[タイプ音・筆記音]
「そういえばさぁ」
「なんでしょう」
「ジョーク報告書って、どんくらい知ってる?」
「……どういうものかは知っています」
「ほーん? どういう風に聞いてる?」
「SCP報告書の形式をとる、コメディ小説のようなものですね。直轄の部下に報告書のフォーマットを教えるときに使うとか、歓迎会で紹介して新人職員をおどかすのに使うとか、ギャグとして仲間内で笑い合うためだとか、いろいろと書く理由はあると聞いています」
「読んだことは?」
「……一応、あります。ただ、私にはいまひとつ面白さが理解できなくて、前の部署で話題になっていたものをいくつか、概要だけ知っている程度です」
「共振パンチ!!!! とか?」
「有名なものですね。特殊拳法を振るう財団の話だったと思います」
「そうそう、そんなかんじ。あれが使えたら、俺ら現場職もかなり楽できるだろうになあ……」
「……それで、なぜその話を私にするんです?」
「んん……それなんだがな。このあいだ俺に聞いてきた話、あったろ?」
「ああ……先週『仕事の参考にできるような文書を教えてほしい』とお願いした件ですか?」
「そうそう、『私のクリアランスレベルで読める報告書がなくなってしまったので~』てやつ」
「……まさか、ジョークを参考にしろっていうんですか?」
「イエス」
「冗談じゃないですね」
「いやいや、最後まで聞けって」
「今確認したばかりでしょう? 『ジョークは創作』です。暇な職員の落書きにすぎません。それの何を仕事の参考にしろって言うんですか?」
「そうだなぁ、そこらへんについて説明しようか……と言っても、1番の理由は『俺がおすすめしたいジョークがあるから』なんだがな?」
「仕事の参考になる資料が欲しいんですが……」
「まぁまぁ続きを聞くんだ。例えばだな……『ジョーク報告書ではないけど、「なんだこれは、ふざけてるのか?」って思わされるような報告書』って、見た憶えない?」
「……たとえば何でしょう?」
「そうだなぁ、『自分のせいで誰かが転ぶのを見ていられないバナナの皮』とか『座るとアメリカまでブッ飛ばされるイス』とかかな? ジョークだったらかなり笑うところだ」
「たしかに、ジョークだと聞かされて読んでいたらそう信じていたかもしれません。しかし、あれらはジョークではありません」
「そう。ジョークはあくまで創作の冗談だが、あれらは冗談じゃない。実在する異常だ」
「なら、やはり比べるまでもありませんよ。創作であるジョークを仕事の参考にするのは現実的ではありません」
「いいや、使えるとも。ジョークと、ジョークみたいな実在する異常存在、このふたつには共通点があるからな」
「……それはなんです」
「異常性に傾向や方向性を見出せるってところだ。たとえば、さっき言ったSCP-1475-JP。あれは実験を重ねるうちに、まれに普段とは別の場所にも飛ぶことがわかっている。どんな場所だった?」
「……射出先は同じくアメリカですが、別の地点に飛ばされています。それらの地点にはすべて、方角に関する地名が付いていました」
「だな。そんなかんじで、収容してからいくつか実験を繰り返すと未知の異常性が発現したりするわけだ。それらは後から報告書を俯瞰してみた時、なんらかの方向性や類似点を持っていることが多い」
「……それがどう実際の収容活動の役に立つんですか」
「ああいう具合に、異常性に方向性や傾向があると考えれば、異常存在に遭遇した時に適切な行動がとれるかもしれんってことよ。例は少ないが、初遭遇時に少ない情報から異常性を予測することで難を凌いだって話もある」
「……」
「ジョーク報告書は、多くの場合読者を笑わせるために話題や趣旨を決めるから、それに沿った異常性・報告書の内容になる。それと同じことが、部分的ではあるが、実在の異常存在にも言えるんだよ」
「……」
「これを学ぶためなら、ジョークもジョークじゃないのも同じことだ。むしろ実在しないと割り切れる分、ジョークでこそわかることもあるかもしれん」
「……」
[足音]
「と、いうわけでいくつかジョーク報告書を見繕ってみた」
[報告書の束を置く音]
「読んでみると良い」
「……」
「……」
「おすすめのジョークを紹介したいだけなんですよね?」
「さぁ!! 小休止でも取るかなぁ!!」
[足音]
「まぁあれだ。これまでガツガツ勉強したんだし、すこし肩の力を抜いて読んでみるといいだろ。どうせ『ジョークは創作』だしな?」
[ドアの開閉音]
[口笛・遠ざかる足音]
「…………冗談じゃない」
[報告書をめくる音]