奇想天獄 2026年第2号 「超常芸人と笑いの新世代」

奇想天獄 2026年第2号

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表紙イラスト=ミシマユキ
表紙装丁=一桐倫平


特集 超常芸人と笑いの新世代

今、何が一番『ウケる』のか

 超常技術製品の広告をテレビで見ない日はない。1998年に世界が裏側から破られて以降、これまでオカルトとして総括されてきた事象は表立って扱われるようになった。それは人々を驚かせるとともに、超常というフロンティアへの冒険心をくすぐった。しかし、超常は人類に新しい恐怖を与えた。モンスター、そう雑然と呼ばれていた存在の実在である。財団やGOCといった正常性維持組織により実際の被害は抑圧されているが、人間とは想像豊かな生き物だ。特定の動物性特徴を保有する人種や特殊な肉体を持つ妖精など、伝承部族と呼ばれる種族の一部は人間の伝承により脅威と見なされ、暴力性と結び付けられている。

 2000年以降、伝承部族の人々はその技能を文明社会で活用するようになった。伝承部族は次々と社会に進出していくが、次第に伝承でのイメージや外見の印象によって、一部の部族は劣悪な扱いを受けるようになる。一方で背中に羽根を持つコティングリー系妖精族は優遇されるなど伝承部族間での格差も発生し、歪んだ社会構造を生み出した。だが、これは徐々に崩れつつある。国内外の芸能界がその証拠になるだろう。昨年のアカデミー賞主演男優賞を旧人類族であるヨトカ・アイスマンが獲得するなど、文化面でも平等性が保障されつつある。

 ここで本誌は、常に変化を続ける日本のお笑い界に注目したい。M-1グランプリなどのコンテストでは2025年の異常性保持者保護法改正を待たずして、開催当初から異常性保有者の出場を認めていた。これは「異質さを笑う」という笑いの特性と超常が噛み合い、劇場での異常性保有者の活動が見られたからだ。外見が一般的な人間とは異なる異常性保有者や伝承部族はキャラクターとして強く、2010年代までは“超常芸人”が世の笑いを席巻した。これは異常性保有者や伝承部族の活躍とも捉えられるが、社会全体でその特性を異常視する見世物小屋的視点だと指摘されている。笑いの持つ暴力性の発露だったとして、近年ではそれに頼らない方法をお笑い界全体で探っている状況だ。

 これで一番割を食うのは誰か。言わずもがな、超常芸人である。自分たち一番の持ち芸たる外見ネタや超能力ネタが社会問題になるとダメ出しされた。外見や能力に触れなければノイズになるというのに、彼らは笑いをどのように表現すればいいのだろう。実は、その課題に挑まんとする芸人は既に現れている。霜降り明星・せいやがラジオで提唱した芸人世代論での第八世代こそ、独自の世界観を展開する芸人の集合体だ。

 すべてが現実になる世界では、何が一番『ウケる』のか。そのために、彼らは何を賭けているのだろうか。


紹介 ノストラダムス

自然体系王道漫才は努力か、未来予知か

結成歴: 不詳 / 所属: TTTproduction(東京)

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漫才オンリーライブ
『法螺吹』
フライヤー

 凶事を言い当てる妖怪と人の死を告げる妖精が組めば何をするか。漫才だ。

 TTT芸能部門であるTTTproductionに所属する“ノストラダムス”は信仰準拠存在の漫才師。神話や民話に由来する数多くのタレントが属する同社においても存在感をひときわ放っている。

 ふらふらと壇上に立ち、笑いを取って立ち去る。角と耳を頭から生やしたボケ・くだんが真顔で適当な話を展開し、ローブを着たツッコミ・バンシーが穏やかかつ的確に捌く。日常会話のような自然体の漫才の中で心地良いやり取りが繰り返され、終盤にはその精度が高まっていく。ネタの完成度は評価されており、無名漫才師発掘を目的とした大会、EBISU=ManzaiCapⅡ(通称、E=MCⅡ)では2023年大会で優勝を果たした。

「ノストラダムスの漫才には確固たる軸がないのに伏線はある」とよく言われる。会話はテーマなく移ろっていくのに、前の話題で出たフリが綺麗に回収されるのだ。熟達した話芸が為せる技だが、「笑う未来を見てからワードを撒いている」と想像する漫才ファンもいる。これはコンビが未来予知が可能な存在を名乗っているからだ。このコンビには他にも「2007年までは災厄を笑い飛ばす漫才をしていた」などの噂があるが、どれも憶測の域を出ていない。

紹介 ズーキーパー

演技派と奇才が生み出す新感覚キャラコント

結成歴: 5年 / 所属: StarCrapProject(東京)

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単独コントライブ
『檻のない猛獣』
フライヤー

 演技力と奇抜なセンスが合わさると、異様な状況とキャラすら愛おしく癖になる。

 アイドルや歌手を輩出していることで有名なStarCrapProject。お笑い部門が設立されたのは2016年と新しいが、若手の実力者が続々と生まれている。

 “ズーキーパー”はその新たな代表格。元俳優の玉屋獅子と美術系短大出身の鍵谷悠里が繰り出す世界観は日常の延長ではあるものの、どこかズレている。ラーメン屋の行列でスタチューパフォーマンスを行う大道芸人、入った瞬間に肩幅が二倍になり脱出が不可能になる試着室、特撮ドラマ敵幹部の捨て台詞グッズを開発しようとする玩具屋の会議など、一見すると意味不明なコントが彼らの作風だ。ブレインの鍵谷がネタを作成し、玉屋の演技力で説得力を持たせるという奇妙なバランスの上に成立している。

 不条理な状況が当たり前になった現在、シュールコントは加熱の最中にある。しかし、動物性特徴に関係した社会的障害などは現実に存在する問題であり、笑いにならなくなっている。笑いにはより突飛なシチュエーションが求められるが、ズーキーパーのコントはそれを達成しながら共感を得られる構造を作っている。

コラム 日本最初の超常芸人は誰?

 日本には異常性を持った芸人が活動していたという記録が数多くある。古くは江戸時代の歌舞伎や落語の公演に異常存在が潜んでいたと言われ、戦前になるとその痕跡は急速に増える。戦後には怪異が集団を形成し、演芸ブームに紛れてコントや漫才を披露して信仰の糧にしていたという。これらは公開されている記録がなく、都市伝説の域を出ない。

 さて、ヴェール崩壊後に登場した芸人で最も代表的なのは“話芸の小鬼”こと神林小玉こだまだろう。怪奇譚を得意とする落語流派“神林派”に属する落語家の一人であり、秘匿されていた神林派が表舞台に立った際に最初に弟子となった人物だ。弟子入りの申し出が殺到した際に、九代目神林伯玄が唯一弟子入りを認可したことで知られている。

 小玉はスコットランド出身であり、ブラウニーという鬼の一種である。信仰によって存在を維持する信仰準拠存在であり、かつては家に仕えることで存在を保持してきた。ヴェールの崩壊とともにその縛りから逃れ、家で流れていた落語に憧れて来日。いくつもの亭号の門戸を叩いた末に神林派に弟子入りとなった。

 小玉の魅力はその『小物らしさ』にある。媚びへつらう滑稽な演技が同世代の落語家でも抜きん出て上手く、笑いを誘う演目では右に出る者はいない。その小物らしさは高座以外でも発揮され、タレントとして活躍する姿もよく目にする。

 神林派を統括している十代目神林伯玄は、彼についてこう語っている。

「ネタを演じている最中というのは芸人の人生観が嫌でも出ます。気付かないかもしれませんが、あいつの媚びには呆れが入っているんです。何故イギリスを出たか、あの媚びは誰の模倣か。師匠は詮索しませんでした。とにかく、奴の笑いには笑えない芯がある。これだけ言えば、調子の良い小玉への営業妨害にはなるでしょう(笑)。」


特別対談 バンシー × 鍵谷 悠里

新世代男女コンビの女性芸人、ルーツと今後の展望

 E=MCⅡ優勝から破竹の勢いでブレイクした“ノストラダムス”、若手コント職人として注目を集めている“ズーキーパー”。ともに男女コンビであり、超常芸人の括りにも入っている。この二組から、バンシーと鍵谷が登壇。「芸人を目指したきっかけ」「今後の展望」などのテーマについて語ってもらった。

人物紹介 バンシー


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充血した眼で人を怖がらせないよう、メディア露出時は偏光レンズをかけるらしい。

 スコットランド出身。2017年にフリーの漫談家くだんとノストラダムスを結成。以前にもくだんとはコンビを結成していたがある機会に解散し、TTT系列企業に勤務していた。

 2023年にE=MCⅡ優勝。2024年度ブレイクタレントランキング3位をノストラダムスとして達成。最近では帯番組のコーナーMCとしても活躍し、メディア露出の機会が増加している。

 出演番組では度々スコットランドの妖精であるバンシーとの同一性を主張している。バンシーは家の住人の死を泣き声で予言することで知られるが、彼女は嘘泣きが極端に下手というギャグを持つことで知られる。

人物紹介 鍵谷 悠里(かぎや・ゆうり)


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公式広報動画にて、涙しながら「次は全員倒します」と睨むシーンが話題を呼んだ。

 2000年生まれ。神奈川県出身。2020年に玉屋獅子とズーキーパーを結成。玉屋とは同時に養成所を中退し、それがコンビ結成のきっかけとなった。美術系短大出身、趣味は絵画制作。

 2025年、キングオブコントで初の準決勝進出。決勝進出には至らなかったが、尖った芸風と玉屋の演技力に注目が集まる。先日開催された単独ライブでは販売から5分でチケットが完売。本誌が実施した“要注意芸人”アンケートでは1位を獲得した。

 後天的な動物性特徴の保有者。2009年に発生した奇蹄病事件で被災し、全身の皮膚に奇蹄病を発症。体表がシマウマ様に慢性変化した。

──まずはお互いの印象についてお聞きしたいと思います。お互いについて、どんな印象を持っていますか?

バンシー: 私から見た鍵谷さんは……そうですね。怖い人が出てきたなー、と思いました。いろんな意味で。

鍵谷: 取材のアタマからそんなこと言います?

バンシー: いや、怖いですよ。準決勝で大ウケしたけど審査で届かなくて、その後にギラギラした目で広報カメラに噛みついたんですから。闘争心が凄いなって。もしかしたら若手の中では一番お笑いに挑んでる人なんじゃないでしょうか。

鍵谷: その辺はバンシーさんも同じだと思いますよ。若手の間で話してるんですけど、天然っぽさがあるけどめちゃくちゃ真面目だって。ライブのMCで場が乱れてもすぐにトスに繋げてくるって。情報収集とか、裏の努力をひたすらしてるんですよ。

バンシー: 私は未来が見えるだけですよ。ほら今もなんか、涙が湧いてきて……。

鍵谷: 文字起こし記事だからそれやっても意味ないですよ。

バンシー: あっ……ごめんなさい(笑)。

鍵谷: 見ました? 今も狙ってやりましたよね? “ノスダム”に隙を与えちゃダメだって言われまくってる理由がこれですよ!

バンシー: 鍵谷さんも見えるようになるんじゃないですか、未来。鋭いので。

鍵谷: ツッコミの鋭さと未来予知関係ないですよね?

──白熱しているところ申し訳ないですけど……お二人ともお笑いに情熱を向けていますが、お笑いを始めたきっかけはどこにあるのでしょうか?

バンシー: 私は自分からお笑いを始めたわけじゃなかったですね。なんなら日本語もまともに使えなかったですし。くだんさんに誘われて、よく分からないまま舞台に立ってしました。

鍵谷: アリなんですか、それ。

バンシー: 昔でもナシだと思います。で、一回解散したんですけど、もう一回コンビを組むことにしました。意外とお笑いそのものは好きになってたみたいです。鍵谷さんも最初からお笑いを目指してたんじゃないって聞きましたけど、どうですか?

鍵谷: 私も元々はデザイン系志望だったんですけど、いろいろありまして。ちょっと腐りかけてたときに落語聞きにいったんですよ。当時浅草に住んでたんで、聞いてみるのもいいかなと。その回が小玉師匠の高座で。興味なかったのに爆笑しちゃって、こっちの道もありかなと思ったんです。

バンシー: そこから養成所でしたっけ。そこでもひと悶着あったって聞いてますよ。

鍵谷: まぁ、私って珍しいんで。異常を持ってる芸人が軒並み売れていった時代は芸人志望なら誰でも知ってますし、私は、何ていうか、素材としてレアですからね。シマウマの肌した人間なんてこの世に私くらいしかいないんじゃないですか? 私がやりたいのってそういうのじゃなかったんで、授業中にキレたんですよ。「私を見ろよ」って。

バンシー: 心中お察しします。

鍵谷: いいですよ察さなくて(笑)。今からすると信じられないくらい痛い奴ですし。それで、その日のうちに養成所辞めたら今の相方の玉屋が付いてきたんですよ。それがズーキーパーと、私の芸人としての始まりです。

──その始まりから月日が経って、二組とも転機を迎えていると思います。今後はどうしていきたいですか?

鍵谷: 私はまず賞レースですね。去年準決勝まで自分たちのスタイルで進んでいけたので、この感覚のまま優勝したいです。あと、漫才も頑張りたいですね。コントじゃできないことも多いので、漫才でそれを試していきたいです。

バンシー: キングオブコントとM-1で男女コンビの二冠ですか。いいですね。私もコントはコントで興味ありますよ。

鍵谷: バンシーさん、この前は「しばらくはしゃべくり一筋で」って言ってませんでした?

バンシー: お笑いができれば何でもいいっていうのはありますね(笑)。

鍵谷: 適当言ってくだんさんに怒られても知りませんよ。

──超常芸人の括りに入るお二人ですが、超常的な力を持った人としてお笑いをやることにはどんな意味があると思いますか?

鍵谷: 普通の人にはできないことができる、それだけでも意味はあると思います。私には特殊能力はないですけど、肌のおかげでコントの空気感を生み出すことができてます。自分の特性を飼い慣らせたなら、心強い味方なんじゃないでしょうか。

バンシー: そうですね。ズーキーパーの場合、鍵谷さんのセンスと玉屋さんの演技力、そこに鍵谷さんの模様も組み込まれています。だけど、それはお二人の型がしっかりできているからで、必ずしも肌の恩恵じゃないです。私はむしろ、超常を無視できるのがお笑いのいいところだと思ってます。

鍵谷: 超常を無視する?

バンシー: 笑いって、すごく普遍的なものなんですよ。神様も仏様も笑うし、とても貧しい人も面白いことがあれば日々の中で笑えます。超常も笑いの道具にしてしまえば、技術として飼い慣らしたのと同じです。だから、超常を持った人が普遍的に面白いことをやると、超常を無視して元々の人間らしさに近づけるんじゃないかと。

鍵谷: だけどバンシーさんは人間じゃないですよね?

バンシー: そうでした(笑)。

鍵谷: また狙いましたね?

──では、最後になります。お二人にとって「お笑い」とは?

バンシー: うーん……すぐには思いつきませんね。鍵谷さんは何かありますか?

鍵谷: イジってくれる他の芸人がいない場所で言うのもアレだと思うんですけど、いいですか?

バンシー: 私も芸人なんですが。いいですよ。

鍵谷: 復讐、ですかね。

バンシー: そう来ましたか。何に復讐したいんですか?

鍵谷: さっきも言ったんですけど、私ってレアキャラなんですよ。で、レアだと舐められて、笑い者にされるじゃないですか。笑わなくても、そういう状況になったのを謝られたりとかされたら、まるで私が珍獣みたいじゃないですか。だけどそういう人たちを一転して、私が笑わせたら。

バンシー: その人が笑うかを支配して場を管理したも同じ、ということですか?

鍵谷: はい。「緊張と緩和」ってあると思うんですけど、緩めて笑わせてるのは舞台上で私たちだけなんです。チビでもハゲでもデブでも、小間使いの小鬼でも、蔑みから心に入り込んで操って真反対に持っていく。私も真反対に持っていって、笑わせて全員倒す。

バンシー: それ、とても疲れますよ。

鍵谷: どうしてそう言い切れるんですか?

バンシー: 私たちがそうだったからです。特にくだんさんは笑わせるとか以前に、復讐のためにお笑いを名乗っていた人でした。全部を笑いの糧にして、私がやっていることの意味に気付いたときには大切な何かを失っていました。自分で自分の意味を見失っていたんです。

鍵谷: でも、バンシーさんはまたお笑いに戻ってきたんでしょう?

バンシー: それは、私が一番救ってあげるべきなのはくだんさんだと思ったからです。他の誰でもなく。鍵谷さん、2007年にスコットランドの空港でテロがあったのを知ってますか?

鍵谷: そうなんですか?

バンシー: 私が予言して、テレビで喋ったんです。その放送がどう使われたかは知りませんけど、翌日には空港が閉まって、テロは不発に終わりました。それから随分昔の知り合いが私のところに来て、社員として役割をくれたんです。不幸な未来を予言して、情報を流して解決する。だけど、数年やっているうちに何も見えなくなりました。たぶん、人に降りかかる災厄は私たちみたいな存在じゃなくて、人が解決するんだって世界のルールが変わったんだと思います。

鍵谷: 人が解決する?

バンシー: はい。だから、お暇をもらって、くだんさんのところに戻りました。自分たちの能力を一度捨てて、自分たちの役割を変えて、笑える未来を見ようって。指をさして笑われる予言者になろう、と。それでノストラダムスとして、お笑いをやるために私たちは再スタートしたんです。

鍵谷: なんていうか、あの。

バンシー: すみません、急に長々話してしまって──。

鍵谷: 無責任、ですよね。

バンシー: えっ?

鍵谷: 自分で言い出しといて、無責任じゃないですか。バンシーさんが本当にバンシーなら、東京事変も予言できたでしょ。夏鳥のテロも。あなたの言うそれが冗談じゃないなら、防げたでしょ。全部全部、奇蹄病の蔓延だって。

バンシー: それは、だんだんと不幸の未来が見えなくなったから──。

鍵谷: 人が解決する? 解決できてますか? 解決できてないから、私はここにいるんですよ?

バンシー: ここにいるのも全部、不満ですか? 私にはそうは見えませんでしたよ。

鍵谷: それは違いますけど……すみません。ここでバンシーさんに当たっても何にもならないですよね。

バンシー: いえ、こちらこそ申し訳ないです。

──あ、あの。そろそろバンシーさんからも「お笑いとは?」を貰ってもいいでしょうか?

バンシー: そういえば、それが本題でしたね。私にとっては……最後に行き着くもの、ですかね。

鍵谷: どういう意味ですか?

バンシー: 昔、くだんさんが言ってたことです。どんな悲惨な事件も、いつかはその悲惨さが忘れ去られて娯楽になる。でも私はそういう意味では使いません。私たちも変わりましたから。今の私は、どうやっても切り離せずにそこにあるものだと考えてます。

鍵谷: さっきも言った、笑いは普遍的って考え方ですか?

バンシー: えぇ。どんな苦難があっても支えてくれるもの。お笑いに限らず、アイドルとか映画とか、そういうものも同じ。そこにあるから、頑張ろうと思える。そういう存在になれたら、元々の形にも近づけるかもしれません。

鍵谷: 元々の形?

バンシー: ああすみません、そこだけはこっちの話です(笑)。

──それでは、対談を終わりたいと思います。本日はありがとうございました。

鍵谷: あ、最後に一つ。バンシーさん、聞いてもいいですか。

バンシー: 何でしょう。

鍵谷: 私たちにも笑えるような未来が来ますか?

バンシー: 来ますよ。時代は変わります。私たちが変わったように、いつか変わるときが来ます。

鍵谷: そうですか。

バンシー: 信じてください。予言者が言うんですから。

鍵谷: 見えなくなったんじゃないんですか。って、またやられた。

撮影=甘梨和明
文・聞き手=川畑百奈

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