クリスマスソングが聞こえ始めた。職員の歓談、時折聞こえる悲鳴。またぞろ誰かがハメを外したか、それとも前原あたりに「外された」のだろうか…。
俺は今換気ダクトの中にいる。
誰も知らないだろう、俺が忘年会の間こっそりと職員たちの荷物にプレゼントを忍ばせていることを。我ながら粋な計らい、この心貧しき時代に蘇った現代のサンタクロースといったところだ。
さて、歳末のゴミ出しは早いこと終わらせるに限るね。そろそろ女子ロッカールームに忍び込…何だあの張り紙…。
「WANTED 差前鼎蔵 カフェエリアまで捕まえてきた人には特別セットだけじゃなくてカフェ、食堂の半額券も付けます。 長夜」
…。
身に覚えはある、どれかは知らない。こりゃあ面倒なことになったなぁ、捕まっちまったら年内に在庫が片付かないじゃないか。いいやいいいや、さっさと長夜にこの『アイアンメイデン(木製)』を押し付けよう。やートランクに収まるサイズでよかったね。
さて誰もいないかなーそれとも誰か着替えてないかなーどっちでもよかぞー。誰もいないんでやんの。まあいいや、商売の種を増やすよりも任務が大事、エージェントの鑑だ。
音もなく換気扇を外し、まるで生きた影のようにロッカールームに忍び込む。漂うメスのスメルを満喫しながら長夜のロッカーを探す。勿論ほかの女性陣にも「ディスコお富さんのLP」「ワイルドワイバーン未組み立て品」「ギャンブルフィッシュ全巻」等価値ある一品を適当にぶち込む。仮にも秘密組織のロッカーの鍵がこんなシケてていいのかねぇ。
流石にアイアンメイデンはロッカーに入らなかったな、無理に押し込もうとしたらロッカーが…まあこのへんに手紙と一緒に置いとけばいいだろ。えーっと。
もしあなたのサイズが規格外という理由で入れなくても返品はできません サンタ
よしよしこれで問題な…
ガチャ
問題発生
「あ!差前さん!ここでなにをして…」
素早く袖に仕込んだ催眠ガスを噴射する。が、後の祭りもいいとこだった。所持していた防犯ブザーを鳴らされあっという間に人が詰めかけてきた。中にはハナから俺を探してたと思しき人間もいる、やっべマジやっべ!
ああもうなんでもうちょっと遅く!できっとならもっともっとはよ!ちょうどお色直しチェンジ中に鉢合わせるとかじゃなかとや!
畜生め!せめてサンタの正体が俺だと割れてないことだけ祈ろう。”さんたさんはね、ほんとはおとうさんなんだよ”だなんてそんな夢がない話があるもんか、サイト中の職員につるし上げられてしまう!文字通りに!
来た時と同じようにダクトの中に侵入する。
誰やいまチャカで撃ったつは!せめて生け捕りにせんや!ええい!せからしかぞ!
一番近くにいた太っちょをダクトに引きずり込む、ジャストサイズ。
「キサンらどげんして俺ば狙っとるとや!あれか?そこン張り紙ン関係あるこつや!?」
「は…はい、長夜、博士は今年はなんとしても差前さんを粛清したいらしく…。上の方からカフェエリア以外での粛清が禁じられたため、こうして差前さんを賞金首に。」
「ご協力どうも。」
これで両袖の催眠ガスは打ち止めだ。クソ!今日は多忙なんだぞ。