Ghost Of Wakhan

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karkaroff 2021/9/3 (金) 13:46:25 #72416532


アフガニスタンに出張したときの話がある。私と部下とでアフガンに出張したときに私でなく部下が経験した話だ。なんとも自業自得の話だが筋骨隆々な仏教僧の幽霊を見たという。

数年間の事だ。ワハーン渓谷というタジキスタンと中国とパキスタン、インドの4国の国境がせめぎあった緩衝地帯になっている土地があってそこに仕事に行った時だ。

当時、この辺りは難民キャンプと部族村とがひしめき合っている場所になっていて、仕事上のいい面をしに支援物資を届けに行ったことがある。元々色んな武器や情報やその他軍需品を含むあらゆるものを作っているような大企業にはよくある話で、世間体であまりよろしくない事にかかわったらバランスが取れるように世間でいういいことをするんだ。

医薬品と食料に嗜好品、後こっそりだが武器弾薬を積んだコンボイのキャラバンでウズベキスタンからアフガニスタンに入ってワハーン渓谷に延々と陸路を通って物資を届けに行ったのさ。

karkaroff 2021/9/3 (金) 13:58:07 #72416532


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Wakhan valley

現地では現地のムジャヒディンの北部軍閥とヨーロッパのNGOが協力して作った難民キャンプがいくつかあって、そこに物資を下ろしてデモンストレーションしてさっさと撤収していく手筈だった。

とはいえ届けただけだと広報にも流石に怒られるので数日井戸を掘るのを手伝ったり、ちょっとした困りごとや現地の仕事を手伝ったり、学校っぽい学校御南のちょっとした集会所を創ったりして数日を過ごした。

そうすると段々現地の大人たちと仲良くなっていくのが常で、酒を片手に夜を過ごす中でいろんな怪談とか不思議な話を聞かせてくれたり、酒の肴に与太話を聞かせてくれるようになる。ライフワークの一環のようなもので私はその話そのものに興味があって聞いていたのだが、その中で部下のNと意気投合したムジャヒディンのひげもじゃの爺さんが言ったんだ。

「ところで面白い話と言えば仏教徒のジンというか祖霊というか悪霊というか、そういうのが出る遺跡があるんだけど興味ないか?今から行けばもしかしたら実際に見れるかもしれない。」

確かに与太話に聞くにはおあつらえ向きの話だった

karkaroff 2021/9/3 (金) 14:17:39 #72416532


焚火がパチパチと音を立てて燃える中であまり整っていない髭もじゃのドワーフみたいな顔立ちをしたターバンの爺さんがニタニタしていうものだったので、私は与太話としてネタ帳に加えておくかといった感じだった。しかしわずか数日の付き合いで私より仲良くなっていたNが突っかかってきてこういったんだ。

「これからちょっとこの爺さんと行ってくるから実際に現れるかどうか賭けをしようぜ!実際にその悪いジンだか坊さんの幽霊が出たらどっか帰りの街で一杯奢ってくれよ。」

私は何か証拠を持ってきたら奢ってやるから行って来いよとあしらって私は適当にあしらって寝てしまったんだが思えばここで彼を止めておくのも一つ手だった……せめてついていけば面白いものが見れたものを……

ともかくNはそのままそのムジャヒディンの爺さんと興味を持った数人の若い連中(護衛の奴やNGOの若い奴だ)を何人かを連れて遺跡に行ってきたらしい。そして朝方寝ぼけ眼で起きてきた私に言った。

「マッチョメンだ!モンク!モンクのゴーストが出た!すげえ!銀の弾が効かなかった!」

karkaroff 2021/9/3 (金) 14:25:41 #72416532


Nの馬鹿が言うには私がさっさとあしらって寝た後、4WDを引っ張ってきて爺さんの言う昔の仏教徒の遺跡に5人ほどで行ってきたらしい。

そこは遺跡といっても石造りの建物だった何かと半分洞窟の祠と思われる何か、それにちょっとした演舞場だか石舞台だかが残っているだけの大したことない場所とNはほざいていた。月明かりの下で懐中電灯片手に見て回れば10分もかからずに一周できてしまうようなチンケな場所だったらしい。

ただ、月明かりが降り注ぐ明るい夜だったにもかかわらず石舞台の周りだけが異様に暗く、チンケな場所のくせに雰囲気だけはいっぱしに出しやがって生意気だったとも愚痴っていた。愚痴か?どちらかというと楽しんだ感想か?

karkaroff 2021/9/3 (金) 14:30:00 #72416532


そこで、彼らは最初に祠跡でわざとコーランの祈りをささげてみたり、石舞台の真ん中でキリストに祈った後に花火を上げてみたりして幽霊が怒って出てくるようにあれこれ騒いだそうだ、特に呆れたのはその現場で花火で遊んだっていう発言だった。あろうことにワハーン渓谷、アフガニスタンの緩衝地帯のど真ん中で、真や花火を上げて楽しんだらしい。

まったくもって見下げた行為だが……少なくともやりすぎかつ酷い行為だと思うが効果はあったらしい。

ひとしきり騒いで深夜の1時が過ぎた頃……やるだけやっても出てこないから飽きて車で帰ろうとした時にことはおこったらしい。

彼らは石舞台で騒いだ花火の後始末をしていたそうなのだが、気が付くと石舞台の周りにゆらりと揺れるような蜃気楼みたいな人型の影が幾つもいて、自分たちを見下ろしていたというのだ。

彼らはようやく出てきたかとわざわざポラロイドカメラでその写真を撮ろうとしたといった。せっかく出てきたのだから酒の為に写真に納まれと……しかしシャッターが下りず、周りの幻影のシャッターチャンスに愚痴を言いながらあれでもないこうでもないと言いあっていると矛か槍か、そういう長物を持ったはっきりと見える上半身裸の仏教僧が出てきてヒンドゥー語で文句を言ってきた。彼がそれらしい物まねで再現したセリフはこうだ。

「深夜に寝静まったところで騒ぐな!ここは神聖な土地だからさっさと人の土地に戻れ!」

ぐうの音が出ない正論だ。至極もっともである。

karkaroff 2021/9/3 (金) 14:37:48 #72416532


Nの馬鹿はさらに恥を重ねるように写真だけ証拠に取らせてくれたら帰るからちょっといい感じに並んでくれよと文句に言い放ってカメラを構えたところ、ぶちぎれた雰囲気の蜃気楼のような奴の一人が殴りかかってきて、カメラを壊されてもめごとになったと言っていた。いや、何処をどう考えても自業自得なうえにこいつは頭のネジが5本は外れていたのでは?と本気で飽きれた。

そしてあろうことか……そう、あろうことか威嚇のつもりで空に一発発砲したところ、モンクの全身が急に光りだして襲い掛かってきて、そのまま逃げだしたのだと……

そして流石にヤバいと逃げる最中で足止めに連中に銀の弾丸をぶち込んでみたが一瞬動きが止まるだけで延々2kmくらい追ってきて死ぬかと思った……と

しばらく乾いた笑みで硬直する羽目になる前代未聞の馬鹿野郎の行為だった。

karkaroff 2021/9/3 (金) 14:44:44 #72416532


呪われるか、祟りがあるか、何かそういう酷い目に遭うのが至極当然の愚劣極まる行いだったのだが、Nの奴は今日も元気に仕事をしている。深夜に緩衝地帯で花火を上げたことによる始末書を私に書かされたこと以外、奴は結局この件で酷い目に合わずいつもの日常に戻ってきた。

彼が見たというモンク、爺さんが言うにはイスラム教徒とやりあって最後まであそこでもめていた仏教の武僧が今もそこにとどまっているって話なのだが彼が不憫でならない……

ちょっと天罰が起きないかと思う……まあ、あいつの事だがからするすると避けてケタケタ笑っているんだろうが。

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