大捕り物の結末
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首都ワルシャワの美しき夏の夜のことだった。200万もの人口を有する巨大都市の摩天楼は今まさに美しく照らされていた。空には満月が浮かび、星々が彼方此方に瞬いていた。深夜だというのに、都市は相変わらず忙しなく、都市の至る所の街角から、様々な音楽、騒々しいやり取り、笑い声が聞こえて来た。

「クソッ、クソッ、クソッ。」急ごしらえの長衣以外は何も着けておらず、実質的に全裸の男が叫び声を上げた。男は誰かに追われているかのように、混乱する群衆で溢れかえっているワルシャワ市の脇道を押し分けながら進んでいた。

恐怖に怯えつつ、男は追手に捕まらぬよう、ゴミ箱、裏口、臨時灯だらけの裏通りの脇を次から次へと通り過ぎていったが、追跡者の足音が既に聞こえる距離にまで縮まっていた。男は程々の長さの髪と比較的豊かな顔髭を蓄えた、中年の人物という出で立ちだった。男は両手を負傷しており、そこから少量の血が流れ出ていた。

無知も同然の目撃者からしたら男の出で立ちは困惑させられるものだが、逃亡者は正真正銘の人ならざるものであった。男の奇跡術的かつオントキネティック能力は男の属する妖精種特有の狭い耳、青白い肌、黒い目で分かり辛くなっていた。大半の人物は知識が乏しい余りに気付けずにいたため、男が群衆に紛れ込む際に役立った。人々の優れた目でなければ男の追跡など不可能なのは明々白々であった。

妖精族この種族の幹部は都市近郊の公園に向かっていて、そこには放浪者の図書館として知られる異次元図書館へと通じる奇跡術的通路が設けられていた。現在のような事態下での逃走路として特別に用意していたものだった。

「とまれ!両手を上げろ!」青い目をしたブロンド髪の男が叫び、逃亡者を追って周辺の街角から唐突に飛び込んできた他の2名と共にライフル銃を男に向けた。一同の制服から追っ手がシークレット・サービスの類のエージェントであると分かった。胸に貼られたシンボルマークは内側に向けられた3本の矢と円が交わるというものだった。

尤も逃亡者が追跡者に従う意志など無かった。

「看守め。」男は怒りの叫び声を上げ、追跡者の数ヤード先で動かずにいたが、エージェントらがどうにか反応するよりも早く、さながら反射行為の如く唐突に、古代妖精語の呪文を唱え始めた。右手の血は敵へと狙いを定められ、輝き、点滅すると、強力な炎が目の前に出現し、エージェントらを襲った。一同は飛び込んできた周辺の街角への撤退を余儀なくされた。

男にしてみれば、エージェントらが協力するのに先んじて、別の裏道へと逃亡するのに十分な時間稼ぎになった。



無明の近郊の公園からは隔てた所に見える、人の行き来の絶えぬワルシャワの夜景は数多の色彩の光で溢れていた。

とうとう疲弊した逃亡者は束の間立ち止まった。男は疲れ果てており、現状に憤りを感じていた。更に運悪く、男は風邪をひいているように見えた。今は夏かもしれないが、全裸と裸足で大都市を駆け回るのは普通ならば健康に良いものではなかった。

男は辺りを見渡し、木々が並び、ランタンで道が照らされた公園には自分以外に誰もいないと分かると安堵した。少し前に追手は既に男を見つけられずにいたが、依然として間違いなく、男は連中に見つからずにいたとしても、警戒を解かずにはいた。だからこれ以上は時間を浪費せず、図書館への通路があると思しき場所に至る大公園の裏道を今では走らないとしても、速いペースで進んでいこうと決心した。

至るところにランタンが置かれている、無明の森に囲まれた公園の裏道を長時間歩いた後で、男は遂に船の下の小さな小道にどうにか辿り着いた。そこには別の道が、男が図書館へと来館できる秘密の道があったのだ。男は安堵の息を漏らした。

「首の後ろに手を当て、地面に伏せろ。」先程と同じ荒々しい声が背後から唐突に聞こえた。男の都市の通りへの逃走の試みに先んじて退路は塞がれてしまっていた。振り向いて前回の対峙と同じく呪文の詠唱が出来るようにしようとしたが、聞こえてきたのは銃声以外に無かった。

男は地面に崩れ落ちた。

銃弾が男に間違いなく命中したものの、彼の命に別状はなかった。鉛ではなく麻酔薬が詰められており、これにより任務は間違いなく上手くいった。

薄れゆく穏やかな意識の中で、男に出来たのは現場に到着した他のエージェントと男を奇襲してきた男との聞き辛くなっているやり取りを見聞きすることだけだった。
















インシデント報告書 GOI-120/2020-251


2020年7月21日夜、MTFオメガ-45("シロコウモリ")は様々な異常芸術活動と関わりがあり、同性愛者の乱交パーティーが開催されていたワルシャワのアパートを襲撃した。襲撃の主目的はパーティーに参加していたGoI-120 ("トリウムヴィレイト")1の有力活動家にして指導者の1人であるPoI-744("ジョシュア・スツェオラウス")の捕縛であった。

PoI-744は窓から逃走し、アパートから貧民街へと落ち延びたが、その道中で負傷した。キャプテン・ジェレミー・コーンウェル指揮下のMTFオメガ-45により現地の公園で捕縛された。PoI-744は目下サイト-120にて財団に拘束されている。GoI-120は今回の件に関して公式声明を出していない。




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