審議会通達
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警察庁警備局特事調査部異常領域管理課
警視庁公安部特事課
情報災害検閲済 |
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煙鬱島

隔離次元/集落
接続地点 | 島根県隠岐郡 |
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侵入手順 | 未確立 - 交渉 |
発見年 | 1977年 |
侵入年 | なし |
首長 | 議長 - 名誉議長制 |
自治体 | 不明 - 複数コミュニティによる自治 |
議長 | 「理事1」神原弘樹 |
総人口 | ~500人/個体 |
一時滞在者 | ~100人 (平均) |
面積 | 9.7km2 |
人口密度 | ~51.5人/km2 |
住民の呼称 | なし |
言語 | 日本語 朝鮮語 中国語 アイヌ語 琉球語 |
経済 | あり |
通貨 | 日本円 |
交流 | なし |
現地責任者 | 飯塚颯 警部 |
概説
煙鬱島は対馬海峡の本州側に位置する超常島嶼であり、同時に当該島嶼に存在する自治体の呼称である。
当該島嶼は基底次元内に存在しながらも地理学的異常性を有し、対馬海峡両岸方向の細長い航路からのみ進入と離脱が可能である。そのため、朝鮮半島または島根県隠岐郡からの航行では煙鬱島へ進入可能であるが、その他の方向、例として海峡に沿って航行した場合、視認及び遭遇は発生しない2。空路では一定の確率で島の上空へと進入するケースが発生するが、海面以外を視認できない可能性もある。
現在の煙鬱島は超常情報機関"迷宮"に実効支配された、俗に「迷宮都市」と呼ばれる土地の一つである。ただし、当該組織の行動は統治ではなく、島嶼での表向きの平和な生活と裏社会におけるパワーバランスの維持に近い。
迷宮は煙鬱島の公的な管理を行うために、1名の「理事」と数名の代弁者を派遣している。その多くが他組織に潜入させた諜報員である。これは煙鬱島において暗黙の了解となっており、具体的な規模、程度および傾向は不明である。煙鬱島港口の居住区には「煙鬱事務所」と呼ばれる公的な事務対応拠点があり、住民間での揉め事の解決、勢力摩擦の調整、個人的な会合の開催等の事務仕事を行う重要な場所となっている。
唯一の確定事項として、迷宮自身も煙鬱島の全ての真相とその全容を把握できておらず、意図的に知ることを避けているようにすら見える点が挙げられる。迷宮が全面的な掌握を求めないまま各方面へのコーディネーターを務める意図や、その管理者の地位が財団やGOC等の組織に許可されている理由に関しては、未だ結論が出ていない。同様に、当該島嶼にて多発している陰謀事件の背後にある情報資源に迷宮が関心を寄せたのか、または迷宮の存在が島の勢力と社交関係の錯綜を招いたのかは不明である。
煙鬱島には基礎的な生活施設が揃っている一方、主に外部との物流交通の方面に比較的遅れが見られ、島民の日常生活が相対的に単調である間接的な原因となっている。島の村落は典型的な海辺の田舎町であり、人間関係は比較的に閉鎖的で、漁業を中心とした自給自足と表現できる経済生活を営んでいる。日本全国、韓国、中国および東アジア全域からの観光客は多いものの、それらは島の生活面の補助に留まり、観光業を牽引しようとする動きは見られない。
外部からの訪問者を含む全ての島民は、煙鬱島の「外界と隔絶された」状態に満足しているか、黙認しているか、無関心である。外部から見た際の、素朴で未発達な島の田舎町であるとの印象は、煙鬱島の表層全てを概括できる。
煙鬱島の最も特殊な点は島の人文社会であり、その複雑性は社会学および統計学的に異常な閾値に達している。島に駐在する各勢力や島嶼固有の超常実体は、基本的に自身の秘密を保持することを核心的な目標として行動している。その結果として、複数の意図的に計画された陰謀事件や潜在的に不明な超常現象が島にて発生し、その件数は特事課が把握している関連事件のみでも数百件を超えている。
これらの錯綜する複雑な関係は島の人間関係と相互に交錯し、最終的に平淡な表面ながら実情の探知が困難な地域状況を形成している。かつて、特事課の現地駐在員である飯塚颯警部は以下のように形容した。
誰もが秘密を持っているのに、他人の秘密は分からない。より大きな陰謀に囲い込まれていることもしょっちゅうだ。一度話題が日常生活から離れれば、人と人との間は嘘と猜疑心で満たされて、「真相」なんてものは何重にも封をされた宝物みたいになる。
もっと重要なのは、深く埋もれた「真相」が多けりゃ多いほど、もはや「真相」は探索されるべき異世界のような、謎解きホラーゲームのあらゆるルートと答えが同時に存在する世界になるってことだ。
発見
1987年、特事課は島根県警から、海岸線にて船の残骸にしがみついていた男子高校生1名が発見されたとの通報を受けた。調査により、当該男子高校生は2ヶ月前に友人と共に卒業旅行に出発し、レンタルしたプライベートヨットで海岸線に沿って航行しながら、道中の興味を惹かれた港に下船し物資補給と観光を行っていたものと確認された。
当初は船の難破による海難事故と見なされ、関連事件は海上保安庁へ通報された。その後、意識不明から回復した男子高校生は「接岸後の奇妙な住民」、「屋根裏部屋のドッペルゲンガー」、「もう一人の自分との結婚」等の供述を繰り返した。初期は心的外傷が原因と考えられていたが、調査の進行に伴い、ヨット船内より隠れて設置されていたコンピューターと、それに接続された複数の超小型カメラ──ヨットのオーナー曰く、レンタル期間中の事故や犯罪の防止、証拠保全のため秘密裏に設置したもの──が発見された。監視記録には恐ろしい結果をもたらすものが残されていた。
映像は島根県内のいかなる海岸環境とも一致しない小規模な港口に、学生一行が停泊させたヨットの様子を映した。映像内の殆どにおいて学生一行は船内に不在だったが、映像の終わり際に、発見された男子高校生が船内に駆け込んでヨットを出港させるも、明確に女性とわかる体型と髪型をした、男子高校生と外見の一致する人物がヨットに乗り込む様子が記録されていた。航行中の船内にて2人は揉み合いになり、最終的に男子高校生は抵抗できず女子制服を着させられた状態で、女性から暴力的な性行為を強要されていた。極度の苦痛の後に、男子高校生が床からある物体を拾い上げると、爆発が発生し、多数の超小型カメラが損傷し、船体も衝撃によって亀裂が入った。
煙が収まった後、残っていた超小型カメラには顔の半分が吹き飛んだ女性の死体と、その内部から腹部を切り裂いて出現した赤子が映っていた。その後30分ほどで赤子は男子高校生の姿へ急速に成長し、自主的に使用可能な衣服に着替えると、水没寸前の船室から脱出した。
特事課は緊急に男子高校生を拘束し、詳細な生理的検査で映像記録の真実性を確認し、その後ローラー作戦で捜査を行った。1988年の年明け、特事課は当該事件にて複数回言及された重要地名──煙鬱島への上陸に成功した。
当時、この事件を担当した沢口春輝警部補は覚書にこう記した。
……あの時は誰も知らなかった。この事件が、島に潜む数多くの超常的な秘密の一つに過ぎないことを。
対応
現在、特事調査部は煙鬱島に警察署を設立し、現地の治安維持、基本的な社会秩序の維持、当該島嶼に関連する可能性のある外部事件への調査支援を行っている。現時点での煙鬱島警察署は飯塚颯警部が指導している。
初期の介入過程は予想を超えた順調さで進行し、特事調査部は迷宮を含む島内の各勢力との接触以降、ほとんど妨害を受けることなく煙鬱島警察署の設立に成功した。一部の島民からは、警察のおかげで生活がより規則正しくなったとの意見も寄せられた。しかし特事課が設立後に推進した、島嶼内に存在する超常脅威の調査を目的とした島全土への一斉捜査計画は、ほどなくして抵抗を受けた。
当初、特事課はこの抵抗運動を犯罪現象からの反発と見なしていたが、財団による島の隠し財産の発見、世界オカルト連合によるこの件に関した特事課への批難、蛇の手によるターゲットの拉致等の一連の事件が発生して以降、調査作業は中止を余儀なくされ、介入を減らし現状維持する方針へと切り替えた。
迷宮理事である小川弘樹氏から特事課へ、この件に関する手紙が届いたことがある。その主な内容は、特事課の行動と理解に感謝し、このような調査作業を二度と起こさないことを望む意思を示すものであった。その文中に、重点的に注目すべきと考えられている文章がある。
多くの物語において、秘密は水と土の意志の現れとして描かれております。例えば災いの訪れは、民の中に神への不敬を示した者が居たせいと信じる人もありましょう。そう考えるお年寄りは多いですが、私たちは皆、その根底にある哲学をより理解するよう務めるべきと思います。それは私たちの益ともなりますから。
この煙鬱島にも、そういった意志が同様に存在します。それが体現するのはただの秘密ではなく、島最大の秘密──「どこにでも秘密がある」ことそのものです。
煙鬱島に錯綜する陰謀はもはや調和を失った、理不尽なものとなり、唯一正常な理解はそこに土地の超常的な要素が作用していることです。よって、その規律に背いて全面的な調査を行えば、最後には島からの報いを受けることとなるでしょう。島の意志は社会にも及び、抵抗は当然社会から発揮されるものです。少なくとも私の視点からは、それが圧力に晒されて調査を進めることができない原因ではないかと思います。
急進的な調査方針を撤回して以降は、煙鬱島の島民全体から敵意と脅威性が見られなくなり、脅威発生可能性実体の目録作成も進行中である。外部全体との関係の有無を問わず、煙鬱島の各組織は島内で限られた接触しか持たず、この現状を黙認していると想定される。特事課は情報格差や不信感等を原因に、煙鬱島に関して財団、世界オカルト連合等の組織との情報交換を行っていない。同様に、これらの組織からの情報交換要求を受け付けていない。
関連人物

名前:小川弘樹(こがわ ひろき)
身体特徴:人間、モンゴロイド、男性
異常性質:異常な身体能力、自身および自身周辺の情報への歪曲能力、複数の超自然的タブーおよび勢力の秘密に関する知識
活動状況:迷宮理事、煙鬱島の現名誉責任者に指名されている。迷宮は煙鬱島を影から支配しているものの、島内の勢力図の錯綜のため、小川弘樹は実効的な島での権力を有していない。現在の島内での地位は高い人望を寄せられた調停者に相当し、島民の平穏な生活の維持のため、各勢力間の対立や関係の調整を行っている。
小川弘樹氏に対する調査は難航しており、島内で容姿を変えることは滅多に無く、日常生活の中で交渉の場に顔を見せる機会が多いにもかかわらず、写真撮影含む情報調査では歪曲済みの情報以外を得られていない。これが小川弘樹氏の異常性に起因するものか、迷宮による異常な情報保護メカニズムの結果によるものかは未だ不明である。
唯一の確定事項として、小川弘樹氏を当主とする小川家は超常情報機関迷宮に所属する家系であり、家族全員が迷宮の重要構成員である点が挙げられる。彼の統治の下、煙鬱島の迷宮は他者の秘密にはさほど干渉せず、原則として自身の利益維持にのみ努めている。これが迷宮が煙鬱島に対する影響力を伸ばし、島全体を支配するに至った原因と推測されている。
名前:小川佳絵里(こがわ かえり)
身体特徴:不明 — おそらく人間、モンゴロイド、女性、概念
異常性質:異常な身体能力、「怪談」の作成と具現化、疎外感および未視感等の恐怖心の拡散、関連傀儡実体の使役
活動状況:煙鬱島の迷宮代弁者、主に島内外の外交連絡と情況処理を行っている。代弁者としての小川佳絵里は迷宮の代表に任命されており、主に組織を代表して外部との交渉接触を行うことが日々の活動の内容および目的である。主要な武装としてチェーンソーを使用し、複数の目撃報告からは実体を失っていないことが示唆されている。
小川佳絵里の異常性は都市伝説や怪談の具現化と概説でき、特定の著名な都市伝説の文化的アイコンとの関連を持たない、怪談全般の雰囲気やテーマの体現である。関連する異常性では周囲の環境を改変し、鬼火・幽霊・殺人犯等の典型的な形象傀儡実体を使役することで、対象の恐怖心を刺激することが可能である。いわゆる「怪談」のテーマとして、小川佳絵里の能力の鍵は静寂・緩慢・抑圧された雰囲気を利用して対象の恐怖心を醸成することにあり、事前準備済みの環境において最大の効果を発揮する一方で、突発的な対応の面では凡庸なレベルに留まる。
複数の情報から、小川佳絵里が小川弘樹の長女であり小川家の一員であることが指摘されているが、同時に小川佳絵里が人間ではなく、ヒト型の都市伝説情報集合概念体であると提示する証拠も存在する。迷宮の情報操作能力および防諜能力を考慮し、疑わしい情報に対しては保留の態度を取るものとする。
小川佳絵里は煙鬱島を主導する業務への介入や、外部の各国家、組織および人物との接触、更に多くの統一的な指揮に対する積極的な態度の兆候を見せている。小川弘樹は小川佳絵里を自身の後継者として育成しているものと推測され、小川佳絵里にも煙鬱島の業務を継承する意志が見られる。今後、より強固な接触および警戒を維持するための活動を展開する。
特記事項:現在、小川佳絵里は煙鬱島内および島外の複数の事件に関わっており、その目的には妹である小川晴との関連が疑われる。調査は現在も進行中であり、財団・世界オカルト連合からの情報交換文書を受領している。
名前:小川晴(こがわ はる)
身体特徴:人間、モンゴロイド、女性
異常性質:暗赤色の炎によって、死物を新たな生命形態へ転化させる能力
活動状況:煙鬱島の迷宮代弁者、小川家の一員。すなわち小川弘樹の次女であり、小川佳絵里の妹。既知の情報によれば、小川晴は諜報活動への高い才能と能力を示している一方、煙鬱島の管理業務への介入頻度は極めて低い。その理由は彼女と小川家の対立に由来するとの説が、複数の文書および複数人の島民によって裏付けられている。
小川晴の有する異常性は、直感的に「死灰復燃」の能力と表現できる。落ち葉や死骸等の生命を喪失した死体に、特殊な暗赤色の炎を燃え移らせることによって、炎から新たな生命体を出現させ蘇生させる。当該の新生命体はオリジナルと類似した外見に暗赤色の炎を纏わせた容貌を有するものの、実際にはプラズマ状生命モデルに変化している。当該生命モデルの転化を復活と見なすことが可能であるか否かは、現在も研究が続けられている。
小川晴に関する情報は比較的豊富である。その原因は煙鬱島以外の地点にも頻繁に出現し、関連する事件に多くの手がかりを残す点にある。調査によって、彼女本人と小川家の間にある対立の存在が判明している。父親である小川弘樹が二人の娘に施した厳しい教育に対し、長女である小川佳絵里が期待に応えようとする傾向をより強く示したために、次女の小川晴は愛情を注がれなくなり家族関係から疎外され、それゆえに小川晴は迷宮の支配から逃れようとしているのではないかと推測されている。
特記事項:現在、小川晴は国内外の一連の事件事故に関与しており、姉の小川佳絵里から追跡と干渉を受けている。調査は現在も進行中であり、財団・世界オカルト連合からの情報交換文書を受領している。
名前:竹鶴宇佐美(たけつる うさみ)
身体特徴:人間、モンゴロイド、女性
異常性質:身体の異常な軽快性・敏捷性、幸運、作成した文書が実際の事件に影響を与える能力
活動状況:煙鬱島住民、当地の「白鶴郵便局」のオーナー。同時に郵便配達員として島嶼内外での郵便物の速達配送を担当している。異常な跳躍・滑空能力を速達配送へ大いに活用し、手紙の配送のため家々を跳び回る姿から、「屋根の上の竹鶴」と呼ばれている。実際のところ日常生活中の交通手段としては、自家用自転車を愛用している。
島と本州との距離、インフラ建設難易度の高さ、施工業者の選定が困難等の理由から、煙鬱島には公用の通信基地局が無く、有線電話も数台が点在するのみである。手紙は依然としてこの比較的辺鄙な田舎町で最も主流な通信手段であり、島外との連絡では特段重宝される。住民の少ないこの島では、島唯一の郵便局と、唯一の郵便配達員である竹鶴宇佐美の身分は極めて重要である。
島嶼内外の交通の不活発さのため、煙鬱島と海峡の外を結ぶ交通手段は基本的に連絡船のみである。しかし悪天候や外部機関の捜査に遭遇した場合、連絡船はそれらから隠れるため運行を停止してしまう。運行停止は船主の個人的な判断に基づくものであり干渉が難しく、煙鬱島内外で安定した物流事業を行うことは困難となっている。竹鶴宇佐美は島嶼内外の郵便配達および速達の業務を単身で引き受けるケースが多く、速達の投函および受け取りのため、時折煙鬱島を一定期間離れる場合がある。
しかし、島を離れた後の竹鶴宇佐美の行動調査により、彼女が複数の特殊な郵便物、すなわち一連の「招待状」に関与していることが判明した。これらの郵便物は、各種理由によって外部の人間を煙鬱島へ誘致または招待するものである。複数の招待状が同一の招待日時を記載するため、今まで煙鬱島を訪問したことのない複数人の外部の人間が一つのチームを結成した状態で島へ上陸することとなる。
招待状に記載された理由は様々であるが、島の警察による調査によれば、島民自身がこのような招待状を送付した事例はごく少数である。例として「絵画個展」を開催した画家が存在しても、その画家は企画の立ち上げおよび招待状の送付に関与していない可能性が高い。しかし、存在するはずのない招待状によって訪れた外部の人間に遭遇すれば、島民は招待者としての立ち振る舞いを強制されながらも、それを正常な態度と思い込み、「よそ者を招待した」理由を遂行しようとする。このような事例に対し、島民は一様に「竹鶴が送っておいてくれた」と言及する。
注目すべき点は、これらの外部の人間によって結成されたチームは、煙鬱島に到着後、常に秘密や陰謀事件に巻き込まれ、超常脅威に遭遇することである。ケースの統計を基に、このような事件はほぼ確実に発生していると見なすことができる。そのため、竹鶴宇佐美の異常性は捏造した招待状で実際の事件に影響を与えるばかりでなく、「煙鬱島物語」の「序章」としての役割を持っていると分析されている。この重要な分析を裏付けるため、より詳細な観察が必要である。
名前:天気雨(てんきあめ)
身体特徴:妖怪、妖狐、女性
異常性質:狐と人間の姿への相互変身、幻術の放出、霊視、変化中の怪異の看破
活動状況:煙鬱島住民、人間へ変身中の容姿は高校生程度。高校生に紛れて授業を聴講することを好むが、煙鬱島では子供の人数が不足しており、島内の学校は各年齢の児童へ小規模な集中授業を行っているため、天気雨の存在は既に周囲から受容されている。天気雨はこの受容を、かえって興を削がれるものと感じている。彼女曰く、学校の規模の不足は学生生活の魅力不足、知識の不足をも意味しており、周囲からの受容は隠れて盗み聞きする楽しさを減じさせるため、「これ以上介入されるくらいなら直接学校に入学したほうがマシ」と語る。そのため、現在の彼女は主に島外の学校でその嗜好を満たしている。稀に韓国へ渡航し、財団等の正常性維持機関からの警告と外部からの追跡を楽しんでいる。
現在、天気雨は煙鬱島内で主に私立探偵として活動している。自宅内の事務所にて島民からの依頼を受けることで、生活費を稼いでいる。島内の多数の危険地域への深入や多くの隠蔽された事項への介入捜査も厭わない上、その目的の大半が「ただの好奇心」あるいは「依頼を達成してお金が欲しい」であるため、煙鬱島の島民からは「恐れ知らずの天気雨」と呼ばれている。煙鬱島の特殊な性質によって、巻き込まれた外部の人間が天気雨に助力を請うことを選んだ場合、常に的確な援助を提供することができるため、彼女が多額の謝礼金を得る機会は多い。小川弘樹氏が迷宮を代表して彼女に進行調査を依頼した事例も存在する。
妖狐の一員であるために基本的な能力として備わっている変身と幻術は、天気雨が危機的状況から脱するための切り札の一つである。但し、彼女が危険予知および真相を見抜くための核心的な切り札は、怪異の変化および計略的行動さえ看破可能な彼女の異常性である。彼女自身はこの異常性を怪談に因み、「狐の窓」と名付けている。特事課による聴取の結果、この異常性は人間に化けた怪異の能力や実体を看破するのみならず、心理面や社交面での「嘘」を見抜く能力も身に着けていることが判明した。これらの特殊能力を有する天気雨は妖狐としても非常に特殊な存在である上に、彼女は非常に若い──妖狐が年若い外見に反して実年齢は数百歳程度であるとの一般的認識と異なり、島内の世界オカルト連合医療班による健康診断の結果から、天気雨の年齢は実際に16歳であり、人間に変身した際の高校生の外見には嘘偽りが無いとの結論が出た。
事件記録
記録は飯塚颯警部によって更新されている。
事件番号:H01-018 | 事件種別:辛種四類(異界通路/未回収) | 捜査状況:解決 |
事件概要:外宇宙への侵入・破壊行為 |
煙鬱島住民の重村聖が、王の領域へ直通する跨宇宙通路を開く秘法が記載された出所不明の古書を入手した。重村は古書の内容に蠱惑され、「祝福されし世界へ行く」ことを意図して、煙鬱島を訪問した外部の観光客数名を開通儀式の供物に選定した。 数名が死亡し、通路が開通する瞬間に、生存した観光客と数名の地元住民が一斉に儀式を破壊した。重村聖は通路に吸い込まれて消失し、形成された通路も同時に消失したため、回収および破壊には失敗した。その後、数名の生存観光客は適切に移送され、財団で記憶処理を受けた。 |
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被疑者:重村聖 |
事件番号:H04-023 | 事件種別:丙種二類 (干渉不可/不完全な保管) | 捜査状況:解決 |
事件概要:夢界での加害 |
煙鬱島の風土人情を報道するため訪れた記者団が、夜のうちに死亡する事例が相次いだ。破裂した死傷者の頭部からから湧出したインク状の虹色の夢界生物による、死体の周囲空間を夢界へと現実改変する事象が発生していた。生存した記者たちは現地住民や警察と交流を深め、最終的に蛇の手が過去に起こした研究事故が根本的な原因と突き止めた。 蛇の手は過去に煙鬱島で大規模に応用可能な人間のオネイロイ化を研究していたが、災害の発生により、研究の停止を余儀なくされた。死傷者を出した夢界生物はいずれも、過去の実験で犠牲となった試作品であった。記者団に潜伏していた当時の事故関係者である蛇の手構成員が、島へ帰還した後に蛇の手の意に従って密かに研究を再開し、事件を発生させた。後に責任者は逮捕され、生存した数名の記者団メンバーは適切に移送され、財団で記憶処理を受けた。 |
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被疑者:蛇の手 |
事件番号:H12-173 | 事件種別:非異常 | 捜査状況:解決 |
事件概要:悪質傷害犯の逮捕 |
財団日本支部の研究員チームが煙鬱島のサイト-81FQへ考察実習のため訪問した際、失踪・負傷・殺人未遂が相次いで発生した。研究員チームの隊長は、サイト管理者の反対意見を無視して警察へ通報したことが指摘された。 しかし捜査の進行と被害者の継続的な発生により、最終的な被疑者は通報者である隊長の大森結人に決定した。元来よりサイト-81FQに勤務していたこともあり、サイトと煙鬱島について十分な知識を有していたためである。大森結人の寮の部屋着ポケットからサイトの未使用収容室の鍵が発見され、収容室からは失踪していた研究員が監禁された状態で発見された。今回の犯罪は、悪質な事件を通じて現サイト管理者である木村琉生を冤罪で陥れることを目的としていた。 現在、押収された汚職に関する記録、性的接待に関する記録、アノマリーへの虐待に関する記録、地元住民を違法に監視していた証拠は全て大森結人による偽造と判明している。協定に基づき、逮捕後の身柄は財団に引き渡された。 |
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被疑者:大森結人 |