5/001-JP LEVEL 5/001-JP
CLASSIFIED
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アイテム番号: SCP-001-JP
オブジェクトクラス: Keter Bakkhos
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特別収容プロトコル: SCP-001-JPは規模の極大さおよびその特性により、現在まで効果的な収容または一定範囲内に制御する方法はありません。酩酊区画が小規模である場合に限り、カバーストーリー”大災害”を流布し付近への立ち入りを禁止してください。
酩酊区画内への探索を行う場合、人員はアルデヒドデヒドロゲナーゼ2遺伝子が正常型ホモ接合体である人間に限定し、適切な装備が支給された小隊が結成されます。探索途中に離脱した隊員はKIAとみなし回収はされません。また酩酊区画内に存在する実体との接触は極力回避されます。
SCP-001-JPはGoI-008(“酩酊街”)と強い関連性があるとして、酩酊街関連オブジェクトを使用したSCP-001-JPおよび酩酊街に関する調査が認可されています。複数のオブジェクトとGoIに関する情報の含有および情報漏洩による計画妨害の危惧のため、Lv5クリアランスを有する職員および指名された職員のみが本報告書全体へのアクセスを行えます。各オブジェクトに対する関連情報を閲覧するためには、オブジェクト担当者の許可を得て対応する対抗ミームを摂取してください。
(追記) SCP-001-JPのNeutralizedへの再分類が検討されています。新たなSCP-001-JPの発生がないか、観測は継続されます。
説明: SCP-001-JPは世界全土において発生する空間異常です。SCP-001-JPが発生した空間(以下、酩酊区画、あるいはDA)は常に夜間に固定され、大気からは燃焼範囲にある高濃度のエタノールが検出されます。内部では一切の通信・GPS信号が遮断されます。また、酩酊区画内ではSCP-001-JP発生以前には存在しなかった道が出現しており、GoI-008(“酩酊街”)の存在する異空間へ続いていることが確認されています。
酩酊街は当初SCP-823-JPを初めとした複数のアノマリーから発見される手紙によってその存在が示唆され、それらアノマリーの起源としてGoI-008に指定されました。その後SCP-743-JPの発見により、"酩酊街"と呼ばれる大規模居住区を有する異空間が存在することが判明しました。"酩酊街"と我々の存在する次元を繋ぐポータルや双方通行性中間空間はいくつか発見されていますが、酩酊街からの敵対行動がみられなかったため財団は原則的に不干渉体制を維持していました。そのためSCP-001-JP発生以前の財団が有する酩酊街に関する情報はごく僅かなものでした。
酩酊区画に存在あるいは侵入した人間は健忘症や無気力、運動機能や判断力の低下を覚え、回避行動や現実逃避を好んで行うようになります。時間経過とともに症状は悪化しそのためこれまで有効な装備なしに酩酊区画に侵入した人間の帰還率は1割を下回っています。また、酩酊区画内に存在する人間および物体は外部にいる人間に対し微弱な反ミーム性を帯び、滞在時間が増すほどその反ミーム性は増加します。このため酩酊区画内で喪失した物品および人員の回収や把握が困難となっています。酩酊区画から離脱した場合この反ミーム性は失われます。
酩酊区画内には複数の異常物体や異常存在の実在が確認されています。これまで収容されている酩酊街関連オブジェクトに類似した存在のほか、現存していない書物や生物などが発見されています。また発見された異常存在にはいわゆる妖怪や魔物、付喪神などといった呼称をされる存在に類似している例も多く報告されています。SCP-001-JP発生当初、酩酊区画内で多くのアノマリーが確保されましたが、それぞれの研究および特別収容プロトコルの制定がSCP-001-JPの研究を遅らせることとなったため、酩酊区画からの回収は特にSCP-001-JPおよび酩酊街に関与すると考えられる物体のみに制限されました。これまで回収されたアノマリーの一覧は別紙に記載されています。
酩酊区画は生成時からその範囲を拡大します。SCP-001-JP発生時の面積はおおむね40,000m2程度ですが、現在確認されている中で最も拡大した酩酊区画は1,200,000 km2に及びます。これまで確認され酩酊区画に指定されたエリアのリストを以下に示します。
指定No |
場所 |
内部の説明 |
DA-001 |
日本 京都 |
最初のSCP-001-JPの確認例。常に降雪しており日本酒の匂いが漂う |
DA-003 |
イタリア トスカーナ |
空が濃い赤紫色になっている。合成獣のような存在が複数体確認された |
DA-018 |
中国 浙江省 |
金色の雨が降り注ぐ。浮遊するヒトの頭部が報告されている |
DA-045 |
日本 沖縄 |
照明が全て赤色灯になり内部の人間は踊り続けている |
DA-061 |
ポーランド ワルシャワ |
クラシック音楽が流れている。酩酊区画でも特に空気中のアルコール濃度が高い |
DA-107 |
フランス ドゥー |
薄緑色の霧が立ち込めている。水道にアブサンが流れる |
酩酊区画の消去や拡大の抑制方法は発見されておらず、現在のSCP-001-JPの発生頻度や酩酊区画の拡大速度を考慮するに10日以内のXK-クラス世界終焉シナリオの発生が想定されます。オブジェクトは財団の最優先対処事案としてSCP-001-JPに指定され、酩酊区画内の調査やそれに要する装備の開発のためにあらゆるパラテクノロジーの利用が認可されます。
補遺001-JP.1: 酩酊区画における現実強度
全国現実性強度観測網"Kant-NETs"のアーカイブより、日本国内におけるSCP-001-JP発生点はクラスF以上の現実性希薄領域であったことが判明し、日本国外での発生点でも同様の傾向が見られています。また、SCP-001-JP発生後では酩酊区画全域でクラスF現実性希薄領域となっていることが確認されています。そのためSCP-001-JPは現実改変による発生が有力視されていますが、クラスF現実性希薄領域の強度では集団現実改変事象を起こすためには500以上の表層意識群が一致しなければならず、現実改変能を持つオブジェクトもしくは現実改変者の介入が推測されています。
補遺001-JP.2: 酩酊街に関する情報収集
セキュリティコード495
ミームセキュリティ:歩みし道のり
"酩酊街"へ続くポータルと考えられるSCP-495-JPが出現する建造物の周囲にSCP-001-JPが発生しDA-120に指定されました。区画内への侵入調査ではSCP-495-JPへ侵入する扉は出現しましたが、内部にSCP-495-JP-1は存在せず以下の張り紙が残されていました。張り紙に使用されている接着テープの劣化具合から、この張り紙はSCP-001-JP発生数ヶ月前から設置されていたと考えられます。
靴磨き屋 休業のお知らせ
長い間ご愛顧いただき誠にありがとうございました。
汚れた靴を履いたお客様があまりに増えすぎて私の靴も汚れてしまいました。
自分の靴をきれいに磨けるようになるまでしばらく休業いたします。
大変ご迷惑をおかけいたしますがご理解承りますようお願い申し上げます。
SCP-495-JP内部に存在する下駄箱には隙間なく靴が詰め込まれており、カウンター奥の扉は解放された状態でした。
補遺001-JP.3: SCP-001-JP発生元に関する考察
サイト-81BDでモニタリングを行っていた複数の睡眠中の被験者から同一の異常な脳波を検出したと同時に、サイト内に設置されていた改良型高分解能カント計数機が急激なヒューム値の極小化を記録しました。その直後SCP-001-JPが発生し、サイト-81BD全体が酩酊区画となりました。異常な脳波を検出した被験者は自身の生活に対して強いストレスや疲労を訴えており、また、検出時同様の夢を見ていたことが考えられます。
この事例を受け他酩酊区画内での現実改変痕跡を調査したところ、解析可能な全ての酩酊区画でSCP-001-JP発生時刻に現実性希薄領域の瞬間的なヒューム極小化が発生したことが明らかになりました。この極小化したヒューム値では数人程度の表層意識が合致することで集団現実改変事象が可能とみられています。よって区画内に存在した複数人の夢を同一に操作された結果、集団現実改変事象が発生したのではないかと推測されています。またヒューム値の変化および精神影響を起こすための現実改変痕が微弱ながら残存しており、得られた固有ヒューム変動パターンから改変の原因を調査中です。
補遺001-JP.4: 酩酊街に関する情報収集2
セキュリティコード1922
ミームセキュリティ:隣墓に留まる夢
酩酊街について情報を得るためSCP-1922-JP-2への接触が行われました。以下はSCP-1922-JP-1から帰還したエージェント・我路が筆写していた聴取記録です。
インタビュー記録 「山田」
SCP-1922-JP-1
[記録開始]
SCP-1922-JP-2: ああ貴方はいつぞやの。どうしてまた戻ってきたんですか?最近はここを訪れる方が多くて参りますよ。
エージェント・我路: あなたに聞きたいことがありまして。酩酊の街はいったい何なのです?
SCP-1922-JP-2: 酩酊の街は停滞を求めるものの場所。忘れたい、全てを捨てたい、現実から逃れたいと思うものたちが集います。そして、誰もがいつかはたどり着く場所。そのようなことをお聞きに?
エージェント・我路: では酩酊街はどうやってできたのですか?
SCP-1922-JP-2: これは難しい質問です。私も詳しいことは知りません。ただ1つ言えるのは場所や道があるだけでは街にはならないってことです。そこに住民が集まり、住民が活動することで街になるのです。
エージェント・我路: つまり、忘れられたいものたちの想いがあの街を形作っているということですか?
SCP-1922-JP-2: うん、それは近い。だがそれだけではありません。街として成るには住人をまとめあげる、いわば管理者のようなものが必要。おそらくあれを作った何某かがいるはずと私は踏んでますね。
エージェント・我路: ありがとうございました。最後に1つ、貴方はどうして酔いに沈まず留まることができているのですか?
SCP-1922-JP-2: 私は██サンに見つけ出され██サンの夢になったからです。……今は██サンはいなくなってしまいましたが、多くの人が私を夢に見てくれているようです。夢の存在は酩酊して夢うつつにはなりません、うつつがないのですからね。
[記録終了]
補遺001-JP.5: SCP-001-JP発生元に関する考察2
蒐集院所属を名乗る人物から匿名での通報があり、PoI-8108(“日奉柊”)に関する文書および資料が送付されました。PoI-8108(“日奉柊”)は"酩酊街"内に存在する酒場の女店主と同一であると考えられ、資料によると"酩酊街"の管理人である可能性が高いとみられます。文書に付属していた資料にはPoI-8108のものとみられる過去の超常現象記録が記されていました。記録に残されていた地点では現実改変痕が発見され、先述の酩酊区画での固有ヒューム変動パターンと一致が認められたため、SCP-001-JPはPoI-8108によるものと判断されました。
補遺001-JP.6: 日奉柊に関する情報収集
セキュリティコード975
ミームセキュリティ:過ぎ去りし一瞬
SCP-975-JP-A内の探索調査中屋台が発見され、中にいた”女将”が小泉助手のインタビューを受けることを希望しました。”女将”は自身が以前"酩酊街"にいたこととPoI-8108に関する記憶を思い出し証言しました。以下はインタビューのPoI-8108に関与しているとみられる部分の抜粋です。
インタビュー記録 「女将」
SCP-975-JP-A 屋台
[記録開始]
女将: 私はここより寒い、雪の降る街でお店の手伝いをしていました。そこも真っ暗な夜の世界で、でもお客さんがいっぱいいてとても温もりのある場所でした。私はお酒はまだ飲めないのですが、それでも店の女将さんにはかわいがってもらいました。
小泉助手: 店主は女性なんですね。続けてください。
女将: はい。でもある日、夢を見たんです。あまり良くは覚えてないけど不思議な夢でした。それで、少し懐かしいものを思い出して、会いたくなっちゃって。けどそのためにはこの街を出なきゃいけない。かといってお手伝いしてる店をやめるのも申し訳なくて、女将さんに相談したんです。そしたら女将さんはもっと自分の気持ちに素直になっていいと言ってくれました。それでもまだ悩んでいる私でしたが、女将さんはのれん分けだといってこの屋台をくれたんです。そして今度はあなたが”女将”になって別の場所でも頑張ってくれ、といったんです。
小泉助手: なるほど、それであなたは”女将”と名乗っていたと。他に女性店主について何か思い出したことはありますか?些細なことでもいいので。
女将: そうですね。青と白の和服を着て、年齢は……若そうで、でもすごくしっかりしてて。でもとてもやさしい方でした。お酒は飲むけど一度も酔ったのは見たことがありません。酩酊したお客さんたちをうまくさばいてました。他には…そうだ。私が夢を見たって話したときにうらやましそうに言ってたんです。私は夢を見れないからうらやましい、私自身が夢だから、って。今思うとあれはどういう意味だったんでしょうか。
[記録終了]
補遺001-JP.7: プロジェクト "Murder The Snow Queen"
SCP-001-JP発生元であるPoI-8108が"酩酊街"内にいることが有力となったため、"酩酊街"侵攻を行う以下のプロジェクトが計画・実行されました。
プロジェクト
"Murder The Snow Queen"
LEVEL 5/001-JP CLASSIFIED
概要: 本プロジェクトはSCP-001-JPの抹消を目的としています。対酩酊街用試製記憶補強剤および対抗ミームを摂取した機動部隊ち-0(“白馬の王子”)により、酩酊区画に侵入、地区“雪の酒場街”へと侵攻し、SCP-001-JPおよびGoI-008(“酩酊街”)の根源であるとされるPoI-8108(“日奉柊”)の確保を行います。確保が困難であるとされた場合、部隊長判断によりPoI-8108の抹殺を行うことが許可されます。
探査ログ
DA-001南側より侵入。既存の地図と道とを照らし合わせ、"酩酊街"への"道"を探索
河童に酷似した異常存在からの襲撃を受ける。隊員2人を交戦させ本隊は進攻を続ける
"道"を発見。残した2人とは合流できず
"酩酊街"内を進行。複数の異常存在を確認するが接触は回避成功
降雪が強まる。多積雪用装備に換装。欠員は2割
地区“雪の酒場街”に到達。目標がいるとされる酒場を捜索
酒場を発見。記憶補強剤を再摂取。欠員は3割
酒場に突入。内部には紅と橙を基調とした着物を着た初老の女性一人。これまでのPoI-8108に関する情報と姿が一致しない
女性は自身を「日奉椿」と名乗り、PoI-8108の母親であると説明。詳細はインタビュー記録を参照
"酩酊街"におけるPoI-8108の捜索を打ち切り、撤退を開始
日奉椿より教えられた道を通りDA-066西側より帰還。欠員は4割に留まった
インタビュー記録 「日奉椿」
酩酊街 雪の酒場内
[記録開始]
本白水部隊長: わかった。あなたが日奉柊ではなく日奉椿であることを認めよう。だが日奉柊の母親は父親とともに死んだのではなかったか?
日奉椿: ええそうよ。でもここは酩酊街。忘れられた者たちが集う場所。──日奉の歴史から消された私がいても何もおかしくないわ。
本白水部隊長: それで、彼女は?この店の店主である日奉柊はどこへ?
日奉椿: 場所を教えたらあなたたちは娘を殺すつもりでしょう?子を守るのは親のつとめよ。
本白水部隊長: 状況によれば、殺す。守るべき我々の世界が危機に瀕しているのだ。もちろん無益な殺傷は避けたいがね。
日奉椿: 母親の前で娘を殺すだなんて、鬼みたいね。いいわ、もう少し話を続けてあげる。そもそもここに娘は元からいないわ。
本白水部隊長: どういうことだ?
日奉椿: この世界は娘が見ている夢。お友達を欲しがった娘が呼び寄せたものたちでできた街。柊は日奉の地を去った後、神を殺すほどの力を得た代償に眠りについたの。長い眠りに。
本白水部隊長: ではこの世界の管理人である女店主は、日奉柊の夢の中の姿……?
日奉椿: そう、仮初の姿よ。日奉を離れ1人で生きていくために大人にならなきゃと思ったんでしょうね。でも、柊は本当はまだ10歳。もし巫女の力を持たなければ、普通の子供でいられたでしょうに。
本白水部隊長: ではいまも当時のまま我々の世界で眠り続けているのか。
日奉椿: ええ。楽しい夢を見ながらね。さて、話し疲れたわ。そろそろお別れしましょう?
本白水部隊長: 待ってくれ、子を守るのは親のつとめと言ったな。ならなぜ娘に危害を加えるかもしれない我々にこんなに情報をくれたんだ?
日奉椿: ……夢はいつか醒める時が来るのよ。誰しもいつかは現実に立ち向かわなくてはならない。あの子はお友達が来るのを待てずこの世界を広げ始めて現実を酩酊の夢に沈めようとしている。やりすぎなくらいにね。でもそしたら夢から醒めて現実に戻ったら誰も居なくなってしまう。自分以外が酩酊に沈んだ世界で、あの子はまた独りぼっちになってしまう。娘にお友達ができず夢を見続けることになった原因は私だから、私は咎めることはできないわ。だからお願い、どうかあの子を止めてあげて。そして目を覚ましたらお友達になってほしいの。
本白水部隊長: 我々の答えは変わりません。ですが努力はしましょう。
[記録終了]
補遺001-JP.8: Bakkhosクラス分類
プロジェクト"Murder The Snow Queen"における"酩酊街"への侵攻および酩酊区画内での調査から、これらの領域において我々の世界から消滅あるいは死亡し忘却された存在が現存していることが確かとなりました。
このため遺失した物体や死者の回収が可能であるとして、"酩酊街"をThaumielクラスオブジェクトとして利用するプロジェクトが進行しています。"酩酊街"に存在する死者の総数は明らかとなっていませんが、SCP-001-JPに伴い"酩酊街"が消失した場合現存する死者および今後死亡する人間の行方が不明となるため、ΩK-クラスなどを含む様々なK-クラスシナリオの発生が想定されています。
SCP-001-JPの発生を抑制できず範囲が全世界にまで拡大した場合、生者と死者が同世界に存在することとなり死という概念の変化が予期されます。その性質のためSCP-001-JPは分類委員会によって確立されたBakkhosクラスに分類されました。
補遺001-JP.9: 日奉柊に関する情報収集2
セキュリティコード1681
ミームセキュリティ:ドードーは見つめていた
42回目のSCP-1681-JP出現時、担当職員との間で以下に示す質疑応答が行われました。
Q.日奉柊を知っていますか?
A. はい、知っていました。
Q.日奉柊はどんな人ですか?
A.さみしい人です。世界を知りません。愛を知らず夢想の愛を求めています。
Q.日奉柊はどこにいますか?
A.寒いところです。疲れ果てて眠っています。
Q.貴方は日奉柊と友達になれますか?
A.いいえ、友達になるのはドードーではありません。
補遺001-JP.10: プロジェクト "Befriend The Sleeping Beauty"
日奉柊が眠りについている場所を特定するため酩酊区画の範囲を分析していた結果、日本の長野県に周囲を酩酊区画に囲まれ孤立しているスポットが発見されました。このスポット内を調査したところ、地形にPoI-8108の固有ヒューム変動パターンを有する現実改変痕が残存していました。地面の掘削を行った結果地中に空洞が見出され、内部でPoI-8108が発見されました。PoI-8108は青と白の和服を着てコールドスリープ状態にあり、現実改変により10歳程度の容姿と体機能を保持していました。SCP-001-JPのさらなる影響拡大の停止のため、以下のプロジェクトが計画されました。
プロジェクト
"Befriend The Sleeping Beauty"
LEVEL 5/001-JP CLASSIFIED
概要: 本プロジェクトはSCP-001-JPの抹消を目的としています。SCP-001-JPおよびGoI-008(“酩酊街”)の根源であるとされるPoI-8108(“日奉柊”)を現実改変によるコールドスリープから覚醒させます。覚醒後のPoI-8108は確保され、酩酊街の制御を目標に収容が行われます。PoI-8108の抵抗が見られ、かつSCP-001-JPによるK-クラスシナリオの発生が避けられない場合部隊長判断によりPoI-8108の抹殺を行うことが許可されますが、酩酊街消失による影響が不明であるため極力回避が推奨されます。
インタビュー記録 「日奉柊」
日本 長野県内の洞窟
[記録開始]
本白水部隊長: 彼女を起こすぞ。スナイパー班用意はいいな?よし、装置を起動しろ。
(PoI-8108頭部へパルス型スクラントン現実錨を出力、同時に電気ショックを流す)
(PoI-8108が目覚める)
本白水部隊長: 成功だ!本部に連絡を取ってくれ。
PoI-8108: ん、お兄さんたちは誰……?
本白水部隊長: 私たちは君と友達になりに来たんだ。君のことを教えてくれるかな?
PoI-8108: 私は日奉柊。日奉の巫女で、あ……。
本白水部隊長: 落ち着いて。ここには君を悲しませたり君の力を悪用しようとしたりする人はいない。
PoI-8108: 嘘。誰も信じない。
本白水部隊長: 本当だよ。君のお母さん、日奉椿さんからお願いされたんだ。友達になってほしいって。
PoI-8108: お母さんを知ってるの?
本白水部隊長: うん。君の夢の中で出会ったんだ。そうだ、君は夢を見ていたと思うんだけど覚えてるかい?
PoI-8108: 夢?覚えてない。あ、でもなんだか友達がいっぱいいてホコホコした温かい夢を見ていたような……。
本白水部隊長: そうか、覚えていないか……。大丈夫、こんどは私たちが友達になるよ。いっぱい友達ができる。君が今まで見たことない世界を見ることができるよ。
PoI-8108: 信じていいの?
本白水部隊長: ああ。
PoI-8108: 私が巫女でなくても?
本白水部隊長: ああ。
PoI-8108: ……ありがとう。
(とりつけたカント計数機がPoI-8108のヒューム値の急激な減少を示す)
(PoI-8108が急激に老化していく)
本白水部隊長: 柊君、なぜ?友達になったばかりじゃないか!
PoI-8108: ごめんね迷惑かけちゃって、でもありがとうお兄さん。最後に柊と友達になってくれて。
PoI-8108: もう充分。生まれてからこの世界には寂しい思い出しかなかったけど、本当の愛を感じた。満足しちゃった。
(部隊員が医療装置を起動)
本白水部隊長: 満足なんて!ようやく目が覚めたのに、まだやるべきことがいっぱい……!
PoI-8108: たぶんまだ迷惑かけると思うけど、大丈夫。私を起こしてくれたあなたたちなら。
本白水部隊長: お願いだ……
PoI-8108: ああでも、最後と思ったら、もう少し長く暖かい夢を見ていててもよかったって思っちゃう、な……。
本白水部隊長: 夢じゃない、暖かい世界なら我々が見せる!だから……
(医療装置が作動し細胞の老化が抑制される)
(PoI-8108のヒューム値の減少が止まる)
PoI-8108: 私は夢の中で生きてたんだもの。酔いから醒めたのなら死ぬのよ。
(洞窟内の設置式ライフルが作動、銃弾がPoI-8108の額を貫く)
[記録終了]
対象者: PoI-8108("日奉柊")
終了時刻: 20██年█月██日
終了場所: 日本国長野県内の洞窟
死因: 頭部への銃撃
備考: 銃弾は機動部隊ち-0スナイパー班により設置されたライフルより発射。班員は別の重火器を所持しておりライフルの周囲にはいなかったため、誤作動により発射されたものとみられる。PoI-8108の現実改変によるものかは不明。
対象の年齢は現実改変により10歳程度の容姿を保っていたが、覚醒後老化が進行。医療装置により老化を抑制したものの死亡時20-30歳程度の外見となっていた。
補遺001-JP.11: 酩酊街の終焉
PoI-8108の死亡確認後、酩酊区画の境界が喪失し、現実性の希薄や夜間の固定が解消されました。同時に現実改変による影響が無くなったことで空気中のエタノールを原因とした爆発や火災が発生し、大半の酩酊区画だった地域は焦土と化しました。陸地の焼失総面積は地球の陸地の10%に達しています。酩酊区画の多くが居住地域であったことから、世界各地のインフラは致命的なダメージを負っています。元酩酊区画内にはSCP-001-JP発生後行方不明となっていた人間が発見され、爆発から生存した人の保護が行われています。生存者はアルコール血中濃度が昏睡期に達する値を示しており、医療処置がとられています。
SCP-495-JP、SCP-743-JP、SCP-1922-JPなど酩酊街へのポータルとなりうるオブジェクトの無力化が確認されました。酩酊街の管理者であったPoI-8108が死亡したことで酩酊街が消滅したためと考えられています。酩酊街に存在していたとされる異常存在の流出は確認されておらず、また、迷い込んだ人間の行方は明らかになっていません。
酩酊区画の消滅および発生元であるPoI-8108の死亡から、SCP-001-JPのオブジェクトクラスをNeutralizedへ変更する申請が提出されました。
補遺001-JP.12: 現実世界
意識を取り戻した生存者たちが自殺を図っています。このため生存者には記憶処理が施されていますが、対象者が膨大なため記憶処理剤の供給が間に合わず、昏睡状態を保持する対策が取られています。また、全世界で自殺者数や精神疾患患者数が増加しているという統計データも報告されており、SCP-001-JPおよびGoI-008(“酩酊街”)の無力化と関連しているか調査が行われています。SCP-001-JPのオブジェクトクラス変更は審議中です。
補遺001-JP.13: 最後の手紙
セキュリティコード823
ミームセキュリティ:酩酊街より
SCP-823-JPの奉書紙の文面が変化しているのが発見されました。以下がその内容です。
お元気ですか?わたしは元気です。
こっちは夜と雪しかないので、誰にでも訪れる夜明けや積もりゆく思いがあるそちらがうらやましいです。
わたしと暖かな幻の夜はもう行かなくてはいけません。
なので、この子たちをあなたたちに任せます。
寂しがり屋で迷惑をかけちゃう子たちもいると思いますがあなたたちなら大丈夫です。
一番暗い夜明け前を越えて、皆が生きるべき醒めた世界を可愛がってあげてください。