最後の人間の心臓が、その鼓動を止めた。
ブライトの視界が闇に覆われる。しかし、またすぐに明るくなった。彼はサイト-19の床に静かに横たわっていた。赤い宝石を通して、がらんとした室内を観察する。
やがて、セメントの支柱が風化し、ガラスが砕け散った。かつては堅固だった壁が、音を立てて倒壊する。陽の光が不朽の飾りを照らし出す。しばらくして、夜が訪れた。朝が訪れた。また夜が訪れた。
無秩序に生えた雑草が彼を覆う。だが、すぐに山火事で焼き払われていく。大雨が降ると、彼は遠い地へ流され、変異した名も知れぬ生物に飲み込まれた。この運の良い怪物は間もなく死を迎え、海水がその死骸をほぐしていく。羽毛もすぐに腐り落ちていった。
潮水が鳥の骸骨を持ち去ると、ブライトは海中へと沈んでいった。
彼はサンゴ礁を見つけた。幾筋もの日光が、海面より射し込んでくる。彼は巨大な魚をも発見した。
温度は乱高下し、海水は凍結と融解を繰り返す。おそらくは、核廃棄物が漏れ出したか、噴火といった自然災害の類だろう。ブライトの眼前で動く物体は、日に日に少なくなっていった。ある日、彼はあらゆる生命が滅亡したことを悟った。彼は流砂に埋もれ、海流に揉まれ、長い時間を経た後、どこかの大陸の海岸に打ち上げられた。
さらに長い時が過ぎ、海すらも消え去った。太陽は主系列星から赤色巨星へと変貌し、地表の温度はみるみる上昇した。年老いた恒星はひたすらに膨張を続け、水星と金星の軌道まで達し、遂には地球を呑み込んだ。太陽の燃料は燃え尽き、内側へと崩壊していく。ある時、ルビーをはめ込んだ首飾りは爆発によって弾き飛ばされ、宇宙での漂流を始めた。
それはブライトの果てしない人生において、最も輝いて見えた光景であった。その後、彼は小惑星の重力に捕まり、名も知れぬ星系へと運ばれていった。その星系もまもなく滅び、彼はまた漂流を続けた。
辺りが寒い。
恒星も星系も、2度と生まれることはなくなった。残った恒星も燃料を使い果たし、一つ、また一つ崩壊していく。重力の変化により、残骸は徐々に本来の軌道を離れ、跡形もなく消え去った。
光が消える。熱源が消える。
宇宙は冷え始め、辺りは一面の闇となった。最後に残されたのは、宇宙で唯一低エントロピーを保っていた、元人間の研究員であった。彼は静かに暗黒を漂い、世界の死を羨んだ。
あるとき彼は、昔過ごした地球をふと思い出した。
彼はさしたる価値もない、人類文明の短い記憶を振り返った。世界の終焉を阻止するべく奔走した自分を、あの3つ目を持ったペテン師を。
親切な心理鑑定士。賑やかかつ、脆弱だった家族。救えなかった愛しき人。
彼はネブラスカの麦畑を思い浮かべた。