パパー、僕がやりたーい
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傷つき、血に塗れた清掃員がSCP-049の膝をつつき、何かを囁いた。彼女の指は廊下の向こうを指していた。049は彼女の傷を平穏に癒してあげられたらと思ったが、優先せねばならない問題があった。唯一の機能的なシーリングライトの下に、鳥顔のぬいぐるみとしか形容できない忌まわしいモノが杖を握って立っていた。

「包帯をおろせ、オッサン!」
予想通り、ソレはSCP-049-Jだった。疑いようもなく大人のペスト医師を付いて回り、稚拙な医療知識を振りかざしている。

「去れ。」
SCP-049は不機嫌そうに答えた。通常ならあのバカ鳥に教育を施すところだが、誰かを治療したいという都度にやり続けている事は確かで、もはや疲れてきていた。正直、アレに脳があるのかも疑問だ。

哀れな医師は清掃員の傷を診断する為に背を向けたが、直後、おぞましい叫び声と必死な足音を後ろから聞いた。SCP-049-Jは清掃員の右顎を全力で蹴り飛ばし、彼女は廊下からクローゼットまでを激痛に転げさせるに至った。

「何をしているんだこのバカタレ。」
049がこんな光景を見るのは初めてから程遠いが、それでも毎度戦慄せずにはいられなかった。

「えっと…よき医者はかならず麻酔をほどこすものだし、おまえもよき医者ならやってるはずだし。」
049-Jは瀕死の女性の意識を吹っ飛ばした事を誇らしげにしていた。清掃員にトドメを刺す為に手を伸ばしたが、049は急ぎ捕まえてその場に押しとどめた。

「よーしよく聞け、このクソガキ!」
この時点で、049はかなり怒っていた。
「お前は生まれた時からずっと邪魔者でしかない!その…その無意味な暴力を医療行為だと言い張るのかね?」

「でも…わたしは049-Jだ。『J』は『ジュニア』の略称なのだ。わたしは──」

「ちがうわ!」

SCP-049はどうすればいいのかわからなかった。子供に自分の持つ全ての医療知識を教え込む為にあらゆるてをつくしたが、まるで希望が見出せなかった。ついにこの施設で悪疫の本質に理解のある者を授かったと思ったら、ここにいる奴は咳き込んだだけで他人を無意味に打ちのめす有様だ。イラつき鬱陶しく思うあまり、049-Jのローブの中からコケやらワタやらを毟り始めた。

「キャア!たすけて!殺される!医者が殺される!医療過誤だ!」
049-Jが049の手の中で叫び暴れる最中、清掃員はゆっくりと2体の横を這って離れようとしていた。彼女は本当の意味での治療を受ける為、できるだけ音を立てないようにしたが、混乱の真っ只中でも隠れきる事は叶わなかった。049-Jはやがて拘束から逃れ、尖った杖で彼女に鋭い一撃を浴びせた。

「効いてる!よく効いてるぞ!」
049-Jはまた杖を振り上げたが、その前に049はその凶器を取り上げるに間に合った。

「もう一発やったら壊すぞ!」

「させるか!」

049-Jは小さく柔らかい物にしては良い勝負をしてみせた。049は杖を押さえる為に全力を尽くさねばならなかった。事実、2体は互いを抑え込むのに必死になるあまり、ほんの一瞬、清掃員の近くにいる事を失念していたのだ。やがてバランスが崩れ、2体は彼女の腕、首、背骨の上に転がり、無慈悲に彼女を潰してしまった。気がついた時にはもう手遅れだった。

「止まれ!止まって自分のしでかした事を見てみろ!」
049はどうにか049-Jを説得し、離れる事ができた。彼は物言わぬ死体を杖の先でつついた。反応ナシ。049はため息をつき、我が子に杖を返した。
「彼女は死んだ。これがお前にとっての『最も効果的な救済』だって?何か言う事はないのか!」

049-Jは質問について少しの時間考えた。ほんの少しだけだった。

「もっととんがった杖がいる。」
返答し、杖の先をコンクリート壁に擦り付けて研ぎ始めた。

すっかり完敗の049は、通路の反対側に座り込み、膝の間に体を沈めて顔を両手で覆った。とんだ大失敗だ。回避できた大失敗だった…と2人きりになってさえいなければ。

「ああ、ハム博士…我々はなんて事をしたのだろう。」

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