新人職員の皆さんこんにちは、これからオリエンテーションを行います。と言ってもまだ何の話をするか伝えていませんよね、順を追って説明します。
ところで皆さんの席に置いたベーグル、手をつけている人が少ないですね、ごく普通のベーグルです、何も入っていません。あの方のようにおいしく食べて頂いて結構ですよ。
まず実演しましょう。
女性博士が右手を挙げた瞬間、1人だけベーグルを食べていた男の下顎から上と胸部は血煙と化した。コンマ数秒遅れて轟音が2度鳴り響く。
男であった残骸から勢いよく鮮血が迸り、同時に絶叫と怒号、悲鳴が響き渡る
静かに、と言っても無理ですね。ああでも席は立たないでください。鎮静薬を散布しているのでしばらくお待ちを。あ、効果ありますね、もう落ち着いてきた。替えの服は用意してあるのでご安心を。
大丈夫です、殺すのは彼だけです。皆さんは安全です。ベーグルも食べて貰って結構ですが…まあ無理強いはしません。
今回の講義は「現実改変者の傾向と対策」についてです。
皆さん全員と彼が昔から友達であることは知っています。彼は2週間前から我々が追っていた現実改変者です。数日前から財団職員に成りすまして潜入していました。あなた達に偽の記憶を植え付けて、ね。彼が何をしたのかについて詳しく知る必要はありません。まあ月並みな殺人鬼、強姦魔であるとは言っておきましょう。
現実改変者は目に見える犯罪を犯しません、犯した証拠を残さないからです。認識を狂わせ事物を捻じ曲げ妄想を形にする、それが現実改変者です。
善良な現実改変者は確かに存在します。弱く有益な能力を持つ場合は財団が利用することもありますね。但し、強い能力を持ち自在に操れる場合、大抵碌なことに使いません。収容したとしても力を使って何度も収容違反を試みるでしょう。協力するように見えてもそう現実を改変しているかもしれませんし、事実そういった事例は枚挙に暇がありません。
そのため一部の例外を除き、現実改変者は研究対象とせず、即時処分することが推奨されています。皆さん覚えておくように。
報告書すら不要です。我々にこっそり教えて頂ければ結構です。疑わしい場合はこちらで調査します。
実際に処理するのは我々ですが、知識として現実改変者への対策をお教えしましょう、たった今実演したように
1.予測していないタイミングで
2.本人が知覚する以上のスピードで
3.完全に肉体、特に頭部と胸部を破壊する
この3セットが効果的とされています。
能力の詳細によって多少異なりますが、大抵の場合はこれで十分です。
驚かせてすみません、お疲れ様でした。
ああ、ところで最後になりますが。
博士の目の前でほっとした顔をしていた女性は顔と胸部を一瞬で損失した。
殺すのは彼だけ、というのは嘘でした。彼女もですね。
予測していないタイミングというものがお分かりいただけましたか?