クレジット
問題
1998年に発生した0712事件は、プロメテウス・ラボ・グループにとって大きな転換点となりました。SCP財団主導で実行されていたヴェール・プロトコル、あるいはマスカレード・プロトコルと呼ばれる"一般社会に対する異常存在秘匿を目的とした正常性への紳士協定"が全世界的に破棄され、それまで小・中規模の超常コミュニティのみに限られていたパラテック市場は数百倍にまでその規模を拡大させたのです。その結果発生した超常特需によって、グループの業績は飛躍的に成長しました。
しかし超常社会の露見は同時に、プロメテウスグループの活動にいくつかの制約をもたらしました。その影響を受けた代表例として挙げられるのが人体実験や生命創造などを実行過程として含む"特殊性を要する計画"です。こうした計画は一般社会的通念からは非倫理的と見なされるらしく、グループは厳しい批判を避けるために現在までそのプロジェクト継続を制限、もしくは実質的な凍結状態にすることを強いられています。
この問題は、2001年に世界オカルト連合-SCP財団間にて締結されたハドソン川協定発効後、より顕著になりました。条約締結は異常存在の権利拡充の契機となり、上記の問題の解決案として進行していた新雇用計画[1]が頓挫したためです。プロメテウスグループの過去の実績は、一般的な倫理が超常研究において介在することが技術発展の阻害というデメリットを招くことを明白に示しています。
「科学の発展と人類の前進」というプロメテウスグループの経営理念の達成のためにも、ヴェール・プロトコル崩壊以前と同水準の活動能力を維持しつつ、グループにとって不都合な事実を世間に対し隠蔽することが可能な方法が必要とされています。
解決策
私たちはメインバースから独立したポケット宇宙に閉鎖学術研究都市を建設するプロジェクトを提案します。この都市はプロメテウスグループが有する既存の大規模超常科学産業地域であるスリー・ポートランドのプロメテウス・プラザと同等もしくはそれ以上の施設を備え、グループ部外者の出入りを完全に遮断します。閉鎖学術研究都市の予想される開発手順は以下の通りです。
基本的な空間開発方法
ポケット宇宙を調達し、資材搬入のためにグループが保有する跳躍路技術によってメインバースと接続します。ポケット宇宙の調達方法については以下の方法が考えられます。
- 「放棄されたポケット宇宙の利用」: すでに放棄された、もしくは手付かずの無人宇宙を買収・入手し、利用する案です。グループが業務上の協力関係にある宗教団体エルマ外教はこうした無人宇宙の探索に熟練しており、供給源として非常に有力です。(メリットとデメリット: 安価かつ容易な方法ですが、空間内は異常動植物などの未知の危険性を有する可能性があります)
- 「未発達空間の拡張」: ランダル・カタログから発展したマルチバース地図学は、メインバースからアクセス可能な超小型のポケット宇宙が、空間として十分な安定性を得るまでに泡沫的出現・消滅を繰り返していることを明らかにしました。この案では、そうした未発達空間を安定化し拡張させることで都市用地として利用します。(メリットとデメリット: 時空間マッピング技術の進歩により未発達空間を発見することは容易になりました。しかし、不安定な時空間内での拡張作業は人員と資源の喪失を高い可能性で招くリスクがあります)
- 「空間の直接構築」: この案は上記の拡張案と手順の一部を同じくしますが、拡張対象となる未発達空間を超エネルギー魔術収集器Superenergetic Thaumaturgy Collectorから供給される高エネルギーによって独自に構築するという点が大きな差異です。(メリットとデメリット: 空間の安全性、安定性を確保出来る反面、他の案に比べ高コストです)
統制存在の誘致
既知の発展したポケット宇宙都市がそうであるように、恒久的な空間の安定化及び維持には土地神genius lociの存在が不可欠です。領域の主として機能するこうした神格存在は、他にも侵入の制限、物理法則の非流動化、保有エントロピー散逸抑制などの有益な効果をもたらします。
しかしながら、こうした行為への見返りとして求められる"対価"は、入手困難な前時代的物品[2]、もしくは定量化不可能な概念的資産[3]であることが多く、将来的なコストの増大および契約の解釈変動による高リスクが予想されます。
そこで、近年発展しつつある疑似降神憑依技術を応用し、閉鎖学術研究都市の領域統制に最適化された人工神格を誕生させます。この人工神格に関する詳細はプロジェクト・エルピス関連資料を参照して下さい。神格はギアスを与えられ、閉鎖学術研究都市のインフラストラクチャーの管理、及びあらゆる実験演算と先進的バックプロパゲーション・アルゴリズム学習型シミュレーション予測を担当する逆転超常数学モデルに基づく次世代コンピューターサーバーに憑依させることで降霊存在学及び奇跡学統合スーパーコンピューター1として運用されます。これは悪魔工学のメソッドを利用し、サーバー運用時に発生する膨大な熱を神格への"対価"として利用すること、そして閉鎖学術研究都市の維持に関わる諸システムの一元化を目的とするものです。
都市構造の建設
空間が十分な安定性を持ったと判断された後、都市の建設が開始されます。施設建築はプロメテウス・コンストラクションによって主に請け負われますが、プロジェクト・ダイダロスの成功例を用いることで、工期の2,3割を短縮することが可能と見積もられています。特に以下の建造物が優先的に構築される予定です。
- 本社ビルディング
現在ネバダ州に位置している本社ビルディングと同等の機能を持つオフィスビルです。
- 住宅地
最低でも412万人、サンフランシスコ都市圏と同規模の収容能力を有する住宅施設が構築される予定です。
- 教育施設
プロメテウスグループ社員の子息に対する高度な教育、及び新規雇用社員の研修に使用されます。プロメテウス・エデュケーショナルが開発している仮想教育プログラム及び記憶能力改善法が活用されるでしょう。
- 商業地区
この閉鎖学術研究都市の性質上、プロメテウスグループ関連企業のみがここに軒を連ねることとなります。商業地区は新商品発売の前段階として行われる需要調査や試供品頒布などに活用することが可能です。
- 研究施設
研究施設はこの閉鎖学術研究都市の中心的な地域となります。物理学、化学、生物学、工学、医学、薬学などあらゆる分野の科学技術研究のための設備が用意されており、プロメテウスグループ関連企業が"特殊性を要する計画"を立案し、その実行妥当性が認められる限り、この研究施設は無制限に開放され、利用することができます。
- 生産拠点
工業、食品、農業等を中心とした総合的第一次・二次産業活動を担う地区です。労働者は低コスト有機オートマトンから構成されます。有機オートマトンには聴覚ミーメティック麻薬及び超人血清TMを定期的に投与し、配属される部署によっては適宜機械的改造を施すことで作業能率を230%まで上昇させることが可能です。
生産された製品は一般市場へ流通するだけでなく閉鎖学術研究都市内でも一定量消費されることが予想されますが、この生産拠点はその需要を完全に満たすことができるでしょう。
事業例
プロジェクトの性質上、必要とされる大規模な物資・人員の流れをすべて秘匿することは困難です。そのため、「昨2007年に発生した夏鳥思想連盟によるプロメテウス・ラボ本社ビルディング爆破事件や、プロメテウス・トウキョウ社屋が倒壊した2006年の東京豚災害などを受けた、安全性確保のための本社ビルディングの異時空間移設計画」を公表することでプロジェクト実施のための諸活動を偽装し、本来の目的を隠蔽します。
この公表は同時に、正常性テロ2・超常災害の脅威に悩まされている組織に対する絶好のPRともなります。ポケット宇宙都市開発を独自のパッケージプランで販売することで、スリー・ポートランドやバックドア・ソーホーといった空間の狂乱的地価高騰に不満を持つ顧客層の需要を刺激できるでしょう。またその際、こうした個人所有のポケット宇宙は現在ほとんどの国家において徴税システムの対象外となっていることを強調すべきです。
資金の使用
ポケット宇宙への都市建設はプロメテウスが真の先駆者というわけではありません。1985年に硅のノルニルの従者によってユーテックが超常技術都市として開放されて以降、こうした試みはよりありふれたものとなりました。我々が革新するのは空間開発と統制存在の誘致のみであり、その他は既存技術で代替可能な比較的安価な工程です。これらを総合した必要資産の合計は最大1兆2423億8000万アメリカドルとなります。
空間開発
- 「放棄されたポケット宇宙の利用」を選択した場合: 相場から換算し17万ドルから5ドル
- 「未発達空間の拡張」を選択した場合: 作業工程に推定150万ドル
- 「空間の直接構築」を選択した場合: 理論の構築と実地実験に対し277億8000万ドル
統制存在
- プロジェクト・エルピスの円滑な進行と基礎開発、最終段階移行までに4023億1000万ドル
- 専用の降霊存在学及び奇跡学統合スーパーコンピューター構築に700億ドル
都市構造
- 都市の基本的施設建造に110億9000万ドル
- インフラ整備及び降霊存在学及び奇跡学統合スーパーコンピューターによる管理体制の構築に1050億ドル
その他
- プロジェクトの偽装用広報費として年間9億ドルから12億ドル
- グループ社員の移住費用の負担として最高で250億ドルの予算確保
- 一連のポケット宇宙都市開発の汎用化と一般販売用の簡易化に6000億ドル
既知の問題
本プロジェクトには多くのプロメテウスグループ傘下企業が関連する巨大な事業となることが予想されます。しかしグループの発展に伴い関連企業内で官僚主義とセクショナリズムが横行[4]しており、こうした背景から生まれる確執によって閉鎖学術研究都市の完成とシステムの構築が大幅に遅れる可能性があります。
またこのプロジェクトの完了は、あらゆる既存政府の法律に縛られず、かつ自社保有のシステムで完全に成り立った実質的な独立国家領域をプロメテウスグループが所有することを意味します。この閉鎖学術研究都市の実態が露見した場合、正常性維持機関及び各国政府、特に反トラスト法によるプロメテウスグループへの規制を強化しつつあるアメリカ合衆国の大きな反発を招くことが予想されるでしょう。
現在は(大きな利点が無いため)プロメテウスグループが独立した国家企業として活動する計画は提案されていませんが、その場合は圧力に対抗するため、プロメテウスグループは相互確証破壊の手段として所有する超常兵器を大幅に強化していく必要があります。跳次元軍艦や指向性因果兵器、サムサラモデル奇跡論多能性クローン、軍事用大型ヒューマノイドロボット、マルコフ・プロットジェネレーター、頓挫したヘリオス・システム、アナスタシス・プロジェクトの再始動などがその一環です。
各国政府との対立の結果としてメインバースから分断された状態に陥ったとしても、この閉鎖学術研究都市は最低でも200年の間機能を維持したまま存続することが可能と見積もられています。現在のプロメテウスグループは世界に存在するあらゆる既存組織・国家を超越した資産、技術力を保持しており、それら全てと全面的な武力戦争に発展したとしても勝利する可能性が高いと言わざるを得ません。
その戦争によって既存の世界構造が根本的に破壊された場合、この閉鎖学術研究都市はノアの箱舟の役割を果たすことになります。戦乱によって破壊された世界3においてプロメテウスグループは新たな支配者的役割を果たし、十分に保存されていた高度な技術によって戦争以前と同水準にまで文明を再構築することが可能です4。人類はプロメテウスのもたらす科学の発展の下でさらなる前進を遂げるでしょう。