1997年、12月22日、10時、サイト-01。
「それであいつらはこうして現れたのか?我々のそばにこう湧いて出たと?何の前兆もなく?」O5-1は円卓の傍らに座り、入手したばかりのレポートを手に持ち、疑問の口ぶりでその場のO5らに向けて尋ねる。
「それだけでなく、本部やその他支部が提出した資料によると、我々の地球、その体積が倍に広がりました。ですが大気、重力及びその他生存条件には何も変化はありません。我々のサイトの位置にズレが生じました。移動した距離は100m程度…」O5-7が話す。少し黙ってから、彼はまた話を続ける。「銀河系も…倍に拡大しました。宇宙に生じた変化はまだ不明です。しかも、民衆はこの変化に対して一切反応していないようです。まるで元々そうであったかのように。」
O5-1は手中の資料を放り、眉間にしわを寄せる。数分間沈黙し、ようやく口を開く。「我々に増えた‘隣人’を明らかにすることが先だ。未発見のSCPの異常が引き起こした可能性は排除しない。全部隊を戦闘準備状態にする。レッドライトハンドの隊長を会いに来させろ。」
同時刻、財団中国支部、サイト-CN-09。
斉易は09サイトの研究員の1人で、クリアランスレベルは3。
彼はサイトに向かって歩きつつ、右手の中華まんを食べながら左手の豆乳を飲んでいる。のんびりした様子で、自分の属するサイトが今どんな風に慌ただしくなったのかを全く知らなかった。
ビニール袋と空の豆乳のカップをごみ箱に捨てる。手を払い、まだ今日の新聞を買っていないことを突然思い出すとニューススタンドへ歩を進めていった。
代金を払い、紙面上の大見出しをざっと見渡し、顔を上げる。えっ?ビルってニューススタンドとこんなに近かったっけ?いや、ずっとこんな近さだった気も、どうでもいいか。この場所の風水がより良くなるだろうと、管理官の頭が思いついて移してきたのかもな?
突拍子もないことを考え、流行りの歌を口ずさみ、斉易は新聞をめくり見ながらサイトのビルへ歩いていった。
ニューススタンドと数百メートル離れた、斉易が目にしていたものと変わらぬビルの中。
「斉易のやつは?まだ来てないのか?とっくに遅刻だぞ!その上研究員たる基本の素質もないのか?!今がまさに研究員の必要なときだってのに、こいつは遊び呆けてんのか?!」
他の研究員は管理官の癇癪を見て、心の中で黙って斉易に少し哀悼した。
斉易はビルに入り、すいすいとサイトの隠された進入口に着く。自らのクリアランスカードを手に取り、かざす。ドアが開き、サイトに入る。
サイト内は慌ただしく熱気に溢れていた。全員が行ったり来たり、研究員でも保安職員でも、収容任務を行っていない機動部隊までもが手伝っているのを斉易は見た。
丁度斉易のそばを通り過ぎる人がいた。手を伸ばして肩を叩いて呼ぶ。新しい顔だ、サイトの新参者か、まあいいや。「何が忙しいんだこれは?収容失敗か?それとも収容違反?それともカオス・インサージェンシーが来た?」
「知らんのか?この世界に財団が増えたんだよ。しかもその財団のサイトの分布が我々のと一致してて、我々のサイトの隣にあってね。まだ資料を渡さなきゃいけないから、また。」
その者は話し終えるとさっと資料を抱えて走った。
斉易は顎をなで、少し面白いと感じる。次元を越えて訪れた?次元間で投影された実体か?あるいは収容物の異常性?これらのいずれもこの研究員が興味を持っているものである。
考えながら、斉易は自らの部署へと歩いていく。
「管理官、サイトの進入記録にサイト職員と合致しないアクセス記録が現れました。」1人の保安職員がサイト管理官のいる中央司令室にやってきた。
サイト管理官は手元の薄紙の末尾に書かれた進入記録を見る。斉易、レベル3研究員、物質遺伝と空間の折り畳みの問題を主に研究する。
【サイトの職員は既に確認済。増えたこいつ、それがあの財団の者のはずだ。】そう考え、管理官は放送機器の前に向かい、話した。
「斉易、1回司令室に来てくれ。」
元々部署に行きたかった斉易は、司令室へとひょいと行き先を変える。
司令室のドアを開けるやいなや、2人のたくましい男が斉易を押さえつけ、彼の両手を鎖につなぐ。斉易は呆気にとられる。男をムリヤリ押さえ込み???いやいや、僕って財団の人間じゃなかったっけ?財団に刃向かうことは何もしてないのに、どうして僕を鎖につないだんだ?
顔を上げ管理官の見解を求めようとするが、管理官の様子と周囲に立つ人を見て、斉易は更に唖然とする。これは何だ?僕は誰だ?ここはサイト-CN-09じゃないのか?お前ら誰だ?何をする気だ?
閃き、斉易の頭にいくつもの考えが浮かぶ。僕はあっちの増えた財団に入ってやしないか?そんなことが?まさか昨日宝くじに使った5元が僕の幸運を吸い取ったんじゃあないよね?
「斉易か?あいつは既に20分も遅刻した。もし来なかったら俺は…」管理官が話を終える前に、1人の研究員が彼の目の前に大急ぎで携帯を持ってきた。携帯のスクリーンには斉易の2文字、しかも通話中だ。
携帯を手に取り、管理官が口を開く。「どこにいるんだ?今が緊急事態だって知らんのか?サイトにまだ来てないのか?給料が要らないんだな!」
「か…管理官、お話があります、怒らないでください。」斉易の弱々しい声があちらから伝わってきた。
管理官は怒りのあまり笑った。「いいぞ、何を話すんだね、怒らんからな。」
「僕は…09サイトにいます。」
「…この管理官が低能で務まると思っているのか?」
「僕が言いたいのは…僕はこっちの09サイトにいるんですよ!」
そう話す斉易は、既に泣き出す寸前であった。