よくある話
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Yarg: 何が見える?1

Kcid: ああ、真ん中で折られた銃みたいなものに、漢方薬に、バネに、財団勲章のバッジ、内向きの矢印が3本付いている。記録するときの板みたいな——何て呼ぶんだっけ。上に字が書いてあるけどよく見えない、誰かのサインもある。

Yarg: 下に何か字は見えないか。

Kcid:イラスト内の財団勲章はSunnyClockwork氏がデザインしました」だ。

Yarg: うむ、よろしい。

「こんなの何でやんのさ?」Kcidが頭を掻きながら質問する。

「感動モノでやるべきだな。エモーショナルな物語が必要だ。」Yargは言う。

「そうじゃなくて、何故こんなお芝居をしないといけないんだよ?」

「優勝するか上位を勝ち取らねばならないからな。Kcid、でなければ悲劇の物語を更に沢山の者が書いて、他の財団職員が死ぬかもしれない。これは見るからに死人が出そうな雰囲気だ。彼らは間違いなく、例によって机の前で長いこと独り言を言って、そして財団勲章を授けて、弔辞を述べて、終わりにするだろうさ。誰が死んだのか知ることも叶わないかもな。これで解ったか?」

「流石だな。それで、俺らはこれからどうすりゃあいい?」

「ああ、まず私が机の前に座り、それから君のことを追憶する。」

「どこの馬鹿が糸引いてる?高層物語の奴に見せたいんなら、なんだってこんなに無駄話をしないといかんのさ?自分らの話がそいつに全てお見通しだったら、こっちの芝居がバレてしまわないか?」

「それも一種の表現形式といえる。」


「必要な漢方、は煎じるのが面倒だったから代わりにコーヒー持ってきた。それとダメになった拳銃の模型とバネ。財団勲章は申請が通らなかったから、うちの娘の学校のバッジを持ってきた。あと字の書ける板、何なのかやっぱり分からんけど。」

「これで全部かな。」

「あー、それから背景の黒い板だ、ちょい待ち。」


「よし、始めようか。」

Yargは深く息を吸い、軽く咳払いをした。そしてたまらず笑みがこぼれた。

「おや、これはなんてものを、困るじゃないか。」

Yargは手中のバネを握りしめて笑みを浮かべる。彼は自分を落ち着かせようとしたが、実に困惑していた。

「お困りごとかな?」

「見たくないだろうね、これは本当に——フフッ、ダメだ。行った行った。」

「はいはい。」


Yargは深く息を吸い、軽く咳払いをした。今回は語りを始める。


机の上のコーヒーは冷たい光を散らす。Yargは口をつけることもしなかった。親友のKcidが死んだ悲しみを拭えていないからだ。机の上の財団勲章を目にして、額に皺を寄せる。

「あぁ。」

言いたいことは沢山あったが、彼はとうとう一言も口に出せなかった。実のところ、Kcidは兄弟みたいなもので、財団などという場所で出会えた最高の友達で、収容違反の時にはあいつの為にどんな犠牲だって払えた。だが今回、あいつは永遠にいなくなった。

彼は嘆き惜しんだ。

682を収容する際にあいつは死んだ、そうレポートには書かれている。勇敢に死んで、05の直筆署名もある。

これはあいつの銃、SCP-682に容赦なく砕かれた。あいつは英雄だ。戦闘中だって家の中でだってそうだ、少なくともクリスマスの前には……


「これはいけない。アホ臭いし、気まずいし、我慢ならない。」

Yargは立ち上がり、身の高ぶりを抑えた後でドアを開く。外で携帯をいじるKcidが目に入る。

「これはどこのどいつが書いた原稿だ?」

「うちの娘が書いた、中々のもんだろ。」

「実にすごかったとも。娘にはどこぞのトカゲを理解させるんじゃなくてアニメを見せるべきだな。SCPは幻想文学であって現実でないと説明しに帰ってもらいたいものだ。」Yargはポケットから携帯を取り出して電話をかけた。

「もしもーし。あっ、邪魔して悪いね。それはそうと感動モノの短編を書いてよ、オリジナルの、すぐにね。」

電話を切る。

「何だと、別の奴に書かせるのか?」Kcidが顔を上げて尋ねる。

「ああ、君の娘が書いたのは堅苦しすぎる、評価はされるが伸びない。専門の財団作家は探した、ついでに演者も探さなくてはな。」

「演者?演繹部門のか?何すんだよ?」

「何って、当然、読み合わせはあっちでするわけだ。私が出なくてもいいだろ?」

「マジで経験ある奴は見つけらんないの?ブライトみたいなさ。こういう主役を張るのは親が両方死んだ孤児みたいので相場が決まってる。」Kcidは喋り終えると密かに笑った。

「ブライトの野郎はアメリカだ。」

「あー、そうだな。孤児ならこっちにだっている。」

「財団に悲劇がそんなに多いと本当に思ってるのか?私達は上に見せる仕事をしてるが、そんな頻度では財団はとっくに終わってる。」

「はいはい、そりゃ本当だか。」

「私はコーヒーを飲んだ、君はもう一杯注いでくるんだ。カップを空にしないようにね。空じゃあどうにも困る、ムードがない。」

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