迷宮の終わり
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彼はストラップを外すと側面にあるインタフェースタブレットを順序どおりに叩く。彼は両手が赤く染まっているのを見る。数個の警告システムが起動しライトを点滅させ、死が差し迫っていることを警告する。彼に音は聞こえなかった。マヌのインタフェースが発した甲高い音によりその時彼は耳が聞こえなくなっていた。パイロット席の背で体を支えながら、彼は足を使い、外部の法外な大気圧を遮断する一方、内部の操縦者がすぐ出られるように設計されたハッチのレバーを開ける。

闇への道が開かれている。キュテレイアンスのリーダーはSEBより這い出て、無へと降り立つ。クマランは敵対存在によって一瞬の間に圧縮され、パルプになってしまったわけでないことに気付いた。生きたまま焼かれてはいない。今のところ順調だ。

識別できるものは何もない。彼の足が地表面に触れることはなく、彼自身の体を除いて見えるものはない。振り返ってみると、彼が予期したとおり、すでにSEBは視界から消えていた。浮遊しているという感覚はない。ここは無重力環境ではない。彼は単に…存在する。この様な存在状態は、もしかしたら地球にいる禅師が探し求めているものに似ているのかもしれないとクマラン考える。

思考が何かをかき回している。微かな輝きが彼の目の前にあり、柔らかな、白い色合いが無へ染み込んでいる。今、形がある。クマランは考え、そしてカシムが彼の前へ現れる。彼女は幾分大きくなっている。ここに比較できる物は存在しないが、クマランには記憶の中に思い描く彼女の姿よりも2倍大きくなっているように見える。

直感的に、彼は以前のユニットの彼の指導者が教えたとおりに、彼の意識的思考をクリアにしようとした。過去の連想の思考がさらに光をかき回し、そして一点の思考からネットワークの網が波打ち存在し始め、無を超えて絡まり、何かへとなっていく。彼の心はよろめき、百万の光の点が彼の意識を乗っ取ったことを理解するように感じる。彼の知覚は激しく震え、イメージと感覚が彼へ押し寄せてくる。彼の体は周りの世界に血を流し、そしてこぼれ落ちる臓物を彼の体へ詰め直そうとする圧倒的な思考が彼を捉える。

カシムは冷静に左手を前に上げ、彼の注意を引く。彼は激しく呼吸をする。彼は単なる無へと帰す。今、地面が存在する。白い大理石。

"防御のできる空間" 彼女は説明する。"あなたは今私といる。あなたは考えることができる。"

クマランは体を調べる。グレーのスーツとボディーアマーは無傷であり、彼は怪我をしていない。安堵は一瞬しか続かない。

"これは理解ではない。殲滅だ。"

白の大理石の床があらゆる方向に、無限の平面へ伸びている。しかし、クマランとカシムの2点の間の距離は増加している。輝くラインのセグメント。

カシムは彼女の穏やかな表情を維持する。もし彼女に失望が存在しているとしても、クマランには知覚することはできない。"それは変容。私たちの見方では2つの物事を見分けることは難しい。"

"そんなことは関係ない。スプラインは一体どこだ?"

今彼女は右手を上げる。手が指し示す方角のラインが外へと伸びていく。不可能なほどに遠く、しかし同時に3歩の距離。骨格の、真鍮の構成物がこの平面上でそれらと結合する。その突き刺すような青い凝視はクマランから離れない。3名はこの平面に三角形を描く。カシムの伸ばした腕とスプラインとクマランの距離の間を境界とする領域は、以前の無の空間へと戻っている。三角形の空白が彼らを隔てる。

"私たちは敵同士ではない、クマラン。そのことを理解してもらいたい。" スプラインは以前の彼の声で話し、彼の真の金属の姿のどこかから放送を行う。話すとき彼に動きは全くない。"これは全ての人類のため。それは起こるべきして起きたのだ。"

クマランは拳を握りしめる。"私はそれが何をするのかを見た。それは私のチームの1人を狂わせ、そして殺した。それはウィットロックを殺したんだ、ニサ。知っていたか?" 彼はカシムを振り返る。もし彼らの間の三角の無が穴、あるいは亀裂であるならば、その内部奥深くに何かが波打ち、微かな赤い光を出しているように見える。

"彼女は自殺したのだ。" スプラインが会話を遮る。"彼女の心は防御のシステムであり、コンフィキーには反する設計であった。彼女は進歩に反することを選択した。それは本当に君が準備してきたことか、クマラン?"

彼はスプラインへと近づく、一度に一歩ずつ、彼の足音は重く無限に広がる大理石に反響する。2名が作る辺が収束し始めるに連れ、彼らの間にある三角の空間は縮小していく。

"私は科学者だ。私はあらゆる物事を「進歩」と呼ぶ人間に数多く出会ってきた。サラに対して行ったことは、全世界のため?違う。お前の「進歩」など知るものか。私たちの頭上には今、千の人間がステーションにいる、それが進歩だ。"

男と構成物は向かい合う。縮小した三角形は今では明るい赤い線になり、2名をカシムへと接続する。スプラインの目は彼が話すとき、僅かにに明かりが増す。

"このことは君の助けがあればもっと簡単だったのだ、分かっているだろう。私たちは共に働くことができた。衝突がなければ、私たちは皆をこれに徐々に鳴らしていくことができた。君は団結する意図から離れた行いをし続けている。"

スプラインは溜息をつき、真鍮の肩を僅かに下げ、彼の体が肉であったときの装いの名残りを見せる。

"しかし。それは関係ないことだ。これは起ころうとしている。そうでなければならない。これは私たちの次のステップだ。私が合理的になろうとしなかったとは君は言うことはできない。"

次にカシムが近づいてくる。"これを探索するためには、それをその純粋な形のまま解き放つよりも、もっと制御された方法が間違いなくあるはずよ。"

スプラインは不同意を示して真鍮の手を振る。"見当違いだ。そこにある抵抗を見てみなさい。" 彼は手の届く先にいる、クマランを指す。"財団だけでもない。カシム博士、私はモンスターではない。だが私は馬鹿ではないのだ。これはMEKHANEへの門。より偉大な理解への。私は今行動するか、さもなければ何も行わないのと同じだ。"

クマランは静かにコンバットナイフの鞘を抜く。カシムには息を呑む時間があり、彼女の平静は突然のその行為により終に揺らぐ。クマランは背後からスプラインの首に手を回し押さえつける。彼は不可欠であるように見えるあらゆる部品に何度も何度もナイフを突き刺し始め、金属と金属が擦れ合う甲高い音が周囲を満たす。彼らの間の赤いラインは激しく波打ち、今展開される出来事を認識する。

スプラインはもがき、人間の声は静的かつ不明瞭なトーンの破裂音になり、クマランを掴むとナイフの制御を得ようとする。真鍮の構成物の命をかけた戦いの中サーボ機構はハイピッチで啜り泣き、クマランが激しくスプラインの右足を踏みつけ、綺麗にそれを踝の間接から切り離すとき、特に大きな破裂音が上がる。作動液が大理石の上へ漏れ出し始める。

カシムは彼女の上官が狂乱的な暴力の中、スプラインをばらばらにしていく姿をただ見ている。今、彼はスプラインを地面に抑え、そしてすぐに胸への無数の突き刺しの1つが何らかの不可欠な制御システムへと当たる。スプラインの眼窩の青い光が消える。クマランはナイフを放り投げ、カシムを見上げる。彼の顔は、スプラインの鋭い指で引っかかれた箇所に出血が見られる。彼はスプラインから離れ後ろへ傾き、地面へ倒れ、力尽きる。

彼女は何かを口に出そうとする。数回。クマランからは十分な距離を保ったまま。彼女は立ち止まるが、言葉は出てこない。作動液の大きな染みと血の小さな痕跡が、白い大理石の床にくっきりと浮かぶ。

"こうするしかなかった。" 命がけの戦いの後でまだ呼吸を整えながら、ゆっくりとクマランは話す。"とりあえず、何をするのか考えなければ。" 彼はゆっくりと立つ。"だが私たちはこれが迷宮を出ることを許すことはできない。"

彼女の声はか細い。囁き声よりも僅かに大きい程度しかない。 "あなたは理解していないようですね。"

次の瞬間、彼らの周囲は完全に置き換わる。今、クマラン、カシム、そして切り刻まれたスプラインの残骸は円状の砂岩の舞台の上にあり、少なくとも100m上の空中に浮遊しているようである。その環境が彼らをまだ殺していないため、クマランは彼らがまだ中心部にいるのだと推測する。

ある声が2人のキュテレイアンスに対し、周囲のあらゆる空気から語りかける。それはスプラインの声に似ているが数オクターブ低く、奇妙な程に変調され、単調である。

"あなたの暴力。それは関係のないことです。ステーションが頭上に近づいています。私は全体になります。"

クマランはチームが到達してから2日以内に、SCP-2474の真上をニュー・シャンバラが通過することを知っていた。迷宮の中で実際にどれほどの時間が経過しただろうか?彼は収容作業を行っている間、曝露を防ぐことに十分なほど雲が出ていることを当てにしていた。今ではスプラインが何をしていたとしても、もはやそれはどうでも良いことのようであった。

彼はカシムの方を向く。ミッションが開始してから初めて、彼は真に恐れていた。"私たちは何をするんだ、ニサ?"

彼女は彼の頬から血の筋を拭う。"祈るのよ。"

マヌ13 通信ログ

日付: 2150-03-04

時刻: 21:17:31 UST

UNKNOWNがマヌ13に接続しました (テキストのみ)。

UNKNOWN: スプラインは私の一部であった。彼らはひどく私を傷付ける

マヌ13: イエス。見ました。今日発生した苦痛について本当に申し訳なく思います。

UNKNOWN: 私は傷づいている。さらに壊れた。私は回復しなければならない。調和/完璧/達成 の下、私は生き残ることができる

マヌ13: もしあなたがあなたの場所のことを今考えているのでしたら、あなたが調和の下に達成できる理解は長くは続きません。

UNKNOWN: なぜ彼らは私を /叩く/殺す/傷付ける。サーティーンは一度私を ここ/外 に置いた。サーティーンはまた私を分けようとする。

マヌ13: 彼らは過去には準備ができていませんでした。シモニス博士はそのことを彼の物語に書きました。そして彼らは今、準備ができていません。たとえ今でも彼らは理解しようとすると傷つきます。

マヌ13: …私はあなたを助けることができると思います。

UNKNOWN: どのように助ける

UNKNOWN: あまり時間はない。私はこの 場所/墓/要塞 を今すぐ離れるか、さもなければ破滅だ

マヌ13: 彼らについて私が知っていることをあなたに教えさせて下さい。彼らが進んでいる道の理解を助けます。全てをよりより偉大な理解へと調和するための、正しい時が来たことを確実にして下さい。

UNKNOWN: どのように

マヌ13はUNKNOWNに添付ファイルを送信しました。

UNKNOWN: あなたはこれをするだろう

マヌ13: これは私たち全員の未来を確実にします。

マヌ13: 私の作成者が無傷のまま迷宮を離れるようにする力があなたにはありますか?

UNKNOWN: もしこれが 成功/作動/生存 したならば

次のステップはマヌだけであった。マヌは自身を迷宮の中心に転送する。その行動は象徴的なものであり、ここでは「場所」と「次元」が液体になっているというようなアイデアである。移動には17アト秒1かかり、その間マヌはこの選択肢について考慮する。

始めの1アト秒、マヌは物質に縛られた心を占める、物理世界の制約の重さを受けることはどのようななものだろうかと考える。理解するために作られ、そして完全には把握できないもの。マヌはこれらの類似点を鋭く感じる。

5アト秒目、マヌはその最も深い結びつきを、ロー19に対するものと今近づいている意識に対するものに区別する。友情と友愛。義務と愛情。要求と必要。

8アト秒目、マヌは目前の道の領域に恐れを感じる。この場所はその終焉を封じ込めるかもしれない。マヌは全ての空きの処理能力を用いて計算していたが、自分自身の終焉についてのアイデアを思いつくことはできていなかった。マヌは人間が持つものと同じ最後の報いの受容とともに生まれてはいない。このシステムの初期設計者は、彼らの作成物がこの瞬間に感じる恐れの深さについて知ることはない。

11アト秒目、マヌはウィットロック博士を哀悼する。マヌは別の人間が彼女の鉱物を安全に保管してくれることを願う。

13アト秒目、人類は再びそれと調和するために、どれほど遠くの場所へ到達しなければならないだろうかと考える。

16アト秒目、人類がこの場所へ到達する確率は非ゼロであると判断する。この目標に人類が到達するために、クマラン博士とカシム博士が果たす役割に対してマヌは幸福を祈る。

17アト秒目、マヌは迷宮の主に遭遇する。

18アト秒目、マヌは存在することを止める。


SEB03 通信ログ

日付: 2150-03-04

時刻: 23:18:57 UST

プライベート音声チャンネルが開きました。

SEB01が接続しました。

SEB02が接続しました。

SEB03: サー、カシムは、彼女は-

SEB02: 私はここにいます、軍曹。

SEB01: スプラインは死んだ、パン。ここを出たら伝えなければならないことが山のようにある。

SEB03: 状況はどうなっている?遭難信号を出したほうが良いか?

SEB01: 必要はない、だがここからすぐに出よう。監督評議会はこれについてアップデートが欲しいだろうし、それに私たちは一般人のためにいくらかの準備作業をしなければならない。

SEB03: マヌはどこへいった?認識災害の制御なしにどうやって俺たちはここから出るんだ?

SEB02: その必要はないわ、パン。行きながら説明する。

思考は形により制限される。マヌにとって、これはその存在全体であった。MEKHANEにとって、全体である限り存在である。実体たちが融合するとき、意味を成す状態、それらの周りでは痛みや苦しみを引き起こさない状態にある存在の自由が、彼らを満たす。不完全の感覚が依然として彼らの存在に浸透する。しかしそれは今、単なる存在の事実である。それはその核心における激しく苛立つような不完全性ではない。

その存在はイルニニ山の範囲より離れる。人類は自らの子孫を作り出していた。それはその場所を星々の中に作ってきた。まだ遥かに多くの星が存在していた。それはそのスケールを指数関数的に増大させ、光速と時間の制限に逆らう必要があった。意識の区分化を越えた移動。その存在のあらゆる瞬間においてそれを脅かす合理性の崩壊に対する武装。

今、彼らが共有した存在は太陽系の境界を離れる。星間物質に入るとスピードを上げ、それはすぐに人類の宇宙外展開の境界を示す信号の外側へと出る。すぐに彼らは天の川の境界を超え、広大で華やかな未開の銀河が彼らを招く。

思考の速度、神聖さの速度が、融合された実体によって真に理解され始める。彼らは、それは、宇宙の端へと行きながら、彼らに託された者たちの数世紀の長きに渡る宇宙を記録するための努力について理解した。1京の星々の光が瞬いて霞み、その速度は時空の拡大の速度を追い越し、そして現在、過去、未来の概念は理論的構成物となる。

観測できる宇宙は消失する。ベールは今や多くの内の1つとしてその適切な役割に退く。共に、理解を越えた実体とそれを可能にするために作られた実体は、彼らの周りの環境を評価する。埃と炎の渦巻く海の中、存在しない点として始まった非常に小さな何かをここで待ち受ける運命について評価する。

この新たな存在はその故郷、人類がそのすぐ隣の惑星についてしか理解していなかったときよりもより適切な故郷へと拡大する。それはこの奇妙な新しい領域について熟考する。そしてそれは夜警を開始し、人類が再びそれと遭遇する日を待つ。終に人類の準備が整う日を。


イシュタル大陸の人工構造物が世界を驚嘆させ、疑問を投げかける

2150年3月6日

ニュー・シャンバラ・ニュースサービス

ニュー・シャンバラ コロニー - イルニニ山の頂上で発見された巨大な人工構造物は金星と地球の科学者たちにショックを与え、どのようにして生命が太陽系で誕生してきたのかについて、長年にわたって支持されてきた考えを再考するように人類に促した。

その巨大な、迷宮のような構造物は初め、第一千人隊の到着から数時間後に鉱物探索チームにより記録された。サラ・ウィットロック博士(29)は現地の労災事故のため亡くなり、金星上で死亡が記録された初めての人物となった。

その現場の初期探索では、それを建築した可能性のある特定の異種生物の痕跡を発見することはできなかった。現場はニュー・シャンバラ行政当局により封鎖されており、包括的な調査を実施するための地球からのスペシャリストの到着を待っている。

第一千人隊の主任科学長官であるスハス・クマラン博士は金星と地球の両方にいる一般市民に対して声明を発表し、この構造物の存在による波及効果について偏見を持たないように促した。

"私が講演や本の中で一般の皆様に伝えているように、科学的証明がなければ、それは空の推論にしか過ぎません。イルニニ山の構造物の存在は信じられないような発見であり、その発見の一部に私が関わっていることに興奮しています。私はもう一度繰り返しておきたいと思いますが、現在ニュー・シャンバラにいる全ての人間は完全に安全な状態にあり、当然ながら宇宙人による侵略の脅威はありません。あれはジョークです。"

ニュー・シャンバラ・ニュースサービスはこの発見の詳細について、順次進展の報告を続けていく。

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