うちの壁の中には女の子が住んでいる。
彼女は僕より背が低く、長い黒髪をしている。彼女は時々、何かの上に立って、僕より背が高いかのように見せかけるのを好む。僕は人より背が高いほうがいいのだけれど、そうしている彼女は嬉しそうだから、彼女には言わないでいる。
彼女は僕とゲームで遊ぶけれど、大抵は僕が勝つ。彼女は僕が勝つと泣き出すことがある。彼女が泣く姿は好きじゃない。それからは、もう彼女が泣かないようにわざと勝たせてあげている。泣いていない彼女が僕は好きだ。
うちの壁の中には男の子が住んでいる。
彼はうぐいす色の目をしていて、背が高い。彼は本当にゲームが上手だ。時々私が勝つけれど、それはきっと彼が私に勝たせてあげているのだと思う。もしかしたら、私のほうが徐々にゲームが上手くなってきているのかも。
うちの壁の中には男の子が住んでいる。
私は彼のほうが若干年下であると気付いた。だから、私のほうが彼より背が低いことに違和感を覚える。私はママに、どうして彼のほうが私より背が高いのか訊いたけど、ママには彼は実在しないんだよって言われた。でも私は彼が実在するって知ってる — 毎晩一緒に遊んでいるんだから。
うちの壁の中には女の子が住んでいる。
パパに話したら、大人になれ、空想上のお友達と遊ぶのはやめろって言われた。でも彼女は空想上の存在じゃない。空想であるなら、どうやって一緒にパタケーキで遊べる? どうやってキャンディランドで勝てるというんだ?
うちの壁の中には女の子が住んでいる。
今日はトランプで遊んだ — ついに彼女が実力で僕に勝った! 今回は勝たせてあげたんじゃないって彼女に言うと、彼女はとても興奮していた。彼女は満面の笑みを見せて、両目を大きく広げて嬉しそうだった。そんな彼女があまりに面白くて、あまりに嬉しそうに見えたから、僕は笑った。だけど、どうして笑うのか彼女には分からなかったから、僕はごめんと言って、もう少しだけ一緒にトランプで遊んだ。彼女がまた僕に勝てたらいいな。
うちの壁の中には男の子が住んでいる。
ついにゲームで彼に勝っちゃった! 本当に嬉しかった! ズルも何もしなかったのに! 私はカードゲームがとても上手なんだと思う。彼は今まで私にカードゲームで勝てていなくて、私たちは何度も対戦した。初めて勝った時、彼は私を笑ったけど、それはきっと良い意味での笑いだったと思う。私が彼に視線を向けるとごめんって言ってたから、きっと悪気はなかったんだろうな。
うちの壁の中には男の子が住んでいる。
今日から高校生活が始まって、私は初日のことを彼に色々と話した。彼はとても興味深そうにしていた。あまり知り合いがいなかったから、明日がどれだけ不安か彼に伝えた — 彼はこれで力になれたらと言って、私をハグしてくれた。暖かくて力強い、良いハグをしてくれた。またすぐにでもハグがしたいな。
うちの壁の中には女の子が住んでいる。
今日は彼女の高校生活の初日だった。僕はそれがどれほど奇妙に感じることなのだろうかと考えずにはいられなかった。その日の夜、彼女が今日のことについて色々と話してくれた。これほど大きな学校で自分がいかにちっぽけに感じたかとか、誰も知り合いがいなかったとか。彼女が悲しんでいると知って、僕も悲しく感じた — 僕は彼女をハグした。彼女はやわらかくて、暖かくて、抱きしめていて心地よかった。
うちの壁の中には女の子が住んでいる。
今日、彼女は僕の高校生活初日について色々と助言をくれて、それが本当に役に立った。ロッカーが見つからなかった時や、昼食で相席になる人がいなかった時に、アドバイスのおかげでパニックにならずに済んだと彼女に伝えた。その夜、彼女は体操服を着ていたけれど、それでも可愛らしく見えた。彼女は初めて僕を自分の部屋に招き入れてくれて、僕たちは床に座って話をしたり、互いに宿題を手伝い合ったりした。正しい回答を導けるよう手伝うと、彼女は微笑んだ。良い笑顔だった。
うちの壁の中には男の子が住んでいる。
2年生に進級するのがどれほど怖いか、彼には言っていなかった。彼は今日で1年生になるから、私は彼にできる限り自分のことに集中して欲しかった。私が体育の授業で着替えた時に、去年から嫌がらせをしてくるあの女子に制服を盗まれた — その日一日は体操服で過ごさないといけなくなった。それでも彼は私のことを可愛いと言ってくれた。私は彼を自分の部屋に招き入れて、一緒に宿題をした。
うちの壁の中には男の子が住んでいる。
あの嫌がらせをしてくる女子が私のリュックを盗んでトイレに置いた。今日は学校で泣いて、家に帰ってからも泣いた。彼にそのことを話したら、彼は怒った顔をして、自分の部屋に私を招き入れた。彼は私をハグして、私がそれを乗り越えられるよう協力するって言ってくれた。私は彼の腕の中で安心した。彼と一緒だと安心を感じる。
うちの壁の中には女の子が住んでいる。
今日は彼女が嫌がらせを受けていると知った。こんなに怒りを覚えたのは生まれて初めてだ。僕は彼女を守りたい。彼女には幸せであり続けてほしい。苦しむ彼女を見るのは嫌だ。僕は彼女を強く抱きしめ、彼女が解決できるよう協力させてほしいと言った。僕は彼女の頭の上に自分の頭を預けた。彼女の髪は柔らかくて、バニラのような香りがする。
うちの壁の中には女の子が住んでいる。
彼女はストロベリーの口紅のような味がする。
うちの壁の中には男の子が住んでいる。
彼の唇は柔らかくて、彼の髪はふさふさしている。
うちの壁の中には男の子が住んでいる。
今日の夜は彼のベッドで眠った。
うちの壁の中には女の子が住んでいる。
彼女の肌は滑らかで、彼女の瞳は緑色をしていて鋭い。眠った彼女の姿も綺麗だ。
うちの壁の中には女の子が住んでいる。
今日、父さんが壁の中へ帰っていく彼女を見た。
うちの壁の中には男の子が住んでいる。
彼の父親は警察を呼んだ。
うちの壁の中には女の子が住んでいる。
警察じゃない人が来た時、彼女は以前にも増して怯えて見えた。
うちの壁の中には男の子が住んでいた。
かつて彼と会っていた場所には、冷たい金属製の障壁がある。
今朝は寝坊した。その日は日曜日だった。
うちの壁の中には男の子が住んでいた。
私が泣いても、そこに彼はいなかった。
日曜日はいつだって最悪だ。父さんが僕を教会に行かせるから。
うちの壁の中には男の子が住んでいた。
彼はもういない。