イスラム複素経済とその応用
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イスラム複素経済とその応用

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pimapsto23
2074.05.11 00:09

ヴェールが捲られ、価値観が多様化してからもイスラム教は多くの人に信仰されている。世界人口の四分の一をイスラム教徒が占めていたり、ドルとディナールのレートの「ずれ」の値の増加など、イスラム世界は大きな影響力を持っている。

そんなイスラム圏では、イスラム教の聖典であるクルアーンの教えが経済にも大きな影響を与えている。現世利益の肯定、利子の禁止といった教えによりヴェール崩壊以前からイスラム圏は独自の経済システムを有していたが、経済が複素化したことにより更なる発展を見せているのだ。

イスラム経済では複素経済独自の概念である「偏角」が重要視されており、その手法はイスラム圏のみならず、世界的に応用しようという動きが活発である。

このイスラム経済は最近の経済の動向を見るのに欠かせない概念となっているため、今回初歩的側面から解説していくこととする。

前提知識について

無くても読むことはできるだろう。特にイスラム教に関する知識と近年の社会情勢、現代史に関する知識は一から述べていく。参照性を上げるためにリンクをいくつか付与しているが、基本的に読まなくても構わない。また数学に詳しくない場合、数式を飛ばして図や本文のみを読んでも概要はつかめるだろう。

しかし、複素経済については基本的に他の標準的な解説などを参照しておいたほうが読みやすいと思う。選好関係と共変価値観を理解していれば十分である。ただし、数式的定義についてはここで改めて述べるので、暗記していなくとも構わない。

解説としては、miemb0303氏の複素経済のあれこれは初読者にもわかりやすく書かれているためおすすめできる。

イスラム複素経済とは

読者のうちで、タイトルを読んで以下のような疑問を持った方は多いだろう。

「なぜイスラム複素経済を考えるのか」
「そもそも宗教と経済になんの関係があるのか」

基礎知識の解説や本題に入る前に、上の疑問に答えておきたい。

まず、イスラム教と経済のかかわりについて。これは主に次の二点が理由である。

  • リバー1の禁止やザカート(喜捨)など、イスラム教には金銭に関わる教えがある。
  • 多くの人が共通した価値観を持っている。

そもそもイスラム経済とは、ヴェール崩壊以前から存在するものである。例えば資本主義における銀行制度は、リバーの禁止というイスラムの教えにそぐわない。このような問題を解消するために、資本主義とも社会主義とも異なる独自の経済システムが導入されてきた。

イスラム銀行はこのようなシステムの最も代表的な例である。利子の追求を目的としない銀行として運営するための様々な方法が生み出されてきた。この方法にはムダーラバやムラーバハ2といったものがある。

そして経済の複素化は、従来のイスラム経済になかったものを齎した。1998年以降の価値観の多様化によって実数の範囲のみでは経済に支障が出たことにより、世界的経済が複素数の範囲まで拡張されていった。そんな複素経済においては、人々の価値観の多様性が偏角の違いとして現れる。

しかしイスラム圏においては多くの人がイスラム的価値観を共通して持っている上に、経済と宗教のかかわりが強い。さらには種々の禁忌のような特殊な価値観を持つ人々もいる。イスラム教の社会的影響力もあり、イスラム複素経済は価値観の共通した社会や禁忌をもつ人々に対する経済的アプローチの研究で世界を牽引しているのだ。

しかも、イスラム複素経済の知識は決してイスラム圏でしか使えないものではない。偏角利子は、優秀な利子の形態として他地域でも導入されたり、通常の利子制度と複合した新たな制度が生まれたりしている。価値観の共通した人々に対するアプローチも、イスラム教的価値観に限らず、別の価値観を共有した人たちにも応用できる。

簡単のために基本的にはイスラム社会での例に限定して述べていくが、適宜我々の経済的活動への応用も紹介していくので、イスラム教に関わりのない方であっても是非読んでみてもらいたい。

イスラム教の基礎知識

国・地域: 中東、北アフリカ、東南アジアなど
信仰対象: 唯一神アッラー
聖典: クルアーン
教義: 六信五行の実践
成立年: 610年

複素経済に関する基礎知識

上述の通り、詳しくは述べず、定義については適宜説明していくこととする。

ただし、当ページで頻繁に用いる偏角の概念とその計算については、基礎的な解説を見ても言及が少ないものが多いため(通常の複素経済ではあまり偏角に関する計算を行わないため当然ではあるが)、はじめに解説をしておく。

複素数の計算

以下の条件

(1)
\begin{equation} i^2 = -1 \end{equation}

を満たす数である、虚数単位$i$を導入する。

これと$a,b \in \mathbb{R}$34を用いて表される数

(2)
\begin{equation} a+bi \end{equation}

を複素数と呼ぶ。

複素数の四則演算については、$i^2 = -1$に注意すれば$i$を変数$x$と同様に扱ってよい。すなわち、

(3)
\begin{align} (a+bi) + (c+di) & = (a+c) + (b+d)i \\ (a+bi)(c+di) & = ac+bci+adi+bdi^2 \\ & = (ac-bd)+(ad+bc)i \end{align}

複素数平面

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上のように、複素数$a+bi$を二次元平面内に対応させる。この平面を「複素数平面」と呼ぶ。ここで、イスラム経済にとって最も重要な概念の一つ、偏角を導入する。

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偏角とは、上の画像における実軸からの角度$\theta$の値である。また矢印の長さ$r = \sqrt{a^2+b^2}$を絶対値といい、この二つを合わせて

(4)
\begin{align} a + bi &= r(\cos \theta + i \sin \theta) \\ &= r \operatorname{cis} \theta \end{align}

と表すことができる。

複素経済では、絶対値が商品の労働価値を、偏角が商品の効用価値を表す。

また、複素数を偏角で表すことで、複素数の乗法を簡潔に書けるようになる。すなわち、

(5)
\begin{align} r_1 \operatorname{cis} \theta \cdot r_2 \operatorname{cis} \phi = r_1r_2 \operatorname{cis} (\theta+\phi) \end{align}

となる。この式は式3と三角関数の加法定理より簡単に示せるので、余裕のある読者は実際に計算してみるとよい。

また特に、複素数$z$の偏角を$\arg(z)$と定義すると、

(6)
\begin{align} \arg (z_1z_2) = \arg(z_1) + \arg(z_2) \end{align}

となる。

これを図形的にみると、以下のようになる。

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つまり、$z = \operatorname{cis} \phi$を複素数に掛けることは、複素数平面上で$\phi$回転させることに相当する。

また、$r$をかけることは絶対値を$r$倍すること、すなわち$r$倍に拡大することを表す。どんな複素数も$r \operatorname{cis} \phi$の形で表せるため、複素数をかけることは、複素数平面上で$r$倍に拡大しながら$\phi$回転させることに相当する。

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この考え方はこの記事で複数回用いるため、是非念頭に置いてもらいたい。

複素経済について

複素経済では、財は複素数で表される。また価値観も複素数により定義され、財と価値観をもとに効用が決定されている。効用の求め方には複数の手法があるが、基本的には財や価値観の絶対値が大きく、二つの偏角が近いほど効用が大きくなることが多い。今回は共変価値観という効用の求め方を用いることとする。

イスラム偏角について

導入で述べたように、イスラム教を信仰する人々の間に共通する価値観がある。この価値観に対応する偏角を、イスラム偏角、$\theta_{I}$と呼ぼう。

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ほとんどの信者はイスラム的価値観"だけ"を持つわけではない。また、宗派によってわずかに価値観も異なり、完全にイスラム偏角と個人の宗教的価値観が一致するわけでもない。したがって、標準的な信者の価値観は、以下のようになるだろう。

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ザカート・サダカ

さて、いよいよ本題に入ろう。まずはイスラム複素経済の特徴が分かりやすい、簡単な例から始めよう。ザカートとサダカ5である。

ザカート・サダカとは、財産の一部を神に納め、貧しい人々や修行者の援助に用いる制度である。ザカートは義務的なものを、サダカは自発的なものを指し、ザカートとサダカをまとめて喜捨と呼ぶ。厳密には少し異なるが、ザカートは税金、サダカは寄付をイメージすると分かりやすいかもしれない。

この制度について、価値観がバラバラである社会における税金・寄付と、イスラム的価値観の共通した社会におけるザカート・サダカでは大きく異なる点がある。図をもとに解説しよう。

複素経済では、人々の価値観が大きく異なるため、全員に同じ絶対値と偏角を持つ財を分配するのは平等ではなく、複素羨望最適、という状態を目指して分配する。しかし、通常の複素経済では、これを満たすことは簡単ではない。以下の図の黒線の財を赤線の価値観を持つ人々に分配すると考えると、その難しさが分かるだろう。

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一方、多くの人々が共通した価値観を持った社会では、分配はずっと楽になる。集まる財とそれを分配される人々の価値観がおおむね一致しているため、完全に同じではないにせよ、実経済と大きな差は生まれない。絶対値にのみ着目して分配した後、偏角を考慮して調整すれば簡単に最適化できる。

上の図(通常の複素経済)と下の図(イスラム複素経済)ではどちらが最適化の計算が楽かを考えると分かりやすい。

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勿論、この方法も完璧ではない。イスラム的偏角を持つ財がすべての信者にとってプラスになるとは限らないからである。以下の画像の赤矢印のような二本の価値観ベクトルを持つ人にとって、黒の財を与えたとしても効用はプラスとはならない。

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したがって、個人個人の価値観に合わせて柔軟に対応することは必須ではある。しかしながら優秀な分配の方法であることは疑いようがなく、新たな分配の形として非イスラム圏にも多大な影響を及ぼしている。

ザカート・サダカについての研究が進み、分配計算の簡略化が進んだことで、非イスラム圏でもこの考え方が応用されるようになった。

例えば、偏角ごとに配布先をいくつかのグループに分けてその中で分配を完結させることで計算を簡潔にする方法がある。

全体の複素羨望最適を求める複雑な計算を、以下の図のように同じ偏角を持つ人々のグループ数個に分けると、それぞれのグループ内ではザカート・サダカの分配のように複素羨望最適を簡単に求めることができる。

この方法での分配は必ずしも複素羨望最適を満たさないが、うまく分割することで複素羨望最適との誤差が一定以内に収まることが証明されている。[1]この方法を偏角分割複素羨望最適化という。神格シミュレーションの発展も相まって、現在では複素羨望最適を満たす分配はほぼ達成できている。

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禁忌選好

イスラム教においては、豚を食べることやアルコールを飲むこと、偶像を崇拝することなどが禁忌とされている。これらの禁忌に対応する価値が複素数平面においておおむねイスラム偏角の逆方向にあるため、この偏角を持つ財そのものが強く忌避されることがある。またイスラム教に限らず、ヒンドゥー教において牛を食べることなど、特定の行動が禁忌とされているパターンは数多く存在している。

これが複素経済における選好関係において大きな変化をもたらす。この選好関係について見ていこう。

禁忌財の定義

財からその効用への写像を$f$とする。つまり、$f:z \mapsto f(z)$のとき、$z$は財を、$f(z)$は財$z$の効用、すなわち財$z$をもらってどれぐらい嬉しいかを表す。

ここで、$z$が「禁忌財」であるとは、「$z$でないすべての財$w \in \mathbb{C}$に対して、$f(z) \ngeq f(w)$」となることを指す。6簡単に言うと、$z$が禁忌財であるとき、他のどんな財$w$と比較しても$z$の効用が$w$以上になることはない、ということである。

他の何よりも強く忌避する、という禁忌の意味にそぐう定義であろう。これを$f(z) = -\infty_{z}$と表記することもある。7

また、禁忌財全体の集合$A$を、"禁忌集合"もしくは"禁忌領域"とよぶ。

選好関係と禁忌財についての関係や厳密な数学的構成はこの章の最後で触れることとしたい。

禁忌領域の例

禁忌領域について、実例をいくつか見ていく。

  • 偏角禁忌
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図の網掛け部が禁忌領域に該当する。上はあるイスラム教徒の禁忌領域である。イスラム偏角と逆の偏角を持つ財を禁忌としていることが見て取れる。禁忌領域として最も普遍的な例である。

  • 弱偏角禁忌
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偏角禁忌のうち、絶対値の大きい財のみを禁忌とするパターンである。

  • 安価禁忌
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絶対値の低い財、つまり安い商品を禁忌とするパターンである。劣等感やプライドの影響で安物を極端に嫌い、安価禁忌を持つようになることが多い。

禁忌選好をなぜ学ぶか

禁忌選好は、非常に珍しい選好であることは述べておきたい。禁忌選好を持つ人々にとって、禁忌を破るくらいなら死んだほうがましなのである。8

しかしながら、ここまで強く何かを忌避するというのはかなり珍しい。イスラム教徒でも偏角禁忌をもつのはごく一部の敬虔な教徒に限られる。

禁忌選好について知っておくことの重要性についても、触れておこう。

禁忌選好を持つ人は、もし何らかの理由で禁忌に当たる財を手に入れてしまった場合、どんなに損をしてでもそれを手放そうとする。予想もしないような方法で手放そうとして混乱が生じたり、その過程で大きな金額が動くことがある。

過去には、ある商品に豚由来の酵素が使用され、どんなに高額の賠償を提案しても許可されなかった9事例がある。禁忌選好についての理解が広まっていなかった複素経済黎明期には、実際にこのようなトラブルがしばしば発生していた。

禁忌と選好関係についての知識を持っていれば、禁忌選好によって起こりうる事態を予期して対策したり回避したりすることにつながるだろう。

禁忌選好と数学的構成

選好関係について一から考えていくことで、禁忌選好に関する理解を深めておこう。

以下の4つの命題の真偽を考える。

(i) すべての財$z \in \mathbb{C}$について、$f(z) \leq f(z)$。(選択肢の同一性)

(ii)すべての財$z,w \in \mathbb{C}$について、$f(z) \leq f(w)$$f(z) \geq f(w)$の少なくとも一方が成り立つ。(全順序性、完備性)

(iii)すべての財$z,w,x \in \mathbb{C}$について、$f(z) \leq f(w)$かつ$f(w) \leq f(x)$ならば、$f(z) \leq f(x)$。(効用の推移律)

(iv)すべての財$z,w \in \mathbb{C}$と実数$\alpha,\beta$について、$f(\alpha z+\beta w) = \alpha f(z) + \beta f(w)$。(効用の線型性)

(i),(ii),(iii)については複素経済の解説書のほとんどに記載されているような、選好関係についての基礎的命題である。(iv)については見慣れないかもしれないが、線形性が担保されていると種々の計算が非常に楽になる10ため、実用上非常に重要な命題である。

この(i)~(iv)について、実経済では(i)~(iv)すべてが、一般的な複素経済では(i),(ii),(iv)が成り立つ。では、禁忌選好がある複素経済ではどうなるであろうか。

まず、(i)の選択肢の同一性は変わらず成り立つ。禁忌があってもなくても、選択肢の同一性は不変である。

次に、(ii)の全順序性だが、これは禁忌選好では成り立たないことがある。

禁忌領域に含まれた財$z,w (z \neq w)$を考える。すなわち$f(z) = - \infty_{z}$$f(w) = - \infty_{w}$である。このとき、$- \infty_{z}$$- \infty_{w}$は異なる値であり、定義通り$f(z)$$f(w)$を比較すると、$f(z) \nleq f(w)$かつ$f(z) \ngeq f(w)$となる。

この2つを見比べると、(ii)が成り立たないことが分かるだろう。

勘の鋭い方は、禁忌財の定義で$<$でなく$\ngeq$と表記していたのが気になったかもしれない。実は、$A < B$$A \ngeq B$が同値であるのは(ii)が成り立つときに限るため、今回の例ではこの2つの式は違うものを指すのだ。

(iii)の前に(iv)の効用の線形性を考えよう。実は、禁忌選好がある場合、(iv)も成り立たない。

$z,w \in \mathbb{C}$について、$z,w$は禁忌財ではないが、$z+w$は禁忌財である場合を考えよう。($\alpha = \beta = 1$である。図解すると以下のようになる。)このとき$f(z) + f(w) \nleq f(z+w)$であるため、$f(z) + f(w)$$f(z + w)$は等しくない。以下のように図解すると分かりやすいだろう。

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最後に(iii)の効用の推移律である。(iii)は複素経済においても成り立たないのだから、今回の例でも当然成り立たない。しかし、これでは(ii)も(iii)も(iv)も成り立たないため、禁忌選好について考えることが難しくなってしまう。そこで、偏角禁忌の場合に限り、近似的に(iii)が成り立つと考える方法がある。

偏角禁忌を持つ人は、価値観が禁忌と逆方向に偏っている場合がほとんどである。そこで、この方向の価値観以外を無視して、財ベクトルから価値観ベクトルへの正射影の長さを基準として効用を定義することができる。

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黒は財ベクトル、赤は価値観ベクトルを表す。この図の二本の価値観ベクトルのそれぞれに対して、{点線の交わった位置}×{価値観ベクトルの長さ}が本来の意味での共変価値観である。しかし、この2本のベクトルの長さには大きな差があるため、11長いほうのベクトルにのみ着目し、{青ベクトルの長さ}×{価値観ベクトルの長さ}で効用を定義する。

以上の議論により、(i)~(iv)のうち禁忌選好がある場合は(i),(iii)が成り立つことが示された。

(i)の同一性、(iii)の推移律と反対称律12を満たす順序を持った集合を"半順序集合"といい、集合の包含関係、スサノヲロジーにおける動的性質に関わる量の比較、多重現実間の比較など、数学の多くの分野で使用されている概念である。

偏角利子

リバーとその解釈

リバーとは、イスラム教において、利子をはじめとした不労所得全般を指す言葉である。リバーはクルアーンによってはっきりと禁止とされているが、何をリバーとみなすのかにはいくつかの解釈があった。

実経済では、利子のうち高利のもののみリバーとする解釈と、利子全てをリバーとみなす解釈があった。しかしながら利子全てをリバーとみなす意見が多く、複素経済導入以前のイスラム銀行のほとんどは無利子で運営されていた。

一方複素経済では、利子は利率$\gamma$と角利率$\phi$を用いて以下のように表される。

(7)
\begin{align} z_{n+1} = (1+\frac{\gamma}{100}) \operatorname{cis}\phi \cdot z_{n} \end{align}

イスラム教において利率$\gamma$は実経済と同様にリバーとみなされることが多い。一方で、角利率$\phi$はリバーとはみなされないことが多い。$\operatorname{cis} \phi$をかけることは複素数平面上で回転にあたり、財の絶対値を大きくしているわけではない、というのが主な理由である。

しかし、$\operatorname{cis} \phi$をかけ続けるだけでは利子の影響は小さい。そこで、状況によって$\phi$を変化させる、つまり$\phi$$z_{n}$や時間$t$などに依存する変数とすることで財の偏角を自らの価値観に近づけて効用を得る方法が考案された。これを偏角利子という。

これに対して、角利率が定数である利子を、偏角利子に対して定角利子と区別して呼ぶことがある。

偏角利子をリバーとみなす意見もみられたものの、基本的にはリバーでないとされることが多い。

標準偏角利子

まずは最初に考案された偏角利子である、標準偏角利子について見ていこう。

$\phi$$\theta_n = \arg z_n$の関数、$\phi (\theta_n)$とみなす。ここで、$\theta_n$がイスラム偏角$\theta_I$に近ければ近いほど$\phi (\theta_n)$が小さくなるように定める。

つまり、財が預金者の価値観に合っているときは偏角の変化量を小さくし、合っていないときは変化を大きくすることで、より長い期間財と価値観の偏角が近づくように調整することができる。

複素数平面において$z_n$の変遷を見ると、以下のようになる。

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角利によって反時計回りに点が移動している。$\theta_I$の周りに点が密集しているのがよく分かるだろう。

$\theta_n$$\phi (\theta_n)$の関係もグラフに表しておこう。

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いろいろな偏角利子

偏角利子は、角利率を操作するという斬新な発想で世界的な広がりを見せた。標準偏角利子以外にも様々な偏角利子が生まれている。中にはイスラム教徒には利用できないようなものもあるが、イスラム複素経済の考え方が世界的に広まった実例として、紹介しておきたい。

複合利子

表式: $\gamma > 0, \phi = \phi(\theta_n)$

定角利子と標準偏角利子を組み合わせた利子である。利率$\gamma$は定角利子より小さめに、角利率$\phi$の値域は標準偏角利子よりも小さめに設定されることが多い。複素数平面上では以下のように変遷する。$\theta_n$$\phi$の関係は標準偏角利子と同じである。13

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時間利子

表式: $\gamma \geq 0, \phi = \phi(t)$

$t$が大きくなるほど$\phi$が小さくなる利子。最初の変化量が大きいため、禁忌財などをできるだけ早く手放したいときに利用されることが多い。一方で最終的に最大$\int_{0}^{\infty} \phi(t) dt$しか回転しないため、長期的利益はほとんどない。

複素数平面上での変遷と、$\phi(t)$のグラフは以下の通り。

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偏角利子に対する反応

偏角利子についてどう思うか、実際の声をいくつか見てみよう。

Aさん(27歳、会社員)

──偏角利子は利用されていますか?
はい。就職したときから預金はすべて偏角利子を利用しています。
──偏角利子を選んだ決め手は何でしょうか?
ええと、一番は不要な方向の偏角を有効活用できることですね。私、最近のものにあまり馴染めなくて。それで、現代的な偏角の財を持ってても使えないんですよね。
──昔のものを比較的好む、ということですね。
はい。それで、絶対値は大きくなくていいけど昔の価値観ベクトルに合った財が欲しい。だから偏角利子を使っています。
──なるほど。
あとは、景気変化の影響が少ないですね。インフレしてお金の価値が下がっても、自身の価値観にあった財があればそこまで困らないんですよ。
──では、今後も偏角利子を使い続けたいと思いますか?
勿論です。

Bさん(25歳、フリーター)

──偏角利子は利用していますか?
僕は利用してないですね。
──それはなぜでしょうか。
僕、こだわりがないんですよね。価値観がよく変わるので、偏角より絶対値のほうを重要視しているんですよ。
──定角利子のほうが利率が高いですもんね。
はい。でも、偏角利子の制度自体はいい制度だと思いますよ。
──というと?
僕の周りでも偏角利子を使ってる人はたくさんいますし。それぞれが自分にあった利子制度を利用できるようになったのはいいことですよね。

Cさん(29歳、会社員)

──偏角利子は利用していますか?
昔は複合利子を利用していましたが、今は定角利子を使っています。
──何か変えるきっかけがあったのですか?
はい。親戚の子供がAFC14になって、いろいろと差別を受けたんです。それで差別反対運動を始めて、私の価値観が大きく変わったんですよね。
──そんなことが。
それで、これまで偏角利子で貯めていた財が、自分の価値観とまるで異なるものになってしまって。偏角利子って絶対値があまり増えないので、価値観の違う、絶対値の小さいお金だけが手元に残ったんです。
──それで定角利子を使い始めたと。
はい。また価値観が変わったらどうしようと考えると、偏角利子は使いたくなくなりました。価値観が変わったとしても絶対値が大きいことは無駄になりませんから。

まとめ

本記事では、喜捨、禁忌選好、偏角利子と、イスラム経済での重要テーマをいくつか見ていった。その3つを通して、イスラム複素経済では偏角が重要視されていること、そしてその考え方や手法が世界中で応用されていることを説明してきた。

イスラム複素経済は、従来のどの経済システムとも異なる、独自の経済システムである。もちろんその考え方には宗教的価値観が大きく影響しているため、世界中でイスラム複素経済がそのまま導入されることは無いだろう。しかし、イスラム複素経済は、経済学における新星の一つとして新たな手法をいくつも生み出し、経済の発展に一役買っているのだ。


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趣味で数学やってます。全道州訪問チャレンジ中。

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