月曜日、19:00
今日も今日とて日銭稼ぎ。ゼニって言うより札束だな、監視塔に座ってフェンスを見張ってるだけでこんなに貰えるなんて信じらんねぇ。さすが民間警備会社だ、陸軍辞めて良かったぜ。この仕事を紹介してくれたデイビッドには礼を言っとかなきゃな。あと数ヶ月で念願のオーストラリア旅行代が貯まる。そろそろシフト開始の時間だ、アンダーソンと交代すっか。あの気難しい野郎をシフトの終わりから1分でも塔で待たせてみろ、延々と文句言われ続けんぞ。隊長はもうシフト交代を見張りに来てる。
「よーしペン、やることは分かってるな。12時間勤務。食事は禁止、タバコ禁止、携帯も読書も禁止。とにかく寝ないでフェンスを監視するんだ。施設から何が聞こえてきても無視しろ – お前には関係ないことだ」
「毎日毎日同じ話はやめてください、キャップ、了解」
「お前がヘマすると俺のケツも危ないんでな、念には念を入れさせてくれ。ほら行け、アンダーソンがピリピリしはじめてる」
監視塔に上ってみると、隊長の言うとおりだった。アンダーソンはいつも以上に落ち着きがねぇ。タバコはもちろん吸ってるし、床にポテチの空袋が1つどころじゃなく散らばってんのが見える。
「片付けろ、今日は手伝わねぇからな」
「うるさいな、ペン。自分が何をしてるかはわかってる。黙ってろよ」
「タバコの2、3本でチクったりはしねぇさ、アンダーソン」
「はいはい」今日のこいつは本当にダメだ。上着の下に隠してんのは酒瓶か?「しっかり見張ってくれ。膝の調子がおかしいんだ、何か悪いことの前触れに違いない。いつもそうだ。中のアホは信用できない、何か企んでる」
「エルヴィスのクローンを作ってても知ったことじゃねぇ。カネさえ貰えるならな」
アンダーソンが下りてきて、俺は装備が揃ってるか確認する。ライフル、マガジン5本付きのコンバットベスト、懐中電灯、水筒、ラジオ、医療キット、暗視ゴーグル。全部良し。あとはのんびりフェンスを眺めるだけだ。
月曜日、22:00
あぁ、退屈だ。上で座ってるってことがどんなにつまんねぇか、シフトが終わったら毎回忘れちまう。蚊はすげぇウゼェし、アンダーソンはこのイスに何したんだ?こんなに座り心地悪いプラスチックがあるか?昨日はここまでデコボコじゃなかったはずだ。このクソがあと9時間も続くんだ。チクショウ。
月曜日、23:30
施設からなんかドラムっぽい音がする。きっとあそこのアホどもはバンドを始めてて、俺はその甘〜いグルーヴの警備にここにいるとかかもしんねぇ。ケッ。
火曜日、00:30
音がでかくなってきてる。あれは絶対ドラムだ、それに不気味な呪文も聞こえ始めた。中でいったい何をやってやがるんだ?
火曜日、01:15
また静かになった。何をやってたかは知んねぇが、なんにしても終わったんだ。そうであってくれ。
火曜日、01:30
警報だ!施設全体がクリスマスツリーみてぇにライトアップされてる。中の警備を抑えるのに送り込まれてたスパイが全員大騒ぎで、ジープで一面取り囲んでる。無線も慌ただしくなってきたが、全部暗号でしゃべってやがる。ヘリまで出てきた。アンダーソンの言う通りだった、連中は中で何かやらかしてた。それが何だろうと俺の知ったこっちゃねぇ。俺の担当は外だ、ただの下っ端警備兵。ここで命令通りに座って地獄をやり過ごしてりゃいい。スパイが中に入ってく。あいつらが全部解決するさ、俺が心配することなんざ何もねぇ。
火曜日、01:50
スパイは入ってったきりだ。すっかり静かになったってのに、誰も出てきてねぇ。電気も全部消えてる、異常事態だ。大丈夫、きっとスパイが鎮圧してるだけだ、なんともねぇ。あぁ、もう、中でいったい何が起こってやがるんだ!?ラジオも黙っちまった。何かすげぇ変だ。スパイをのした「何か」が俺を捕まえにくる前に、ここから下りてさっさと逃げよう。待てよ、あれは何だ?誰か出てくる。やれやれ、安心したぜ。待てよ、スパイには見えないな。暗視をオンにするか。何だありゃ?
????
指の下で、見張り台の石の床がひやりとする。いつの間に石造りになったのだろう?いや、ずっとこうだった、このやぐらは何世紀も前からここに建っているのだから。金属だった気がするほうがおかしいのだ、孤独のあまり頭がどうにかなってしまったに違いない。王室偵察隊の任務は決して容易ではないが、私は喜んで務める。陛下は誇りに思われるだろう。
あれは?角笛だ!道を見渡すと、王家の旗を掲げた歩兵の一団がやぐらへと向かってくるのが見えた。その中心で守られている威厳に満ちた御姿は、誰あろう、陛下その人であらせられるではないか!質素な我がやぐらに何のご用事だろう?近衛兵の制服を着た男が一人、こちらへ近づいてくる。
「偵察者よ、王国はそなたの奉仕を必要としている。王の名において、参上せよ!」
急いで命ぜられた通りにしていると、頭の片隅で小さな声がささやいた。「やめろ。命令と違う。何かおかしい」私はそれを無視した。賢明な王に仕えることが、どうして間違っていようか。陛下は正当な支配者であり、我々の救世主なのだ。「何なりとご命令ください、騎士様」
騎士は険しい目をしていた。「残念ながら凶報だ。城は敵の手に落ちた。王はかろうじて救出いたしたのだが、敵の力は圧倒的で撤退せざるを得なかった。皇太子と王妃は脱出中に殺された。国境を安全に越える手引きをそなたらに頼みたいのだ。ご友人はすでに参られている」はたして、一団の中には我が盟友キャピアンとアンドレスの姿もあった。「かしこまりました」と私は言う。「敵将とその手先が来る前に急ぎましょう」突然、恐ろしい角笛の音。遅かったか!
騎士の耳にもそれは届いた。 「武器を取れ、諸君、命を賭して王を守れ!」 陛下を守らんと円陣を組んだ我々に、敵の卑劣な攻撃が降り注ぐ。眼をぎらつかせて火を吹く空飛ぶけだもの、鋼鉄の皮膚で這い回る強大な巨獣、異国の言葉を叫ぶ殻持つ歩兵たち。彼らは我々を生け捕りにするつもりらしいがそうはさせない、奴らが捕虜をどんな目に遭わせるか。我々は死ぬまで戦う、陛下のために!私は弓を構え、歩兵の眼窩を射貫くが、アンドレスが首に毒矢を受けて倒れるのが見えた。キャピアンは魔術師の理力を受けてくずおれた。私の首筋に痛みが走る。陛下と並び立つ者は私一人しか残っていないようだ。陛下は台風のごとき勢いで戦われた。忌まわしいけだものを右に左になぎ倒し、巨獣を千々に切り裂き、舞い降りる飛竜にさえ一太刀を浴びせられた。しかし敵はあまりにも多い。陛下が何十もの金属の矢じりに御身を貫かれ、地に倒れ伏す。世界が暗く沈む中、最後に見たものは涙だった。
????
「RthgEtTn Dra'k! NoR MoStdyX!」
のたうつ闇をまとった人影、その口から吐き出される悪魔の言葉。敵兵。
「我が主君を裏切ることなど断じてない!去れ、残虐なる幽鬼よ」
「おrい、聞tこbえるwか?」
影ではない。黒い織物だ。待てよ、だんだん分かってきたぞ……
「なあ、聞こえてるか?自分が誰だか分かるか?」
「私はベノン・ペノーレン、誇り高き偵察–」いや違う–「俺……俺はバーノン・ペンです、サー。だと思います」
男は微笑んだ。ホッとしているみてぇだ。
「こいつはもう大丈夫だろう。今は放っといて、回復させてやれ。クラスBを手配する。何も問題ないさ、若いの、そのまま横になって休んでろ。全部終わったんだ」
あぁ、そうさせてもらうぜ。
日曜日、07:00
とうとう最後のシフトが終わった。もう半年も経ったなんて信じらんねぇ。いよいよこの汚い穴ぐらを出て飛行機に乗る時だ。ただ座ってフェンスを眺めてるだけでこんなに給料もらえたなんてな。