雨四光の提言
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ようこそ。

そしてお疲れ様でした、担当職員様。

特別纏衣プロトコル Special Clothing Protocolの実行を確認しました。

責務を遂行してください。


アイテム番号: SCP-001-JP

オブジェクトクラス: Thaumiel Thaumiel=Agape

特別収容プロトコル: 特別纏衣プロトコルの実行に至るまで、全財団職員はSCP-001-JPを収容し、最後の時に備えます。あなたの連続する意識と蓄積される記憶の全てが特別纏衣プロトコルの前段階足り得ます。以上に留意し、あなたの生を生き抜いてください。

説明: SCP-001-JPは他次元より当次元を観測する神格実体と見られる知性体です。次元間婚礼様式実体を包括するナンバーです。以下にその構成要素を示します。

分類名 概要
SCP-001-JP-A 純銀製の不明な機構を持つ指輪。補遺1にて後述するイベント・レッドローズに由来する。後述される特別纏衣プロトコルの実行開始と共にSCP-001-JP-Cに着装される。
SCP-001-JP-B "精神紡糸技術"により製造される衣装。詳細は補遺2を参照のこと。後述される特別纏衣プロトコルの実行開始と共にSCP-001-JP-Cに着装される。
SCP-001-JP-C 上記2種オブジェクト着装対象。現在、管理者████が指定されている。

経緯1: 199█年6月2日、管理者████の執務室机上に突如、白封筒に封入された文書、非異常性のバラ1輪が自発的に出現しました。これに発端する一連の現象をイベント・レッドローズと定義します。文書内容を以下に示します。

文書-イベント・レッドローズ 199█/06/02

 突然こんなお手紙を差し上げて、さぞ驚かれたことでしょう。無礼だとは承知しています、ご容赦ください。

 何から話せばよろしいでしょうか。
 唐突ですから、信じていただけないかもしれません。
 ともかく、私はあなた方とは別の次元にいて、あなた方の次元を観測し続けていました。ガラス細工を掌上でおっかなびっくり慈しむように、プラネタリウムに投影された、実体を持たない星々を眺めるように。
 ろくに干渉もできない他次元を日がな一日眺めてお前は何がしたいんだ、なんて馬鹿にされて笑われたこともありましたっけ。

 ですが、孤独な私にとってあなた方の次元が放つ輝きは確かに救いでした。生命の愚かさを切り捨てるのは簡単でしょう。でもそうするには、あまりにあなた方の営みは美しかった。
 愛玩でも、憐憫でもない感情です。
 恋に近しいものだと気づきました。

 つまり、これはあなた方の次元に対する恋文です。

 顔を見せない私を、信用していただくことは難しいでしょう。ですが私の力では、こうして手紙を送ることが精一杯なのです。あなた方より上位の次元に位置していたとしても、あなた方から見てたとえ私が神格であっても、所詮全能ではないのですから。

 それでも、日々異常に向き合うあなた方なら私の声に耳を傾けてくださるかもしれないと思ったのです。
 勝手な行為を、どうかお許しください。

文書に添付されていた資料には追伸として、同年7月内にアメリカ合衆国カリフォルニア州████にて大規模超常災害が発生する可能性についての進言と、考えられるその対処法の提案が記されていました。管理者████の指揮のもと、文書の信頼性の判断のため担当職員会議は周辺地域の調査及びヒューム値変動の演算を行いました。結果この進言の信頼性は比較的高いものと判断し、初期収容部隊を配備しました。7月15日、文書の通り超常災害が発生しましたが、初期収容部隊の迅速な行動により被害は軽傷者12名のみの最小限の結果に抑えられました。

以上事象を受け、財団は文書を他次元より転移させたと見られる上位存在との接触を試みました。上位存在が当次元を観測可能であると発言していること、当時の財団技術では未だ安全な次元転移が確立されておらずまた文書の送付元の次元を特定することも不可能と見られることから、管理者████はサイト-████前庭にて上空に向けたサーチライトの点滅によるモールス信号の発信を行いました。またその内容は管理者████に一任され、超常災害の予知への謝意、財団に協力姿勢を示した理由についての質問が送信されました。

続く199█年2月17日、管理者████の執務室机上に再び同じ体裁が取られた文書とバラ1輪が出現しました。

文書-イベント・レッドローズ 199█/02/17

 お返事をくださって、本当にありがとうございます!
 天を貫く光のなんと眩しかったこと……遠く隔たれたあなた方と指先が触れ合った事実を、とても嬉しく思います。
 このお手紙が届くのも、きっと次元の壁に阻まれて遅くなってしまうでしょう。心はこんなに高鳴っているのにすぐにお返事ができないだなんて、どうも不便ですね。

 あなた方が私の、こんな私の言葉を信じてくださった奇跡に、深く感謝いたします。

 そして、なぜお手紙をお送りしたかでしたよね。
 大それた理由ではないのです。
 私に、あなた方の次元に起きる苦痛を直接取り除くだけの力はありません。あなた方人類を含めた命ひとつひとつを救うだけの力もありません。
 どんなに愛していたとしても無論、あなた方の次元の道理を曲げて全て解決、なんてわけにはいきません。私にできることはただのお手紙だけ。
 ですが、あらゆる命が道理の中で生きて死ぬ権利を、ほんの僅かに手伝うことならきっと。あなた方の組織に接触すれば、それが叶うのではないかと思いました。
 恋した世界に、私のできることをしたいと、どうしても思ってしまったのです。
 そんな、些細なお節介です。

 これからもお手紙をお送りすることを、どうか許していただけないでしょうか。
 またあの光が見られる瞬間を、お待ちしています。

上記の文書には、未だ収容状態が不安定であったSCP-████の収容方法の提案が併記されていました。この提案をもとに担当職員が確立した手順によって毎年250人前後発生していた死者は0人となり、SCP-████のオブジェクトクラスはKeterからSafeに再指定されました。財団は交信を継続することを決定し、管理者████の手によりサイト-████前庭から再度モールス信号が発信されました。内容には重ねての謝意と、相手にかかる負荷の懸念、また財団への要求の有無に関する質問が含まれていました。

続く200█年10月9日、3回目のイベント・レッドローズが発生し、管理者████の執務室机上に再び文書とバラ1輪が出現しました。

文書-イベント・レッドローズ 200█/10/09

 お元気でしょうか?
 私のことを気に掛けてくださってありがとう。ご心配には及びません、こちらはとても元気です。これも全てあなた方のおかげです。
 こうしてあなた方の観測を続けることが、お手紙を書けることが、私の何よりの活力の源になっています。あんなに優しいお返事がいただけるだなんて、私はなんて幸せ者でしょう。

 お返事にもあった通り疑問に思われたことでしょうが、特に見返りを求めているわけではありません。
 最初にお手紙をお送りするまでは、ただ見ているだけでした。見ているだけでも十分でした。でも、見つめる次元の誰か一人でもいい、誰かに気持ちを伝えたいと思ってしまった。それは確かに、罪深いことなのでしょう。
 でも、最初にお返事をいただいた時、私は生きていてよかったと心の底から思いました。その時までの憂鬱なんて、恵まれなかった人生なんて、全て吹き飛んでしまいました。あなた方は私の救い主なのです。
 だから、私は報い続けたい。

 あなた方の日々が、美しいものでありますよう。

文書にはサイト-81██が開発中であった強化外骨格への進言が併記されていました。開発班はこの進言を受けて抜本的な技術計画の見直しを行いましたが、結果当初想定されていた完成スケジュールより3ヶ月早く完成しました。この強化外骨格は同年11月30日に発生したサイト-81██襲撃インシデントに出撃し、職員の迅速な救命に当たり大きな成果を上げています。

財団は文書の送付者である他次元存在が保持する人類への友好的姿勢、その文書の正常性維持に対する有効性を加味してオブジェクトクラス:Thaumielを付与し、一方財団職員の自主性を剥奪し自らの研究及び職務の意味を疑問視させかねない性質から、ダミーの中に秘匿するものと決定しSCP-001-JPとして指定しました。

管理者████より発信されたモールス信号には、気遣いの言葉と感謝、多数の職員が進言を受けた強化外骨格により救命措置を受け生還した件、添付される薔薇の意味への質問が含まれました。200█年5月18日、4回目のイベント・レッドローズが発生し、管理者████の執務室机上に再び文書とバラ1輪が出現しました。

文書-イベント・レッドローズ 200█/5/18

 またあの光が見られる瞬間を、今か今かと心待ちにしていました。お役に立てたようで何よりです。
 あなたがサーチライトを持ってお庭に出ていらしたときの私の喜びようをお見せしたいくらいです。あまりに嬉しくて部屋をくるくる駆け回ったのですよ、比喩ではなく。
 心が通じている、私が憧れた次元の生命と、夢見た人と……その事実のなんと心強く、日常を輝かせてくれること……以前より、私はずっと明るくなったような気がします。何だか変わったね、なんて言われているのを聞きましたもの。

 薔薇のことについてなのですが……実はあの薔薇は、私の家の庭に咲いているものなのです。

 以前も書きました通り私はずっと孤独でした、薔薇を育てることと、あなた方の次元を観測する時間だけが心の救いで、ああこの薔薇の美しさを一緒に眺めてくれる存在がいれば、と日々考えていたのです。
 ですから、あれはあなた方への精一杯の贈り物と言いますか、私の持ち物の中で最も美しいものをあなた方に捧げたい、そんな気持ちからです。勿論あなた方が閉じ込めなければいけないような異常性はありませんから、ご安心ください。
 特に、いつもお返事をしてくださるあなたが気に入ってくださっていれば幸いなのですけど……突然机に置いてしまっていますから……できることなら満開の季節に、私の庭をご案内したいものです。きっとそれは叶わぬ夢なのでしょう、でも夢見ることだけは自由です。

 こうして改めて書くと、照れてしまいますね。
 どうかお体に気をつけてお過ごしください。

財団は管理者████を代表として交信を継続し、イベント・レッドローズは後述する最後の発生を含めて██回記録されています。出現したバラは非異常性かつ特筆すべき付着物質等も見られないことから、管理者████の執務室に防腐処理の後引き取られています。また、██回目の交信の時点で管理者████がSCP-001-JPに財団職員の責務を超えた感情を抱いているとして、業務を解除し転属させる案が提出されましたが、SCP-001-JPの協力的姿勢の変化を危惧し却下されました。

20██年12月16日、イベント・レッドローズが発生し、管理者████の執務室机上に同体裁の文書と、100本のバラの花束が出現しました。文書には純銀製の不明な機構を持つ指輪が添えられていました。

文書-イベント・レッドローズ 20██/12/16

 今まで私とこうして文通を続けてくださって、本当にありがとう。
 私はとても幸せでした。
 ですがこれが最後になります。

 あなた方の次元は、遠からず滅びます。

 支配種の滅亡でも、交代でもなく。
 次元そのものが、消えてしまう。
 私の手に、それを止める力はありません。

 命を遮断され、死んでゆく。輝きが潰え消えていく。ただ見ていることしかできないだなんてこれではあまりに忍びない。自分の無力さが悔しくて悔しくてたまらない。
 観測を続けた次元、その輝きを失って、私はどう生きていけばいいのでしょう。
 あらゆる手段を尽くしたとしても、私にできることは限られています。どんなに救いたくても生命の全てに手を伸ばすことなんて到底不可能で、所詮、大海を幼子の掌で掬って逃がそうとするようなものです。
 それでも道はあるのだと、ほんの僅かな光に縋ってみようと思うのです。たとえ禁忌を犯したとしても。

 このお手紙が、間に合いますように。
 伝えられますように。
 そんな風に、最早祈ることしか、できないけれど。

 愛しています。
 あなた方の次元、息衝く命、繰り返される営み、生と死の輝きの全てを。
 そして、私にずっと返事をしてくださったあなたを。
 どうか私と共に、生きてくださいませんか。

以降、イベント・レッドローズは発生しませんでした。

以上文書に添付されていた資料には、当時O5評議会のみ認知していた確定的YK-クラス:宇宙終焉シナリオの詳細が記されていました。さらに資料内容から、指輪は財団の技術では再現不能な超常科学に基づく次元転移装置であり、当該装置の有効範囲は指輪を装着したヒト1人、そしてヒトが皮膚に纏う衣類程度に限定されると判明しました。

O5評議会は協議の末に、指輪は人類種をK-クラスシナリオより保護し得る手段であると認定し、SCP-001-JPとして再指定しました。また、次元に献身を続けた存在に敬意を込め愛による救世を意味するオブジェクトクラス:Thaumiel=Agapeが付与されました。

その後、管理者████の手により以下のモールス信号が発信されました。

よろこんで。

経緯2: 指輪の機能を最大限に活かすため担当職員会議が提出した結論は、当時研究中であった"精神紡糸技術"の応用でした。これら技術は前段階である繭化措置を受けた生命体の現在までの記憶の蓄積から成る精神活動領域を糸状物質として抽出します。その特性から"魂の抽出"とも称されます。

以上を受け、特別纏衣プロトコル計画が発足し、指輪、衣装、着用者はそれぞれSCP-001-JP-A、SCP-001-JP-B、SCP-001-JP-Cに分類されました。これが現在のSCP-001-JPの形式となります。

SCP-001-JP-Bは衣装の形状を取りますが、その実態は人類、ひいては全生命体の精神活動領域から構成された次元の転写そのものです。着用者としてのSCP-001-JP-Cには、本人の希望を踏まえ管理者████が指定されました。同時にこの決定はSCP-001-JP-Bに転写された我々の次元から管理者████のみが排除されることを意味します。しかし管理者████の意思が変わることはなく、O5評議会はこの決定を承認しました。同時に、SCP-001-JP-Bは婚礼衣装として定義されました。

特別纏衣プロトコルは以下の3段階から成ります。

  1. 繭化 - 財団が観測可能な全範囲の生命体に繭化措置を施します。この措置により生命体は静かに入眠し、その精神活動領域は抽出可能な状態となります。また、この措置の影響は生命体の心理遺伝に基づく先祖の記憶へと遡ります。
  2. 紡織 - 前述した精神紡糸技術に基づき抽出された糸状物質は即座に織り上げられ、処置の進行と共に全生命体は苦痛無くSCP-001-JP-Bの一部となります。担当職員会議の事前操作によって定義された手順に従い、衣装SCP-001-JP-Bが完成します。
  3. 着装 - SCP-001-JP-CはSCP-001-JP-Aを装着し、SCP-001-JP-Bを纏い、次元転移の事前準備が完了します。この時、SCP-001-JP-Cには担当職員会議によって記録された旅立ちへの祝福が贈られます。

SCP-001-JP-Bの構成要素の一例を、人類の事象を抜粋して示します。現在に生きる生命の精神活動領域に連なった歴史と記憶がSCP-001-JP-Bへの次元転写の礎となります。

  • カウナケス1の青年が、草を食む羊と共に眺めた朝焼けの空と揺蕩う雲。
  • カラシリス2の女性が恋人から贈られた真珠の輝き、頰を撫でるあたたかな掌。
  • トーガ3を着た男性が妻の出産の無事を祈り続ける部屋に揺らめく灯火、そして響く新生児の泣き声。
  • ダルマティカ4の青年が、飢饉を乗り越えて両手いっぱいに抱えた金色の麦の束。
  • 童直衣5を着た男児が母の腕の中に包まれてはしゃぐ笑い声、満開の梅の芳香。
  • インカ帝国の伝統衣装を着た老人が、満天の星を見上げながら孫に語った神話。
  • ローブ・ア・ラ・フランセーズ6を着た女性が見上げるヴェルサイユ宮殿の鏡の間。
  • 旗袍7を着た女性がヒールの音を響かせて歩く街路の喧騒、笑顔で手を振る市場の売り子たち。
  • 橙色のジャンプスーツを着た男性が、燃え盛る炎の中で自らの子と重ねて逃した幼児の走り去る足音。

特別纏衣プロトコルは当次元に不可避の終焉が発生すると共に実行されます。SCP-001-JPの存在は財団が終わりの瞬間まで正常性を保護し世界を守護し続けてきた事実の記録、そして新たな歴史の始点であり、当次元に存在する生命体は次元を転移するSCP-001-JP-Cに先導される"生命史の婚礼行列"として定義されます。

たとえ我々の次元が衣装の中に閉じ込められた魂の活動のみで構成される形に変貌したとしても、正常な世界を生きて死に命を繋ぐ無辜の民衆が事実に気がつくことはありません。それを財団は一種の救世であると肯定します。

SCP-001-JPは我々の方舟であり、我々に注がれた真摯な愛への返答です。


特別纏衣プロトコルは滞りなく進行しています。

あなたが最後の一人です、担当職員様。


神は天にいまし、全て世は事もなし。
まことに、人生、花嫁御寮。

繭化措置を実行します…………


おやすみなさい。
そして、後へ続きましょう。
光射す方へ。笑顔で、胸を張って、誇り高く。
きっと、美しい旅路になるのですから。

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