財団の資源を悪用しないために
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エイムズ博士は私服に身を包んだ2人のエージェントの前に座った。彼女は手に持ったファイルを机にぴしゃりと置いて読書灯をつけると、荒っぽくページをめくり、顔を上げた。

「オーケー、サム、ジム。貴方達2人とも上級エージェントよね。一体全体何があったの?」

サム・デントンとジム・マクダウェルは互いに一瞥しあった。彼女は決まりが悪そうに肩をすくめた。

「ええと、私たちは故意にやった訳ではありませんら。公式の救難信号があって。どんないきさつかというと…」


事件発生8分前

デサイ管理官は焦りながらスマートフォンにアクセスコードを入力していた。外にいる生物がドアを叩くにつれて彼の親指の動きが速くなり、必死になっていく。

「頼む、来てくれ、送れ送れ送れ…」

彼の額から熱い汗が吹き出し、送信ボタンを何度も叩いた。 完全なD-25-Eは彼をここから追い出してしまうだろう。 彼は他に何をすべきかを知らなかった。そして今、彼はよりによってここで追い詰められていた。

「送信させてくれ、それだけで良い!」

彼が画面に向かって叫ぶと、回転する小さな円はチェックマークに変わった。

携帯のスピーカーから音が出る。スクリーンには『エージェント達が急いでいる。今いる場所から動かないでくれ。』とメッセージが映し出された。デサイ管理官は薄っぺらいドアを見た。蝶番の部分で激しく揺れている。そのうち小さな怪物に破壊されてしまうだろう。

「出て来てくれ、戯れようじゃないか。」

町のいたるところで小さな電子継電器が財団の黒い円の周りを数回跳ね返り、その後最も近くにいた2人のエージェントの電話に喜んで飛び出した。


エージェント・デントンとエージェント・マクダウェルはカードテーブルを囲んで座り、当てもなく交互にカードをバケツの中に放り込んでいた。サムは天井を見上げ、ため息を漏らした。

「冗談だろ。最初にバス、次にチュパカブラ、今は何も無しか?退屈すぎるだろ。」

ジムは肩をすくめた。

「おい、休憩は終わりだ。お前がやる必要は無いと決断したんだよ、ばかなやつ。それで、会談の間幹部の夫婦の子守りをするために俺達はここにいるんだ。」

ジムはスペードのエースをバケツにはじき、にたにたと笑った。

「切り札が!」

彼は歯を見せて笑い、デントンの方を向いた。

「俺の勝ちだ、サム。」

サムは苦しげなうめき声を漏らした。

「クソッタレ。だが一体何についての会談なんだ?」

彼は指の間にあるクラブの2を少しねじ曲げ、外へとはじいた。それは床をかすめて横切り、似たようなカードの山の間に落ち着いた。

ジムは左手をこめかみに向けた。

「頭使えよ、サム。オアハカでの大失敗の後、ラスベガスのチュパカブラとカリコが正式な会議を要求したんだ。他に何が有り得るとでも?」

サムは頭を振り、身振りで同意を示した。

「あてずっぽうだな、相棒。俺は知らねえ、ただ無事に終わって欲しいだけさ。」

ジムはサムを驚きながら見た。

「無事に終わるだって?サム、彼らは彼女のピニャータを盗んだ。どうやら……俺が明らかにしたやつよりも大きな賭けみたいだぞ。」

彼はダイヤのキングを曲げ、バケツにはじいた。中には入らず、縁に平らに着地した。

「クソッ。こんなの初めてだ。4組のトランプでこんな風になるかフツー?」

サムは天井を見上げ、不満を漏らした。

「ああ、何か良いこと起こらねえかな!」

彼の声を合図にしたかのように、携帯電話が音を立てた。不安がるよりかは驚いた様子で、彼はそれを手に取り画面を見た。彼の目が単語を、アドレスとステータスコードをちらりと視認した。公式の通知だが、現在の割り当てとは無関係だった。彼はコードの識別さえも出来なかった。

「なあ、ジム。D-25-Eって何だ?」

財団のSNSアプリに目を通しながらサムは言った。ドゥモーンの投稿を追い、ディアギレフ管理官とローブの人物と一緒に、握手しながら写っている彼の写真を見つけた。

「イキりやがって…。」

「サイト管理官がピンチで、即座の派遣要請。何故なんだ?」

クイーンのダイヤを弾き、キングのダイヤをバケツに落とそうとしながらジムは言った。

サムはベルトをたくし上げ、大慌てで立ち上がった。

「クソ、なんてこった、ジム、D-25-Eだ!すぐ近く!俺達の担当じゃねえか!」

彼が手を伸ばして周囲の機器のスイッチを押すと、さまざまな端末とサーバーがハードポイントシールドに覆われた。 彼らが配備されていた小さな部屋は、すぐに清掃用のクローゼットに戻った。

空調が切れ、0.5秒間の静寂に部屋が包まれる。

エージェント・デントンはぱちりと目を瞬き、武装ベルトを引っ掴んで立ち上がった。

「面倒なことになったな、行くぞ。」

2人のエージェントは小さな部屋から飛び出し、セーフハウスとして使っていた死体石鹸製品社1の支店のロビーを突っ切り走っていった。サムはドアの閂を蹴り開け、ビルの通用口まで走り続ける。ジムは彼の半歩後ろを着いて行く。駐車場に乗れそうな車は無く、重役達は皆武装し、装甲車が会談の場へと向かっていた。

ジムは手のひらで自身の顔を叩いた。

「クソッタレ、何すりゃ良い?」

遠くで集まっている群衆の中から旋律が聞こえ始めた。

サムは腰の周りの武装ベルトをカチリと鳴らし、辺りを見渡した。彼の装備はかなり制限されていた。いくつかの自転車がラックの上に繋がれており、セグウェイが1台、ロビーのデスクに繋がれていた。

「自転車かセグウェイか、ジム、どうする?」

ジムは一瞬凍りついた。びっくり仰天だ。

「サム、お前放射線か何かにでも頭やられたのか?半マイルも先だぞ!」

2人のエージェントが争っている中、旋律はどんどん近づいてくる。

サムは手を上にあげ、ジムに向き直った。

「で、俺達が一体何をするべきなのか。男を捕まえるのが全てだ。つまり、街中を疾走しろってこった!」

旋律はついにはっきりと聞こえるようになった。エンターテイナーの愉快な演奏は天の恵みだったのかもしれない。ミスター・ソフティーのトラックは角を曲がり、駐車場の前で止まった。爽やかな青年が車から身を乗り出し、2人のエージェントに微笑みかけた。

「そこの兄さん達、アイスクリームはいかが?」

エージェント・マクダウェルの頬は一気に緩んだ。

「サム、俺と考えていることは同じだな?」


アイスクリームのトラックは、鋭い音を立てながら、最高速度で高速道路を爆走していた。マクダウェルがデントンに進路を指示している。

「クソ、左だよ!右じゃねえ!回れ回れ!」

デントンは停められている車の周りを避け、渋滞を回避するために曲がり、トラックに激突しそうになった。

「マジかよ、サム。500人のガキがいるみてえなとこだな!ミスター・ソフティーをクソみてえに欲しがってやがる。銃の準備をしとけ!」

デントンの声は鋭く響き、緊張を孕んでいた。彼の神経を逆撫でするかのごとく、電話は鳴り続ける。 どんな仕掛けがあったとしても、管理官は迅速な要求を送信せざるをえなかった。

「事実を言っただけさ。」

マクダウェルは冷蔵庫の上の、支給された2つのピストルに爆発実験用の弾を装填しながら言った。

「彼は拷問を受けているかもしれない、そうじゃなかったらどうして彼はあんなはっきりした信号を送ったんだよ?」

彼は右のコンバットブーツのヒールの上のスロットに青いカートリッジを滑り込ませた。そして腕時計のボタンを素早く押し、全身の装備の状態を確認した。

「オーケー、地図によると…1ブロックと半分先だ、だから—コンチクショウ!止まれサム!赤信号だ!」

セミトラックがうなりを上げながら交差点を突っ切り、アイスクリームのトラックにまっすぐ向かってくる。デントンはハンドルを左に切った。アイスクリームのトラックは陽気な音楽をうめき声のようにスピーカーから発し、ドップラー効果で音は歪んだ。

「クソッタレ!全部こいつらのせいだ!つかまってろ!!」

彼らはトレーラーの後端に接触し、対向車線にアイスクリームのトラックを押し込んだ。

マクダウェルはトラックの後部の冷蔵庫に体をもたれさせた。突然ドアが開き、アイスクリームバーとキャンディーが後方へ舞っていく。

「ああああああ!」

彼はさらに冷蔵庫の金属面に右手を叩きつけ、右袖の下に隠されたマグネットアンカーを助けになるように伸ばした。アンカーは唸りを立て、エージェントの命を車から守った。トラックは進路を正され、いくつかの車がクラクションを鳴らしながら彼らの周りを走っている。

目的地が近づき、デントンは急ブレーキを踏んだ。ボロボロになった小さなトラックに出来る勢いで時速80kmから20kmへと速度を落としていく。

「出るぞ、ジム!行くぞ!」

運転席からデントンが飛び出して着地すると駆けだしていく。

トラックの後方ではマクダウェルがマグネットアンカーを切り離し、小さな祈り人に神はいつでも聞いておられると話をしていた。彼は足を上げ、背中の筋肉だけで出来るだけ高く飛びトラックの後部から滑り出た。そして足で軽々と着地し、そのまま走り続けた。

「やったぞ!まさか本当に作動するなんて思ってもなかったがな!」

アイスクリームのトラックがライトバンに突っ込むと同時に、2人のエージェントは正面玄関から走り出した。ジムは拳を上げ、半歩下がり、踵を地面にめり込ませた。彼は後ろを見ることなくサムに武器を受け渡した。サムはピストルを受け取り、彼らはお互いの背を守るように立った。

ジムのブーツのヒールが回路によって輝き、静かにドスンと音を立てた。彼はフロントドアを足裏で蹴りつけた。ヒールは衝撃波を放ち、フロントドアは小さな家目掛けて吹き飛んでいった。

ジムはすぐに後ろに転がり、ドアに隠れていたサムの視界から外れた。

サムは手首に付けたGPS端末に光るインジケーターと共に武器を構えた。彼は部屋をスキャンしつつも、視界には小さなデバイスが映るようにしていた。

「止まれ、動くな、さもなくばあんたらの命は—」

サムはどなった。

部屋の向こうでは3人の小さな少女達が泣き叫んでいた。口々に「ママ!」と叫びながら、少女達は家を走り出ていった。殆ど蒸発してしまったドアのほこりが落ち着きを取り戻し、サムは混乱して目を瞬いた

「奥に行かせてくれ、これで全てがはっきりする。」

中に入ったマクダウェルは驚き、目をぱちりと瞬いて武器を下ろした。彼は少女達が叩いていたドアに歩いていき、静かにノックした。

「あー…デサイ管理官?」

ドアの向こうから静かな甲高い声が聞こえた。

「えーと…そうだが?」

「エージェント・ジム・マクダウェルです、レベル3の。ええと…その…大丈夫ですか?入りますよ。」

「いや、入らないでくれ、私がすぐに—」

デントンがノブを回し、ドアを開けると、便座の上でパンツをくるぶしのところまで下ろした、2つの博士号を持ったサイト管理官の姿が明らかになった。自身を隠すためにシャツを引っ張り下ろしていた彼の顔はビーツのように真っ赤になった。

「えー。やあ、エージェント。」

ショックと可笑しさの混ざったような感情でデントンの眉はつり上がった。彼は静かにドアを閉め、必死に笑いを堪えながらジムに向き直った。

「財団の重大任務は完了だ、ジム。」


エイムズ博士は頭を振り、デントンとマクダウェルを見上げた。

「あなた達正気?」

ジムは微笑み、静かに笑った。

「どうも管理官はパニックになっていたらしいです。」

サムは肩を竦め、テーブルの上に人差し指を休めた。

「彼は家族で1日過ごしていたんです。どうやら少女達が彼の精神を病ませていたようで、私達は…いずれにせよ彼らの為にドアを交換しました。」

エイムズ博士は鼻を摘み、ため息をついた。

「最初に、彼はボトルディックに関するセミナーを受けなければならなかった。でも今や『恐怖を感じた時に財団の資源を悪用しないために』も受ける必要がありそうね、ギアーズ、お気の毒に。ありがとう、エージェント。」

デントンとマクダウェルは立ち上がった。サムは頷いてこっそりと笑った。

「何も問題ありませんよ、博士。あまり彼を責めないでやってください。あの少女達は、小さくても立派な恐怖だったんです。」

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