地球ははは知っている。自分の上で多くの生物いとしごが誕生したことを。生物環境に適応し進化を重ね、自らの種をより反映させようとした。
地球ははは知っている。その過程で多くの種が死に絶え、滅亡していったことを。たとえ星の支配種になったとしても、1つの出来事で呆気なく滅んでしまうこともあった。誰もが海に漂う時代があった。植物が多々生い茂った時代があった。恐竜が地上を闊歩した時代があった。類人猿にされた生物が自然を利用し発展した時代があった。
そして人類が、地球の環境を人類に適応させて発展した時代があった。隠れ住んでいた25万の時から開放された彼らは、わずか4000年の間に異常なほどの発展を遂げた。しかし、その彼らも種としての限界を迎えたのだ。
まもなく、地球ははの上から人類は消滅する。新しい種族が既に発展を遂げている。人類が再び種として芽吹く日は来ないだろう。地球ははにできるのは、見守ることだけである。
1999/12/24
先ほどまで降っていた雪は止み、積もった雪に街中のイルミーネションの光が反射する。
本日はクリスマスイブ。キリスト教由来と思われがちだが、実際はキリスト教が布教のために他の宗教の祭りを吸収したとか何とか。そんなことはともかく、街はクリスマス一色である。電飾が飾り付けられたツリーがデパートの入り口に置かれ、サンタクロースの人形がジングルベルの音楽を響かせる。
少し前にノストラダムスの大予言が世間で大流行したこともあり、予言の時期が過ぎた今も終末論は話題になっている。末端の人材で詳しい事情は知らないとはいえ、財団の人間としては正直笑えない。実際、世界を滅ぼす存在はごまんといて、その内容も非常に多岐に渡るのだから。知らぬが仏、とはこのことであろう。
1人用のチキンとケーキをデパートで買い、寒さに体を震わせながら自宅へ向かう。ふと、後ろを振り返る。辺りには雪景色だけが広がっている。
誰かが見ているような気がした。
200█/12/28
████において発見された人型生物に関する簡易調査報告およびそれに関する提案
新たに発見された人型オブジェクトに関して、その生態および特徴に関する報告を行います。対象を便宜上、"彼ら"と呼称します。1999年12月に地上へ現れた"彼ら"を財団職員が発見したのが、"彼ら"との最初の接触です。
"彼ら"の外見は肌や耳の形などの一部が異なること以外は我々人類と共通の特徴を有しています。身体能力は個体差はありますがやや高く、急激な環境の変化にある程度対応できます。全体として特別に特異性を有してはいませんが、時折我々における現実改変能力者に当たる存在が出現することがあります。言語や文化等は地下での生活に適応したものとなっています。詳細については別紙資料を参照してください。
現在、"彼ら"は人類に対し友好的であり地上での生活に興味を持つ個体はあれ、現在の人類に危害を加えるつもりはないとしています。しかしながら、"彼ら"の知能は我々と同等であり、仮に人類が急速に数を減らした場合SKクラスシナリオが発生する恐れがあります。協定により"彼ら"を暫定的ではありますが財団の管理下におくことに成功しました。
現状としては、"彼ら"をSCPオブジェクトに指定し、監視するに留めて関係の悪化を防ぐべきだと思われます。時間をかければ彼らを滅ぼすことは可能でしょうが、それは財団の理念に反します。―――エージェント███
提案を許可する。"彼ら"はSCP-██████へ分類される。
―――O5-██
201█/12/24
SCP-████……いわゆる"彼ら"の代表および数名の一般人に対するインタビューが実施された。名目上は友好的関係の維持のため、真の目的は"彼ら"が人類に敵対的でないかを調べるためだ。本来ならもっと早く行われるはずだったが、近くのサイト-██で収容違反が発生したためそちらに人員が割かれてしまった。
一応は"彼ら"は友好的である。地上への興味を持つ者も多々いるが、自分たちが今の人類にとって脅威とみなされる可能性が高いことを理解している。以前地上へ出たやつらはこっぴどく叱られたらしい。文明的にも武器の類があまり発達していないこともあり、敵対性は今のところ見られない。極一部の過激集団が俺たちとの戦争を訴えているが、鼻つまみ者扱いである。
その代わりといってなんだが、"彼ら"は地上の文化に非常に興味を持っている。上からのお達しで基本的には教えることはできないからか、俺たちの会話の断片的な情報から行事を再現しようとしている。無論、元のもとは似ても似つかないことになっているのが普通だ。バレンタインが「女が男にプレゼントをせびる」行事になっていたときは唖然とした。人によっては間違ってはいないが。
今日はクリスマスイブということで、例によって真似事行事が行われた。前のハロウィンに比べればマシになっているとはいえ、本物を知っている身としては滑稽でしかない。本当のことを教えてやりたくなるが、それも上に禁止されているし、そのつもりも一切ない。"彼ら"は財団が収容するSCPオブジェクトの1つであり、それ以上でもそれ以下でもないのだから。
██研究員の日誌より抜粋
インタビュー記録SCP███-14 - 日付203█/12/20
対象: SCP-██████-1(SCP-██████における現在の首長にあたる存在)
インタビュアー: ██博士
付記: 現在発生している急速な人口減少に関して、SCP-██████が関与していないかを調査。
<録音開始>
██博士: インタビューを開始します。SCP-██████-1、貴方たちに聞きたいことがあります。
SCP-██████-1: おい、この拘束をとけ! 私が何をした!?
██博士: 現在発生している既存生物の急速な減少に関してです。[減少に関する説明が行われる。長時間に渡るため省略]
██博士: 以上です。貴方たちにはこの現象への関与が疑われています。SCP-██████-1: 知らない! 私たちは何もしていない! お前たちが来てから地上に出たものは1人もいないのは知ってるだろう!?
██博士: 自白剤を投与してください。
[SCP-██████-1は非常に抵抗するも、自白剤が投与される。]██博士: この現象に関して、貴方が知ってることをすべて教えてください。
SCP-██████-1: 知らない……私は何も知らない………。██博士: ではなぜ、貴方たちの個体は減少していないのですか?
SCP-██████-1: それは、お前たちのほうが詳しいだろう。私たちは、何もしていない………。
<録音終了>
終了報告書: その後の調査によって、SCP-██████を含む異常存在が人類を含む既存生物の急速な減少にかかわっていないことが判明しました。原因は[データ破損]による地球環境の変化だと推測されています。SCP-██████は環境変化に対し高い適応力を持つため、個体数の減少が極わずかであったと推測されます。
一部の生物型SCPオブジェクトも急速に数を減らしているため、[データ破損]が何らかのオブジェクトの影響を受けているか、あるいはSCPオブジェクトそのものである可能性があります。至急調査が必要です。追記: [データ破損]は人類が環境を変化させた結果発生した物質であり、異常存在が関与していないことが判明しました。[データ破損]の発生を防ぐことは理論上不可能であるため、現在の状況が続けば22██年には人類が滅亡するとの試算が出ています。
すぐに滅びるわけではない。ならば対策を立てることはできる。―――エージェント███
211█/12/28
本日を以ってSCP-██████のSCPオブジェクト指定を解除し、一般にその情報を公開することとする。
我々人類の総数は1億を下回り、また財団も異常存在を秘匿し続けるに足る能力を失いつつある。それに相反するようにSCP-██████はその数を拡大し始めており、"彼ら"を新たな支配種とするSKクラスシナリオを避けることはもはや困難なものであると推測される。幸いにも、"彼ら"が人類に協力的であること、人類という種の保存に協力してくれるとの約束を取り付けることができた。公開される情報は彼らに関することのみであり、それ以外は明かされない。一部は財団職員として雇用される。
この対応には様々な批判を受けるだろう。しかし、"彼ら"の助けを借りなければならないほど人類は衰退していることを理解してほしい。我々は必要ならばその手段をとる。これまでも、これからも。新たな種族が混じろうとも、我々の目的は変わることはない。
確保、収容、保護。―――O5-██
22██/12/31
本日のお知らせ
[省略]
⑦SCP-██████が無力化されました
昨日23時48分、█████・██████氏が死亡しました。
かつての地球の支配種は、冷凍保存された一部の個体を除きすべて死亡しました。特別登録されていたSCP-██████はオブジェクトクラスをNeutralizedに変更され、通常のオブジェクトナンバーからは取り除かれます。
かつての支配種で友人たる彼らに敬意を。
―――O5-██
21██/12/31
今年ももう終わろうとしている。今は友人の誘いを断り、自室で1人この日記を書いている。親友と言える間柄でも、見た目が違うとどうしてもこちらが疎外感を感じてしまう。ホモサピエンスの友人は遠く離れた場所にしかいない。
交差点を行きかう人々は"彼ら"が多くを占め、社会に貢献する発見をしているのも"彼ら"で、ニュースに上がるのも"彼ら"が関心を持つ出来事ばかり……社会はゆっくりと確実に、"彼ら"の生活様式へと適応して言っている。一昔前、間違った知識でクリスマスを祝っていた彼らの姿はもうそこにはない。我々人類の居場所が、徐々に"彼ら"へと移り変わりつつある。
いずれ、私たちの種族はこの地球上からその姿を消すだろう。人類と"彼ら"の数が同数となった今の時点で、もはやこれは避けられないことは確実だ。遺伝子的情報の一部は、"彼ら"と交配した子孫たち、コンピュータやのデータ上、冷凍保存された肉体などとして残るかもしれない。しかし、この地上をホモ・サピエンスという種が支配する時は二度と訪れないだろう。
我々はそこまで衰退したし、なにより"彼ら"がそれを許さない。支配者としての地位を捨てる理由はないからだ。我々がそうだった。かつての支配種を徹底的に隔離した。同じ結末になっていないだけマシだろう。今も細々とだが人類は生きている。
ただ、"彼ら"が主体となった財団を見て思うことがある。例え人類が滅んだとしても。遠い未来で"彼ら"が滅んだとしても。地球が消滅したとしても。
それでも、世界は周っていく。世界は舞台であり、演者が変わるだけなのだ。"彼ら"が主役となり、私たちは舞台から降りるだけ……それだけなのだ。
どうか、"彼ら"が歩む困難多きの未来に幸福を。過ぎ去りし時の偉人たちに敬礼を。我々の生きた証は、この地球が知っている。