Interlude-2 世界プロジェクト
評価: +5+x
blank.png

世界を変える準備はいい?

Interlude-2 世界プロジェクト


「型無が死にました」
「そう。残念」

 2009年6月14日──日中。
 京都市内某所にて、『墓嵐』翁鳥供花が、とある人物と会っていた。

「解呪の魔女に捨てられちゃうし、推してた型無くんは負けちゃうし。私ってツイてないのかしら」
「まだ私が憑いてますよ……白鴉はくあさん」

 面会相手の名は、白鴉──翁鳥型無に竜刀『荼毘』や妖刀『鼬鼠』を与えた、スポンサー。
 この戦争において彼女たちを支えている有力者──人呼んで『千本鳥居』という、呪術世界を影に日向に支配してきたフィクサー達。そのうちの一つである『白鴉』は、妖刀や神器の類を扱う武器商人の家系だ。

「不安なのよねぇ。供花ちゃんは──血の気が少ないから」
死霊術師ネクロマンサーですからね……貴女が見込んだのはそういう女でしょう」

 彼女の場合、物理的に血の気が少ないのもあるが──肌は白磁じみた色をしているし、全体的に陶磁の人形が喋って動いているような印象を受ける──性格的に、彼女は今回の戦争に消極的だ。死霊術師は、死と親しい。生き残るための戦いに、モチベーションは湧きにくかった。
 それを知っていて、推挙する対象として供花を選んだ。翁鳥家と白鴉家とは、そこそこ付き合いが長い──歴史を辿れば、白鴉家が蒐集院のスポンサーとして参画してから3世紀は経っている。人となりは、よく知った間柄。

「だからこそ、ではあるわよね。貴女も白鴉うちも、世界を変える気がないのは一緒だから」
「……それは、まぁ」

 やる気がないという自覚はあるが──だがだからこそ、『白鴉』は彼女を選んだ。
 そう、この戦争において翁鳥供花は、変革を起こす気がない

「世界は混沌としている方がいい。だから──頼むわよ。他の変革派たちに負けないように


「あの最年少"百鬼屠殺"者──型無くんが落ちたってことは、『翁鳥』きみたちは解呪力に続き近接戦闘力まで失ったってことだよね」
「そーなりますよ、罰山ばちやまくん」

 同じく。『地神グランド』翁鳥散橡ちとちも、会合の場に赴いていた。
 相手は罰山──国内の主要な霊地の権利を抑える地主の一族であり、蒐集院の後援者たち『千本鳥居』の一員として活動してきた家系だ。

「不味くない?」
「いやー、そーでもないんだよねー。供花曰く『蒐集院』も大勢殺されてるらしーから」
「あらそう」

 型無が落ちた──それは『翁鳥』最大の武器の欠落を意味するのだが、日を同じくして、『蒐集院』の術師たちも殺戮されている。
 これで、『蒐集院』は最大の優位性である頭数を減らした。結果──双方武器を失っている。バランスは、トントン。

「やっぱり蒐集院はもう駄目だな──」

 しかし、殊更目につくのは院の地力不足。揃えた軍勢がその程度とは──旧き中枢・蒐集院は、このヴェール無き混沌の時代において、もはや往時のような機能を果たせまい。
 財団に解体される前ならば、翁鳥一門どころか神祀四家全勢力が向かっていっても返り討ちにできただろう。それがこの、体たらく。

いい機会だし、京都は一度更地にしようぜ
「いーね。罰山くん昔からそれ言ってるけど、けっこー私もやってみたいんだよねー」

 そう。この戦争で、どの道京都──すなわち旧呪術世界の中枢を意味する──周辺の勢力図は書き換わる。有力な家系のほとんどはその歴史のどこかで神祀四家の因子を取り込んでいるわけで、古豪であるほど『縛樹』に呪われる対象だ。次世代の術師たちが殺し合い、今後の家門としてのあり様を決する以上、この戦争の勝敗は少なからず氏族の命運を左右する。
 なら。ならばいっそ、この戦争に乗じて旧い呪いの世界を作り変える。

「そう。そして昔から話してる通り──更地の荒野を支配するのは、『日奉』インフラを握ることになる君たちだ。蒐集院じゃ、絶対にない」
「うふふー。女王じょおー様にしてよね、私のこと。楽しみにしてるから」


「結局、この状況をどう動かすか、です」
どっちの話してます? ──鸞萼らんがくさん」

 式神使い・『神統記』翁鳥蓮花が会っているのは、『千本鳥居』が一家、鸞萼の人間。
 宗教法人をいくつも従える宗教界の大家から、彼女は支援を受けている。

「どっちも、ですね。結局同じところに帰着しますから」

 目の前の戦況と、その裏の状況と。二者を重ねて、そう話す。
 この戦争は、見えているよりも複雑だ。

「この国の統治機構は壊れている──財団と連合が睨み合って、まるでドグマがない」
「『翁鳥うち』と『蒐集院』が睨み合ってるのと同じ──やれやれね」

 日本超常組織平和友好条約機構JAGPATO──日本国の超常統治に関する意思決定機関。財団とGOC、そして日本政府の三者が締結して打ち立てた、国内の超常政治に関して協議するための枠組みだ。その内部派閥の内訳は財団SCP3:連合GOC3:その他閣僚含む国内諸勢力4。
 この散らかったパワーバランスのせいで、本邦における超常政治はしばしば停滞の目を見ている。
 ──京都呪縛戦争の戦場において、『翁鳥』と『蒐集院』と、それから魔女の"単独陣営ワンマン・サバト"が拮抗しているのと同様に。

「だから、この状況を動かす必要がある──あなた方を頂点に据えて、国内勢力を統一します」
「そして『鸞萼』としては、GOCと組みたい。んですよね?」
「わかっているなら話が早い──キャスティングボートを握って、連合の側につく。それがこの国と宗教組織われわれがこれからの時代存続するための真理です」

 この混沌極まる世界で、政治の意思決定が滞るのは悪因以外の何物でもない。だから分裂した諸派勢力を束ね、少なくとも全体の2割の票を集めてパワーバランスを傾けなければならない。
 そして、『鸞萼』としてはその連立相手はGOCでなければ駄目だ──財団は、宗教的権威を認めたがらないだろう。

「そのために、院の刺客はもちろん、財団派も、守旧派も──退けなければいけない」

 だから、もはや頼りない蒐集院は当然として──財団と組んで収容サイト建設にまつわる利権を握ろうとするだろう『罰山』も、商売上諸派分裂を望む『白鴉』も、倒す必要がある。
 この国の体制──ひいては世界の今後を揺るがす『千本鳥居』同士の代理戦争。それが京都呪縛戦争の真実だ。
 "わかっていますね?"と言いたげな視線を受けて、蓮花が口を開く。結局は、この戦争を勝ち残らないと始まらない。

「──それに関しては、策があります」


「わかっていましたけど、今の京都は命が軽いのね……まさか『蒐集院こちら』の術師が8人も一度に亡くなるなんて」
「それでも──なんとかなりますよ。みんなで力を合わせれば。各々勝ち残る算段を付けて、この街に集まったはずなんだ」

 蒐集院側にも、『千本鳥居』は付いている。そもそも元を正せば、『千本鳥居』は蒐集院の後援者だ──幾度も主権者が替わってきた日本の歴史の中で、蒐集院が存続してこられたのはかれらの後ろ盾があればこそ。戦後"財団"に解体・接収された蒐集院が未だ一定の権威と影響力を有しているのは、そのバックアップがあったからに他ならない。
 蒐集院の誇る『京算機』八山九九が面会しているのは、その『千本鳥居』の一つ・血紫ちむらさき──判官、法曹の大家。

「みんなで、そう、"みんな"で、ね──だからやっぱり、この戦争は間違ってますね

 繰り返すように呟く──何度も確かめた結論を。

「いくらなんでも、談合が過ぎるでしょう。国や社会の行く末を定めるには、参戦権が限られすぎている」
「──『神枷』の盟約、本当にまだ有効なんですね」
「ええ。だから怒っているんですよ、私は。この戦争のあり方に」

 神枷一族。神祀四家の一角にして、最新参の氏族。血よりも知で繋がる、まつりごとの家門で──曰く"神を語る"神枷。
 応仁の乱の裏で行われた前回の『縛樹』の反省から、かれらは決闘儀式『縛樹』に、当事者以外の介入を禁ずる追加ルールを遺した──『縛樹』の参戦者プレイヤーは、『縛樹』の参戦者プレイヤーによってしか攻撃できない。それがこの戦争のルールだ。
 『千本鳥居』が回りくどい代理戦争の布陣を敷いているのも、呪縛戦争に現役の大人世代が出張ってこないのも、それ故──だがしかしそれが法政の守護者『血紫』の逆鱗に触れている。

「民主主義は殺させない。少数の人間が、それも武力で世界を変えようだなんて、21世紀のやり方じゃない」

 数限られたフィクサーが、強権を振るって世界を動かす──この世界は、それを拒む道を選んだはずだ。
 その民意に逆行する他の『千本鳥居』たちを、放っておくわけには行かない。
 この陣営は、『蒐集院』側に回った反改革派だ。

「だから、ごめんね八山くん──きみには、いずれ他の仲間を殺して貰う必要がある」
「……わかってますよ。それを見越して、あなたと組む道を選んだんだ」


「式くんのことは……残念でしたね」
「いえ、別に? 私たち初めから覚悟して、この戦争に飛び込んでますから。そういうものだよ」
「……そう」

 話しているのは『蒐集院』の術師、火咲火联──組んでいるのは、呪物商の大家『漆ヶ端』。
 話題は、亡くなった契約相手、『綺羅星アラザン』新様式のこと。

「あなたは大丈夫なの? 彼がいないまま、一人で──」
「心配してくれてるんですか? 嬉しいなぁ──けど、大丈夫。私だって無策で京都まで来たわけじゃない」
「……そう、よね」
「言ったでしょう、初めから覚悟はしているって。こうなることは想定内でしてよ、お嬢様」

 少し茶化して、そう言った。
 そう、陣営を同じくするペアが脱落してもなお、勝算はあるのだ。

「ほとんど事前の情報通りに揃ったものね──あなた達が駆けつけてくれたのは、私としては嬉しい誤算だったけれど」
「私も奴も、あなたのためなら地の中火の中水の中──どこでも駆けつけるよ」

 この戦争の参戦者プレイヤーは、事前にあらかた予想がついていた。神祀四家に縁ある家系──すなわち呪縛戦争の参戦資格者たち──はあらかた洗い出されているし、『千本鳥居』が引き込める家の者、戦闘用の術を持つ者となれば、ほぼ確定だ。各々、計画と計算は可能だった。
 それでも、江戸の花火師である『火咲』と近畿にあるその本家『新様』が参戦するかは微妙な読みだったが──彼女たちはやって来た。

「蒐集院を返り咲かせるとして──その先の未来を決めるのは、あなたであってほしいから」

 旧き中枢、蒐集院。敗戦により羽根をもがれた、かつての鷲──だからこの戦争は、復権のチャンスだ。呪縛戦争を平定し、最強を証す。その戦果として、国内呪術のインフラ『日奉』の力も手に入るわけで。古の国守は、復活する。
 畢竟かれらこそ呪術世界の王と示した暁には、かつてのように、国内隠秘オカルト勢力の中枢として実権を握るだろう──財団や、連合にも対抗しうる勢力として。
 そして、そのとき糸を引くのは、自らが服う『漆ヶ端』であるべき。

「……ありがとう、そして本当にごめんなさい。必ず、タイプ・ブルー貴方たちの良いようにはしてみせますから」
「いいって。だから見ててよ──あなたの戴冠を、花火で彩ってみるから」


「そちらの駒はもう大半が落ちてしまったわけだけど、次の一手は如何でしょう?」
「──確かに戦力は半減しましたけど」

 パチ、パチ、と将棋盤を弾く音だけがやたら大きく響く──密談には広すぎる事務所を構えるのは、『千本鳥居』の一角、超常建築の大家『逆釘さかくぎ』。
 対面は蒐集院の執行人エグゼキューター、京都呪縛戦争最強の制圧力、『多面指しマシンガン』の鰐衣干草いくさ
 言っているうちに、歩兵が一枚取られた。戦力は、削がれている。

「落ちたのは前哨ですよ。根幹コアの戦力は残ってます」

 しかし、取られたのは安い駒──桂馬を進めて、攻め込んできた銀将を討ち取る。
 そう、薬師寺虺によって殺されたのは、『魔女』翁鳥なむなを狩るために編成された分隊──歩哨や個人戦に特化した術師たち。集団戦の主戦力は、温存されている。

「それはなるほど仰る通り──けど、形勢不利は変わらないように見えますが」
「なので代わりに地の利を取ります。埋め合わせは多面的に──戦争は将棋盤にじげんじゃない」

 また一つ、桂馬を取られた。
 しかし──結果空いた角道から、角行が敵陣を睨んでいる。駒の数だけで、戦局は計れない。 

京都タワーを取りに行く。こっちには弓術師スナイパー範囲攻撃者マップハザードがいますから」
「あの塔が、この街で一番高いから?」
「──らしいですよ」

 京都タワー。京都市内唯一の超高層建築物ランドマークタワー──もっとも、建築家からすればあれは法律上建物ではないらしいが──市街を全方位、遮るものなく見渡すことができるパノプティコンを、占拠する。
 立案したのは彼女自身ではない。がしかし戦略として合理的──高所に陣取り、狙撃による制圧と大規模攻撃で一網打尽。古来からの定石だ。

「敵に回したくありませんね、その作戦立案者」
「ええ本当──攻め込んできた日奉殺しといい『魔女』といい、相手しなきゃいけないのが多くて大変」

 『翁鳥』は勿論──この戦場で、倒すべき敵は自分以外の全員だ。日奉殺しの"原罪の蛇"も裏切りの"単独陣営ワンマン・サバト"も、そして蒐集院派の他の派閥も。

「それでも、遅れを取りはしないでしょう?」
「当然。『速指しねえさま』にできる事は私もできる。誰を相手に回しても、捌き切ってみせますよ」


「──だから、京都タワーを戦場にするのに、少しだけ貴方たちから介入して頂きたいんです。全条ぜんじょうさん」
「良いでしょうとも。ですがそこまで大きく動けば、流石に『翁鳥あちら』も気付くでしょう?」

 全条。『千本鳥居』の一角、代々政治家を努める、旧呪術世界と新世界秩序との折衝ほぼすべてを握る有力者の家系。
 その強権を使って、京都タワーを占拠する。
 ──ただし、京都タワーは京都市内で最も目立つ。そこに強引な介入をすれば、当然敵方にも察知されるだろう。

それでいいんですよ。『蒐集院』と『翁鳥』による殺し合い──京都呪縛戦争の本戦は、京都タワービルの封鎖を以て幕を開ける」

 それで良い──それが狙い。
 京都呪縛戦争最強の解呪力が『翁鳥』から離れた以上、京都タワーを占拠しさえすれば、『翁鳥』に対する優位は再びかれらのものだ。翁鳥型無がいようとも──その死をかれらはまだ知らない──地の利があれば狙撃と大規模攻撃で抑えられる。そして当然、『翁鳥』としてはその作戦行動は阻止するしかない。
 つまり。名門『翁鳥』と権威『蒐集院』、両陣営は激突する──京都最高度・京都タワーを巡り、読んで字の如くの頂上決戦。

「あの魔女にかかずらうのももう辞めだ。戦争を、始めます」

 第三陣営・翁鳥なむなは、この際計算から外す。そんな余裕はないし、なりふり構っていられない。局面はもう、そういう段階まで至っている。
 そも戦力が半減したいま、逆説的に、彼女を相手取るためにも地理的優位と最大の脅威『翁鳥』の排除は不可欠だ。
 日奉殺しも、雑多勢力も野良の術師も──『翁鳥』を倒さずには手を回せない。やるしかない

「──覚悟は良いですか? 『翁鳥』を掃討した後は、そのまま全参戦者プレイヤー間の戦いにもつれ込む。渡ったら戻れませんよ、この川は」
「喜んで、賽を振りましょうとも。右も左も、財団も連合も、魔女も毒蛇も、負号五行大隊も、東弊理外如月遠野薬師穴熊創研も蹴散らして──勝つ」

 そう、逆に──『翁鳥』という共通の脅威を退けた後は、野良の術師や雑多な諸派勢力、そして現在陣営を同じくし利害を異にする『蒐集院』の各派閥との戦いが待っている。決闘儀式『縛樹』は、最終勝者が決するまで止まらない。
 踏み出す先は、行けば帰れぬ修羅の道。かかってくるなら、そのどれをも打ち倒して進め。

「蒐集院を、真に復権させます──この国の、超常社会の王として立つのは院だけだ。他の誰にも阿ることなく──世界はボクらが手に入れる」

 ──決戦前夜、かくして更ける。



特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。