こ……怖い。収容任務はいつになっても慣れる気がしない。
都内に多数存在する地下鉄路線。その中に戦前に廃止になった路線が幾つか残っていた。一般には隠匿されているが。
電気系統が死んでいる為、手持ちのサーチライトだけを頼りに進んでいるのは育良だ。
"オブジェクト候補が見つかったから行ってこい"と言われ、封鎖された古い地下トンネルの調査に来ていた。
だが、闇の中、聴こえるのは滲み出る地下水の滴る音と、風がトンネルを流れていく低い唸るような音。
換気もまともにされておらず、淀んだ黴臭い空気が纏わりついてくる。
生来の怖がりである育良がそんな環境でまともで居られるはずもなく、
「……ヒィイ……ヒイィイ……」
と上擦った声を出し続けていた。
空白
『どう?』
「イギャアッ!!!」
『落ち着いて、ぼくだよ』
「ヒ、すみ、すみま、せん」
肩に着けていた通信機から餅月が話しかけた。
『物は見つかった?出発して1時間程だから、もうすぐ目的の2.3km地点』
「いえ、まだ、特には何、もあり、む、ありません」
『……ん。じゃあ続けて』
「え、あ、餅月さん?もち、つ、も、しもし……」
何故か一方的に切断。育良には驚かされ損でしかなく、"もうすぐ"という曖昧な言葉が余計にキツく精神に食い込んだ。
空白
空白
空白
空白
空白
空白
「も、も、いや、だ、これ、はゆめ、ハハ……」
育良の精神はそろそろ限界に近かった。
自分の心拍がバクバクと上がり、眉間に汗が流れるのを感じる。
眼鏡の鼻当てが僅かにずれ落ちる感覚。
錆の臭い。
手と足が震えきっている。
手の震えはライトも揺らし、柱の影が蠢く。
視界が一瞬揺らぐ。
空白
空白
空白
空白
……視界が揺らぐ?
空白
空白
そこで歩みが止まった。眼は震えちゃいない。これ以上進んじゃいけないと思考の奥底が警報を発している。
「餅月さん」
『ん』
「見つけました」
空白
空白
収容記録███-1:
エージェント・育良は旧██線内でSCP-███-JPを発見。その際の視覚に対する異常性の報告から収容部隊には……