幻影 第三三二號:《骸工》
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RAISAファイル: 要注意団体 [活動中]
GOI-8107: 市俄会

ファイル作成日時: 不明
GOIによる最後のファイル改訂: 不明
ファイル回収日時: 2015年2月
[文章を以下に再現]1


序文: GOI-8107("市俄会")は、阪神地域の裏社会において多大な影響力を持つ暴力団組織です。市俄会は米国の超常マフィアであるGOI-001("シカゴ・スピリット")が1938年に解散した後に世界中に出現した多数の分派の1つであり、呪術や異常物品を利用した複数の組織的超常犯罪への関与が認められています。

2015年2月12日に実行された対GOI作戦にて、サイト-81KK対抗犯罪セクション2は、市俄会の拠点から以下の内部文書を回収することに成功しました。当該文書は市俄会が保有する異常資産の管理引継ぎのために作成されたと推測されていますが、作成者および正確な作成時期は不明です。


幻影3第三三二號:《骸工》

うつし世はゆめ よるの夢こそまこと4


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《骸工》のパノラマ。


在処 所在

何処にあるか

大阪市内のビル5に入口がある。車で地下駐車場への道を右回りに2階層降りて右へ、さらに2つ目の角を左に曲がり右方向へ進む。ここでノイズ交じりの読経が聞こえなければやり直せ。カーステレオからひとりでに鳴り出したなら車を降りて突き当りの通路へ向かうと、左へ曲がった先に錆びついた扉があるはずだ。それを必ず引いて開けろ

面倒な手順だが、まともな人間が安全に《骸工》の異界に入る方法は今のところこれだけだ。他は死体しか通れないか、通った途端に死体になっちまう。


管理 管轄

誰が知っているか

《骸工》については市俄会本家の預かりとなっている。幹部のお偉方を除けば、あの場所について具体的なことを知っているのは俺のような《骸工》との折衝役だけだ。お前がどこの組の者かは知らねえが、もしこの引継ぎ文書を読んでいるなら自分を誇れ。お前は既にこのシノギを扱うにふさわしいと御堂会長6に認められている。

こいつは企業秘密で、俺の知る限りでは警察やハイイロ7の連中にはまだ掴まれていない。そういった奴らがもしこの件に首を突っ込んできたなら、構わず入口を通してやればいい。《骸工》で働く連中は俺らのような仲間の顔は覚えられるが、客人と"素材"を区別できない。


創製 獲得

どうやって作ったか

死体の処理はいつだって面倒な仕事だった。

商売敵や裏切り者、目障りな政治家や社長や刑事……俺たちは時々、そういった奴らを始末しなけりゃならない。そいつらが生きていることが俺たちの稼業にとって邪魔だからだ。だが、死んだら死んだで今度はモノとして邪魔になる。下手に放置すれば簡単に足がついちまうし、最近じゃあ場合によっては骨の一本からでも身元が割れる。そうなりゃさらに邪魔な奴らが押し寄せて来るって悪循環だ。

だから俺たちは、住吉区の廃工場に専用の処理場を構えていた。「殺害され死亡」ではなく「行方不明」ってことにしたい死体があればそこに持っていく。俺は元々その処理班を任されていた。

やり方はこうだ  まず死体から肉と皮を剥ぎ取り、内臓を取り出して挽肉になるくらいまで切り刻む。残った骨は灰になるまで高温で焼いて磨り潰す。最初は薬品で溶かしていたんだが、劇薬で扱いが厄介だったからすぐに焼却炉が用意された。そして出来上がるのは全くもってヒトには見えないミンチ肉と灰のカス。そこまでやって、ようやく山や川に死体を捨てに行ける。

やがて会長は、この面倒なゴミの処理には抜本的な改革が必要だと考え始めた。というのも1999年からこっち、あの"泉市抗争"で泉州連合会を吸収した市俄会は、関西極道の最大勢力にまで登り詰めつつあった。当然邪魔な連中の死体は増え、その分処理する時間もカネも嵩む。今までのやり方じゃ小さな処理場が将来的に破綻するのは明らかだった。

そこで、俺たちは発想の転換をした。良いアイデアを与えてくれたのは市の環境保護ポスターだ。捨てられるモノをゴミではなく、リサイクルできる資源と見なす。

《骸工》   "死骸工房"の始まりだ。

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《骸工》で処理中の死体。

市俄会の本家には魔法の切り札がいくつか秘伝されている。その1つが"死霊術"だ。

俺はある時、御堂会長が中華マフィアを襲撃するところに居合わせた。使われたのは墓場から蘇らされたばかりの「死人の兵隊」だ。銃で撃たれても青龍刀で足を斬り飛ばされても、死人がもう1度死ぬことは無かった。それどころか会長が指を鳴らして土に還してやるまで、そいつらは敵の首領の顎を引き千切っても止まらなかった。シャブ食わせた鉄砲玉なんぞ目じゃない。

鬼道により黄泉から呼び寄せた魂を吹き込み、死骸から人を蘇らせて自在に操る。そんな古代の呪法が市俄会の手の内にあるなら、《骸工》で活かさない理由は無かった。

俺たちは人間の加工に手を付け始めた。死体を切り分けた後、好きな形に組み立て直してから死霊術で蘇らせてやれば、それは良い商品になる。"力"を持った最高の品だ。幸いなことに、ウチにはその手の才能に溢れた奴が何人も居た。「助けて」ではなく「死なせてください」と言わせる才能を持った外道がな。

やがて、ハイイロ共が厄介な監視システムを運用し始めた。俺たちは《骸工》を別のどこかに移すことを余儀なくされ、会長は何人かの拝み筋8を連れて異界の門を開いた。そこの住民との間にどういう約定を交わしたのか、会長は誰にも明かさなかったし、俺も訊ねなかった。

確実なことは2つだけだ。市俄会は異界に大工場を建設し、住民は《骸工》の仕事を進んで俺たちと分担した。そして奴らには、俺たち以上の"加工"の才能があった。


使途 用法

何のために使うか

建設されて以来、《骸工》は俺たちに利益をもたらしている。お前が管理するべき事柄は2つ。死体を手早く《骸工》へと回収する方法と、価値のある商品に生まれ変わったそれを売り捌くルート。これらを上手く差配し、利益を確保し続けるのがお前の役目だ。

死体の回収は"火の車"9が担当している。もし町中を異様な速度で走る霊柩車を見かけたなら、そいつが火の車だ。既に主要な殺し専門の連中には呼び出し方を教えている。更に別の誰かに教える必要があるなら、真新木組に直接渡りを付けに行け。ドライバーは奴らの預かりだ。

月に1度、《骸工》へ出来上がった商品を受け取りに行け。事前に住民の働き手たちにはお前の顔を覚えさせておくが、何を見ても決して恐れを顔に出すな。どうも外見とは別に、奴らは至極単純な方法で仲間かどうかを見分けているらしい。奴らにとっては、喜ぶのは同僚、難色を示すのは異分子、そして怯えるのは"素材"だけだ。

最後に、これはちょっとした応用だ。もし組の誰かが死後の世界や裏切り者の末路について話しあっていたなら、《骸工》のことをほんの少しだけ仄めかしてやってもいい。息絶えるほどの苦痛を味わうが、死ぬことがその終わりにはならない場所。市俄会に背いたがためにそういう目に会わされる場所。そんな工場の噂を聞いたことがあると。

地獄にさえお釈迦様の慈悲がある。俺たちの作った場所にそんなものは無い。


以下の文書群は、財団の多数の監視網や内部記録から収集・回収された情報を未詳資料/目録編纂セクションが抜粋、編纂したものです。内容に関連性が認められるため、当ファイルにも収録します。閲覧する職員は、上記の点に留意して下さい。

— サイト-81KK 未詳資料/目録編纂セクション主席、日永田 録巳

日本特異例報告

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特異例418号

番号: 特異例 418号

発見地点: 大阪府大阪市

取扱主体: 警察庁警備局 特事調査部

経歴: 不明 — 特事調査部

異常分類: 己種一類 (使用者の存在により超常的現象を引き起こす異常物品/安全な状態で保管)

警戒レベル: 1 (機構としての対応を要せず)

概説: 肘の付近で切断された、女性のものと思われる両腕。切断面に取り付けられた鉄製の鎖で左右ひと揃いに繋がれている。暗所において把持された場合、使用者以外の周囲5m円内に所在する人物の身体動作を制限する。影響者はこの現象について「無数の手に体の各所が掴まれているようであった」と形容している。

指紋及びDNA情報にデータベース記録との一致なし。その他の外見的特徴として、花や蔓を模した意匠の刺青が広範囲に彫られている。また、全体が死蝋化しており、切断面は焼灼止血された痕跡が見受けられる。これらの特徴が特異性に関連している否かは不明。

対応手順: 認可された状況での超常的現象の発露を企図しない場合、接触を禁じる。

付記: 本号特異例は大阪府大阪市で発生した強盗殺人事件の現場から偶発的に回収された。犯人は通報により現着した警官の威嚇射撃に対し動揺し、逃走する過程で現場であるマンション5階の窓から転落した。その後、搬送先の病院で死亡している。着用していた衣服のポケットからは「一華興業10」の名刺が回収された。

本号特異例の形態と引きおこす超常的現象には、西洋オカルト文化における「栄光の手」との一部関連が見られる。同様の物品が他にも製造され犯罪行為に使用されている可能性を鑑み、関係省庁以外にもJAGPATOに加盟する各組織間で連係して調査を行い、本号特異例に関連する超常的脅威の有無について十分に確認する必要がある。

情報提供元: 警視庁公安部 特事課、警察庁警備局 特事調査部、文部科学省 国立室戸研究所 異常文化習俗追跡ユニット、大阪府警 特異科学捜査研究所

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陳述者: エージェント・可楽

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2017年の██から██にかけて、私は和朝義として知られる香港三合会へ潜入していました。下部組織の幹部の1人としてビクトリア・ハーバーの倉庫番を任された私は、その立場を活かして和朝義が入手した異常物品のリストを作成し、それを財団へ流すことが任務でした。

ある日、見慣れない木箱がいくつか倉庫に運び込まれてきました。品目は「燭台」とされていたことを覚えています。それとなく取引担当に聞いてみると、彼はその品の出所を「新しい日本の友人」だと笑いながら言っていました。

異常物品の気配を感じ取った私は、人が出払った夜を見計らい、その木箱をこじ開けました。中で梱包材に埋もれていたのは、人間でした。とは言え「燭台」というのもあながち間違いではなかったのです。その男性は目を見開きながら座禅に似た姿勢を取り、蝋燭を乗せる大きな台が頭頂部をくり抜くような形でしつらえられていました。そしてぼろを纏った体中にはびっしりと、何か梵字のような文字列のタトゥーが刻まれていました。

その男性にまだ息があることが判ったので、私は自らの身分を警察であると偽り、物音を立てぬよう耳元で囁いて彼の身元を尋ねました。彼は口を開きましたが、舌は抜かれ喉は爛れており、手足を動かすことさえもできないのか、そのまま口の動きのみで私に何かを伝えようとしました。私が「分からない」と首を振ると、彼は涙を流しながら、喉の奥から漏れ出るかすかな呼吸とともに更に激しく唇を動かしました。

その時、倉庫の扉が開く音がしました。ここに居るのを見とがめられることを恐れた私は、木箱を急いで閉め、その場を逃げるように後にしました。結局、あの木箱はそのまますぐに運び出され、私の任務中に行方を追跡することもできませんでした。箱があった場所には  彼が着ていた服の一部でしょうか  布の切れ端のようなものが落ちていたので回収しましたが、大した手掛かりにはなりませんでした。

彼が何を伝えようとしていたのか、一体彼は何者だったのか。今となっては知ることはできません。しかし、あの時。木箱の蓋を閉めようとする私に彼が向けた、あの絶望の眼だけは、恐らく生涯忘れられないでしょう。

— —

付記: 以上の証言は、和朝義と日本の要注意団体との繋がりを示す貴重な手がかりであると分析される。示唆される組織の名は現時点で不明であるが、近年連携を強めている台湾の"天已堂"と日本のヤクザ"有村組"の2組織に対して和朝義は敵対しており、その利害関係を和朝義と共有できる立場の組織である可能性は高い。

なお、エージェント・可楽が回収した衣服の切れ端について、研究部門はその裏地から破損した超小型の金属タグを発見した。このタグはサイトJP管区で製造されているものと同型で、財団エージェントの衣服内部に埋め込んで身元確認のために使用されることが多い。精神的悪影響を考慮し、エージェント・可楽には当事項について伝達していない。

オペレーション「反黒」での連携に基づき、当報告はサイトJP管区へと共有される。


SCL-4/EYES ONLY

報告者: エージェント・M、市俄会への潜入捜査エージェント

種別: 暗号通信記録より抜粋。

"遺体の呪物"に関する兵庫県への輸送ルートについて傍受。現時点では追跡困難。

不明な所在地の"工場"で暴動が起きたとの噂。要求は「もっと素材をよこせ」。

呪物の取引販路が拡大、ロシア・香港・フィリピン。早急に追跡調査求む。この動きは近畿地方における行方不明者の急増と明らかに関連している。

市俄会はもう死体隠しを必要としていない。奴らは今や、死体を得るためだけに殺しをし始めた。


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