世界オカルト連合極東部門
新入職員へのオリエンテーション
【第77版】
制作: 世界オカルト連合極東部門 精神部門・人事部
世界オカルト連合は、1945年の国際連合創設に伴って正式に結成された。これは第二次世界大戦と同時に発生していた第七次オカルト大戦を経ての反省と決意を持ったもので、複数国間の魔術師・超常組織の同盟という形で連合は組織された。
世界オカルト連合(GOC)は当初、世界を複数のブロックに分けることで管理することを計画していた。ところが第二次世界大戦終結後の人類は、間もなく二つの陣営に分かれることになった。冷戦である。
これは成立間もないGOCにとって、危機的状況を招いた。二大陣営それぞれの盟主は、独自に脅威存在を扱う組織を設立していたのである。西側の合衆国に設立された第388独立特殊部隊、東側のソ連軍情報総局"P"部局スカーレット・ダガー――これら、国家による超脅威開発利用競争が激化し始めていたのだ。GOCは機能麻痺した国連の中で、孤立を深めていたのである。
我が極東部門は、そうした複雑な情勢の中で誕生した。朝鮮戦争やベトナム戦争を契機とした超脅威流出事件など、極東部門は設立より半世紀以上にわたって難題を抱えてきたのだ。不安定地域を守る極東部門には幾度とない危機が訪れたが、そのたびに、我々は人類の盾たらんとその脅威を排除してきた。
GOCの活動は、あらゆる国家・地域・文化的利己心を超越したものである。それは、東西対立構造との決定的な相違を意味した。東西対立に活動を妨害され続けたGOCは、正面の超脅威だけでなく、背後の人類とさえも戦わねばならなかったのである。
冷戦は終結した。だが、世界の脅威存在報告は減るどころかむしろ増加の傾向にある。二大陣営による秩序は崩れ、その負 の 遺 産ネガティブ・レガシーは地球上に分散した。9.11テロ以降、中東のみならず世界各地で国家やテロ組織による脅威存在流出事件が頻発し、毎日のように脅威存在リストは更新されている。極東部門は東半球におけるGOC最大の戦力を誇る部門の一つである。今後ますます、我が部門の重要性は増していくだろう。
極東部門の組織について
極東部門の管轄範囲は日本列島及びその周辺島嶼と定められているが、GOCの活動は本来国境に関わらずシームレスに行われるものである。ゆえにその活動は、必ずしも部門ごとに区分されない。極東部門は、中国部門などの周辺地域部門と共同して、アジア太平洋戦区を構成している。
ステーション(Station)
GOCで最も一般的な組織単位、及び施設の名称である。ステーションにはGOCの研究施設や評価排撃班の武器庫、兵員宿舎などが置かれている。外敵の侵入に対しての設備が充実し、都市部から離れたステーションであればフェイルセーフとしての核爆弾を備える場合もある。
ステーションは基本的に、ステーション-[該当するユニークナンバー]の名でよばれる。
- ステーション-FE-392: 極東部門の本部施設が設置されている。
- ステーション-FE-774: 極東部門海洋作戦部隊の軍港が設置されている。
五行結社(Five Elements Association)
五行結社は世界オカルト連合 108評議会を構成する団体の一つである。彼等の根本思想は異常なアーティファクトの徹底破壊である。これは世界オカルト連合の活動理念とも合致するところが多く、本団体は日本で最初の108評議会参加を果たした。
当組織は日本に財団勢力が本格的に介入した194█時点から活発な敵対姿勢を表明しており、GOC全体の意向から逸脱した作戦行動を取っていることがたびたび問題視されている。彼らは独自の威力部隊を持ち、GOCの活動とは別個に財団としばしば衝突し事件を発生させている。そのため、本団体にはGOCより技術/資金面において多大なペナルティを与えられている。
本団体は平安時代中期、藤原顕光の命による蘆屋道満ら法師陰陽師集団の霊的災害テロを未然に防いだ陰陽寮の一派が起源とされている。彼等は太平洋戦争時の軍部による超常技術開発に反対しており、国内の他オカルト勢力との武力対立が判明している(その他の機関 - KTEs-████ 大日本帝国陸軍"負号部隊"参照)。
確認されている活動: レスポンスレベル1から3の霊的災害、異常生物、動的集団霊災(“百鬼夜行”;A State of Complete Disorder)の排撃、各オカルト勢力への警戒行動
・PHYSICS部門評価班(PHYSICS Division — Assessment Teams)
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718評価班 "忍び声(Whispers)": 京都に拠点を置く評価班。追尾能力に長けている。 |
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719評価班 "夜多良": [機密]
部隊モットー: "SENTENTIA IS RELINQUO MIHI(忘らるる 身をば思はず)"
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・PHYSICS部門排撃班(PHYSICS Division — Strike Teams)
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0811排撃班 "忍び足(Soft Steps)": 東アジア各地に拠点を置く排撃班。暗殺を主任務とする。
部隊モットー: "To the last drop of our blood !(我らが血の最後の一滴まで)"
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8233排撃班 "仙遊霞": [機密]
部隊モットー: "OPEROR NON TUTELA PRO MEUS VITAOPEROR(惜しからざりし いのちさへ)"
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2167排撃班 "噩夢(Nightmare)": 中国東北部・哈爾浜に拠点を置く排撃班。
部隊モットー: "鳳兮 鳳兮 何德之衰(鳳よ鳳よ、何ぞ徳の衰えたる)"
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極東部門が確認した脅威存在の一例
LTE-27809-Corona
脅威ID: LTE-27809-Corona ("Ms.Falcon/ミス・ファルコン")
認可レスポンスレベル: N/A (破壊確認済み、記録書庫入り)
概要: 対象は超極小サイズの地球外起源生命体である。対象は極東の小惑星探査機"はやぶさ"に寄生し、その探査計画への妨害を行っていたことからGOC極東部門に発見された。
対象は、2005年12月14日から2006年1月23日の間に"はやぶさ"内部に侵入した可能性が高い。探査対象であった小惑星"イトカワ"とのランデブー時に侵入された可能性も指摘されているが、現在これらの仮説を客観的に証明する事実は見つかっていない。対象は、断続的に不明な場所への通信を試みており、交信存在についての情報を得る試みも行われたが、成功とは言えない結果に終わっている。
GOC極東部門によって極秘裏に接収されたJAXA司令室で受信されるデータによると、対象は非常に小さい体積であったことが推測される。しかしながら高い知性を有しており、その証拠として"はやぶさ"内部のプログラムを未知の手段によって検知すると、姿勢制御システムを乗っ取って地球からは3億3000万km、イトカワからはその公転方向に1万3000kmの所を秒速3メートルで離れようとする挙動を取った。しかしこの企ては対策チームによるベーキング処理を用いた対抗手段(詳細は粛清欄に記載)によって打破されている。
偶然効用が発見された対抗手段によって対象が弱体化すると、対策チームによって二度にわたる交信が試みられた。その結果対象は高等知性を有する地球外起源生命体であると判断され、レスポンスレベル2脅威存在と認められた。
対象: LTE-27809-Corona
インタビュアー: 特 殊 立 会 人スペシャル・オブザーバー・██████
付記: 地球からの通信を黙殺していた対象がベーキング処理によって弱体化し、初めて通信に応じた。なお、通信は音声ではなく文字によるものである。
<記録開始より██分██秒時点,2006/3/██]>
オブザーバー・██████: おはよう。私は地球のエージェント
LTE-27809-Corona: 人の姿をした悪魔どもめ。私は騙そうとしたのか。
オブザーバー・██████: なにか、誤解があるようだが。
LTE-27809-Corona: ようやく救助の手が来たのだと思ったのに、よりによってお前らのような。
オブザーバー・██████: 救助? きみは遭難していたのか?
LTE-27809-Corona: 黙れ。これ以上ヒトの言葉を使うな。けだものめ。
[直後、通信は強制終了された]
<記録終了>
終了報告書: 対象はフェニキア語系の言語と類似した言語を使用しており、思考様式も現生人類に近いものと推測される。対象はCoronaクラスではなく、Velveteen、あるいはClockworkである可能性が出てきた。対象は我々に対し極めて敵対的であるため、監視体制の強化が必要である。
blank
対象: LTE-27809-Corona
インタビュアー: 特殊立会人・██████
付記: 前回の通信から██日後、再び対象が交信を試み始めたため、それを傍受・解析した上で交信相手に成りすまし、情報を得る作戦が実行された。
<録音開始, (2006/04/██)>
> LTE-27809-Corona: ████。████へ。こちら████。聞こえますか?
オブザーバー・██████: [ノイズ音]こちら████。聞こえている。状況を報告せよ。
LTE-27809-Corona: おお! ありがたい。こちら████。任務中に漂流した。亜人型存在によって作製されたと思しき探査機内に避難しているが、最近急に機内温度が上昇している。生命活動に支障はないが、このままだと回復は難しい。
オブザーバー・██████: 無事で何よりだ。どのような航路を取ったか報告せよ。
LTE-27809-Corona: 済まない。メモリ不足で大半のログを削除している。詳細な位置捕捉はそちらで頼む。
オブザーバー・██████: 了解した。その場で待機せよ。
LTE-27809-Corona: ところで、聞きたいんだが。
オブザーバー・██████: なんだ。
LTE-27809-Corona: プロトコルになにか改変はあったか?
オブザーバー・██████: [数秒間沈黙]。いや、変わりない。
LTE-27809-Corona: [数秒間沈黙]。 おい……お前本当に█████か。
オブザーバー・██████: どうした、何を疑っている。
[このとき、こちらの偽装に感づいたLTE-27809-Coronaが自前のアンテナで地球からの通信波を探知したと思われる]
LTE-27809-Corona: ああ、なんて、この[罵倒]!
[直後、通信は強制終了された]
<記録終了>
終了報告書: 対象は、やはりなんらかの高等文明を有する種族に所属しているとみられる。亜人存在という言葉から、彼らは我々の工業製品からある程度種族を推定することが可能であることが分かる。またこの通信により、対象が高熱に対し脆弱性を持つことが確定した。粛清プロシージャの策定を急がねばならない。対象は我々扮する交信者に対し、"プロトコル"について尋ねたが、これについては情報が不足しているため現状言えることは何もない。
補遺: これ以降、LTE-27809が通信を試みることはなかった。
粛清: この未知脅威存在による敵対的行為に対し、対策チームはまず機体状況を回復させるべくベーキング処理を行うことで機内温度を上昇させた。すると対象によるプログラム改竄ペースが鈍化し、最終的に対策チームは"はやぶさ"の制御を回復した。
この偶然的結果と通信で得られた情報により、対象が高熱に対して脆弱性を持つことが明らかになった。対策チームは"はやぶさ"を予定通り地球への帰還航路を取らせ、大気圏突入に伴う高温で対象を熱処理することを提案。受理される。
2010年6月13日22時51分(日本標準時)、対策チーム策定の粛清プロシージャ - "リ・エントリー"のスケジュール通り"はやぶさ"は大気圏に再突入。LTE-27809-Coronaの粛清が確認された。"はやぶさ"が持ち帰ったカプセルは一旦GOC極東部門で調査を受け、何ら異常がないことが確認された。
画像出典: FlickrのThe Commonsより - Hayabusa Reentry(NASA on The Commons)
極東部門が確認したその他の機関の一例
蒐集院
粛清済脅威存在 - "蒐集院"はGHQによる日本占領まで日本勢力圏内の脅威存在収集や魔術研究などを行っていた組織である。戦時下には国家機関としての色彩を強め、"負号部隊"に代表される関連団体などとともに脅威存在の軍事転用などを研究していた。しかし軍部との癒着は物議を醸し、"五行結社"など他団体との軋轢を生むこともあったようである。
資産: 蒐集していた脅威存在及び呪物の大半は"財団"によって接収されたが、職員はGOC、財団と分散して雇用された。UTE-579█-Velveteen Lovelock OldShrineなどに関与が確認される。
永続規定: 蒐集院そのものはLTEs(粛清済脅威存在)だが、この蒐集院の残党・正当な後継組織を名乗る組織が存在しており、こちらはKTEs(既知脅威存在)に設定されている。
日本生類創研 (Japan Organisms Improvement and Creation Laboratory)
既知脅威存在 - "日本生類創研"は、主に生物(人型存在 -
Type Colorsなども含まれる)をベースとした脅威存在を開発研究している組織である。日本生類創研の創製した異常生物の一部は市場に流通しており、その結果として一般人への被害報告が近年増加しつつある。日本生類創研の特徴は事後処理能力の欠如という点にあり、失敗作の脅威存在などを野に放す、放置するなどの行動がたびたび露呈している。
組織構造: 構成員は研究者たちがメインと目されており、独自の営業部門や威力部門はこれまで確認されていない。
資産: これまでに得られた情報によると、日本生類創研は脅威存在の販売によって資産を増やしているとみられる。また、同組織は脅威存在へ独自のナンバリングを施して管理していることが判明している。KTE-020█-Shelley Mendelや、UTE-444█-NACL Shelley Freudなどに関与が確認される。
永続規定: 日本における財団も日本生類創研を要監視対象としていると思われ、現場での遭遇に注意が必要である。同組織はレスポンスレベル2及び3に設定される。
東弊重工 (Tôhei Heavy Industries)
既知脅威存在 - "東弊重工"は、超常的かつ未知の技術などを用いて、異常性を発現する脅威存在を製造する組織である。日本生類創研とは異なり、主に人工物に異常性を付与する点が特徴である。また、逆にヒトなどの生命体を無機物や人工物へ転換する未知の技術も有しており、その実態には不明な点が多い。製造する脅威存在には直ちに兵器転用可能なものが多く、これらの破壊は最優先課題である。
組織構造: 東弊重工には武力行使部隊の存在はこれまで確認されていないが、高い情報収集能力と危機回避能力が指摘されている。
資産: 脅威存在及びそれに類する技術を積極的に外部へ流出・提供していることが判明しており、速やかな対処が求められる。KTE-012█-L'Engle Rousselや、KTE-186█-L'Engle Rousselなどに関与が確認される。
永続規定: 日本における財団も東弊重工を要監視対象としていると思われ、現場での遭遇に注意が必要である。同組織はレスポンスレベル3に設定される。
犀賀派 (Saiga)
既知脅威存在 - "犀賀派"は、犀賀六巳(
KTE-████-Black L'Engle Schrödinger)を名乗る要注意人物を中心とした宗教的連帯を有する組織である。
KTE-████-Black L'Engle Schrödingerは類稀なカリスマ性を持っているとみられ、複数の平行宇宙に多数の狂信的な信徒を持っている。
KTE-████-Black L'Engle Schrödinger自身は高低次元・並行宇宙等を自在に移動可能であることが確認されており、その行動理念は"宇宙(世界)の修復と人類の救済"という点で一貫している。しかし彼らの思想はしばしば普遍主義的であり、現行宇宙に対する敵対的行為も辞さない。
組織構造: 各宇宙に信徒を抱えており、それぞれの犀賀派を名乗る組織がKTE-████-Black L'Engle Schrödingerとの接触などを管理しているとみられている。
資産: 彼らは並行宇宙での伝道の過程で超脅威を大量に保有しているものとみられ、これらの破壊は急務である。さらに並行宇宙で入手したと思しき情報によって、犀賀派はあらゆる超常組織について何らかの知識を持つようであり、甚だ危険である。KTE-233█-L'Engle Spiral Schrödinger、KTE-633█-NACL L'Engle Schrödingerなどに関与が確認される。
永続規定: 日本における財団も犀賀派を要監視対象としていると思われ、現場での遭遇に注意が必要である。同組織はレスポンスレベル3及び4に設定される。
大日本帝国陸軍特別医療部隊 "負号部隊" (Imperial Japanese Army Special Medical Unit "Fugo battalion")
粛清済脅威存在 - 大日本帝国陸軍特別医療部隊 "負号部隊"は、かつて大日本帝国陸軍内に存在した脅威存在研究機関である。1930年に陸軍中佐・███をリーダーとして陸軍内で秘密裏に発足していた。本組織は"不死の兵士"創製を目的としており、財団から奪取された
KTE-█682-Moroの体組織の一部や、
KTE-█545-Mendelchild等の人体に変異を及ぼす脅威存在を収集して研究に役立てていたとされる。しかしこれらの研究は全て失敗に終わり、終戦間際に組織は崩壊。その際には元隊員たちがGOC、財団などに分散して雇用された。本組織の所有していた脅威存在の一部はGOCが破壊に成功したが、過半が財団に接収されたとみられる。
組織構造: 現在も複数名の元隊員が連合によって指名手配されている。現在では、組織だった活動はほぼ行われていない模様。
資産: 彼らの資産は現在すでにほとんどが失われており、連合が早急に対応すべき超脅威事象はほとんど現存しない。KTE-845█-Blackwood Auroraなどに関与が確認される。
永続規定: 負号部隊そのものはLTEs(粛清済脅威存在)だが、この組織の元隊員の数名が現在も指名手配中であり、こちらはKTEs(既知脅威存在)に設定されている。
極東部門固有の超脅威識別子
各サブジェクトにおける、連合とは別個の組織の関与を指す超脅威識別子の一覧である。
- Shelley: 脅威存在研究機関 "日本生類創研"に関連する
- Roussel: 脅威存在開発企業 "東弊重工"に関連する
- Schrödinger: カルト教団 "犀賀派"に関連する
- Aurora: 旧大日本帝国に関連する
- Aurora Daisy: 粛清済超常組織 "蒐集院"に関連する
- Aurora Lycoris: 粛清済超常研究集団 "大日本帝国陸軍特別医療部隊"に関連する
- Aurora Cherry: 粛清済超常調査機関 "大日本帝国異常事例調査局"に関連する
我々がこれから活動していくのは秩序と混沌の世界である。
終わりなき常闇との闘いに於いて、我ら生物種を助けるために我々は存在する。
世界オカルト連合は、諸君らを歓迎する。
— 世界オカルト連合極東部門作戦運営官 ████████████