小規模な霊力発電機の建造のための認可計画
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GRANT REQUEST FOR THE CONSTRUCTION OF A SMALL PSYCHOELECTRIC POWER GENERATOR

小規模な霊力発電機の建造のための認可計画

問題

古来より世界中で様々な視点による研究が続けられてきた霊体力学の分野は、近年になって目覚ましい発展を遂げています。「霊体の観測はタイプ・ブルーなどのごく限定された資質を持った人物にしか行えない」というかつての常識は、K5型撮像機の登場によって光学機器による霊体の観測が可能になったことで打ち砕かれ、霊体研究に携わる人数は数十倍に増加しました。

イクシオンによって1974年に提唱された「霊体の質量は、その所有者が持つ利己本能・自己保存本能の強度を反映する」というカルマ則[1]は、一般的な分子力学の延長線上に位置づけられていたそれまでの霊子力学を根底から揺るがしました。イクシオンはK5型撮像機を用いた撮影実験を繰り返し、肉食獣が植物や草食獣と比して大きな霊体を保持すること、ヒトは生命体の中で最も質量の大きい霊体を持つこと、自壊する放射性物質は無機物であるにもかかわらず霊体を有することなど、多数の新事実を発見しました。さらに、彼は撮像機を抱えて世界各地の監獄を視察し、多くの囚人が持つ霊体が一般人のそれと比較して有意に肥大化していることを見出したのです。

イタリアのフィレンツェ郊外の地下6660m地点において莫大な量の霊子が検出され、当該領域に「ゲヘナ霊湖」の名が与えられたことは記憶に新しいものです。これは、イクシオンが予想した「生体から分離したのち質量の増大によって地中へと沈んだ霊子の集積地の存在」が実測により立証された初の例であり、彼の主張を裏付ける重大な証拠の一つとなりました。ゲヘナ霊湖に集積する霊子の流入経路であるアケローン霊河が同時に発見され、その支流が南欧・西欧のほぼ全域に分布していることも程なく突き止められました。

霊子に関するこれらの重大な事実を、我々プロメテウス・ラボが世界に先立って発見できたことは幸運でした。大規模な霊的構造体の発見は、それに付随する巨大な利権の誕生を意味します。世界オカルト連合やSCP財団、オブスクラをはじめとするヨーロッパのパラテック団体たちの追随を許すことなく、我々の手でこの巨大な霊的資源を活用する手段を早急に確立し、事業を開始しなければなりません。

ところが、ゲヘナ霊湖の霊子の大半は地中深くで凝集し安定状態にあるため、これを分離することは極めて困難です。地表でなら簡単に持ち運べる程度の質量の霊体ですら、霊湖から採掘するには莫大なコストを必要とするため、事業化しても採算を取ることは現時点では不可能だと見積もられます。霊湖の最上部、アケローン霊河から流入して間もない霊体に関しては辛うじて採掘が可能ですが、地中深くから輸送する必要が生じるため、こちらに関しても地表の霊子エネルギー源と比較して優れたものだとは考えられません。

解決策

そこで私たちは、まだ霊湖へ流入する前の霊体、すなわちアケローン霊河を流れる霊体を利用し、ここからの直接的なエネルギー産出を事業化することを提案します。霊体そのものではなくエネルギーに変換した上での輸送なら低コストで実現でき、既存のエネルギー産出施設の設計を流用することで迅速な稼働開始が可能であるためです。霊湖の資源運用は長期計画で進めるべきであり、今回の計画はその最初のステップとして位置づけられる小規模なものとなります。

霊河中の霊体は、万有引力に相当する霊湖との相互作用によりポテンシャルエネルギーを獲得し、これを消費することで自発的に霊湖へ向けて運動します。そのため、水力発電の機構を応用することで運動中の霊体からエネルギーを取り出すことが可能となります。

カルマ則の発見は、霊体工学における機材の原料を、複数の生命体を含む有機物から原子炉で大量生成された放射性金属へと置換可能であることを示しました。水車に相当する発電タービンの原材料としてはコバルト60を主材料とする合金が使用できます。放射性元素を原料に使用したタービン実体を運用せずに破壊するという手順を踏むことで、霊体のタービンを取り出すことができます。破壊後のタービン実体は熔融することで再び霊体タービンの原料として使用可能であるため、少量のコバルト60合金で複数の霊体タービンを製作することが可能です。単位時間あたりの霊河の流量は不安定であり落差も低いため、発電タービンの形状はクロスフロー型が適切でしょう。

原材料のリサイクルにより複製された多数の発電機は、霊河の源流に近い位置に設置されます。ポーランドのビャウォヴィエジャ原生林に棲息する多数の生命体、ポルトガルのウルジェイリサ鉱山の地下深くに広がるウラン鉱床などは、流量の安定した霊源として活用することができます。一方で、コルシカ島をはじめとした南欧・西欧の紛争地域の地下では、流量こそ一定しないものの非常に単位質量の高い霊体が得られるというメリットがあります。第一次計画では120基の発電ユニットが霊河上流の定められたスポットにそれぞれ設置され、稼働されます。

霊体発電機ならびにその前後の霊河の整流装置の敷設は、霊体の地底工作船および従業霊を用いて行われます。これに関しては、プロメテウス・ラボにおいて以前に建造されている原子力地底船2隻を廃艦とすることで賄います。霊体発電機の大きなメリットとして、構成部品が全て非実体であるため、地下に設置する際にトンネル掘削などの物理的な手段を必要としないことが挙げられます。これは副次的効果としてユニットの高い隠匿性をもたらし、使用されている霊体工学技術が他のパラテック団体、あるいは一般社会に露見する危険性を低減します。

事業例

現在の設計による霊体タービン1基の発電量自体は平均して約99kWであり、既存の小水力発電事業と比較するとやや劣ります。しかしながら、霊体タービンによる発電はこれまで運用不可能であった霊河のエネルギー資源を初めて活用可能にするという点で重要な意義があります。計画を継続していく中でタービンの出力を向上させることにより、5年後には霊体発電による電力、あるいは発電機自体を様々なパラテック団体に販売することが可能になるでしょう。

単独の発電機を売却する事業の顧客としては、SCP財団が想定されます。現時点において、質量の高い霊体を保持している重罪人を最も多く収容している組織はSCP財団であり、なおかつその損耗率も非常に高いものとなっています。従って、当該団体が霊体発電機を購入することで、人的資源の損耗発生時にそれをエネルギーとして還元させることが可能になることが見込まれ、当該団体が持つ人的資産の価値を増幅させることに繋がるでしょう。

一方で、発電機の建造と並行して、アケローン霊河における霊体の流路の詳細な測量を実施することが可能です。霊体地形を他者に先駆けて把握することは、プロメテウス・ラボにおける今後の霊湖および霊河の開発を見据えるに当たり、必須となります。第一次計画で集められた測量データを元に、第二次計画における霊河ダムの建設箇所および設計が検討される予定です。

資金の使用

今回の計画の重要な利点として、コバルト60生成用の原子炉をはじめ既存の物資を流用可能なポイントが多いために、初期投資を節約できることが挙げられます。第一次計画の実行のために新規に用意すべき費用は、200万米ドルに留まります。これらは以下の目的に配分されます。

  • 霊体タービンの原料となるコバルト・鉄・ニッケル・クロム・銅に5万ドル。これらの資源は複数回利用することが可能です。
  • 霊体タービンの金型およびその設計・開発に50万ドル。
  • 地底工作船2隻の廃船費用に10万ドル。これにより得られる霊体船は、霊湖に関するものを含む他の事業に転用することが可能です。
  • 得られた電力を地上へ送電するための中継局に50万ドル。1基の中継局に霊体タービン10基が対応し、12基が敷設されます。
  • 従業霊の訓練費用に45万ドル。タービン敷設工事に関与する技術習得の他に、他のパラテック団体が持つ霊的部隊から建造中・移送中の施設を防備するための訓練も併せて実施されます。
  • 人件費に40万ドル。これは敷設作業を行う霊体船に乗船する従業霊1200体に供されるものを含みます。

既知の問題

コバルト60の半減期は5.27年と短いため、霊体発電タービンの耐用年数はそれと同程度です。寿命を迎えた発電機は霧散するか、アケローン霊河へと溶解するでしょう。霊体タービンの再生産が容易であることから、当面はこの問題が表面化する可能性は低いと考えられます。しかしながら、ゆくゆくは自壊速度が低く半減期の長い放射性金属を加工し、そこからタービンとしての運用に足る濃度の霊体を一度に抽出する技術を確立して、発電機の保守点検および交換の頻度を低下させる必要があります。

地球上に存在する霊湖および霊河の発見・同定作業が、この計画に先立って開始されています。中東・北米・東アジア等の地域における霊湖および霊河の流路が同定されれば、アケローン霊河の流域を用いた現行の計画と比較し、運用可能な霊体エネルギー資源は飛躍的に増加することが期待できます。なぜならば、これらの地域は人口が極めて多い上に、南欧・西欧諸国と比較して刑法をはじめとする社会制度の相違が大きく、結果として高質量の霊体が得られる公的な機会が多いためです。これらの地域であれば、霊体発電機の販売先に政府を含む一部の公的機関を選択することも可能になることが見込まれます。

霊体エネルギー資源の枯渇に関しては構造上問題になり得ません。霊体エネルギーの活用を求めるのが我々ヒトであるのに対し、霊河を流れる霊体の供給源の大部分を占めているのもまた我々ヒトであるためです。

参考文献
1. イクシオン,G (1974/6/6) 霊体の質量定義法の再考-カルマ仮説 霊体力学ジャーナル, 38, 32-39
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