エルマが見たある異教の最期
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「異教の旅人よ、このようなところまで付き合わせてしもうて申し訳ない……」

「いえ、これもエルマの導きなれば。一宿一飯の恩義にこのような形でしか報いることができないことをお許しください」

広いとは言えない小屋の中、私の前に座る老爺ろうやの礼に礼を以て応える。老爺ろうやとその後ろに立つ人々は我々とは異なる神を信ずる者たちではあるが、エルマと同じく寛容であり、あちらから見て異教徒である私を排するでも教化するでもなくただ手を差し伸べてくれた。であれば、エルマを信じずとも彼らは我がともがらであり、相互救済すべき相手である。
しかし、私には彼らを助けるだけの力はなかった。彼らの宗教は弾圧のさなかにあり、今まさに終わりを迎えようとしている。
このまま何をせずとも、いや何をしたとしても、もうじきに弾圧の徒がこの場に踏み込み、50に満たない生き残りの信徒を蹂躙するだろう。
老爺ろうやは振り返り同胞たちを見据え、朗々と語り始めた。

「我が家族よ。この地に根付いていた星公しょうこうを仰ぐ教えは、抗えぬ力の大波の前に滅びを迎えようとしている。かつて同じ星を仰いだ家族は王権の使いによって命か信仰心を奪われ、今ではこの狭い小屋に収まるほどにまで減ってしまった」

老爺ろうやの話す目の背けようがない事実を聞き、信徒たちのすすり泣く声が聞こえる。あるいは歯を食いしばり、唇を噛み締め悔しさを堪えようとする姿が見える。

「我々に反映をもたらした太陽の花はことごとくむしられ、修行の道具である回し車は打ち壊された。もはや我々に残されたのはこの御神体のみだ」

老爺ろうやの言葉につられ、私は後ろに置かれていた木の幹に似たそれを見る。中はうろになっており、人ひとり潜れる程度の大きさの穴から中に入ることができそうだ。
彼らは1年に1度、4日間に渡り行われる儀式で9人の敬虔な信徒をこの中へ送り込んでいた。その魂は彼らが信仰する星公しょうこうなる神のもとへ届き、星公しょうこうの落とし仔として生まれ変わるのだという。

「このまま座して待てば王権の使いに捕らえられ、衆目に晒されながら悪魔の烙印を押されるだろう。それはとてもではないが耐えられるものではない」

私は、別の異世界でエルマの同胞が無惨にたおされ、亡骸を埋葬することもなく土の上に晒されていた光景を思い出した。

「私はこれから御神体へと入り、星公しょうこうのみもとへ赴こうと思う。ここにいる信徒皆が落とし仔として生まれ変われるとは限らない。1人として認められないかもしれない。それでも、さらし者になるよりは善き選択であると確信している。どうか共に来てほしい」

老爺ろうやの言葉に異を唱える信徒はいなかった。彼らはひとりひとりうろの中へと入っていく。到底そのすべてが収まりきらないだろう大きさの御神体へ30人あまりの人間が入りきったのを見た私は、目の前のそれがエルマのものであらずとも超常たる存在であることを確信した。
最後のひとりになり、老爺ろうやは再び私と向き合う。

「我々が死ねば、我らの教えは途絶える。そして王権によってその歴史は歪められ、唾棄すべき醜態を遺すことになるだろう。異教の友よ、あなたという見届け人がいてくれてよかった」

「私はあなたたちの教えを継ぐことはできない。しかし、ただ真っ直ぐ己の信仰に殉じた敬虔なるあなたたちのことを、ひとつでも多くの記録に残そう。女神エルマと我らが教祖に誓う」

老爺ろうやのシワに覆われた渇いた肌に一筋の涙が流れる。老爺ろうやは再び「ありがとう」と言い残し、ゆっくりと御神体へ入っていった。
もう、私は彼の顔も思い出せない。これは彼らの魂が彼らが仰ぐ星公しょうこうのもとへ届いたということなのだろうか、私に知るすべはない。ただ、確かにここにひとつの尊き神の徒が存在し、弾圧に屈することなく己の信仰を貫き殉じたことはしかと覚えている。
女神エルマよ、彼らの魂を星公しょうこうのもとへ導き給え。私は異教の友と女神エルマに祈りを捧げたのち弾圧の徒が踏み込んでくる前に、彼らのいた証として遺された一輪のヒマワリを手に異世界跳躍を以てこの世界を去った。
 
 


追記 2020/10/14: SCP-2044-JP-4が兆候なく活性化し、計34匹のハムスターが出現しました。現在、原因を調査中です。

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