クレジット
翻訳責任者: rambray
翻訳年: 2024
著作権者: Silberescher
原題: House Of Gears, Part One
作成年: 2014
初訳時参照リビジョン: 9
元記事リンク: ソース
実験室で働く際に従うべき重要な経験則があります。私たちは、価値にして20ドル以上の機械もいずれは故障すると想定していなければなりません。わかりやすく言うならば、私の職場では、研究員が半径1メートル以内でくしゃみをしただけで機械が完全に動作不能になることがあるのです。財団は冗長性に冗長性を重ね、設備の一部が機能しなくなってもシステム全体には影響しないようにしてきました。個々の機械は結局のところ壊れるのです。
拉致されたあの日、私は不調のレーザープリンターを修理していました。収容室の防爆扉の後ろで戦闘が勃発するのを聞いたときにどの部分をはんだ付けしていたか、正確かつ詳細に思い出すことができます。セクター警備員の標準装備であるM4が何発か発砲されたものの、他の銃声は聞こえませんでした。このため、私は襲撃の可能性を排除しました。最も発生しそうな収容違反を考えましたが、怒号や金属音、祖アッカド語の叫び声がないため、その可能性も棄却しました。結論: 状況不明。対応策: 現在の作業を中断し、経過観察。
何かが壁の上部に大きな音を立てて衝突しました。物体は前進して私の真上にやってきました。人型の実体はスライドホイッスルを鳴らして徐々に音程の低くなる長い音を立てながら、天井から降りてきました。
侵入者は、一分間に約百回拍動するうねった物質でできた藍色のスーツを着ていました。ゴーグルに覆われた目を除いて、スーツは彼女の顔(ここに来てからこの人が女性だとわかったのですが)を完全に覆っていました。彼女は左手の指先でマスクを引っ張り、顔に押し付けました。私は、見かけ上は彼女は人間であると判断しました。
女性は、スーツの腹部にある溝に両手を伸ばしました。その手は、体があるはずの場所に空洞をこじ開けているようでした。右手でホイッスルをしまうと見慣れないデザインのピストルを引っ張り出し、左手で一つの物体を取り出して、私にそれを説明するよう言いました。
私は彼女からその物体を受け取って、その重さを測り全ての方向から調べました。可動部を除いて、それは密度の低い一本の木材、おそらくバルサを彫って作られていました。別の小さな部品が片方の端に木製のボルトで取り付けられ、軸上で自由に回転できるようになっていました。本体は赤のアクリル塗料で塗られていましたが、塗装は剥げかけていました。私の爪で簡単に削れてしまったほどです。私はその物体を最も端的に説明しました。おもちゃの飛行機です。
この説明は彼女を非常に不快にさせました。事態の解決のため、私は詳しい説明を新たに始めましたが、彼女はそれを中断させました。これを覚えてる? この女性は機動部隊を無力化してまでこれを尋ねに来たのだとわかり、私は安心させるような口調を選びました。彼女に、私はいわゆる「映像記憶」というものを使うことができることを説明しました。私がこれまでの人生のどこかでこの物体を目にしていたら、それとわかるはずです。記憶処理薬のために私の自由意志で思い出すことができなくなったとしても、それを見さえすればほぼ確実に、少なくとも見覚えがあることはわかるでしょう。
このとき、女性は頷きました。私は精神科医ではなく、財団での業務は人間との交流を必要としませんでしたが、私は同僚の間で、簡潔かつ冷静に情報を伝えることができると評判でした。家族の死や異常な病気、その他様々な職業上の懸念といった悪い知らせを伝えず、嘘の約束でその場を乗り切ろうとする職員に引き離されることが何度もありました。結果として、私は少なくとも十数回は、この女性がしたような頷きを見てきました。
女性はおもちゃをしまうと、私に手錠をかけました。私は彼女に、その正体と目的を尋ねました。曰く、彼女の名前はアリソンといい、私を永遠に財団から引き離すためにやってきたのだそうです。命の危険はないものの二度と戻ってこられないということでした。ここの実験対象はそれを気に入らないでしょうと私は答えました。
ここに至るまで、アリソンは、自分が突入した収容室の性質に気づかなかったか無関心でいました。部屋の外には、収容プロトコルの参考資料、レーザープリンター、実験対象が非協力的になった場合に備えた強化スーツと火炎放射器のセットがありました。
収容室それ自体は何の特徴もないものに見えます。しかし実際には、壁は十数枚の産業用特別紙で裏打ちされており、部屋の主が自由に動くことができるようになっています。その実体は紙の中に収容されていると同時に、それをある程度操ることができたのです。
私が実験対象に言及したそのとき、アリソンはぐるっと振り返り、彼女の後ろで動いている実体を見つけました。それは一見、等身大の怒った若い女性の姿をインクで描いているようでした。紙の表面が千切れ、一秒あたり数十回の速さで折りたたまれていきました。侵入者がつかみどころなく天井から降りてきたのを真似して、SCPオブジェクト"ズールー・ホテル・エコー"は私たちに向かってきました。
私を捕まえていた女性はピストルを発砲しました。銃弾はズールー・ホテル・エコーを貫通したものの、効果はありません。アリソンはかがむと、銃のレバーを引き、光線を発射してズールー・ホテル・エコーの体に大穴を開けました。人型の紙は床から紙片を集めて自己修復すると、アリソンに突進しました。
二人は床を転がりました。ズールー・ホテル・エコーの爪がアリソンを切り裂き、アリソンは、相手の身体が新しく生成されるたびにそれを引きちぎりました。アリソンはズールー・ホテル・エコーを床に押さえつけてピストルを突きつけ、その頭に至近距離で火炎を放射しました。
紙の体は痙攣し、火勢を弱めようとその身を折りたたみました。その隙に、アリソンは転がって離れて傷を調べていました。アリソンの顔中に無数の切り傷があり、さらに肩からは大量に出血していました。彼女はピストルを手放すと、引き金に置いていた手を傷口に押し当てました。もう片方の手は、手首からちぎれたズールー・ホテル・エコーの手を掴んでいました。
オブジェクトはくすぶる紙の山から起き上がり、収容室の端の方に向かうと、アリソンが寄りかかっていた壁へ這っていきました。二本の腕がその壁から現れ、彼女の横に一本ずつ伸びてきました。私は、アリソンがズールーの手の爪を一点に折り畳み、自身の血を垂らしていることに気がつきました。彼女が血液でナイフの絵を描くと、ナイフが形作られました。壁から伸びた手がアリソンの首を掴んだその時、彼女は背後の壁にナイフの切っ先を突き刺しました。それは紙に深く刺さり、ズールー・ホテル・エコーは痙攣して、壁に張り付いていた紙が震えて剥がれ落ちました。首を絞めていた手は力を失いました。床に血の手形を残しながら、アリソンは体を起こして立ち上がりました。
アリソンは私を引っ張って、部屋中に広がりつつある火から離れさせました。彼女は、私たちを中心に円を描くように緑の粉を撒きました。私が逃げ道を探して辺りを見渡しているのに気がつくと、彼女は私たち自身の安全のために円を壊さないよう言いました。彼女は様々なカットの宝石を何個かスーツから取り出すと円の中心に注意深く配置し、そして私の首にしっかりと腕を巻き付けました。
私は、少なくとも情報を集めることならまだできるかもしれないと考えました。どうやって逃げるつもりなのか尋ねると、彼女は、「道を開く」のだと言いました。
これについては当時詳しく説明されませんでしたが、彼女は後に、この言葉が意味するところを説明してくれました。アリソンは複数の宇宙が交差する通路に入ることができ、彼女とその同類はこの現象を「道」と呼んでいるのだそうです。「道」は地理的な場所によって異なり、「アメリカで最も危険な数十メートル四方」のすぐ近くに現れるといいます。私が働いていた財団はこのポータルを探知し分析する手段を有していませんでしたが、機能する数十メートル四方はほとんどの場合財団サイトの中か近くにありました。アリソン自身が財団サイトにいるときはいつでも、彼女は「道の注意を引く」ことが非常に簡単だったそうです。
捕まっていたその時、私たちの方に近づいてくる炎を見ながら、私は、その名前が基本的な概念を明らかにしている「道」というものが正確に何であるのかという問題は置いておいて、この粉がそれを開くための方法であるのか尋ねました。彼女はそれを否定しました。彼女は私の眼前で裁縫針を持ち、針先を軽く親指に押し当てながら、「血を流すだけでいいの」と答えました。炎は円から数センチのところまで迫っていました。
私はさらに尋ねました。それなら、この粉の目的は何なのですか?
爆発。彼女が手に針を刺しながらそう言うと、私は乗り物酔いに似た強烈な感覚に襲われました。
第二部に続く。