灰色、あるいは黒
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昨日

久しぶりの休暇を取った。慣れない手付きで食器を洗いながら、テレビを見ている妻の空巣被害に怯える声を聞いた。

今日

いつも通りの実験が始まる。秘密裏に収監された死刑囚の命を切り捨てる権利は常に私達の掌の内に握られている。

昨日

帰り際、私はサイトの渡り通路に花を添える新入りの姿を見た。彼の表情からは何の感情も読み取る事ができなかった。

今日

出勤際、私はサイトの渡り通路の花をポリ袋に詰める清掃員の姿を見た。年老いた彼女もまた、何も考えずに業務を遂行しているように思えた。

昨日

いくつものアノマリーがDecommissionedへと再指定された。下から4番目のナンバーはかつて私が書いたはずの物だった。

今日

次の報告書を書き進める。Anomalous行き文書の添削が本日の業務内容だ。

昨日

同僚の一人が数ヶ月間の眠りから目を覚ました。噂によると、夢の中で彼は英雄となっていたようだ。

今日

デスクに一枠、椅子が増えた。彼の舌打ち音は当分止みそうにない。

昨日

残り数少ない休暇を取った。20時を過ぎた辺りで、私はもう正常な世界にそこまでの思い入れが残っていない事に気が付いた。

今日

今年最後の休暇を取った。若い頃の贅沢は、安酒を受け入れない老体だけを残していった。

昨日

収容違反の警報が鳴り響いた。室内の業務は滞りなく進行している。

今日

何十人もの同僚が「行方不明者: ██名」の黒塗りの中に生き埋めにされている。業務は滞りなく進行している。

昨日

また何事もない一日が終わった、そう思っていた。本当に?

今日

私は先日、日本全体が未曾有の神格テロリズムの危機に瀕していた事を知った。臨時クリアランス職員欄に書かれた(民間人)の文字がどうしても頭から離れてくれなかった。

私はこの場所にしがみつくためにこれを書いている。

確保し、収容し、保護しろ。

私はどこに向かっているのだろうか。

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