だいきらいなせかい
rating: +14+x
blank.png

調査報告: PreGoI-505-JP"だいすきなせかい" No.0█
準要注意団体に指定されている"だいすきなせかい"の関連が疑われる異常空間SCP-████-JPから回収された文書によりこれまで未確認であった"はかせ"と呼称される構成員の存在が示唆されました。当該人物は主に"だいすきなせかい"構成員たちへの技術提供や助言を行っているようです。該当する人物の来歴を含む詳細は一切不明であり、現在追跡調査が計画されています。


 "ねぇ、きみ。あそぼうよ"と、そんな声が聞こえた気がした。
 それは少年が、新しく独自で作り上げた"ひみつのゲート"を通り、最寄りの公園へ抜けたときのこと。
 "ねぇ、きみ"と、もう一度呼ぶ声を聞いて、身体に釣り合わず大きなランドセルを背負った彼が振り返ると、そこには見知らぬ、言うなれば典型的な"遊び場"のような景色が広がっていた。
「おっと……どういうつもりかな、これは」
 まるで突拍子もない、異様に過ぎる光景。
 しかし彼は、完全とは言わないにしろ、冷静にそれを"異常事態"として捉えられるだけのものを持っていた。
「"博士"はこんなナリでも引く手あまたの人気者なんだけどな。用があるなら博士のメールフォームにでも話を通してからにしてもらいたいんだけど」
 "博士"。異常な玩具を制作する個人、あるいは団体として、ある界隈――このような異常な事態がしばしば起こる世界――に知られる名前。それが指し示すものは、意外なことに、年端も行かぬような子供の彼である。
 だから"この状況は「その手のもの」だ"と判別できるだけの知識と、そして魑魅魍魎や摩訶不思議、そして何より図抜けて賢い大人たちの闊歩する世界を渡り歩くに足るだけの頭脳が、先の言動を導いた。
「それともあれかい? またどこかで恨みでも買ったかな。人気者はつらいね」
 小賢しく生意気な子供のような口調と裏腹に、冷静に、かつ迅速に、事態を整理しようとする。
「……そういうんなら、まぁ、こっちにも考えがあるよ」
 無反応に対して少年は警戒心を顕にし、常に携帯している彼の"発明品"を取り出そうとして――
「いや、ぼくたちはそんな物そうなものじゃないよ、ヒロくん」
「は?」
 どこからか声がして、次の瞬間、"公園"のあちこちに"博士"を自称した彼より少し幼いくらいの子供たちが颯然と現れた。
 ざわめき声を押して、問い返す。
「『ヒロくん』って言った? 今」
「"はかせ"って呼んだほうがよかった? ぼくとしては『ヒロくん』のほうがなじみ深いんだけど」
「僕をそう呼ぶ奴は、"この世界"には居ないはずなんだけど?」
「そんなことはないよ。ぼくはここにいる。わすれたの? ぼくだよ」
 めいめいが自由に戯れる中で、一歩、"博士"の方へと歩み寄る影。
 そう言って、一人の――周りの子供たちよりかは少し年上の――"博士"と同じか、1つ2つ下の子供が、歩み出た。
「……けんちゃん?」
「おぼえててくれたんだね。久しぶり、ヒロくん」
「こんなところで何やってたんだよ」
「ピーターパンごっこ」
 へへへ、と笑いながら、彼は応える。
「ピーターパン、ねぇ」
 それで本当に成長が止まってちゃあ世話ないよ、と思う。
 『けんちゃん』と呼ばれた少年、その姿は、『ヒロくん』のかつて見知ったそれとほぼ変わらない。『ヒロくん』の近所に住む男の子だった『けんちゃん』が、突如姿を消してからとうに1年近く経ったのにも関わらず。
 1年を置いて再開した子供が全く成長していなければそれはまぁ異常なんだろうけれど、しかし、"こういうもの"に関わっていたのならそれも逆に自然なことだろうとは思う。思うが。
「いいでしょ、ここ。ぼくのおきにいり」
「こんなところに居たんだね」
「うん。みんなといるのがたのしくて」
「……そうかい」
「それでね、ヒロくん」
「"博士"だ。この世界ではそう呼んでくれ」
「"はかせ"。みんなも"はかせ"と遊びたがってるんだ」
「それで、ここに僕を連れてきたと」
「うん、うん。そうだよね、みんな?」
 "うん"、だの"そー"だのといった元気のいい子供の声が一斉に響いて、"博士"は顔をほんの少ししかめた。
「みんなあきっぽくてさ。で、ヒロくんあたまいいでしょ? だからよんだらたのしいかなって」
「一つ聞くけど、『今日はこの後仕事が残ってるんだ』って言ったら、帰してもらえるのかな?」
 筋が通ってるんだか通っていないんだかわからない言説に対して、問い返す。どうせ無駄だろうと半ば確信しながら。
「おしごと? あはははははは……へんなの。そんな大人みたいなこと言って、おかしいなぁ」
 そう言って、"けんちゃん"は笑う。
 まぁ、そうだよな。子供ってそういうもんだ。思い返してみれば、特にけんちゃんは人並み以上に自分勝手なところがあったし――と、苦笑いしながら"博士"は思う。
「はぁ……まぁ、いいよ。付き合ってあげるよ。どうせ帰してもらえないんだろうし、それにけんちゃんには借りがあるからね」
 この子が近所に居たときは――この子が居なくなって、面白半分で神隠しに遭ったと噂された彼のことを嗅ぎまわって異常の世界に足を踏み入れ、そして忙殺されるようになる前は――よく一方的に家を訪ねてきて遊びに連れ出されたっけか、などと思い出す。
「……? ぼく、なにかした?」
「いや、直接的には何もしてないよ、君は」
 そう? なんかよくわからないけど――と前置いて。"けんちゃん"は満面の笑みで、こう告げた。
「ようこそ、ぼくたちのだいすきなせかいへ」


「なるほど、ヒーロースーツねぇ」
「うん、スーパーパワーがでるやつ」
「すっごいの」
「で、作り方が分からないと」
「うん、わかんない」
「ねー、わかんないねー」
「あー、蚕……おかいこさんってわかる? その辺使えば繊維の生成が楽……いとまきのうたって知ってる?」
「いーとーまきまき、いーとーまきまき」
「そうそれ。簡単に言うと服の原料を吐き出してくれる凄い虫がいてだね……ああそう、この図鑑に載ってるやつ」
「すごいむしさんだ」
「すごいむしさんから、すごいふく」
「……なんかわかったみたいだね。で、増強作用を組み込むなら――」


「ふーん、ぬいぐるみ」
「ちがうよ、どらごんのおうさま」
「イルカだけど」
「おうさまだからね、おっきいの」
「……で、何がわからないの」
「どらごん、いないじゃん」
「ああ……ドラゴンというか、ぽい生き物ならコドモオオトカゲとか、そういうのがいるけど。ほら、図鑑に載ってるじゃん」
「どらごんだ! かっこいいやつだ!」
「ああ、うん……気に入った?」
「うん! こいつらがね、たくさんあばれるの!」
「へぇ、そうかい、それで、どうやるのかな」
「えーとね、これを入れて……」
「ああ、ならこういうのを使うとだね――」


 幼児から渡された架空の遊園地の設計図に目を走らせる少年と、その周りに集まる子供たち。
「はかせはなんでもしってるね」
 と、その仕事ぶりを見てか、感嘆の声をあげた1人に、他の声が続く。
「ものしりだ、すごい」
「なんでもこたえてくれる」
「はかせだね」
「はかせだ」
「まぁ、これでもいろいろ勉強したからね」
 少年は設計図に朱入れをしつつ応答する。
「へー、えらい」
「なんでそんなにおべんきょうするの? はかせだから?」
「別に、なんでってわけじゃなくて、結果的にそうなる必要があったっていうか」
 少し言葉に詰まって、ペンを回しながら少年は問いかけた。
「あー……君らは大人が嫌いだろ?」
「うん、だいきらい」
「ぼくたちのじゃまばっかりするし」
「おこってばっかでつまんない」
 子供たちが口々に文句を垂れる。
「まぁ、そんな大人たちが世界を作って世界を回してるんだ。世界は大人が独占してるんだよ」
 それを受けて少年は続け、さらにまくしたてる。
「僕はそれが気に入らない。あいつらの支配を覆す力が欲しい。だから色々調べ回って……まぁその結果として、今ここにいるわけさ」
「けんちゃんみたいなことをいうんだね、はかせ」
 そうかな? と相槌を打ちつつ、さらさらと文字を書き込んでいく。
「大人の作ってる世界のヴェールが気に食わなくてさ。押しつけがましいんだよ、どこも。『子供向け』なんて『子供騙し』って意味でしかなくて、面白くもなんともないことくらい分かってるのに、大人は子供にそれを押し付ける。馬鹿にするのもいい加減にしろって思わない? だから僕はそれを突っ返すんだ。笑えもしないものを押し付けて、楽しもうね!って言い返すんだ」
「そうかな?」
「いいじゃん、ぼくらのためのおもちゃ」
「ぼくはすきだよ」
 帰ってきた怪訝な声に、なるほど、君らはそうなのかと、口に出さないまでも少年はそう思って、口にする。
「君らも早く大人になれよ。世界は広くて楽しいぜ? できることも沢山、使えるものも一杯だ。世界に出て、いろんなことをやりなよ。モラトリアムも結構だけど、いいかい、子供っていうのはいつか大人になるために子供でいるって、それだけだよ。未熟は罪で幼稚が罰さ。そしてシャバの空気はとんでもなくおいしいんだよ」
 そう結んで、よしできたとペンを投げた少年はここで、自分に向けられた怒気を孕む視線に気が付いた。
「えっと……?」
 静まり返っていた雰囲気は一転、黙って並び立った子供たちはその体躯にまるで見合わぬ、野犬やあるいはそれよりももっと恐ろしいもの――例えば、異常の世界に蔓延る化生の類のような――の放つような威圧感を発していた。
「はかせ」
「そんなこというひとはもう、こどもじゃないよ」
「きみはもうおとなだ」
「ここからでていけ」
「はかせ。おまえなんかもう、ぼくらじゃない」


「まったく、子供は無垢でも純粋でも善良でもないって、僕自身がよく知ってたはずなのにね……」
 あの日、あの世界に招かれたときに見た"遊び場"を彷彿とさせる、"ひみつのゲート"が繋がっていた公園で、少年はからがら逃げ出したというように、息を切らしてそう独りごちた。
「まぁ。まぁいいさ。やってられるかよ。やっぱり悪の発明家は孤高じゃないと」
 肩で息をしながら、ところどころ流れる血を拭って、不敵に笑う。
「ガキども……"博士"のわくわく玩具を楽しみにしてやがれよ」


調査報告: GoI-005-JP"博士" No.██
準要注意団体に指定されていた"博士"が一時的な沈黙の後活動を再開、従来よりも活発化したことを受け、当該団体は要注意団体に再分類される運びとなりました。現在"博士"は子供向け玩具を模した異常な制作物を多く生産しているようです。

調査報告: PreGoI-505-JP"だいすきなせかい" No.1█
"だいすきなせかい"の関与が確定的とみなされたSCP-█████-JP内にて要注意団体"博士"による既知の製造品と類似した物品が廃棄及び破壊された状態で複数回収されており、また、同時に内容を「きみのことはだいきらい」と判別できる落書きが発見されています。これを受けて当該団体の"博士"との関係を「敵対」と仮定、事実関係の整理及び調査を行っています。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。