この文書は1999年、財団によるプロメテウス・ラボ買収計画の際にプロジェクト・ローカスト関連の文書として回収された物です。
GRANT REQUEST FOR THE MINING FROM ASTEROIDS WITH SELF-REPLICATING MACHINE
自己複製装置を用いた小惑星からの採掘のための認可計画
問題
宇宙空間におけるパラテック関連機関の競争はここ10年で急速に激化しています。世界オカルト連合及びSCP財団の急速な宇宙開発技術の研究はプロメテウス・ラボの優位性を脅かしつつありますし、米国とソ連のパラテック団体の研究は両国の経済破綻を引き起こしかねないレベルでの資金の注入を受けています。そのような中でプロメテウス・ラボがパラテックを用いた宇宙開発の先頭でいるためには多くの研究船や宇宙基地が必要となります。
ですが各国のスパイ活動の過激化によりロケットによる資材打ち上げの難易度は圧倒的に上昇しており、現状外宇宙への資材運搬は対蹠地爆撃機として開発されたゼンガーを基本としたスペースプレーンによる物だけとなっています。月面の大黒色クレーター1採掘所が稼動するまでのおよそ10年間という期間はプロメテウス・ラボにとって大きな痛手となるでしょう。
私たちは重力井戸から容易に引き出すことのできる金属・非金属含めた大量の資材を必要としています。それらは精錬され、ある程度規格化された形状であることが望まれます。
解決策
私たちは小惑星に自己複製機能を備えた無人採掘装置を送り込むことを提案します。この装置は分析、採掘、精錬、加工の為の機構を備え、自分とほぼ同等の機能をもつ無人採掘装置を作り上げることができます。
元素分析と地質学・鉱物学的分析のための各種分光器、および磁場感知装置は一般的に知られている原理で稼動します。これによって小惑星着陸前に効率的な採掘プランを作成することが可能となります。分析器の確度向上の為にいくつかのパラテックが使用できますが、費用対効果的に見て使用可能なパラテックは限られるでしょう。
採掘も一般的な技術を利用しますが、低重力環境での効率的な採掘の為に新技術を開発する必要があります。ですがこれは純粋工学的な問題であり比較的簡単に解決できるでしょう。採掘された鉱石の破砕や分類も同様に低重力環境のために調整された装置が必要となりますがこれらの解決も容易でしょう。
精錬はまったく新しい技術が必要となる分野ですが、ツィルヒャー[1]が考案した精錬炉が実用に耐えうると考えられます。この精錬炉は真空中の鉱物に重干渉状態にあるマイクロ波メーザーをパルス的に照射することで金属原子の効率的な抽出と高純度の結晶化を同時に実現するものです。一般的な精錬炉に比べて電力効率は格段に低下しますが、炭素などの還元剤といった他の物質を使用しないという点で格段に優れているといえるでしょう。
製造のための工学設備はトウワモデル[2]に基づいて設計されるべきです。自己複製機械の製造に必要な工学的技術は他の工業製品を作る際に必要な技術とほとんど同一であり、この無人採掘装置は必要に応じ観測機器や定住基地の基礎を作成することができます。完全なトウワモデルを満たす無機機械は分子工学的な制約により巨大なものとなりますが、自己の再設計に必要な遺伝情報の伝達に必要な部分を省くことによって大幅な単純化と小型化が実現できます。最終的な製造機構の大きさは1メートル立方内に収まると推測されます。
必然的にこの採掘装置の素材も宇宙空間でありふれたものである必要がありますが、これは金属部分を鉄-ニッケル合金で、非金属部分をケイ素-炭素複合繊維で構成することで実現できます。ともに宇宙空間でも相当の耐久力と強度を誇ることが確認されています。
推進には一般的な水素ー酸素化学エンジンと太陽風を受ける"ソーラーセイル"が使用されます。この化学エンジンによって太陽周回軌道へと遷移した後、ソーラーセイルによって標的となる小惑星へと移動します。このソーラーセイルは展開時には直径500メートルの正八角形になり、ソーラーセイルの全体に装着された超薄型太陽光発電パネルによって電力を確保します。ソーラーセイルの使用は地球で反射光が観測されないよう注意する必要があります。
最終的な無人採掘装置の打ち上げ時サイズは高さ3m、底面直径1mの円柱状になるでしょう。このサイズは帆を展開していないときのものです。
事業例
この採掘装置の稼働が安定すれば、プロメテウス・ラボはパラテックを用いた宇宙開発競争での優位を長期間保つことができるでしょう。これはプロメテウス・ラボが委託される宇宙開発関連の業務が増加することを示しています。世界オカルト連合や財団の業務を引き受けることができれば両組織の技術開発を停滞させプロメテウス・ラボにさらなる利益をもたらすことができるでしょう。
また採掘・精錬された資源は大型の宇宙船や宇宙基地の建造に使用できます。無人採掘装置に組み込まれた加工機構を用いることにより現場での組立コストを大きく下げることができます。これまで経済学的な制約によって不可能だった超大型の星間航行船の建造も不可能ではなくなるでしょう。
余剰分の資源を他の宇宙開発団体へ販売することも可能です。これは中期的にプロメテウス・ラボの利益を損ねることになりますが、それによって得られる他団体との協力関係の価値は十分投資に見合うものです。
これらの直接的な利益とは別に、採掘装置の開発段階で得られる知見にも大きな価値があります。無重力空間での製錬技術は新素材の開発コストの低下に大きく貢献するでしょうし、製造機構に用いられるコンポーネント製造モジュールは多数の製品を少量生産するタイプの工場の効率化や海底や極地などの宇宙以外の極限環境での施設の事前建設で大いに役立つでしょう。
その他の事業例、および想定される利益は別紙Aを参照してください。
資金の使用
このデバイスの設計および製造のため、2500万ドルを必要とします。資金は以下のように使用されます:
(すべての価格は米ドルです。)
- 無人採掘装置設計のため必要となる新技術の開発 650万ドル
- 低重力採掘システムの開発 50万ドル
- ツィルヒャー型精錬炉の実証と設計 100万ドル
- トウワモデルに基づく製造機構の設計 200万ドル
- ソーラーセイルの実証と設計 150万ドル
- その他設備 150万ドル
- 無人採掘装置の製造と打ち上げ 1200万ドル
- 無人採掘装置の製造 450万ドル
- 打ち上げ費用 750万ドル
- 管制システム 500万ドル
- 指令設備設計 100万ドル
- 指令設備建造 250万ドル
- 人件費 150万ドル
新技術の開発については平行して行われる類似プロジェクトとの共同研究が可能です。上記の費用は現在実行が決定されている類似プロジェクトとの共同研究を行うことを前提にした物です。
既知の問題
自己複製機械について回る問題として自己複製機構が暴走し、無限に増殖するシナリオがしばしば取り上げられます。ですがこの採掘装置は暴走の可能性を持ちません。
完全なトウワモデルに必要な機構のうち一部を省いたことで、新しい採掘装置を起動させるためには外部からの情報が必要であり、また採掘装置はその情報を与えることができません。よって管制システムが起動用情報を送信した回数しか採掘装置は増殖しないことになります。