I remember
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やあやあ、我はウツボ、雄大なる海の賢者である。
かつて陸が一つであった頃より海を見てきたのだ。
だから、この星の海の事なら何でも知っておるぞ。
……む、その顔は、疑っておるな。
まあ、何でも、というのは言い過ぎやもしれんが、少なくとも君のような若輩には負けんよ。

知っておるか?
"賢しき陸の民"の冒険家の心を持つうみうしを?
空間の歪みを生む無尽蔵の魚群を?
活きているを?
文明と信仰をを持つ雲丹を?
見たいと思わないか?

我輩と共に行かないか?、君はまだ若い。
共に四海を駆けて世界を見渡そうではないか!!

……ああ、ダメか。
おのれ、此処にも言葉を理解できる脳を持つ者は居ないのか。

嗚呼。我の知る世界は皆死に染まってしまった。この惑星の、光の届く処はすべて死んだよ。
故に私は此処まで逃げてきたのだ……君は知る由もないだろうがね。
だが此処は暗い。寒い。それに、息苦しい。その上、寂しい。……帰りたい。

だから、私は仲間を探しているのだ。……君にこんなことを言っても無駄なのは判っている。だが、言わずにおれようか?
君のように自ら光るような魚は見つけやすいからな。必ず声をかけるようにしておるのだ。だが……

仕方あるまい。"賢しき陸の民"が手を打つまでの辛抱だ。
嗚呼、思い出すな。この谷ができた時の事を……あの時はまだ、彼女が居た。
今度はどれほど掛るだろう。

待つしかないな。百年、二百年。きっといつしか海も元に戻るだろう。
その日まで……

私は忘れない。

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