ひと夏の命
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フトマル飼育日記




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/いっしょに夏を楽しもう!\


はやと


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我が家に来た日



お父さんがカブトムシをプレゼントしてくれた。
去年いっしょに行った林に朝早くから行って、がんばってとってくれたみたい。
夏と言えばカブトムシ、大好きなのでとてもうれしかった!

大きな虫カゴの中は木とか葉っぱで林っぽくなってた。
カブトムシはよろこんでるみたい。

名前は、短くても太く生きられるように「フトマル」で決定!

ひと夏の命だからこそ、太く楽しもうね!



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フトマルの好きなもの



今日はフトマルがゼリーを食べなくて困った…。
いちご味もメロン味も好きじゃないみたい。

お母さんが「果物をあげるといいんじゃない?」と言ったのでバナナをあげることにした。

エサ皿の上にバナナを置くと、あっという間に食べてしまった。
フトマルにも好ききらいがあるんだなぁって思った。

ぼくもバナナが好きなので、ぼくとフトマルは食べ物の好みも同じなのかも。

今度はハンバーグ食べさせようって言ったら、お母さん笑ってた。

フトマルも元気に動き回って、いっしょに笑っているように見えた。



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公園



フトマルもたまには外に出たいだろうと思って、今日はいっしょに公園で遊んだ。
怒られると思ったから、お母さんが買い物に行っている間に内しょで行った。

前歩いてた通学路より短いはずだけど、とても長く感じた。つかれたけど、なんとか着いた。

家から持ってったバナナをフトマルといっしょに食べた。
ピクニック気分で楽しかった!

でも、お母さんがぼくのことを探してむかえに来た。
車に乗せてくれたのは良かったけど、車の中でいっぱいおこられちゃった…。

確かに外で何かあったら大変かも…お母さんとお父さんを心配させちゃうから、もう勝手に外出しないって決めた。



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今日は家族で海に行った!!
もちろん、フトマルもいっしょ。

フトマルは最初びっくりしてたみたいだけど、なれてきたら海をじーっと見てた。

楽しい?って聞いたら、ツノをうなずくみたいに下げて返事した。
フトマルめっちゃかしこい!

もっと楽しんでもらおうと思って、砂浜で波が来るギリギリまで行って虫カゴを置いたら…フトマルが大きめの波さらわれてしまった。

お母さんもお父さんも探してくれたけど、中々見つからない。

ぼくのせいでフトマルが死んじゃった…ショックで泣きそうになった時、フトマルが遠くから、海から飛んできた!
ぼくの足元に止まって本当にビックリしたけど、フトマルは「なんともないよ」って感じにツノを動かしてた。
もうダメかと思ったけど…本当に良かった!

お母さんとお父さん、そしてフトマルにちゃんとあやまった。
怖い思いをさせて、本当にごめんね。

ハプニングはあったけど、とても楽しかった。
やっぱり家にいるより外に出た方がフトマルも楽しそう。

でも、そろそろ家でも楽しめることをさがさないと。
家の中でも出来るだけ、夏らしい思い出をいっぱい作ろうね。



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花火



今日は家で花火大会をした!

フトマルはやっぱり楽しそうに花火を見てた。
林の中じゃ、海とか花火は見られないもんね。

線香花火が一番好きみたいで、その時は手足をいっぱい動かして喜んでた!
ぼくとフトマルは花火の好みもいっしょ。

パーッとはじけて、スッと落ちる。
そうゆうところが好き。

今日もすごく楽しかった。
本当に、夏って楽しいなぁと思った。

こんな日がずっと、ずーっと、続けばいいのに。



8月 2日


 



調子が悪くなっちゃって、お父さんにフトマルのお世話してもらってる。
いやだな、早く元気にならないと。

でもうれしいこともあった。
お母さんに「花火がすごく楽しかった」って言ったら、明日もう一度花火大会してくれるって!

花火は何度見てもあきない。
フトマルも楽しみにしているのが分かる。

明日のために、今日は体をしっかり休めようと思う。


8月10日


 



また入院 思ったより早い
お母さんとお父さんがこのノートを持ってフトマルとおみまいに来てくれた

フトマルがバナナのこしてた
たべないの?ときいたらツノでぼくとバナナを指した

ぼくのぶんをのこしてくれてた
うれしい

フトマルが天国に行くまではがんばる

ぼくもフトマルも ひとなつの命だから

いっしょになつをたのしもう さいごまで





















 月  日

































あの夏を思い返していた。


美味しかったバナナ。

広かった海。

綺麗だった花火。




そして、優しかったハヤト。




僕は夏が大好きだった。

君といる、あの夏が。




でも、君は僕を置いてどこかに行ってしまった。

帰らない君を探しに僕は家から飛び出した。


入院していた病院

お父さんが僕を捕まえた林

家族で行った海

君が内緒で連れていってくれた公園


何処を探したって、君はいない。

それでも僕は探し続けていた。

あの日見た花火を、もう一度一緒に見たかったから。




でも、限界だよ。

君のいない夏を生きるのは。

もう終わりにしたいのに、ずっと、ずーっと、続いてる。




「ひと夏の命」が邪魔をする。




何度も、何度も、邪魔をする。




お願い。


誰か、どうか  
























説明: 胸部から腹部にかけて大きく損傷しているにも関わらず、生命活動を維持し続けているカブトムシ(Trypoxylus dichotomus)。
回収日: 20██/██/██
回収場所: 茨城県████市
現状: サイト-81██内にて収容中。
追記: 損傷の原因は自動車による轢圧と推定される。
























僕の夏を終わらせて。
















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