人々は鳥の声を聞いた。その翼を見た。意識界を侵食する燃える荒野は、惑星に遍く広がった。
虚ろな目の研究員を助け起こそうとした時、男はその口から垂れ流されていた異国語の呪詛を聞いた。瞬間、彼の精神も鳥の庭へと引きずられる。
男は紅蓮の世界に浮かぶ己を見出した。血臭がする。神代よりの知識を溜め込んだ神人は、ここが猟場であると察した。
「阿頼耶識を飛び渡る鳥よ、お前はなお飢えているのか」
赤い熱風と紅い砂塵を金属の手で受け、男は朱い夢を見渡す。酷く冷めた声で、呟いた。
「私ですら、万の歳月を経て錆びついた魂すら、食らおうとする程に」
赫赫たる世界に曝されてなお青い瞳が、旋回する緋色の鳥を捉えた。
鳥は啼いた。まさしくそれは飢えていた。
それはヒトの脳波から脳波に乗り、魂という魂を貪り尽くしたところであった。
しかし、とびきり腹を減らして飛んできたというのに、ヒトの数はどういうわけだか満足するには少ない。原野を飛び回っては魂の残骸を漁り、そのうちに自分の餌を横取りしてきた奴らがいる事を知った。
それは爬虫類であった。細菌であり、魚であり、虫であり、異次元の住人であり、そして、狂える虐殺者であった。
腹が減っている。このままでは眠れない。いっそ、猟場を荒らした者どもを代わりに食らってやろう。
埋め合わせをしてもらわねばならない。その思念で、意識で、空きっ腹を満たさねばならない。
神食いだ。さぞ食い応えがあろう。
鳥は啼いた。
緋色の鳥は、再び発った。
棺桶を脱した虐殺者もまた、呪詛を聞いた。
赤い大地を踏み躙り、紅い空を睨み、朱い光の中に飛翔するものを見出した。その啼き声に飢餓を聞き取り、奇怪な刺青に覆われた頬を不愉快そうに歪める。
「鳥め、このおれを食らうのか」
赫赫たる世界に穴を開けるが如く黒い剣が、空より睥睨する緋色の鳥へと向けられる。
狩猟が始まった。誰も語らぬいくさが始まった。