最後の会合
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最後の所有物を箱に入れたとき、クルミ材の杖をついた中年の男性は部屋を最後に一目見渡した。彼の名前はザカリー・ジョンソン博士。彼が35年間働いてきたオフィスは、今は財団から支給された家具を除いてはからっぽだった。財団での仕事は良いものだった。彼は6つのアイテムの第一研究者であり、少なくとも12のアイテムの主要な発言者だった。しかし、ああ、もはや退職の時であり、ジョンソン博士は憂鬱な笑みを浮かべながら彼は小さなサンドボックスの電気を消し隣接する研究室へと歩き出した。

彼が入るとすぐに、ジョンソンの耳は角の机の男が書類仕事を急いで整理しながらぶつぶつ言うものすごい音を聞いた。この男の名前はジェイコブ・コーンウェルで、彼はこの3年ジョンソンの助手をしていた。ジョンソンは男が書類を山を区別したり、またそれを区別し直したりするのが時間とともに胡乱になっていくのに対して静かにクスクスと笑った。最終的には、ジョンソンは小さく咳払いした。コーンウェルはジョンソンの笑顔を見たとたん固まり、書類仕事から疲れた顔を上げた。

「ジョンソン博士、最後の何枚かを時間通りに出来なくてすみません。クレイトンがeメールを転写してくれるのを待っていたんです、それに…」コーンウェルは神経質そうに口ごもっていたが、ジョンソンが静かにするよう手を上げるとそれを止めた。

「十分だ、」ジョンソンは微笑とともに言った。彼は机まで歩くときちんと整理されたいくつかのフォルダをちらっと見た。「すべてが片づけられていると、考えていいのかい?」

「もちろん、」ジョンソンの助手は頷いて答えた。

「エクセレント。」ジョンソンは部屋を見回した。彼は杖でやった回りくどいジェスチャーに自分で笑った。「彼らがこの研究室を1360-1の研究を続けさせるために君に渡すと知らされたよ。今は君が城の王のようだ。」ジョンソンは困惑するコーンウェルを見た。

「そう聞かされましたが…」

「きみはずっといい仕事をするだろう、」ジョンソンは助手の肩を叩きながら言った。「私が言ったように、未来においても君はいい仕事を続けるだろう。私は君に知っていることすべてを教えたし、君は1360を再び喋るように出来るだろうと考えるのに十分な時間を与えた。他にこの仕事に適した奴はいない。」

「ありがとうございます。ジョンソン博士に感謝しています。」コーンウェルはジョンソンが熱心に振った手を握った。

「あなたと働けて光栄でした。」

ジョンソンは頷いた。彼は彼の研究室と別れがたいのと同じくらい助手と働くことが別れがたかった。ジョンソンは時計を一瞥するとドアを指さした。

「それではパーティーにいかないか?」


「私たちはあなたの財団に対する貢献を感謝しています、ジョンソン博士。サイト-19はあなたなしでは同じではいられないでしょう。ここにいる皆さんにそれが伝えられたと思っています。」ランチルームはグレッグ・コリンズ博士がスピーチを終えたとき拍手でいっぱいになった。その後すぐにケーキと軽食を取った多くの職員たちはそれぞれの会話に戻った。彼らは皆彼の退職を祝っていただろう。しかしこの時間の多くを、ジョンソンは自分のテーブルでコーンウェルとぼんやりと過ごしており、何となく部屋中の会話を聞いていた。

真実を言えば、ジョンソンが友人だとみなしていた人間のほとんどは財団から消えたり、死んだり、退職したりあるいはその両方だった。今のサイト-19は新顔で満ちておりジョンソンはそれがどれだけ自分を年老いたように感じさせるかについて苦笑いを止められなかった。

「なにか面白いことでも?」コリンがテーブルに近づいてきて座りながら尋ねた。

「最後の日が来た、」ジョンソンが答えた。「本当はずっと昔に殺されるだろうと考えていた。」

「私たちは確かに危機に陥ったことがあります、」コリンがニヤリと笑って言った。「あなたがいなくなるのが嫌です。私たちにはとても多くの冒険がありましたね。」

ジョンソンはコリンと5つの共同研究計画で働いていたことがあった。彼の知るところでは、ジョンソンの助手に割り当てられなかったオブジェクトはコリンに割り当てられる予定だった。

「退職するときに君は自分についての多くの物語を語れるようになるだろうよ、」ジョンソンはにやにやした。「その1つには、火から君の尻を引っ張ってくれる私の存在がいないことを認識するものがあるだろう。」2人の男は静かに笑い、長い沈黙を得た。

「フリーモントは忙しくしていますか?」コリンが聞いた。彼の表情は重々しかった。

「ああ。」ジョンソンはかなしそうなため息をついた。「離れる前に私の支持者に電話をしなければならなかったが、許可されたのは'精神衛生'のための10分だけだ。私がいなくあった後は、君が彼を見てくれるんだろう?」

「もちろん。」コリンは同意するように頷いた。かれは素早く辺りを一瞥した。ケーキと軽食はすでになくなりつつあった。「出て行きたいのなら、もはやここにいる必要はないと思います。」

ジョンソンは小さく笑って頷いた。2人の男は言葉もなく握手し、ジョンソンはそこを発った。


サイト-19人型存在収容房の快適さについては知られていない、とりわけハロルド・トンプソン博士のものについては。4つの灰色の壁、簡易ベッド、シンク、トイレ、そして反対側からは誰かがあなたのことを監視している、壁に埋め込まれた鏡。ハロルドは簡易ベッドに座りながら鏡の中の自分を覗きこんだ。目の周りの黒い隈は、彼が何年も眠っていないことを示した。

「トンプソン博士、手袋をつけてベッドを直してください、」インターホンからセキュリティエージェントの声が言った。ハロルドは彼の手を見た。ハロルドは担当していたある実験用のオブジェクトの予期しない解放と未知の微粒子の吸引によって、生きている生物組織に触れるとそれを硬い大理石に変えてしまうようになった。しぶしぶ、ハロルドは彼の死をもたらす手を、与えられた革の手袋で隠した。その後すぐに、収容房のドアが開きクルミ材の杖をついた中年男性がゆっくりと入ってきた。彼はハロルドの席に座ると、小さな笑みを浮かべた。

「しばらくぶりだな、ザック。」

「そうだな、」ジョンソンはハロルドが神経質そうにマジックミラーを見、その後彼に向き直ったのを見ながらそれに同意した。ジョンソンは悲しく頷いた。フリーモント博士、ハロルドのオブジェクトファイルを担当する研究員が、彼らの挙動をすべて監視していた。

「君の新しい助手はどうなんだ?」ハロルドが尋ねた。彼は自分の仕事を与えられるまで、ジョンソン博士と一緒に5年近く働いていた。それはまったく楽しい経験だった。

「ああ、彼は君じゃないし時には少しやっかいだったが、彼はこの世の終わりまで仕事をしてくれるよ、」ジョンソンは答えた。

「あー」ハロルドはぶつぶつ言った。沈黙が部屋を満たした。「彼らはあなたに素晴らしい退職パーティーをくれたと聞いたよ。そこに出席したかったな。」

「私もそう思う。」ジョンソンの微笑は薄くなっていった。彼は本棚の上にある幾枚かの写真に注意を向けた。そこにはある女性と少年の様々な年代の写真が、少年の結婚式の写真まで続いていた。「リサはジャックとエリザベスが赤ちゃんを持とうとしていると言ったよ。」

「そうなのか?」ハロルドは柔らかく言った。ジョンソンは彼がお祖父さんになりたがっていたのを知っていた。「リサはすてきなお祖母さんになるだろうね。」

「彼女はまだ君のことをとても恋しがっているよ、わかっているだろう?」ジョンソンが付け足した。「ジャックもだ。彼らと話すときは毎回最後には君のことになるよ。」

ハロルドは答えず、小さく憂鬱な微笑を浮かべて床を見つめた。

「あなたが彼らのことを見ていてくれる、そうだろう?」彼は尋ねた。

「出来る限り。」ジョンソンは答えた。「コリンに新しい写真を君に送るよう頼んだよ。」

ハロルドは感謝するように頷いた。2人の男は再び沈黙に陥った。ジョンソンはしばらく立っていた後、ドアに向かって歩いていった。

「これまであなたが私にしてくれたことすべてに感謝している、ザック。出来るものなら抱擁したかった。」ハロルドは立った。彼の笑みは小さな後悔の渋面に変わった。

「ありがとう、」ジョンソンはそう言って笑った。

小さく頷くとドアが開き、ジョンソンは静かに退出した。ジョンソンはもはや何一つ言うことなく個人的な持ち物の入った箱を掴むと、サイト-19を永遠に去った。


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