2010年5月5日
俺はこのオレンジのツナギが大嫌いだ。
ここは日本だぞ、畜生。
ハデな色の囚人服なんてバカみたいじゃねえかよ。
あの地味な作業着のがよっぽどマシってもんだ。
白衣の連中は揃って「何を見ても驚くな」だとよ。
凶悪犯だと騒がれた俺だぞ?
今更何を怖がれってんだ。
2010年5月7日
俺は、自分の、なんつーか…、その。
常識とか普通ってのを改めなくちゃならない。
なんだあの化物は?
表面はぐつぐつ煮立っているのにまん丸で、宙に浮いてた。
本当に煮立ってたかは知らねえ。
でも俺にはそう見えたんだ。
そしてぐるぐる回ってた。そうとしか言えねえ。
畜生、あいつの目を思い出すと寒気がする。
あれも本当に目だったのか?
2010年5月10日
連中に付き合わされるのは二度とごめんだ。
あいつら俺をモルモットか何かとしか思っちゃいねえ。
いっそ逃げちまうのもアリなんじゃないか?
警備だかセキュリティだか知らねえが、案外奴らスキだらけの「デク」だ。
2010年5月11日
畜生、失敗した。
またあの「ぐつぐつ君」と面会しろだと。
ふざけるなよ。
2010年5月13日
ふ
れ
2010年6月16日
俺はこのジャンプスーツが大嫌いだ。
あいつらここが日本だって知らねえのか?
バカみてえなオレンジ色してよ。
あの地味な作業服のがマシだって胸張って言えるぜ。
白衣の連中「何を見ても驚くな」とか抜かしやがる。
俺は5人も殺してんだ、今更何を怖がれってんだよ。
2010年6月18日
俺は、あの…、アレだ。
「普通」ってのを、もっかい疑うハメになった。
なんだあの化物は?
まん丸で、皮膚が煮立ってた。ヒレみたいなのも見えた。
それでぐるぐるして、宙に浮いてたんだ。
でも、俺は驚かなかった。
あんな化物なんて見た事あるワケねえ。
あんなモン見ちまったら一生忘れられねえよ。
そうだろ?
なんなんだ、一体?
2010年6月21日
おい、おかしいぞ。
俺は確かに奴を見た事がある。
あの目。
本当に目かはわからねえ。
わからねえが、確かに見覚えがある。
あの、何個もくっついた目。
寒気がする。
今日は厄日にちがいねえ。
「どう思いますか?」
被験者であるDクラスの手記を差し出し、警備員の一人は問いかけた。
防刃ジャケットから伸びた屈強な腕はよく日に焼けており、短く刈った頭髪の下には鋭い眼光が覗いている。
白衣の研究員はそれを受け取り、決して達者とは言えない筆跡に視線を走らせながら答えた。
「…記憶処理薬の投与量は適切だ。身長体重血液検査ほか全てのチェック項目をクリアしている。オブジェクトの影響でもない。」
「体質でしょうか?」
「それだけでは説明がつかない。」
黒縁の素っ気ない眼鏡の下では猜疑と期待が踊っていた。
「もしかすると、あいつは思った以上に有用かもしれないな。別室に移送させて拘束具を嵌めろ。猿轡もだ。自決も許すな。」
「そこまでする必要が?」
「ああ。」
「記憶補強薬の完成は、目下の目標だからな。」