UIUファイル: 20██-██████
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ボサボサの髭を生やした男は、いつも通り定時1分過ぎにシロップをトリプルショットしたキャラメルフラペチーノを右手に、ブリトーの包み紙を左手に持ったままドアを尻で押し開けた。

ドアにはUIU、"Unusual Incidents Unit”のロゴマークが刻まれている。

手にした飲み物を飲みつつ、標準を大きく超えた腹をデスクワークに勤しむ同僚の背中に擦り付けながら奥へ奥へと進んでいく。ドア越しに隔てられた自分のオフィスのデスクに着いた時には、もうクリームしか残っていなかった。

「おはようございます、サー」

報告を持ってきたであろう部下に、ブリトーを齧りながら挨拶をする姿はお互い慣れたものであり、朝の恒例行事となっていた。

「ああ、お早う、それで今日は何だ、カンか?」

「カン人間ですね、まだ調査中ですがとりあえずの資料は用意しています、まずはこちらに目を通してください。」

書類をペラペラと捲りながらあっという間にブリトーを齧り終えた男は、軽くげっぷを1つした。

「で、なんなんだこの書類は、日誌かね。ウチの書類の書式じゃないみたいだが。SCPって何のことだ?」

「それは証拠の書類です。後程UIU書式での報告書はお見せしますが、先に読んで頂きたく思いまして。書類の裏も読んで頂けますか。」

ぺらりと書類を裏返すと、子供がクレヨンで書いたような文章が現れた。

わるいまほうつかいにねむらされてからはたいくつなゆめばっかり見る。王子さまがいつかあらわれてたすけだしてくれないかしら。
わたしはま女だけど、たすけだしてくれたらきっとおひめさまにふさわしいドレスをきるんだわ。

ゆめのなかで王子さまにあった、きがする。ゆめのなかならなんでもできると思っていたけどいがいとうまくいかないものね。
またあいたいな。

また王子さまにあった!これはきっとうんめいだわ!ちかくにいるのかしら。わたしはきっとねむりひめ、王子さまのくちづけで目をさますんだわ!

きっときみをめざめさせてあげるよ。王子さまが言ってくれた!ぶかっこうなパジャマすがただとしつれいよね。きれいなドレスにきがえたいなあ。

もうすぐだからまってて、だって。まつのはつらいけどもまつのがこんなにうれしいことなんてはじめてだわ!しずかにお休みしていいこにしておかなくちゃ

うれしい!うれしい!やっと王子さまとあえた!「わるいまほうつかいたちがきみをねむらせていたんだ、きみならまほうつかいをみんなけせる」だって。そうよわたしはま女、何だってできるんだから。

「で、この女の子を捕まえてた組織が女の子を逃したと?中々えげつない話じゃないか。」

つい先ほどまで眠たい目をしていた男は既にそこにはいなかった。

「発見場所にはこの書類しか残っていませんでした。建物さえも。この少女が全てを消し去ってしまったんでしょうか。」

「それは調べてみないとわからんな。で、UIUの報告書は上がっているんだな。」

「ええ、まだ未完成ですが。今お見せします。」

連邦記録法に則り、以下に電子コピーを掲載

UIUファイル20██-██████: コードネーム"リトルウィッチ"

概要:現在放浪中のカン人間であり、強力な現実改変能力を持つ。周囲の人物を死傷させながら移動中。他団体の関与に対して対処実施中。

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髭面の男は慣れた手つきでペラペラと未完成の報告書に目を通す。

「こいつを収容できるだけの組織が急に消え去ったってのも妙なもんだな。"逆"かもしれん。」

「逆というのは?」

「"こいつが消した"んじゃなくて"こいつが消えた"ってことだよ。そっちの方が楽だろ?平行世界移動に関する論文はいくつか目を通したが、似たような例は確認されているらしい。それにしてもあちらで頑張ってた奴らはおそらくそうとうドデカい組織だったんだろうな。ウチと同じくらいだったりしてな。」

くつくつと笑いながらも男は報告書の最後のページをめくり終えた。

「しかし、ウクレレが動いてるとは、相当な話だな。あのバカ、またカン人間をぶち殺そうとしているのか。」

「恐らくは。遠距離狙撃による殺害を試みているとみられるため周辺の掃討を行っていますが、時間の問題かもしれません。」

「だろうな。対応優先度を上げろ。当人の保護が優先だが、遠距離狙撃に対応されてはこちらもたまったもんではないしな。」

髭の男はコートを着て出発の準備を始めた。

「あなたも現場に向かうのですか、コンドラキ課長。」

「ああ、罪を犯そうが何をしようが、子供が殺されるのを黙って見過ごすわけにもいかんだろ。ウクレレのバカ野郎にも一発カマしてやらんといかんしな。それに……。」

「この子は私が保護してやらないといけないと感じるんだ、何となくだが。ただ、私の勘は当たるからな。」

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