情報交換
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「境界線イニシアチブはここ南米にはあまり多くのエージェントやリソースを有していないはずだと予想はしていたが、今回の取引で確信が持てた」

「彼らは何よりも情報収集に熱心のようだね」

「その通り」

「受け渡しは教会で?」

「ああ、ラス・ペーニャス聖母教区教会、数ヶ月前に例の異常植物が現れたのと同じ場所だ。まだ再建中だった。何しろ現場に駆け付けた時、GOCはいつもの如く植物と一緒に教会も半分焼き払ったからな」

「揉めなかった?」

「ああ、だが危ういところだった。エージェント ペラルタを同伴したんだが — あいつが福音派だなんて知ってたか? 俺に向かって、数分間ずっと“バビロンの大淫婦”だの“ローマ教皇という反キリスト”だの“バチカンが座す七つの丘に対応する七本の角を備えた獣”だのと話し続けたんだ。だから口を閉じて何も言うなと命令しておいた」

「…よく分からない」

「福音主義の教派は一般的に — あくまでも一般論だぞ — カトリック教会をあまり高く評価しない。真のキリスト教徒と見做さないか、時には公然たる悪魔崇拝者呼ばわりする」

「あぁ、成程、いつものバカバカしい揉め事。僕から見るとキリスト教徒はみんな同じなんだけどね。ペラルタが面倒事を起こしたの?」

「いや、イニシアチブの代表団が来ても一言も言わなかったが、ひたすらロボス神父を凝視していた — 憎しみを込めて睨み付け、居心地の悪い思いをさせようとしていたが、神父は気付かなかったか、少なくとも気付かないふりをしたようだ」

「神父が来たのかい?」

「2人来たんだ。カトリックの司祭であるロボス神父と、もう1人の男は恐らく民間人で、エージェント ナランハオレンジと自己紹介した — いや、冗談じゃないぞ。どちらも非常にフレンドリーだったよ。執務室で会い — 神父の部屋だったんだと思う — 軽く話し合った。情報交換のプロトコルは数日前に合意済みだったから、本格的な議論は不要だった。

向こうのUSBメモリを受け取り、こっちのを引き渡し、セキュリティコードを交換した。ごく単純だった、少なくとも俺たちにとってはな。パスワードを入力し、ブービートラップとウィルスを幾つか無効化すると、完璧なスペイン語と英語でイニシアチブ側の情報が手に入った。一方俺たちのデータは、まずヴィジュネル、次にSHA-1で二重暗号化が施されていた — ウチのIT部門の偏執ぶりときたら相当だぞ」

「それで?」

「今回の財団とイニシアチブの連携が、“神がそうお望みになるならば”、実りあるものでありますようにってロボス神父が大いに祈りを捧げてくれて、あとは握手して別れた」

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境界線イニシアチブの資格を確認…
保護された情報にアクセス…

黒月教団: チリ北部のイキケ市で活動する悪魔崇拝の実践者集団。信者は50名以下。慣習には夜間の“黒ミサ”の開催や、時折捧げられる家畜 (イヌやネコ) の生贄が含まれる。異常なアーティファクトを所有していない。彼らの儀式は — 少なくとも“黒のヴォイヴォダ”と呼ばれる教団指導者の男性にとっては — 未成年者 (青少年) が参加している可能性のある乱交を行う口実に過ぎない疑惑がある。現在の状態: 活動中。脅威レベル: 低。

実り多きサンタマリア教会: カトリック信仰とパチャママ (インカ神話の地母神) 崇拝の習合を行い、聖母マリアを農耕及び一般農民の生活様式の守護者と見做すカルト教団。慣習には作物の播種が予定されている土地にマリア像を埋める行為が含まれる。ボリビアの農村部で非常に人気を集めており、信者数は不明だが少なくとも数千名に及ぶと思われる。異常なアーティファクトを所有していない。現在の状態: 活動中。脅威レベル: 極小。

「ワオ、これっていかにも偉大なる緑の神のカルトっぽくない?」

「自然崇拝は歴史を通じて多種多様な文化に存在してきた。それに、このカルトはカトリックと土着信仰の混淆で、古代エジプトとはあまり関係ない」

「でも調べるに越したことはないさ…」

ガルデリアニアン/ガルデリアニスト: 1935年に死亡した著名なアルゼンチンの俳優・タンゴ歌手のカルロス・ガルデルは、実際には飛行機事故で死亡しておらず、人類に叡智を授けるためにくじら座タウ星からやって来た“魂の具現体”だったとする“UFOカルト”1の信者たち。ガルデルの肉体は破壊されたものの、いずれ彼は転生して万人に平和と繁栄の時代をもたらすと主張している。現在の状態: 現存せず。最終活動年: 1987年。

“ヤコブ”: “ペニャロレン(チリ)の預言者”という異名で広く知られている。本名 ウーゴ・ムニョス。1990年代初頭に神秘的な啓示を体験したという小宗派 (約30名) の指導者。神によって妻として遣わされた女性たちの罪を清めるよう命じられ、神聖な結婚生活の中で性的関係を結んだと主張している。一度逮捕されたものの、女性たちが全員自発的に彼の傍に留まっていたことが証明され、後日釈放された。現在7名の“妻”と31名の子供がいる。現在の状態: 活動中。脅威レベル: 極小。

ネダラ: 名称は“解放”を意味するヘブライ語に由来するとされる。ユダヤ教のカバラとヒンズー教の要素を融合させたチリ北部発祥の宗派。信者は十数名を超えない。1983年、3名の信者が儀式的な焼身自殺を遂げ、これが当宗派の既知の最後の活動となった。現在の状態: 現存せず。

愛と歓びの子ら: 戦争の恐怖に直面した後、神の啓示を経験したというコロンビア革命軍の元メンバーが、1983年にコロンビアで設立した教団。活動は愛を説き、その愛をあらゆる形式で表現し、共同生活を送り、菜食主義と平和主義を実践することを信条としていた。農業コミューンで300名が生活するまでに発展したが、“子から親への愛を表現する手段”と称して近親相姦や未成年 (12歳~) との性行為を奨励していたことが発覚し、1996年にコロンビア警察の強制捜査の対象となった。指導者は失踪し、成人16名が性的虐待の罪でそれぞれ異なる判決を受けた。現在の状態: 恐らく現存せず。最終活動年: 2007年。

「大多数は変人か、変態か、さもなきゃ変態変人の集まりで、異常なアーティファクトや実体とは全く関係ないじゃないか。こんなのは役に立たないよ」

「異常だろうとそうでなかろうと、この手の輩はイニシアチブの活動の範疇に含まれるんだろう」

聖なる緩歩動物の神殿: ウルグアイのモンテビデオに居住し、緩歩動物2を崇拝する50名以下の集団。乾眠3に入る能力を持つ緩歩動物を復活の象徴と捉えている。儀式には、ハチミツとココナッツミルクを使用し、生きながらの奇妙な“ミイラ化”を通して乾眠現象の再現を試みることなどが含まれる。1匹の巨視的なサイズの緩歩動物の“遺骸” — 体長約3m — を所有しており、それを“救世主”と見做して早期の復活を待望している。現在の状態: 活動中。脅威レベル: 未確定。

黒の方舟: 詳細はファイルAmerican/Haeresim3627-Dを参照。

複数の異常なアーティファクトを所持している可能性あり。

現在の状態: 活動していない。

脅威レベル: 無。

永久なる調和の教会: 神の啓示を受け、真の聖性は婚姻関係の内外を問わず、あらゆる性的欲望を徹底的に抑制することでのみ達成できると結論づけた元福音派牧師によって創設された集団。1965年、この教会の信者300名がアルゼンチンのミシオネス州に自給自足の農業共同体を創設し、あらゆる形態の性行為を禁じる価値観に従って生活した。出生率が0であり、新しい信者が入信しなかったため、人数は時間と共に減少した。現在の教会の信者は4名で、いずれも高齢である。“娼婦タマルの福音書”として知られる、読者のあらゆる形態の性的欲求を消去する異常なアーティファクトを所有している。現在の状態: 活動中だが、ごく短期しか存続しないと推定される。脅威レベル: 極小。

「“真の聖性はホニャララでのみ達成できる”… これってカトリック教会が2,000年間言い続けてきたことと同じじゃない?」

「多かれ少なかれそうだ — カトリックは結婚した夫婦間での性行為しか認めていない」

「侍者の男の子たちともね」

「…」

「オーケイ、こういうジョークはもう控えるよ」

蔓の子供たち: ごく最近結成された自然崇拝者の一派 — 最初期の報告は1970年代まで遡るが、2000年以降、南米で急成長している。植物や自然と関連付けられる“偉大なる緑の神”と呼ばれる実体を崇拝している。儀式は森で — 通常は“生命の樹”という異常な植物実体の周囲で — 執り行われ、“緑の男”と呼ばれる司祭に取り仕切られる。アルゼンチンのフフイ州には約50名の信者を擁する大規模な教団があり、チリ、コロンビア、ブラジルにも複数の小規模集団 (信者は40名以下) が存在する。非常に細分化された教派であり、各集団間の強い結びつきは無いが、いずれも“母なる大地の保護”を極端なまでに重視する特徴があり、環境保護テロリズムを行っている他、報告によれば、“蔓の子供たち”が自然への脅威と見做す伐採業や採鉱業に関連する実業家を暗殺している。現在の状態: 活動中。脅威レベル: 極高。

「おいおい…」

「どうした?」

「マジな話、どうして僕らが知らなかったのに彼らは知ってるんだ?」

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