ブライトの内在
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聖なる財団の修道院と俗人らの町々の傍ら、Dカーストの村々は文明の土地残りの部分を成していた。壁に囲われたオメガの守衛(Omega Guards)屯する要塞に囲われ、Dカーストの男女が己の村で暮らし、子を生していた。

Dカーストの村、ゴック(Gock)のはずれでは、4人のDカーストの子らが伝統のゲームに興じていた。彼らのうち3人は子どもで、成人に間近い10代である残り1人を一心不乱に見つめていた。3人の友が瞬きしないよう足掻くのを熱心に見ながらも、この4番目のDカーストは比較的気楽だった。しかし結局のところ、それは免れ得ぬことなのだった。

左端のDカースト児が瞬いた。瞼が素早く下がったのだ。第4のDカースト児はそれに気付くと素早く瞬きした者の腕を拉いだ。他の2人のDカースト児は諦め、同じく瞬きした。

「2人目の息子のD-37428353がまた負けた!」未だ左腕で2人目の息子のD-37428353の頭をしかと掴んだまま、4人目のDカースト児が宣言した。

「息子のD-48572946、早く離してよ!」2人目の息子のD-37428353は地区の最年長に懇願した。

「そうだよ、おまえはこんなに大きいんだもの」他のDカースト児が同調した。

「だから俺が削除済みの役をやらなくちゃならないんだ! 俺を上手く捌けないなら、奴らは本当におまえたちカースト児を削除してしまうぞ」ようやく2人目の息子のD-37428353から手を離し、息子のD-48572946が切り返した。

「カ、カースト児……お、おまえだってカースト児だ!」2人目の息子のD-37428353が異論を唱えた。

「もうじき変わる。俺は今夜呼称を割り振られることになってるんだ!」息子のD-48572946が仲間たちに思い出させた。

「子どもたち、むやみに収容典礼書を口にするんじゃないよ! とっくにオメガの衛兵から戒められたろう!」がらがら声が怒鳴りつけた。

年若い方の3人のDカースト児たちは、最年長である息子のD-48572946の背後に逃げ隠れた。中年のずんぐりとした体格のDカースト女が1人、籠一杯の野菜といくらかの木の皮を運んでいた。

「おかあ、俺らは将来の聖なる財団への奉仕に備えてただけだよ!」息子のD-48572946は離れた母親のD-83756246に向かって叫んだ。

「収容典礼書を猿真似する暇があったら収穫でも手伝ったらどうだい!」D-83756246が不平がましく言った。

「お母、それで収穫は全部なのか?」息子のD-48572946が籠を指さし訊ねた。「それにまた木の皮?」

「聖なる財団はより多くの糧をお求めなのさ。あたしたちは割り当て分のうちでなんとかやっていかなくちゃ」D-83756246が言った。「さあ、おいで坊や。晩の前に話す最後のいい機会だ」

息子のD-48572946は友人たちと別れ、母親と共に去っていった。

「ああ、ここを出るのが待ち遠しいよ。修道院での暮らしは何不自由ないに違いないや」息子のD-48572946が言った。「季節ごとに食べ物は少なくなるだろ、それにこないだの冬のインシデントから口減らしを禁止する勅令が出ただろ」

「坊や、おまえは聖なる財団のなさることを分かってないよ。我らの飢えは聖なる財団からの我らDカーストへの愛なのさ」

「でもお母、俺らは罪人なんだろ。俺らは罪人の子孫なんだって」

D-83756246は一瞬黙り、考え込んだ。それから自分の答えを言おうと心を決めた。


数時間が経ち、ゴックに夜が訪れた。村の中央では馴致典礼(Orientation Rite)が進められていた。村のあらゆるDカーストが集まり、伝統の讃美歌を唄い、先祖たちの太古の踊りを踊っていた。2人のDカーストの女が火の番をし、その中では多数の焼き印が熱されるままにされていた。ゴックでは火を保つのに紙を使うのが習わしであるため、時折女たちは本を放って火にくべていた。成人のDカーストたちは皆、裂かれて半袖にされ、同様に胸元を開かれた、橙色でぼろぼろのつなぎを身に着けていた。カースト児たちはロインクロスと、どの部位であれ自分たちが合うと思ったところを覆うぼろの雑多な組み合わせを手当たり次第に着ていた。

周りにはオメガの衛兵の小隊がショートソードとクロスボウを携え、取り巻くように立っていた。要塞の胸壁からは、さらに多くの衛兵たちが遠眼鏡でその様子を眺め、弓兵を待機させて見張っていた。Dカーストたちは衛兵たちをまったく気にせず、暢気に楽しんでいた。

Dカーストの群衆は地面から突き出た高座を取り巻き、同じくずたずたの橙のつなぎを着た老齢のDカースト女が、鷲のような目つきで同村の群衆を見渡した。村人たちにとって彼女は霊的指導者だった。長く生きてきて、大いなる知恵、あるいは何であれ聖なる財団が許容するなにかの体現者だった。彼女にはれっきとした呼称があったが、村人たちは尊敬をこめて「長老」と呼んだ。Dカーストが仲間の1人をどう呼ぼうが、彼らが聖なる財団の命令を達成する限りには、屯するオメガの衛兵たちは気にかけなかった。

やがて長老は全員がそろったと判断した。彼女は高座を降り、衣服を繋ぎ止めている帯から1本の巻物を取り出した。

「黙りやがれ!」長老が叫ぶと、Dカーストで一杯の村はお祭り騒ぎをやめた。Dカーストたちの目が長老に注がれ、彼女は無名の牧師によるDカーストへの馴致(Nameless Pastor's Orientation to the D-Caste)の言葉を口にした。

「主なるブライトと彼のすべての聖人と預言者に恵みあれ」長老は続けた。「我らはここに、我らがカースト児らの呼称指定を祝うべく集った。なぜならこのカースト児らはいまや男と女であるために。あとは男と女として指定されるだけである」

長老の声はますます大きくなった。一方でDカーストの女たちが炎から焼き印を取り出し、高台に向かって歩んだ。

「カースト児を男と女とする指定を受け、男と女としての責務を帯びよ! 我らが血筋から先祖の罪を消し去る責務を! 我らが先祖の異教信仰の罪! 我らが勤めによって贖われる異教信仰!」

「我らが血筋から先祖の罪を消し去る責務を! 我らが先祖の異教信仰の罪! 我らが勤めによって贖われる異教信仰!」Dカーストたちは先祖のマントラを先祖の改悛と聖なる財団への服従以来唱えられてきたマントラを繰り返した。

村人の詠唱が途絶えると、長老は巻物の内容を読み始めた。

「今宵のカースト児は1人のみである! 18年前、D-48572946とD-83756246の間にが生まれた。今晩、息子のD-48572946は呼称を指定される。もはやかの者はその父の息子ではない。なぜなら1人の男となるからだ。息子のD-48572946よ、歩み出て汝の指定を受けよ」

ロインクロスのみを身につけて、息子のD-48572946は高座に向けて歩みを進めた。彼が高座に手足を広げて横たわり、仰向けになる間、集まった村民たちは彼に歓声を送り続けた。Dカーストの女たちが彼の胸と右の前膊の上で焼き印を構えた。

「息子のD-48572946よ、汝は男の責務を受け入れ、父とその父と同じく聖なる財団への奉仕を務めるか?」長老が尋ねた。

「はい、長老」息子のD-48572946が応じた。

「なれば斯くあれ。主なるブライトの名において、Dカーストを呼称指定せよ!」長老が宣言した。

2人の正装したDカースト女が素早く焼き印を下ろし、白熱した金属が彼の肉に触れた。息子のD-48572946は苦痛に満ちた叫びを上げたが、Dカーストたちの歓喜と称賛の不協和音に押し流されて聞かれることはなかった。息子の母だけがD-83756246だ目を伏せ、避けられぬ行いに口元を覆った。オメガの衛兵たちは頻繁に行われる典礼を何度も目にしていたので、自分たちの持ち場で身じろぎすることもなかった。

長老が2人のDカースト女に合図を送ると、彼女らは焼き印を持ち上げた。男の右手首と胸に同じ黒ずんだ印が残り、肉から湯気が奔った。今後はこれが彼の指定番号となるだろう。彼はもはや他のDカーストの子どもではない。なぜなら彼自身がDカーストとなるからだ。彼にはこの指定番号が焼き付けられた。

D-34029132

「ただ今より主なるブライトの名において、D-34029132が指定された!」長老が厳かに言った。

「D-34029132!」群衆が繰り返し唱えた。

新たに聖別されたD-34029123は高座から立ち上がり、祝福の声を上げる村人たちを見た。長老が橙色のつなぎを掛けてやると、D-34029132はその成人の印を素早く身に着けた。この間中、オメガの衛兵たちは表情を変えることなく傍観していた。

「黙りやがれ!」長老は注目を集めるべくふたたび叫んだ。「聖なる財団はDカーストに奉仕の試練(Trial of Service)を行うよう求めた。罪人と異教徒の子孫であるDカーストに! 先祖の罪と異教信仰のために悔いねばならぬDカーストに! 己が身で聖なる財団を支えるDカーストに!」

「罪人と異教徒の子孫であるDカーストに! 先祖の罪と異教信仰のために悔いねばならぬDカーストに! 己が身で聖なる財団を支えるDカーストに!」Dカーストの群れは長老の言葉を繰り返した、あたかも牧人につき従う羊のように。

「聖なる財団の呼び声にたれか答う?」長老は尋ねた。「聖なる財団は我らの村からただ1人のDカーストをお探しである」

まだ高座の傍に立っていたD-34029132は、考えることなく手を挙げた。群衆の一部が、新たに認められた大人の稀な自主性に安堵のため息を漏らした。彼の母、D-83756246の目からは涙粒が零れ落ちた。オメガの守衛が前進し、Dカーストたちは上位階級の者たちの前に恭しく後退した。D-34029132は守衛たちに微笑みかけ、彼らに付き添われて歩み去っていった


多くの季節が過ぎ、D-34029132は後見の大聖堂(Overwatch Cathedral)で生き延び、奉仕の試練に留まっていた。勤めは最後の時期の真最中であり、彼の体はその準備が出来ていた。聖博士ら(Holy Doctors)の布告に従い、D-34029132はただの抜け殻のようになるまで数えきれない日々を断食して過ごした。歯も手足の爪もすべて引き抜かれた。それは多くの者が誘惑に屈して自害したためであり、聖博士のプロトコルであり慈悲であった。Dカーストが己や同胞の者を聖博士の許しなく害することは罪であった。

しかし、悲願の成就を目前にしていたため、D-34029132の心は穏やかだった。オメガの守衛が彼を大いなる鎖で縛める間、枢機博士が彼に話しかけた。

「D-34029132よ、汝はなぜ今日ここに召されたか承知しているか?」

「はい、猊下」今や遠い記憶でしかない母からの最後の言葉を思い浮かべ、彼は答えた。

「そうとも、あたしたちは罪人さ。でも主なるブライトは我々を愛しても下さる。主なるブライトが内々で伝えて下さった収容典礼によれば、あのお方はDカーストにのみお宿りになるんだよ」

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