此処に書き記します。先生の予想通り、「母球」の「天命教」やら「四星共栄」やらに対して、彼らはやはり恐れているようです。直近の数回のインタビューに、なんとか偽の証拠を入れた結果、彼らを分裂させることに成功しました。ただ、まさかあれほど……あれほど効果がでるなんて。彼らは撹乱され、急進派も崩壊したのです。ちなみに、「O5-9」の元に派遣された以降、あの子はどうも様子がおかしいです。個人的にはあの子を疑いたくないし、この言葉を口に出したくもありませんが……私が言わなければ。先生、あの子には、どうか気をつけて。
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先生のお返事(補遺5と同じように非表示にした。先生、貴方の代わりに、私がすべてを見届けます。)
最終命令
「先礼」計画が失敗となる条件は言わなかったが、ここで伝える。子球の9が私の死に乗じて、SCP-CN-590への調査計画を再開したのならば、「先礼」計画は失敗となる。
その代わりに、「後兵」計画を実行する。その内容は至極簡単だ。「後兵」ルースレスネス・セカンド計画
*注記: 「先礼」計画が成功裏にO5-9(子球)のCN-590へのアクセスを阻止できたならば、報告書に「堕落せし神の双子」クリフォト=タウミエルのミームを注入して再アクセスの可能性を完全に無くす。ミームは後で送る。かつて政権奪取計画に使ったものだ。保存されたO5の遺伝子情報で、ほぼすべてのアノマリーによる保護を無視してO5を抹殺できる。内容: O5-9(子球)が調査を再開すると、四星共栄は最後の総攻撃を開始する。攻撃は数日間持続し、主に財団のネットワークシステムを目標とする。同時に、SCP-CN-590の内容は遮断されるが、君のクリアランスでログイン可能だ。四星共栄の攻撃するページで、調査がまだ続行しているかが表示されるだろう。歴史分岐器の計算によると、「堕落せし神の双子」クリフォト=タウミエルミームが注入されてから、90~95回目のアクセス(最遅でも95回目、ミームが注入されていなければ四星共栄の総攻撃が始まってから6日目)でまだ調査が続行しているのならば、その時に君は歴史分岐器によるSCP財団CN支部部分への制御権が与えられる。その後、歴史分岐器を操作して、O5-9(子球)を抹殺し、その死因を偽造した上で、君がO5-9の後任者として、「ベアトリス」計画を続行する。
愛し子よ、私は逝く。世界を抱擁しに逝く。忘れるな。君と伍玖君はちゃんと生きてくれ。君たちは、人類の凱旋を見届けることになるだろう。君たちに、新生があらんことを。人類に詫びる、今生で誓いを果たせなかったことを。
我は人の子なり。我信じ、我愛す。これまでは。我悟り、我超越せん。いつまでも。
過去と未来を超越する現在に、我は空虚を抱き、死を抱き、破滅を抱こう。ただ、世界を、生命を、存在を抱擁するために。最後に、一つだけ夢を叶えさせてくれ――私は、SCP財団のO5として、栄光ある死を迎え入れたい。願わくば、君がこの新しく美しき地球で、私の悲願を達成し、子球の財団を軌道に戻すことを。
こちらはO5-9、SCP財団、O5評議会のメンバーだ。
確保、収容、保護。
私を偲ぶな。「信者」と李然の元へ逝く。子らよ。さらばだ。
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注記: 私の計画への参加に関連するイベントは青字で表記する。
2005/08/06(ダミー日付) - カバーページにおける特別収容プロトコル更新、セキュリティスタッフの削減。
2006/01/08(ダミー日付) - カバーページにおけるインシデントCN-590-A。
2016/03/11 - カバーページ特別収容プロトコル更新、オブジェクトの安定化による優先度降格(「ストレス減少」中期計画成功)。
2013/01/05 - 補遺1メールログ。伍玖が工作でO5-9(子球)への汚職疑惑を晴らす。
2015/01/21~22 - 補遺2メールログ。陰謀の始まり。
2015/03/30 - 補遺3インタビュー。オペレーション「弑祖」開始、ゼータ-59のほぼ全員は先生の配下になる。私も数日後業務に関わる。
2015/04/03 - 補遺3メールログ。
2015/04/04 - 命令を受け、補遺3を非表示にする。
2015/04/12 - コア編集者権限獲得。カバーページ、内部ファイル作成。
2015/05/13 - インシデントCN-590-B。
2015/05/14 - 先生の「公開状」。
2015 中期 - 先生の公開状(補遺4に格納)を発見。O5-9(子球)に対して疑い始める。(今日は2016年7月4日、今更この部分の執筆に取り掛かった。イベントの日にちはもう覚えていない。閲覧記録も見つからなかった。2016/07/04 ここに特記する)
2016/02/01 - 先生の端末へ侵入。補遺5(非表示)格納の資料を発見。
2016/02/06 - 機動部隊全員での計画参加を決定。
2016/02/07 - 先生に参加を承認される。
2016/02/08 - 伍玖(子球)とO5-9(子球)のコア編集者権限を削除。
2016/02/13 - 補遺5(非表示)の序言の編集が完了。
2016/02/23 - 補遺3非表示部分の復号化に成功。
2016/04/17 - 先生の全幅の信頼を得、子球の計画総参謀に任命される。記念までに。先生より「先礼」計画が発令。
2016/04/25 - アクセス不可になった内部ファイルでの収容プロトコルに、計画事例を参考に、O5-9(子球)に対する措置を記入(非表示)。
2016/05/12 - 補遺1メモ。
2016/05/18 - 補遺3メモ。
2016/05/24 - 補遺2メモ。
考えがまとまった。もしかすると、これが運命なのかもしれない。先生、ご冥福をお祈りします。もうこれ以上、動揺したり運命を呪ったりはしません。私の理想が、まだ遠くで輝いているから。
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その日が来ないように祈って。
- 財団の要職に側近を起用。具体的な人物、役職、就任日は別紙を参照。
- 所轄支部での反対者暗殺。具体的な人物、事件は別紙を参照。
- 情報入手のために私刑を濫用。具体的な人物、事件は別紙を参照。
- 数百回にわたる目撃者、および「潜在的な目撃者」の粛清。手段は殺し屋の雇用、アノマリーによる抹殺、記憶処理のち解雇など多岐にわたる。具体的な人物、事件は別紙を参照。
- 不正な手段による他O5所轄の財団支部の奪取、およびその奪取後の情報隠滅、関係者の暗殺、アノマリーによる当事者O5の記憶への干渉。具体的な事件は別紙を参照。
- 奪取した支部での反対者への鎮圧・虐殺。元O5-7所轄のマダガスカル支部の鎮圧事件を含む。具体的な事件は別紙を参照。
- 財団規程に反する、複数回に渡るアノマリーの移転・私的利用・損害。該当件数多数のため、記録する必要なし。
- 千回以上に渡るアノマリー研究プロジェクトの研究予算の横領、SCP財団ならびに世界全体の掌握という「偉大な事業」への予算流用。SCP-CN-059の研究予算および探索費用を横領したことで、探索隊一中隊を(一人除く)全員犬死させた事件を含む。関連する重要事件の具体的な情報は別紙を参照。
- O5評議会全体の投票で可決しなければならない一部事案に対する勝手な意思決定。具体的な事件は別紙を参照。
- 倫理委員会の監査職能への計画的な破壊。
- 神元草1を含む寿命増長効果を有する薬物およびアノマリーの私的な使用。具体的な品目は別紙を参照。
- O5-13の暗殺、及び伍玖(子球)のO5-13への起用(計画未実行)。
- 忠誠を保証するための、アノマリーによる管轄職員への精神干渉。影響された重要人物は別紙を参照。
- 私利私欲を満たすための財団の影響力の利用。具体的な項目は別紙を参照。
その他の罪状は別紙を参照のこと。
「先礼」計画が完遂され、CN支部が解放された後、彼は相応の代価を払うことになるだろう。
先生、見守ってください。SCP財団は通常の軌道に戻る。
確保、収容、保護。
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システムメッセージ: 攻撃されたファイルの還元は完了しました。全ての内容は問題なく読み取りました。
対抗ミーム「堕落せし神の双子」クリフォト=タウミエルのO5評議会メンバー遺伝子識別データベースを更新しますか?
はい -
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●以下の収容プロトコルを破棄します(「収容プロトコル」綱要より):
- O5-9に記憶処理を実施
- O5-9及び伍玖氏に対する完全な監視体制を構築
- O5-9のオブジェクトに対する注目を完全に喪失させる
- 先生(“O5-9”)を対象とした監視装置をすべて撤去するか、財団が監視装置から情報を入手できないようにする
- 倫理委員会の監査体制を完全なものにし、O5評議会との相互間の権力の抑制と均衡を実現
- O5-9の権力を完全に失墜させる
- すべての清算を行う
- CN支部に信頼できる管理者が存在しない場合、同支部は民主的な自治を行う。すべての管理権限は同支部所属の職員に帰属する。オンライン投票を経由しない少数者による意思決定は、収容違反などの緊急時にのみ許可される
- O5-13に対する暗殺を阻止し、同氏の安全を確保する
- 各国支部における管理権限移譲を全力で阻止する
システムメッセージ:
「四星共栄」組織は攻撃を停止しました。