その日、エージェントは業務を終えてサイト-8181へとやってきた。時刻は午前2時、眠たげな警備員が即座に厳しい顔へと戻り見慣れない人物を訝しげに見る。
「こんばんは。あまり見掛けない顔ですね?申し訳無いのですが身分証とコードを提示して頂いてよろしいですか?」
「ご苦労様です。これでいいですか?識別番号は███████ですよ。ちょっと資料を取りにこちらのサイトへね。夜分遅くに失礼して申し訳ありませんねぇ。」
「ええと…..ああ、問題ありませんね。お疲れ様です。どなたかお呼びした方が…..」
「いえ、大した用では無いんですよ。一人で大丈夫です。」
警備員へ告げるとそのままエレベーターへと向かう。エージェントには目的があった。自身の所属する組織に対する裏切り以外の何物でもない明確な目的が。
「地下2階で降りて右へ…..その先の突き当たりを右に、その先の左手に…..」
以前に研究員から聞き出した道順を思い出しながら先へと進む。
異常存在として収容された物体。世界を変えてしまうというオブジェクト。その一部が隠してあるのだと研究員は教えてくれた。それは人類を救うかもしれない宝であるという事も。
「男子更衣室の向かって右手のロッカー…..奥から三番目」
目的の物を隠してあるという場所へと辿り着いた。底板が外れる仕掛けになっている事を即座に見抜き中の物を取り出すと、紙のような薄い物を包んだ黒いビニール袋が出てきた。 中身を取り出して眺めてみるが実際にそれが“宝”なのかどうかはよくわからない。
「うお、おおお…..」
何気無く更衣室に放置されていた雑誌を眺め、なるほど、確かにこれは宝だなとエージェントは心中で何度も頷いた。これならば数多の人々がこれを欲したというのも理解できる。一頻り感心した後で“宝”をスーツの内側へと隠して部屋を出た。この宝を使って人々を救う、のでは無く燃やしてしまう為に。
(何故この幸せを、救いを他人に分けてやらねばならない?)
エージェントの心の中で黒い気持ちが渦巻いていた。最早裏切りに対して罪悪感を覚える事も無かった。歪んだ感情を抱えたままサイト-8181を後にし、自身が所属するサイトへと戻ったエージェントは目覚めた後にサイト内を駆け回りながら叫んだ。