昨日、たった一人の妹を殺した
今日、彼女の検死を終了した
明日、ここを辞める
20██/██/██ ██:██
世界オカルト連合極東部門中央情報センターより#報告
・現実歪曲能力者タイプ・グリーン一体を、6350-排撃班“ハウンドドッグ”副班長-“サウィング”が排撃。
LTE-████-██としてこれを分類する。#指令
・担当職員は、後日詳細報告書の作成を開始せよ。-情報管理官-Abis
今まで何十体も脅威存在を殺してきたが、現実歪曲能力者を殺したのは初めてだった。
身内を殺したのも初めてだった。
20██/██/██ ██:██
#補遺
・LTE-████-██は“サウィング”の実の妹、████である。心理カウンセリング担当職員はこれを念頭に“サウィング”のカウンセリングに当たること。-情報管理官-Abis
両親が他界してからも唯一私のそばを離れないでいてくれた妹は、今年16歳になったばかりだった。
あの日は、もうすぐ訪れる両親の命日について、二人で淡々と思い出話をしていた。
20██/██/██ ██:██
#指令
・“サウィング”は通常通り粛正済の対象の検死解剖を行い、レポートを提出せよ。-情報管理官-Abis20██/██/██ ██:██
#返信
・レポートを中央情報センターに提出しました。担当者殿は査読願います-“サウィング”
彼女は恐らく、あの日初めて力を行使したのだろう。
私の目の前で、ずっと前に廃棄されたはずの両親が愛用していたソファーを出現させたとき、困惑と不安のせいか彼女の目に涙が浮かんでいたのを、私は知っている。
20██/██/██ ██:██
#報告
・LTE-████-██はレスポンスレベル2相当の現実歪曲能力を保持していたことが再確認された。#指令
・現在のレスポンスレベルをN(破壊/殺害確認済)とし、報告書作成を開始せよ。-情報管理官-Abis
私は訓練通り、彼女が粛正対象、それも現実歪曲能力者であることを確認した瞬間
私服の中に装備していた拳銃を抜き、
安全装置を解除し、
後頭部に狙いを定め、
三回、引き金を引いた。
世界の平和を脅かす現実歪曲能力者の一人を、この世から完璧に消し去った。私が世界を守ったのだ。
20██/██/██ ██:██
#指令
・“サウィング”はメールの指示通り、規定の心理カウンセリングを受けてください。これは命令です。今後の作戦に支障を来したくなければ、今すぐ指定された担当者の下に出頭してください-人員管理官-“ロックフィールド”
世界を守ることに誇りを持ち、私はこの道に進んだ。
嫌なものも見てきたし、辛い経験もしてきた。
だが、そんな代償が安く思えるくらいには人類を守ることができた。
妹を守ることができた。
20██/██/██ ██:██
#警告
・最終警告です。メールにある通り必ず規定の心理カウンセリングを受けてください。あなたの心中はお察ししていますが、決して自分を責めず、落ち着いて行動してください。業務上都合がつかない場合は、私を通して担当者にメッセージを送ってくれても構いません。これを読んだ後に何かしらの応答をお願いします。-人員管理官-“ロックフィールド”
守るべき妹が私の敵だった
守るべき人類のために敵を排撃し
守るべき妹を殺した
私は妹を守れなかった
20██/██/██ ██:██
#指令
・頼む。カウンセリングを受けてくれ。-6350-排撃班“ハウンドドッグ”班長-“ヴァイトマン”
私は失敗した。
だからここで降りる。
長い闘いは無駄ではなかった。
少なくとも、僅かばかりの人類を、脅威から守り抜いた。
今はそれだけが、私への救いだ。
20██/██/██ ██:██
#報告
・明日を以て退職させていただきます。
長い間、本当にありがとうございました。
脅威を排撃し人類を守り抜けたことは、私の誇りであり、私の存在意義でした。最後まで、守るべきものを守り抜きたかったのが、たった一つの悔やみです。
6350-排撃班“ハウンドドッグ”副班長
“サウィング”