ランピーター ハブ
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OlicusOlicus による SCP-7005 のアートワーク

ようこそ、旅人さん。今夜は冷え込むよ。

え? これが何で、ここはどこかだって? 君はランピーターLampeterに乗ってるんだよ。 正確には、ランピーターだったもの、かな。 「古き良き時代」って言葉があるでしょ? オーチャードからハロクレストまでひとっとびだったのも昔の話。 L-NESCが絶頂期だったころ、財団が事業を引き継ぐより前の話だね。 今や、僕みたいな人が、駅の端っこにある小さな金属の箱に押しやられて、行き交う電車を誘導したりしているわけさ。

うん? どうしてここに辿り着いたのかって? そう難しい話じゃないよ。 駅や停留所で道を間違えたり、間違ったスキーリフトに乗ったり、見慣れない路地に足を踏み入れたり。 ここに来る方法はいろいろあるよ。 統計学的には、遅かれ早かれどこかの世界の君はここに来ることになるんだけどね。 もちろん、戻りたかったら戻ればいいさ。 ほとんどの人はそうする。でも中には――

……中には、帰るべき場所を失ってしまった人たちもいるんだ。 だから、僕は多元宇宙の駅を管理するのさ。灼熱の暑さや凍える寒さに耐えながら線路を修理し、遺されたものを残し続けるために。 絶望、孤独、そして寒さに蝕まれた者たちが、人知れず忘れ去られた裏路線を夜な夜な監視し続ける。 これこそが、ランピーターなんだ。

どうだい、君の人生とそう変わらないんじゃない?

ランピーターは、かつて広大な次元間輸送ネットワークだったものです。 "プライム起端"とされる宇宙では、SCP-7005と呼称されています。 それ以外にも多数の宇宙が存在し、さまざまな世界の財団がネットワークの全容を記録しようとしています。

ランピーターの基本的な形態は、多様な既存の交通手段から構成されていますが、それらは同じ宇宙の中の他の場所へと乗客を移動させるのではなく、多元宇宙の境界を越えて、車両(やその他)と乗客を他の宇宙へと連れて行きます。 これを実現するための技術は不明で、財団にも再現できていません。 更に、交通ハブや整備所、および路線の管理に必要なその他の多様な機関として多数のポケットディメンションが利用され、ネットワークを補完しています。 SCP-7005の記事では、我々の世界からのネットワークへの入口として、以下のような例が挙げられています。

  • イタリア・ルッカ市のサン・パオリーノ教会の裏手にある小さな木製のドア。地下のトラムの駅に通じており、宇宙B723”ホスピス”にある大きなハブステーションまで行くことができる。
  • 日本・北海道石狩市の北部にある、閉鎖された廃桟橋。この桟橋に足を踏み入れると、タイムラインQ944”ミントチ”の広大な港に辿り着く。
  • ペルー・リマ駅構内にある遺失物取扱所。宇宙H020”大インカ国”の巨大な駅へと繋がっている。
  • イラン・ケルマーンにあるイル=ハン朝時代のキャラバンサライ1の裏口。多層構造をなすキャラバンサライは、10の別のタイムラインの中に同時に存在している。
  • モンゴル北部上空の一画。この空域を通過する飛行機は、少なくとも350以上の宇宙に対してサービスを提供している宇宙内空港(SCP-7005-77a)に辿り着く。SCP-7005ネットワークの駅長は、これらの航路を通称”極南西回廊”と呼称している。

ランピーターは、700年前に宇宙Z999"ハロゲン"のランピーター家の人々によって作られましたが、今やその全盛期はとうに過ぎています。 17世紀には、拡大するネットワークをより効率的に管理すべく、一家によって正式にランピーター・非ユークリッド運送会社Lampeter Non-Euclidean Shipping Company(L-NESC)が設立されましたが、19世紀の後半にネットワークの衰退と崩壊が始まり、最終的には2021年に倒産しています。

その時点までに、L-NESCによるネットワークの支配力は大幅に低下し、多くの辺境地域は地元の企業や国家、軍閥などの支配下に置かれていました。しかし、大規模な次元間移動には依然として路線の中心部の支配が必要でした。 最後の取締役であるジョン・ランピーターは、路線が「ネオンの神」として知られる現象の出現に責任があると信じ、発狂の末L-NESCのアーカイブを焼き尽くし、おそらく自身も焼身自殺したとされていますが、これはまた別の話です。

それと同時に、財団による介入が行われました。財団は、多元宇宙における権益の崩壊を防ぐために、自らの宇宙をA001"プライム"と命名し、L-NESCの残された資産を買収しました。しかしながら、ランピーターは巨大かつ複雑であり、非ユークリッド的に絡み合っているため、完全なネットワークのコントロールにら至っていません。財団は、かつてL-NESCの支配下にあった駅さえも掌握できていないのです。

現代においては、このネットワークは主に孤独で奇妙な、絶望したような人々によって運営されています。 俗世から離れた場所に隠居していたい者もいれば、世界を保つための長時間労働と過酷な労働条件にロマンを感じる者すらいます。 いずれにせよ、錆びつき、荒廃し、崩壊した、その場しのぎの管理がネットワーク中で常態化しているのです。 財団の次元間物流部門は十分な予算も与えられておらず、少数の中央職員は疲労困憊に陥っています。


お察しの通り、財団の次元間物流部門がネットワークを完全にコントロールすることは決してありません。 財団の介入によって確かに路線の運行は維持されるでしょうが、所詮は財団がネットワーク最大の存在であり続けるだけです。 L-NESCの最盛期のころのような、十分な資源や人手を手に入れることは叶いません。 数世紀ののちには、「アーク跳躍」と呼ばれる技術(多次元テレポーテーションの一種)が開発され、路線は時代遅れになります。 財団は全面的に撤退し、ランピーターは完全に放置され、衰退していくことになるでしょう。

そのような時代でさえ、いくつかの路線は、貧しい世界や、用心深いような世界の支援によって運行を続けるでしょう。 複次元型貨物列車The Multiversal Cargo Trainは、残された路線の中で最も代表的なものとなり、ランピーターの路線としては直接次元間の隙間を通過するという珍しい例となります。 ただし、運転手にすら「ランピーター」という名前は忘れられ、多元宇宙そのものからその名前と歴史は抜け落ちてしまうことでしょう。

しかし、ランピーターの本質とはその場所自体だけに宿るものではありません。”人の思考では部分的にしか理解できないほど広大で、多様かつ制御不能な集合体”についての物語もまた、ランピーターの本質なのです。人々はそこに自らのイデオロギーや物語、夢や希望を投影するようになります。とはいえ、実際にはそのような目的のために作られたわけではありません。ランピーターは、かつてそうであったように、忘れられた者や絶望の淵にいる者、孤独に苛まれる者たちにとって、現実から逃れ、新たな生活を築こうとする場所であり続けることでしょう。それが遥か遠い世界の中であれ、路線そのものの上であれ。

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