是にて我見し聞きしを語りなむ
今日と昨日の替かはる所に於て聖敎會にて十年一度の盛大なる典禮てんれい、終日乾乾けんけんせし聖遺物繼承の儀は天の思し召しにより成功裡に収まれたるに、世界各地の人々は太古の贈り物を天穹の巓いただきに點けたり
黒き月將に西方に吠えむとす、避れる日の影の第六の刻印に斃たふるる時、第五牧伯おうふあいぶは至純なる山羊乳にて身を清め、純潔を象徴せる玉絲袍しるくろうぶを羽織り手に代行者の牧杖を持ちて、慈愛に満ちた赤絨毯かあぺつとを踏み締めながら祭斗内亭さいとないちんの扉を潛くぐりつ、牧伯は高く錫杖を掲げ、瞬間世界を遍く光が照らす、見よ、六彩の虹は幽かすけき夜を追ひ払ひ黒き雲を突き刺せば、太陽の光は齎もたらされむ、其の光は敎會の門戸より差し掛り敬虔にも祭壇へと歩くと、第五牧伯の錫杖に嵌りたる賢者の石に接吻くちづけ、我が主の聖潔さに輝く、――我が主に常に榮光あれ!
牧伯はゆつくりと錫杖をおろす、聖潔なる御靈は大地に觸ふるる途端に、我が主の輝きは跪く敬虔なる下僕達を溫かき面紗べえるにて覆はす、彼等は昨日の普世鵲虹祭ばれんたいんに於て最も持久力を見せたる方々で、名は鑿石囤じよんすとんの鑿海じよちよいと溫碗ゑんわんと謂ふ、――何とも奇妙にして契合する名ならむ、當に我が主の不可思議の預兆たるべし、晨曦あかつきの鐘が第七の聖音記を謳ふと、牧伯は天人の階きざはしを降り節杖つゑで二人の胴と尾椎骨を叩きて、聖遺物を守護する今年の左右護法に成る二人に、聖敎會傳統の天選者祝福の禮たる鄭氏法身の儀を執り行へり、世界は一瞬に静まり返り、聖靈安住の刻と為す、賢者の石の光が二人の眉間に凝結せむ刻まで、参禮者の歓呼が町を轟かさむ刻まで