"ストライク"
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「注意しな。ブルの旦那。」
スカンク小僧が無線越しに囁いた。
「連中が戻ってきた。」

エージェント・ブルフロッグ──牛蛙、評価班735"スパーク・プラグ"隊員。彼は頭を上げて、カオス・インサージェンシーのキャンプを双眼鏡で覗いた。スパーク・プラグ班が、インサージェンシーの施設を見下ろせる崖に陣取って、かれこれ一週間になる。痒い、疲れた、窮屈だ、酷い悪臭が天まで届きそうだ。グレースーツの下が、バイオハザードエリアになっている事ぐらい、トウに分かっている。

何が一番腹立たしいのかって、そんな事、何も起こっていねぇってこった。この一週間、連中はクソ見てぇなことばかりしてやがる。少ない新米の兵士を訓練して、おう、障害物走やら、射撃や、IED(簡易爆弾)を発破させたりしてる。だがこの程度、第三世界でウン十年前からやっているようなことだ。それ以外は何もやっちゃいねぇ。部外者が聞くとヘンな話かもしれねぇが、敵の目と鼻の先に居座ってるってぇのに、この任務は……つまんねぇ。

今まではな。

「ありゃぁ、よく飾り付けた車だな……」
牛蛙はつぶやく。
「クロムメッキのホイールって言うのかあれは?」

「スピナーだ。」
スカンク小僧がしかめっ面をした。
「何万ドルもするヤツだ畜生。クソっ、ハデハデしたモンをホイールにつけてやがる、あのヤロウ。俺が作ろうとしてきたモン以上だ。」

「上等なこった。」
牛蛙は同意する。彼は片眉を釣り上げて、下の突然の行動を眺めた。そして低く口笛を鳴らすと、驚いたという具合だった。
「スカンク小僧。あれを見ろよ。」

「ファック……」
スカンク小僧がささやく。
「ああ見えるよう、ロクでもなさそうだ。アレを呼ばねぇとならないか?」

「俺なら呼ぶな。」


「何を知らないとならないのか、教えてくれるかな。」

事務次長タリク・アハメド・ハーリド──PHYSICS部門カブール支部長──は紫檀を嵌め込んだ会議机の最上座に座り、万年筆の尻を腿に弾きつけながら、永遠の不機嫌面に凍り付いたセム系の厳しい表情を向ける。背後の大きなスクリーンには、ヒンドゥークシュ山脈上衛星写真、およそ10平方マイルが表示されている。険しく、雪を冠ったカフェオレの山、平野に掛かる麓、青々しい野。さらに中央、小さな、それでも特徴的なテロリストの訓練キャンプが、峡谷の陰にあった。

若い副官がラップトップのキーボードを滅多に叩くこと数秒、衛星写真上のトレーニング・キャンプの別の画像が映し出された。
「承知致しました。」
神経質に彼はいう。
「こちら。カオス・インサージェンシーの施設で、3週間前に発見したものであります。1週間前、私達はPHYSICS部門評価班を当地に送り込むことに成功し……。」

「運行方法ぐらい分かっているんだ。」
ハーリドは屹然という。
「彼らは何を見つけたのか、それを教えてくれるかな。」

「……ええ、はい。」
青年は息を呑む。
「ええ、そのですね……武器使用の証拠を見つけたとのこと……違法武器の備蓄……トレーニング・キャンプに教化……そして三十分前、彼らはこの画像を報告しました。」
次に、第二の画像がスクリーンに投影された。大きな、高価な黒の高級車が、訓練キャンプの門の前に止められている。コンバット・ベストを身につけた二人の男が、AKモデルのアサルトライフルを装備し、後部座席から出てきた男を引きずっていった。第三の男は小さな立方体状のアイテムを抑えていた。後ろで、二人の他の囚人が手錠を前に掛けられて、連れて行かれていた。

「PHYSICSでは彼らの顔とVERITASプロフィール検索しました。そして照合したのが……」
副官は続ける。別の画像、灰色のスーツを着た中年男性がフランスの何処かのコーヒーショップに座っている様子の画像をあげた。
「フィリップ・アンダーソン。マナによる慈善財団。彼らはその地域で人道活動をしていました……露骨に第二任務懸念を無視しないのでしたら、我々は彼らを連合に招待したのですが──」

「私は、MCF(Manna Charitable Foundation)のポリシー、その行動についても良く分かっているんだがね。」
ハーリドは再び中断させる。
「何故問題なのか、それを教えてくれるかな。」

「……はい、承知しました。他の超常組織の高位のメンバーが、カオス・インサージェンシーに捕えられたということです。思うに……」

「もっと上手く出来るだろう、デイビッド。」
ハーリドは強く言う。
「何故気を払わないといけないのか、教えてくれ。」

青年は、提案をする前に深く息を吸った。
「何故なら、と申しますと、マナ慈善財団の高位メンバーを救出するとなると、次の交渉の際に、そういったことが大きな影響力を持つことになるからです。彼らを取り込むチャンスになり得るのではないかと……彼らが第二任務懸念に同意し、連合に加盟してくれるかもしれません。彼らの持つリソース──」

「私は彼らの持つリソースの事は分かっている。」
ハリードは言う。
「誰が待機している?」

「ううむ。私の情報によるとですね、<高速応答班>ブロークン・ダガーが。アイルランドに拠点を置いています。」

「今すぐ電話するのが良かろう。あそこは夜中だ。」


アラームが"Fox/狐"の耳に鳴り響く。傷めつけられた獣が喚くかのように。痩身の赤毛の女は、ボタンを手のひらで叩きつけると、レッド・ツェッペリンの"The Immigrant Song/移民の歌"が鳴り止んだ。彼女は唸ると、ナイトテーブルの方を向き、流れるテキストに目の焦点を合わせようとする。

大きな赤い一つフレーズが彼女の注意を引いた。
『優先警報』
彼女はすぐさま起き上がると、ベッドの端に座りレポートを二度読み通した。全てを呑み込めたと確信するために。ようやく、宿舎の壁にかかるボタンを叩き、ありふれたバラックにアラームを響かせた。

<排撃班ブロークン・ダガー>の眠るバラックに通じるホールを行くのに60秒。彼女が嬉しかったことは、到着した時に、チームの全員がベッドから出て、服を着ているのを見れたことだった。(しかしドアを開いた時点では、二人、Tシャツとスウェットパンツを引っ張り合っていたが。)
「いい?これは緊急だ。」
彼女は厳しく言う。そして、レポートの写しを三つの分隊のリーダーそれぞれに投げた。
「CI(Chaos Insurgency)のチンピラ共が、MCFのお偉いさんを攫った。私達は彼を取り戻すつもりでいる。」

「グレースーツかい?お嬢(ma'am)?」
"Jackal/ジャッカル"は尋ねた。狐のXO(eXecutive Officer/執行役員)は背の高い、ひょろ男で、バスケのプロ選手のように見える。エボニー色の肌で、髪は短く切ってあった。小さな司令官の横に立てば、彼はなおさら目立つ。

「ホワイトだ。」
狐は言う。
「全面的にこれを着装。プラスニ世代技術フル装備。最大限に。」

「やれやれ(Whew)。」
ジャッカルは野次る。
「彼らは真剣だ、そうじゃないか?」

「ああ。マジだ。行こう。」

彼女は班長権限で、一番風呂(シャワー)を要求した。不用心な、ゆるゆるのタンクトップとアンダーウェアを脱いで裸になって、ドライルームに歩いて行くと、強力な熱突風がすぐに彼女の肌を乾燥させた。IDカード(彼女はドッグタグと同じチェーンに掛けている)をセキュリティスキャナーに走らせると、重い鋼鉄のドアの照明が緑に瞬き、ホワイトスーツ安置所に開かれた。

ホワイトスーツは白くない。ブラックスーツが黒色でないように。(ちなみにグレースーツは、デフォルトでは灰色をしている。)そうではなくて、この用語は、先進技術の視覚的な水準を表すものであろう。ブラックスーツは普通の日常着のようで、ただ偶然にもそれが防弾衣であった程度である。(防弾衣であることが"証拠"であるのだ。)ホワイトスーツは、テレビゲームから出てきたSFスーパー戦隊みたいに見える。

ホワイトスーツの一番下は一着で、競泳用水着のように彼女の皮膚にピッタリとあっていた。念入りにリリーフチューブ(長い任務の内に非常に重要になる)があるべき場所にあるか確認して、腰と尻の周りのフィットを調節し、衣服が密着するアーマーの下で締め付けられないようにした。その後は、展開しているホワイトスーツを着るのは難しくない。胴体プレートを手動で、肩を滑らせ好ましい、しっかりとした位置へ、あちこち動かして閉じ、グローブを手から顎まで滑らして、ヘルメットの"クローズ"を顎で押した。

大きなシューっという動作音とともにスーツは引き締まり、数百の小さな留め金が締まるピシピシとした音が続いた。彼女は目を閉じて30秒待ち、オンボードコンピュータが起動するのを待った。そして目を開けると、眩い視界、疑似カラーの世界にいた。OCULUSシステムが作動したのだ。

左に一行のテキストが流れ、スーツの正常動作を伝える。"everything read green"(全て正常)。彼女は極めて慎重に、チェンバーから最初の一歩を出した。スーツが折れ曲がり、骨という骨を砕くことはなく、突如フリーズして4分の1トンの鋼鉄と装置に囚われるということもなかった。

ここまでは、全て良し。

「首尾は上々か?アイアンマン?」
ジャッカルは、彼のスーツで全てのパワーアップ・シーケンスを終了させた後、尋ねた。

狐は笑った。
「トニー・スターク1がコレの一着でも欲しがるんじゃない。」


「これをするのは本当に敵わん。」
エージェント・アースジャイク(Arsegike)は不満を言う。今、排撃班ブロークン・ダガーの12人は、かつて航空機格納庫であった場所の、床に刻まれた銀の円陣の下に集まっている。白いコートを纏った数名の男女がひしめき、転送円陣の動力となる器材とルーンを確認していた。円陣は統一奇跡論センターの知恵である。

「ただ目を瞑って、イングランドのことを考えるんだ。」
フェレット(Ferret)はそう言って、笑顔を見せた。
「そうすれば、いつの間にやら終わっているさ。」

「それなら、アンタのオカンに昨日の夜言っておいたよ。」
アースジャイクは不満を言う。

「良し、みんな!」
狐は大声を上げて、格納庫を大股に歩く。
「何か忘れ物があったら取りに帰る最後のチャンスだ。武器。弾薬。配給。電源。必要な物は全て持っていなさい、行きは楽だが帰りは大変だからな。アルファ分隊?」

「首尾上々だ、チーフ。」

「ブラボー?」

「全て確認済み。」

「チャーリー?」

「俺らは大丈夫だ。」

「よろしい。」
狐は深く息を吸う。
「バイザーダウン。今より顔も無し、声も無し。作戦準備?」

「アポート2準備完了、お嬢。」
主任賢者(magister-マギステル)が言った。

「膝をついて(Take a knee:アメフトのポーズ)、みんな。」

排撃班ブロークン・ダガーの12人は片膝を円陣の中央に入れる。1ダースの、SFチックな大きなライフルを持った、スーパーヒーローロボットが、祭壇の前で騎士のように跪いた。

狐はヘルメットのバイザーを閉じて、内蔵の吸気装置が動き出すのを待った。「執行」の声とともに、彼女は出来る限り腸を締め付け上げた。

眩い紫の光、天地がひっくり返る、十次元多岐管を流れる時の吐き気を催す感覚。
イングランド某所、トウモロコシ畑がさざめき揺れる。テレポートのバックラッシュ(跳ね返り)によって、半径10mがサークル状に踏み均された。
イングランド某所、ぼんやりとプレシオサウルスが水より頭を挙げ、もはやジュラ紀は終わったと悟った。

地面が崩れ落ち、狐はアフガニスタンの山脈上空1万メートルから、地面に急落している事に気がついた。

仕事は予定通りだ。


「そこだ。班員を視認。」
スカンク小僧が報告する。
「良さそうだ。エージェントは12人数えられる、異常終了も欠落も無し。」

VERITASセンサーを通せば、12人の排撃班は赤く眩く夜空を駆ける流星のよう。彼らは三つのしっかりとした菱形を作り、横傾斜し、緩やかに、向きを変えて目標地点に近づく。

「何で地面にテレポートしねぇンだろう?」
狙撃手は不思議に思う。
「そしたらヘイロウ(HALO jump/高高度降下低高度開傘)を省けるのにな。」

「誤差を修正するためです。」
蜘蛛は説明する。
「どんなに努力しても、私たちじゃあ10mは誤差ができてしまうんすね。万が一、10m地下とかいう話になると……。」

「……うへぇ。」
スカンク小僧は身震いした。
「で、ホワイトスーツフル装備の排撃班がターゲットに降りてくの見たことあるか?」

「いや、一度も見たこと無いっす。」
蜘蛛は認めた。

「じゃあ、ここの俺ンとこ来な。アンタこれを見逃すつもりじゃないだろうよう。」


ジェームズ・クランツ(James Krantz)はテロリストではない。少なくとも、自身をそう思うことはなかった。結局のところ、テロリストは褐色で頭にタオルを巻き付けて、自爆して、アラー万歳するもんだ。ジェームズは白色でシカゴの近所に住み、偶然にも黒服に、ずけずけと声かけられてリクルートされたんだ。ついてきて世界を救うか、死ぬかと言われた。ジェームズは無神論者だった。確かに、アフガニスタンで爆弾の作り方と、人の撃ち方を覚えたけれども、アメリカ人にそんなことするつもりはない。テロリストはそういうことをする。ジェームズはテロリストじゃない。

まだまだ、変だぞと思う瞬間は何度かあった。今夜のように、キャンプの周りを歩き(誰か見張りをしないとならないし)、AK-47(イカしたアサルトライフルだ、これ以上のモンはないだろう)を担いで、(砂やら塵やらを吸わないように)スカーフで口と鼻を覆っていると、めっちゃテロリストっぽい事してんじゃないかなって思う。でも、ジェームズはアメリカを愛している。テロリストはアメリカを憎んでいるし。そうじゃん?

まだまだ、このなぞなぞを考えているのに、パワードアーマーの男が空から降臨し、片手でピストル三発撃ち込んだ。


「見栄っ張りめ。」
狐はつぶやいた。ジャッカルから数ヤード離れた場所に着地する。

「上出来、だろう?」

「まだ見栄を張るか。」
狐はパラシュートシュラウドを掴んで、膨らんだ布を寄せあわせた。
「状況報告。」

「全員地上。一名着地失敗。カートマン(Cartman)が10km西にそれた。合流するまでに、退散の時間になるだろう。」
ジャッカルが応答する。狐からパラシュートを受け取って、岩の後ろの自分の分と一緒に仕舞った。

「よし。あいつのセキュリティ要員は私が務める。チームリーダー? 」

「アルファ、準備。」
ジャッカルが言う。

「ブラボー、準備。」

「チャーリー。一人待ち……申し分ない。俺らは大丈夫だ。」

「ゴー。」
狐は命令した。

ジャッカルは猛発進した。脚をポンプのように猛烈に上げ下げし、ほかの戦闘要員の三人もそれに密着して続く。金網フェンスを突き破り、三発の爆発するクレイモヤ地雷と直行を競い(鉄のベアリングが大理石のような装甲に跳ね返り、コンクリートの床を弾きながら)、シンダーブロックの壁を肩で打ち抜き、コンクリートに鉄筋をティッシュペーパーの如く破る。卓に座ってカードゲームに興じていた三人の驚く男へ、そのまま直行、雪崩れ込む。部屋の三人がアサルトライフルに手をかけるも、戦闘要員が三人続いている。ジャッカルは無視して疾走を続ける。

勢いのままに部屋を直進し、壁を貫き、爆音とともに石膏ボードを粉に、紙と砕く。タイルの床を尻で滑るさまは、バスケットボール選手がセカンド・ベースに滑り込むようだ。すぐさま成形炸薬を床に打ち込む。同刻、さっき引き払った部屋の三人の男は、ライフル弾を頭と胴に食らい斃れていた。他のチームのメンバーとキッチンで合流し、セキュリティポジションを取り、廊下の上下を見る。

炸薬が正しく配置されているか確認するのに数秒、VERITAS視覚化装置で見ることのできた生命オーラから離して、狙いを定める。
「3」
彼は言う。
「ターゲット確認。1… 2 … 3。」

起爆コードを送って、衝撃に備えた。爆発した。床に丸い穴を空けた。電球一つが狂ったように揺らめき照らす、暗い地下室を暴いた。三人の男が、一角に集められていた。椅子に括りつけられ、顔に電極を結び付けられている。そして、尋問官の一人が明るい色をしたフラクタルの印刷物を掲げていた。すると、ジャッカルの視界は即座にボヤけた。バイザーが視覚的認識災害の可能性を検知したからである。バイザーは可視光モードに切り替えた。

「遠ざかれ!」
ジャッカルは叫んだ。彼は部屋に転げ落ち、ターゲットを握ると、地面に押し付けた。ジャッカルはターゲットを装甲で覆った。背に結びつけた対人炸薬をターゲットに浴びさせないためだ。一万の小さな(それでも高速な)タングステンの矢が半球を描いて装甲から吹き出す。針と化した血肉、骨、コンクリートも同じ様、そして蜂の巣のカオス・インサージェンシー人員。

その後の部屋は静かだった。くぐもった銃声が、ジャッカルに、規則上では戦いがまだ続いていると知らせる。

二分の後、それさえ止んだ。


「わあ、」
蜘蛛は囁いた。
「これは……すごい。」

「早い、と思うだろう?」
スカンク小僧が同意する。

「あの人たちって本当に窓が必要なんでしょうか?」

「いや、無くても大丈夫だ。」

「もうそこらで、十分話しただろう。」
牛蛙が言った。
「あと二時間で、あの排撃班の12人が来て、撤退をしなきゃなんねぇ。蜘蛛?」

「中央のヘリが来ているそうです。」
賢士は言う。
「LZ(Landing Zone/降着場)を確保するのを手伝ってくれませんか。」

「いいとも。スカンク小僧、仔猫、敷地を見ておけ。何か来たなら教えてくれ。」

「はい、ボス。Who Dares Wins3と、その他のたわ言が来た。」


「よろしい!」
狐は叫んだ。
「私達は三十分で着く!場所を開け払っておいてくれ。ジャッカル?私達のお嬢ちゃん(damsel)は?」

「彼は未だ意識不明。」
ジャッカルは少しおどおどという。
「ちょっと鼓膜を割いてしまったかも知れん。すまない、狐。」

「彼、生きてる?それなら心配いらない。」
彼女はコンクリートの上で悶えるカオス・インサージェンシーの工作員の体をまたいで、さり気なくその後頭部を撃った。
「フェレット?アースジャイク?」

「他二人の捕囚を確保。」
返事が帰って来た。
「うち一人は、なにか意味のないことを喚き散らしている。水族館がなんとか。」

「私はお前たちの先頭を行っている。」
狐は言う。
「誰か他には?」

「シャトナー(Shatner)の服が撃たれてフリーズした。奴は元気だが、直せそうにもない。二人でヤツの脇を抱えて連れて行かないとならないかもしれない……。」

「カオス・インサージェンシーが息を潜めているかもしれないんだぞ?破ってしまえ。スーツを脱がせて、自沈用の爆薬を取り付けるんだ。他の皆は、どんな些細な情報も取り残さないように。狐、アウト。」


「わかった、ここに彼らが来る。」
スカンク小僧が言った。
「そんな一瞬というわけではない。陽が上がるぐらいにだな。」

陽が上がる、黒のパワーアーマーを着けた11人が、(救出した3人の囚人と、1人の気まずそうな半裸の男、ブリーフ水着とレスリングスーツを足して二で割ったような見てくれの男を運びながら、)終に砂煙上げる訓練キャンプ施設からでてきて、評価班の居る丘の上へジョギングしてきた。何だかジョギングをしているような感じだが、良く見れば、上品な大股の駆け足で時速50マイルで移動している。

崖の影から一人、また一人、顔を出しては、無言でスパーク・プラグ班のメンバーに頷く。最後に到着したのは、小さな女性で、指揮官の赤い章を頭と肩につけていた。

「行く準備はできているか?」
牛蛙は尋ねた。

「ちょっと。」
狐は言った。
「中央、こちらダガー6。今からサイトを清掃する。」

「ダガー6、中央。やれ。」

彼女は左のガントレットの制御盤を軽く押す。背後で、眩い青の光が閃き、哀れエージェント・シャトナーのホワイトスーツはその時破壊された……同時に、残された建物は白熱の雲に崩れ、ちらちらと塵をきらめかした。

「よし。」
狐は言った。
「今から、家までドライブできるぞ。」


「ブロークン・ダガー班の報告が0548時間にありました彼らは現在バラックにおり、修理、再編成、アイルランドへ帰る旅の支度をしています。」
デイビッドは説明する。
「全体として当作戦は成k……。」

「そうか、作戦成功だったんだな。大したことだ。で、何か私の知るべき興味深いことか、異常はあったかね?。」
ハーリドは尋ねた。

「うう……ああ、一つありました。面白い類いの話しであると思います、本当に。チームは捕囚のペットを一匹発見しようとして、10分の遅れが生じました。ある種のウミウシです。どうやら、それを見つけない限りは引き揚げに応じてくれなかったでしょう。聴くには、それは喋ることができるとか……。」
青年はクスクスと笑った。

「本当かい?」
ハーリドは静かに尋ね、コーヒーを啜った。
「その名は?」


「全く、彼らは実に非紳士的であったぞ。」
ブラックウッド卿は羽毛のような鰓をひらひらさせながら云う。
「文明人に対する接し方が全くなっておらん。私は、T.S. ローレンスがトルコに囚われていたことを思い出したよ。有り難いことに、彼の名立たる紳士の受けた非人道的苦痛を味わうこと無く逃げることに成功したがね。」
色鮮やかな裸鰓類は水槽に入れられたティーカップに頭を下ろした。ティーカップが水を茶色く濁した。
「あれやこれやで、散々な夏休みだったな。」

「あなた一人で困難を切り抜けたとお見受けしました。いや感激。」
ハーリドは言った。
「あなたは常々トラブルに巻き込まれますが、何かその手のコツが有るのでは。」

「馬鹿を言いなさんな。決して本当に危険な目には遭わなかったぞ。そうさな、ラム酒と紅茶が減っていく事には、危機を感じたがな。そうそう、アンダーソンの奴はどうしたんだ?良い男でな、ちと冒険家タイプではないんだが。」

「フィリップは恢復するでしょう、少々難聴が残るでしょうが。」
ハーリドは報告した。
「彼は大丈夫。」

「それは重畳、重畳。全く、本当に変わった一週間だった、そうじゃ無いかね?」

「そうですな、そうですよ。」
ハーリドは同意した。
「どうでしょう、気変わりして、もう少し長居してくれませんかね。財団に戻る道理なんて無いでしょう?」

「下らん話しだ。仮釈放宣誓した身の上。紳士の世界でそれは、オークの如くの拘束力を持つのだ。他にも、家政婦が私を心配しているだろう。余りにも長く私が居ないとな、彼女は酷い発作を起こすのだ。」

「必要でしたら……。」
ハーリドは礼儀正しく礼をする。
「密使を送りましてあなたを朝に引き戻させて頂きます。」

「ふざけるんじゃ無い。私が少々年季食っているとは言ってもな、まだ老骨では無い。少し歩いて帰ってくる程度の午後の爽やかなサバティカルを楽しめ無いのでは、我が名、ブラックウッドの名に恥じ入る事になる。」

「ならば、私は只あなたを見送りましょう、旧き友よ。」
ハーリドはそう言って、立ち上がりだした。

「君もな、我がアラブの友よ。あなたの上にも平安とアッラーの微笑みがありますように。」

ハーリドは立ち上がって、小さな尋問室から出て、ドアを後ろで閉じた。彼の側には、デイビッド。彼は神経質に咳払いをした。

「私は知りませんでした。あなたがムスr──」

「違う。」
ハーリドは遮った。
「そしてアラブ人でもない。でも、セオドアは少し頑固なんだ。彼が生まれた時代が原因なんだがね。彼は良かれとやっているのだ。」

「あー。えー、ううむ。どうしてお知り合いに?あのウミu──」

ハーリドはキリッと回って廊下を降り、喧しさ屋を睨みつけた。

「それ以上は、君のセキュリティクリアランス超過だ。」


「アンタ知ってるだろう、」
牛蛙は考え気味に言った。
「認知のテロリストが、キャンプを建てているのなら、止めなきゃならないだろう。それで、今回みたいにヒンドゥークシュの奇妙なキャンプなら、ふっ飛ばしても誰も屁とも思わなかろう。だが、これが例えばモンタナで起こったとしたら?誰か疑問を言うだろう。」

「ええ、そうなったら、おせっかいな隣人を対処しないとならないのよ…… IRS(Internal Revenue Service/合衆国内国歳入庁)の資産税やら……芝生で糞している鹿とか……。」
狐は指摘する。
「それでも、連中をふっとばすことも出来る。そういう時は、メタンフェタミンの密造所か何かだったって主張しなきゃならない。」

「そいつは本当の話だろう。」
牛蛙は言った。
「カオス・インサージェンシーへ。」

「そして、連中が弾切れだろうことに。」
狐は同意する。

彼女はビールを掴んで、湿布をとった。本物には劣ると言っても、ダブリンの外でギネスビールの本物を見つけることは出来ない。

「それで……」
彼女は尋ねた。
「新入りの女の子は良くやってる?」

「蜘蛛?悪くはない。学ぶことは多いが、覚えは良い。一緒に仕事した中で一番のメイジの一人だ。」

「本当?排撃班でのキャリア何て考えてみない?」

「おいおい、俺がアルゼンチンの洞穴からアンタを引きずり出してなかったら、俺の魔法使いを俺の所から引き抜こうなんて出来なかったんだぜ。」

「思い出せば、私が逆にアンタを洞穴から引きずりだした気がするんだけど。」

「お互い引き摺り合っていたっていうのがもっともそうだ。」

「ホント、ホント。」
狐は残りのビールを飲み干し、頭の後ろに腕を伸ばした。
「私達は0600のアイルランド行きの早い便に乗らなきゃならないの。寝酒しに、部屋に来ない?」

「俺達の便は0400だ。」
牛蛙は指摘する。
「同じ具合に寝ないとならねぇだろう。」

「カモン、ブル。お互い最後にあってから、数ヶ月になるんだ。色々埋め合わせしないとならないことが沢山あるのよ。」
小柄な赤毛は、大男にほほ笑みを浮かべ、彼の肩甲骨に指を走らせた。

牛蛙は笑った。
「良し。」
彼は言った、ずるい、何かわかったような微笑みを浮かべながら。
「もう一杯やる。」

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