灰になった夢の中から
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なにもかもやめて、首でも吊ろうかと考えていた矢先、知らない電話番号から着信があった。なんでも、俺みたいな死にたいやつらを引き留めるために働いてるらしい。


何回断っても、話だけでもいいからと引き下がらない。段々あっちが可哀そうになってきたので話だけ聞いてやることにした。指定されたカフェに向かうと、ずいぶん若い男が一人座っている。新入社員なんだろうか。男は「巻石です」と自己紹介をし、よくあるカウンセリングのようなものを始めた。


少しもたつきながらも、何とか自分の業務をこなそうとするその姿は、若い頃の自分を見ているようだった。目の前に見えた自分は、少しづつ若くなっていく。


あの頃は、目に映るもの全てが奇麗だった。将来への不安なんて全く無くて、毎日が楽しかった。いや、思い出の中だからそう考えてしまうのかもしれないな。


そう言えばあの頃は、特撮が大好きだった。画面の中で戦うヒーローに、自分もいつかなれるだろうと考えていた。困っている人々を救い、褒められたかったのだろうか?慕われたかったのだろうか?もう何十年も経ってしまった今では、思い出せない。


もうおもちゃは錆び付いて、ホコリまみれになり、物置の底で眠っているか、すでに灰となったか。私の夢と、同じように。


気づけば、そこは既に知らないビルの中だった。ズボンは涙で少しばかり湿ってる。


「大丈夫です――」

「大丈夫ですよ。夢は叶うものです。例えそれがすでに消え去ろうとしているものでも。私たちが、そのお手伝いをします。いや、させてください。」


先ほどの青年は、笑顔でそう私に語り掛けると、部屋の照明を消した。







今まで空っぽだった私の心に、何かが入ってきたような気がした。


誰かを守るために。誰かを救うために。もう、無力な私ではなくなった。


例えば、病に苦しむ、孤独な少年の支えになってあげることができた。


例えば、未来を切り捨てようとしている青年の、暗い靄を取り払ってあげることができた。


そして今は、無限の死に苦しむ少年を救うために、何とかそれを解決しようとしている。


何も怖くなどない。これからも、私は誰かを救い続けるのだろう。


だって私は、ヒーローなんだから。

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