太陽大気層物質を利用して指定した目標を破砕することを目的とした、奇跡術固有兵器システム建造のための認可計画
問題
冷戦中のオカルト軍拡競争が激化の一途を辿るにつれ、固有兵器1に対する需要は日増しに高まっています。例えばレッドライン=システム等といった、強力な固有兵器の実戦配備に至っては、一段と困難な状況へと達しています。同時に、プロメテウス研究所は固有兵器市場でのシェアにおける支配権と、パラテックの研究開発分野でのイニシアチブを失いつつあります。
解決策
我々は奇跡術とパラテックの応用を基に、彩層頂部の大気を指定した位置に転送することで目標を破砕する固有兵器の建造を提案します。
兵器システムの主要構造は2つの独立した部分から構成され、それぞれ、点火モジュールと称される1基の太陽低軌道を周回する大型無人宇宙基地と、誘導モジュールと称される複数基の近地球軌道を周回する小型ユニットです。
点火モジュールには奇跡術を応用した設備を大量に搭載し、遠隔制御下で彩層大気を自動集積しながら長距離転送を実行させることに用います。全自動エクソシストプロジェクト中に開発された全自動化エバーハート共鳴器一揃いが安定なEVE供給源であると同時に、点火モジュールに搭載するその他の奇跡術設備へのエネルギー供給器として活用されます。
1台の高効率なエルヴィス-グラハム空間膨張量調節器が、彩層の高層大気に1個の安定なクラスA「相対論完全性」ポケットディメンション[1] を開通させます。1台のダリウス-セミッツ駆動器がポケットディメンション内に非実体の井戸型引力ポテンシャルを1個生成することにより、相対的に希薄(1 m3毎に原子約1011個)な彩層ガスの収集を実行します。ポケットディメンションと基準現実は互いに独立しているため、内部圧力に理論的な極限は存在しません。
ガス集積プロセス完了後、一揃いのオルティス-ハニガン転送場集束器がクラスAポケットディメンション外にGRT-2類転送術陣の送入セグメント1個を展開し、誘導モジュールに位置するもう一揃いの転送場集束器が、地上コントロールセンターの制御下で指定位置にGRT-2類転送術陣の出現セグメントを展開します。
一対のヴュートリッヒ流動学的ルーターが点火モジュール-地上コントロールセンター間の長距離実時間情報伝達を可能にし、かつGRT-2類転送術陣の両セグメント間の同期を実行します。同期が完了すると、エルヴィス-グラハム空間膨張量調節器が即座にクラスAポケットディメンションを閉じ、ポケットディメンション内の彩層ガスがGRT-2類術陣の送入セグメントへと捕集され、かつ同期が完了したGRT-2類術陣によって指定位置に出現します。続いて、物質流が予定よりも超過するのを避けるため、オルティス-ハニガン転送場集束器がGRT-2類術陣を即座に切断します。転送プロセスは3秒以内に制御されます。
エルヴィス-グラハム調節器の効率及び運転時間を変更することで、操作者は転送プロセスに用いるガス量を精確に調整し、それによってシステム全体の出力効率を制御できます。最低効率での点火は調節器の最短運転時間によって達成されます。その際の出力エネルギーは1回約130 PJであり、建造物の大部分を破砕するのに足ります。また、最高効率での点火はポケットディメンションが安定に維持できる最長時間によって達成されます。その際の出力エネルギーは、現段階の技術での控えめな見積もりで1回約2.8×108 PJであり、これは約5.4×107TNT換算トンに等しく、既に現時点で最大威力を誇る既知の核兵器を上回ります。
太陽から近い高度(近日点-太陽表面間の距離が2300000 kmを超えないと推定されている)の軌道を周回するので、点火モジュールには1台のクライン標準媒質冷却システムが搭載され、余剰熱量を排出するのに用います。同様に、高温を避けるため、点火モジュールに原子炉は搭載できませんが、複数の伸縮性がある耐高温太陽電池でエネルギー供給を実行します。誘導モジュールも太陽電池でエネルギー供給を行います。太陽電池はプロメテウスのエネルギー部門の子会社であるアルキメデス・ソーラーパワーで製造でき、当該部門は工程完了のための経験と技術を十分に持っています。
ローカスト計画で開発されたフォン・ノイマン組立機を使用することで小惑星を採掘処理し、点火モジュールの主要な骨組みと搭載される設備のほとんどを、小惑星帯から集められた原材料を使用して宇宙空間で建造します。一部分の当該方式で建造不可能な設備及び誘導モジュールは地上で建造して軌道へと打ち上げます。点火モジュールに属する設備はドッキング後にロボットの遠隔操縦で組み立てます。その他、続けての使用やメンテナンスに必要な代替部品も小惑星帯で製造を実行することにより、建造コスト及び時間を大幅に削減できます。
事業例
システムの造営後、点火頻度及び点火効率の大小に応じ、請求額を変える方式でもって各々の個人あるいは団体にサービスを提供します。各国政府、正常性維持機関、超常政府は全て潜在的な顧客となります。
- 各国政府: 当該システムは中小規模の代理戦争において、敵や最重要目標に対して有効な損害を十二分に齎すことができます。中低効率での点火が有効となるのは、これまで戦術核兵器の使用が求められていた状況であり、しかもいかなる放射能汚染も生み出しません。その他、単にちょっとした調整を要するだけで、当該システムはすぐさま軌道上の目標に対して打撃を与えることができ、従って惑星防衛システムとしての役目を果たします。
- 正常性維持機関: 当該システムは各種高危険度敵性実体の無力化に十分有効であり、例えば「地球外雲堤」や「Crocoteuthis gigantis」等といった、極端な高温に対して絶対的な耐性を持たない大型脅威実体を、1回の点火ですぐさま完全に破砕できます。また、強力なタイプ・グリーン、タイプ・レッド実体に対しても制圧、あるいは無力化を実行できます。
- 超常組織: 当該システムは他の超常組織に対する武力行動において火力による打撃を与える効果を発揮します。その超高温であり、迅速な配備ができるという特色により、実体兵器に特化した防御システムのほとんどを打破するに足ります。MC&D株式会社や蛇の手に類似する全ての超常組織は、潜在的に利用願望があると見做されます。
その他、例えば遠隔転送技術及び遠隔術陣展開技術等といった、当該システムを建造する際に開発した一連の派生技術及び派生設備は、他の分野でも潜在的な事業応用価値があります。
資金の使用
当計画に必要な資金の推定総額は約8.3億米ドルで、推定所要時間は約16か月間です。
点火モジュールの主要構造とそれに搭載される各種設備を小惑星帯で建造するのに9か月間と3.6億米ドルが求められます。もう3か月間が、点火モジュールが小惑星帯から環太陽低軌道へと移動するのに要します。
誘導モジュールと残りの点火モジュールのサブシステムを地上で建造し、軌道へと打ち上げるのに7か月間と3億米ドルが求められます。誘導モジュールの建造は点火モジュールと同時に実行します。
もう4か月間と1.7億米ドルが、新技術の研究開発、配置建造工程で必要な種々の設備用具、並びに人員の育成に要します。
既知の問題
当該提案が承認された場合、プロメテウス研究所史上最大規模の兵器プロジェクトになります。建造過程では少なくとも地上からの打ち上げ25回と、大型構造体の小惑星帯から近日軌道への軌道変更1回が求められ、建造完了後には点火モジュールが定期的に太陽面通過を起こします。上述の事柄は全て、ヴェール・プロトコル保護下の一般民衆に露見する蓋然性が高く、かつ必然的に正常性維持機関の注目と反対を招きます。
当該システム開発計画で使用したほとんどの技術は既に成熟しており、現実での大量の応用例があるとはいえ、天文学的な尺度から見ると大質量物質転送は依然として非常に高難度であり、バックファイアが絶大です。世界オカルト連合で配備が進められている既知の類似転送技術についてですが、現時点で先方との技術取引の交渉リストに該当する技術を加え入れています。
現時点で最も高水準の転送奇跡術プロセスでも依然として約±10 mの誤差及び約0.07%の失敗率を有します。当システムは精確な照射を実行しなければ、高効率運転時の誘導ユニットの誤差、あるいは転送の不具合により、許容不可能な生命及び財産の損失を齎す可能性があります。そのため、精確性により信頼が置ける転送奇跡術プロセスと、類似プロセスに用いる設備のどちらか、またはその両方の開発が必要です。