██/█、財団はSCP-2345-JPの情報を得るため、市内の人間に聞き込み調査を行いました。その結果日田市中津江村(旧日田郡中津江村)に在住する中野健三氏(58)は6年前にSCP-2345-JPと遭遇していたことが判明しました。インタビューの後、中野氏には記憶処理が行われました。市内に潜伏しているエージェントは中野健三氏を常時監視してください。
私は村でワサビを作って生活していました。ワサビというのは渓流に生えるんですが、中津江は山が多くて水が豊富な土地なのでワサビを作るのに適しています。ただ今もそうなんですがこの村はイノシシが多い。日中は山の奥深くにいて人に会うことはほぼないんですが、夜になると食べ物を探しに人の住むところまで下りてくるんです。
私の沢もイノシシの被害に遭いました。これ以上被害を出すわけにはいかないってんで、猟師の協力で沢の周りに罠を置くことにしました。箱罠っていうイノシシ用のネズミ捕りみたいなものです。
ある日罠を見に行ったとき、鉄製の罠が内側から壊されているのを目にしました。罠の周りには血痕があって、山の奥へと続いているんです。私は血の跡を追ってしまいました。動物の死体を見つければ猟師が解体して肉をくれたのでそれを目当てにしていたんです。今思うと追わなければよかった。
山の中を歩いてしばらくするとひどい匂いがしました。肉が腐っている匂い、死体の匂いです。血痕を追えば追うほど匂いが強くなっていくのが分かりました。これはもう食べれるところはないかなと思いながら、諦めきれずに血の痕を追っていきました。血痕は洞窟の奥へ続いているようでした。
洞窟に入ってすぐに匂いの元が分かったんです。沢山の犬の死体がそこにあった。猟犬、小型犬、雑種、犬であればなんでも構わないという感じで積まれている。
誰がこんな惨いことをやったんだろうと怒りが湧いてきましたよ。私は犬を飼っていたので、犬を殺すやつが許せなかった。
死体を詳しく見ると皮を剥いでいる形跡がある。素人の私から見ても雑にやってました。刃物も使ってなかったんじゃないかな。
せめてこの犬たちを埋葬してやろうと思ったとき、洞窟の奥で犬の鳴き声がしたんです。私はその鳴き声をよく知ってる。あれはうちの犬のハナだってすぐに分かりました。ハナは尻尾を振りながら私に近寄って来ました。ハナよ、よう無事だったなと犬の頭を撫でてやったんです。
ただ私は心の中で引っかかるものを感じていました。何かがおかしいと。
まず、こっちに来るまでの歩き方がおかしかったんですよね。犬なんだから四足歩行なんて当たり前なのにあの犬は歩くのに苦労しているように見える。
そして、ハナから強烈な血の匂いがしていたこと。洞窟全体から血の匂いがしていたんですが、犬から新鮮な血の匂いがしました。まるでさっき怪我したみたいに。
なによりも、ハナは半年前に死んでるんです。
じゃあこいつは?そう思ってもう一度犬を見ました。
ハナだと思っていたのは、人間の男でした。そいつが犬みたいに私の頬を舐めてる。
うわああって叫びながら離れると男はまだ犬の真似をして四足歩行で私に近寄ってきます。近寄るんじゃない、と言うと男は犬の真似をやめて立ち上がりました。そしてパッと消えてしまいました。
残ったのは私だけ。幻覚なのかと思ったんですが周りには犬の死体があるので現実だと疑いようがなかった。
今でもあの時のことを考えるんですが、なんで人間をハナだと思ってしまったのか、それが分からないんです。
それからあの男と会うことは一度もなかったです。ええ。この話が嘘だと思うならそこの塚を見てご覧なさい。あの時の犬の死体が埋まってますから。
ただ、あれ以来私が犬を飼おうとすると変なことが起きるようになりました。
新しい犬を家に迎えて数日たった朝、汚い話になるんですが玄関の前に人糞が置かれていました。
まぁなんというか、近所に認知症の方がいたのでその人がやったのかなと思い、見なかったことにして近くの林に捨てました。
でも仕事から帰ると玄関に人糞があるんですよ。
流石に我慢できなくて件の家に行ったんですが、みんな知らないって云う。
仕方がないので家に帰ると、また新しいのが置いてあるんです。
いつも人糞は温かくて、私が玄関に来る直前に出しているようでした。
多分あの男だと思います。マーキング、なんですかね。ここは自分の縄張りだって主張したい感じがしたんですよ。
直接何かしてくるわけではないんですが、犬が怯えちゃって家から出ようとしないんです。可哀想だから別の人のところへ行ってもらうと変なことがパッタリと止まりました。だから私は犬が飼えないんです。
私、あいつに気に入られたんですかね?