エージェントAAの個人的記録
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個人的記録 機動部隊Ω-7“パンドラの箱”所属、エージェントA█████ A██████


日付: October 10, ████

俺は青いピルを取るべきだった。

██████████博士が、ある上級政府組織の博士研究助手に欠員が出たと俺に言ってきた時は、彼が言ってるのはCIAかNSAみたいなところだと思っていた。こんな…こんなのは想像していなかった。

この仕事は悪夢だ。もうひと月も家族に会ってない。何人かのナノ・エージェントが持ち込む面倒事が終わり、首の後ろにデカい歯車がついた現場エージェントから逃れてホールで寝る。30分前には、男がやってきて俺にモップを持つように言った。誰かが例の7本脚の犬にチーズをやろうとしたんだ。ひどい臭いだった。たまに、俺はもう死んで地獄にいるんじゃないかと思う。

いや、地獄もここほどイカれちゃいないだろう。

少なくとも、俺はSCPを直接扱う必要はない。俺の仕事は、サイトのスタッフに疲労やPTSDの兆候がないか監視すること、24時間ずっとだ。「ありうべからざるもの」が奇妙なおぞましい力で皆を叩きだしてぶっ殺すのを9時5時の仕事で防いでいると、皆ちょっとばかしイライラしてしまう。ナイフで自分の手の甲を突き刺そうとした患者がいた。彼は、血流に入り込み身体を内側から食い尽くすらしい何かについての仕事をしていた。見たところ彼は混乱して、衛生的にしているのにそれに感染してるという妄想に取り付かれていた。彼をのして、いくらか休息をとるまで一晩中ベッドに縛り付けなければならなかった。すると彼は飛び退いて、何事もなかったかのように仕事に戻っていった。いかれてる。

それでも、████████████████████よりはマシだ。彼は、不死で空間の狭間から剣を出せるイカレ野郎の精神分析をしようとしている。ああ、そういう奴だ。まじめに、ここには何がある? 熱病にかかった狂人が思い浮かべるイカれた話がいくつか。なんてこった。

今は寝ることにしよう。うまくいけばどうにか、ぐるぐる回るおかしな目が一晩中俺を見つめてくるような事なしに眠れるだろう。


日付: October 11, ████

朝歩いていると、フランク博士から████████████████████が死んだと教えられた。で、今は俺が彼の仕事を引き継いだ。やったね。

SCP-076についてのファイルを読み込むのに一日を費やした。ああ、これは思ってたより悪い。こいつは完璧なサイコパスってだけじゃなく、突飛なヤングアダルトファンタジーみたいな力全部を持ってる。一体どうやって分析されたくない奴を分析するんだ?素手で象が殺せるか?

ちょっとしたテクニックを使わないとな。俺には思いつかないが。

半身猫のジョーシーに会ってきた。彼女を撫でてやると、脚にすりよってきた。下半身がない猫の奇妙な感覚が脚をこすった。


日付: October 12, ████

思いつきはうまくいった。非常に、とっても。

俺は076と、緊張をほぐすようなゲームや何かをやりながら、会話で関係を築こうと考えた。彼みたいな戦士は、戦略を要求されるようなボードゲームを楽しむだろうと思った。俺はストラテゴ(軍人将棋)を選んだ。チェスの類はやったことがないし、碁やチェッカーなんて楽しんだことはなかったからだ。彼はルールを説明してる間じっと俺を見つめていたが、十分好意的に見えた。

ゲーム中、俺は打ち解けて、彼自身のことをもっと話してもらおうとした。うまくいかなかった。彼はすっかりゲームに夢中になって、俺の戦略を突き崩そうとしていた。しばらくたってもそうしていた。俺は彼を勝たせようとしていたが、9ターンほどして、彼が本当に単純な戦略をとっていることが解った。彼は元帥の駒を取り、カーブを描きながら俺の駒を薙ぎ払っていった。俺は地雷への攻撃を誘って元帥を吹き飛ばそうとした。彼は旗を取ろうと工兵を送り込んだが、そこには旗はなかった。地雷を置いたのは、俺の斥候と工兵がいる左側から彼を遠ざけるためだった。彼の旗を見つけるのはそれほど難しくなく、斥候が彼の地雷を解除した工兵の後ろに突っ込み、旗を取って勝った。

彼は押し黙った。俺は彼が怒り狂うんじゃないかと思ったが、そのあと彼は笑った。
「おめでとう」
そう言って、俺の手を握った。(指は二時間以上も痛んだ)
「君も入隊だ」

「何に?」

「機動部隊Ω-7。君は機知と名誉をもって、私を戦いで打ち負かした。今、君は私が選んだ精鋭の一人だ」

何も考えられなかった。
「あなたのグループには入れるとは思えません。俺は研究者で、戦士じゃない」

「いまの君は両方だ」
彼は痣が残るほど強い力で俺の方を叩くと、歩き去っていった。

俺は部門主任に抜けさせてもらおうとした。彼はその頼みをはねつけた。
「076の精神分析を行う絶好のチャンスじゃないか」
彼は言った。
「一日中彼の近くに要られるんだ。長期間の観察をするまたとない機会だ」

そして、ああ……。明日は、財団が遭遇する一番危ない状況にまっすぐ突っ込んでいくような、完全なる不滅の殺戮マシーンにつき従う狂人どもとともに基礎訓練をする。俺が、心理学修士のデスクワークオタクが。逃げることも考えたが、SCP-076が弱いと判断した周りの人間への態度を過去の情報から見る限り、自殺行為だ。あるいは本当の自殺か。

俺は死ぬだろう。


日付: October 27, ████

まだ死んでない。

だが、訓練初日はいっそ死にたいと思った。タンクトップと小さな運動用パンツを来た██人くらいの男たち(そして数人の女性)と顔を合わせた時、何かが間違ってると思った。全員1オンスほどの脂肪もないようで、2人は喧嘩ならアーノルド・シュワルツ…シュワ…あの知事の奴さえ叩きのめせそうに見えた。そして、俺がちょっとだらけた腹とワイヤーフレームの眼鏡と貧弱な笑みを披露すると、皆振り向き、カーペットで粗相をした犬のほうがマシなくらい嫌そうな目で俺を見た。

076は5マイル走を始めさせた。自分はグループの隣で走り……俺は一人で走ると言うべきだったんだ……一番遅い奴のスピードをあげるために、籐の棒で打ち据えてきた。ミミズ腫れができた。走り終わる頃には脚の感覚がなくなっていた。次に076は懸垂と腕立て伏せと、諸々のエクササイズを俺らに課した。これはスペイン宗教裁判で特に頑固な異教徒を扱うために開発されたものなのだろうと俺は確信した。

そして痛むと思わなかった身体のところどころに痛みを感じながら、俺は眠った。それについて考えなければ、いい気持ちだった。次の日、076は俺に『クラヴ・マガ』というイスラエル式武術を教えてきた。たとえWikipediaにどう書いてあるにせよ、ヘブライ語で『クソッタレの異教徒を殺せ』という意味なんだろうと間違いなく確信した。この日の訓練のハイライトは、B████が岩を持って俺を追っかけてきたランニングだった。マジでちびったと思った。

次の日は、本当に、もっと悪かった。

これまでの間で、今が日記を書くべき最初のチャンスだ。毎回得た機会を使うよりも、やるべきことが多すぎた。だが、076はこの週末に休みをとるように言った。俺は30時間も寝て、ああ、これはいい使い方だった。

彼は明日が俺の最終試験だと言った。それがどんなものか、俺にはわからない。まったく楽しみじゃない。


日付: October 28, ████

洗っても洗っても、落ちた気がしない。

076は試験室の外に一人でいて、俺と会った。Ω-7のメンバーが誰もいないことに、俺は少し驚いた。
「最終試験は、君一人で受けるんだ」
076は言った。

彼が俺を連れて部屋に入ると、男が椅子に縛り付けられていた――Dクラスだということは、彼が着ている作業服で判った。部屋全体はとてもさっぱりしていた。タイル張りの床、タイル張りの壁、スプリンクラーのついた天井、その中央に大きな排気口がある。彼の隣には、外科器具の載ったトレイがあった。

「あの刃物の中から、どれでもいい、ひとつ選んで」
076は言った。
「そして、切れ」

俺は縄を切ろうとした。076が俺の顔を叩いた。
「違う。切るんだ

俺はメスを落とした。
「できない」

彼は自分の影に触れ、取り出した……それは長く、無数の鈎と鋸歯、そしてどういうわけか丸鋸がついていた。
「君がやるか。それとも、私がこの娯楽に飽きて、どこか他所に行くか。多分、君の近しい人をできるだけ多く殺して、君は最後にする。君は彼らが全員死ぬのを見ることになる」

俺は答えなかった。彼は長い長い間俺を見て、ドアへと向かった。

ナイフを掴んで男を刺した時、俺は叫んだように思う。自分がやったのは間違いなかった、なぜなら、銅貨の味がしたから。つまり可哀想な奴の血が、俺の口に入ったことは間違いなかった……076は微笑んで、振り返った。
「それでいい」
彼は言った。
「さあ、彼の目を鈎で抉り出せ」

……これ以上言える気がしない、だけど……男はずっと叫んでいた。その時が来るまで。俺がやった。馬鹿な俺は、気づくべきだったのに。防壁を壊し、命令に従順にさせる、洗脳の古典的やり方だ。新人の年に█████で大泣きして学んだのに、騙された。

彼は満足していないようだった。俺には殺しに慣れることが必要なのだと言った。彼は俺に、毎日ラボへ行って犬や猿や猫を選んで――マウスやラットではなく――毎日一匹殺すように告げた。生きたまま切り裂けと。自らの迸る血を真に感じろと。弱さは脇に追いやる必要があると。もっと強くなるよう学べと。強くなれと。

怪物。彼が俺になってほしいものだ。彼のような、社会病質者に。思いやりも罪の意識もなく、恐怖と怒りのほかは何も感じない、怪物。

俺は、彼に打ち負かされはしない。


日付: October 31, ████

ハッピー・ハロウィン。

B███████がドアをノックした時、俺はアカゲザルの解剖をしていた。
「15日に配備湾で会いましょう」
彼女は言った。
「私たちは任務を受けたわ」

俺は泣き叫ぶ猿の心臓にアドレナリン注射をして、とどめを刺してやった。難しいことじゃなかった。すでに胸郭を砕いて、内臓は丸出しだった。B███████は俺が血のついたエプロンを洗うのを待ちながら、ほんの少し同情しているように見えた。
「██████エリアのどこかで活動しているSCPを捉える」
彼女は言った。
「休止状態にあるようだけれど、指揮官はじきに活動すると確信している。Keterクラスよ」

「カバーストーリーは何だ?」
俺は尋ねた。

「要らないわ」
彼女はそう言って、俺にタオルを投げた。
「ハロウィンだから」

俺が作戦エリアに到着するまでに、他の連中は着替え終わっていた。本当に化け物にしか見えなかった。非適合環境保護隔離スーツ(HEPIS)は、生物学的、化学的なあらゆる脅威から完璧に使用者を守り、テレパシーに対しても働き、おまけにごく一般的な脅威からも守ってくれる。標準的なケプラー繊維と生体脅威用スーツに加え、テレキル合金で縁取ったヘルメットと[削除済み]を含んでいる。最終的にはテレビゲームのスーパーソルジャーのようになる。M█████ F████がL██████に使うのをためらわないようなデカい銃を持つ、筋骨隆々で恐ろしい見た目の男たち。076はいつもの服装だったが、もちろん、十分恐ろしかった。

アイリスに会ったのも初めてだった。彼女はユニフォームを着ていないもう一人の例外で、それどころかテレビゲームのキャラクター(あとで調べたら"██████ ████ ███ ████"のJ███だったと分かった)のような扮装をしていた。首から大きなカメラをぶら下げて、実用的なレザージャケットとパンツを着ていた。俺が彼女を見たとき、彼女はベストやパンツの色んなポケットにいくつかのポラロイド写真を整頓していた。
「もしものときに必要なの」
彼女は言った。

二つのバンにぎゅう詰めになって、██████ ████████を下った。楽しい時間。大勢の若者がファンシーな仮装で辺りに立ち、3ブロックにも渡る巨大な野外パーティを大いに楽しんでいる。
俺たちは皆の注目を集め、2、3枚の写真でポーズを取った[検閲者注:潜入調査と写真検閲の結果、本質的な情報漏洩はされていないと判断されました。居合わせた市民の処分命令は中止されました。]。でも俺たちは速やかに移動した。ヤツが現場で俺らを待っていたし、模造剣を持って背が高く、思慮深そうで強靭そうな野蛮人にしつこく言い寄るL███ C████の仮装をした酔っ払いで頭の弱いヴァレーガールを、076が今にもバッサリ切り捨ててしまいそうだったから。

ターゲットはパーティの地下の下水道にいた。SCP工作班はトンネル内のその区画にどうにか罠を仕掛けようとしたが、ついには逃げ出されてしまった。俺たちは、唯一の出口を守っているヤツに遭遇した。2人の工兵が、アイリスが作動機構の写真を撮ってあるクレイモア地雷をセットしてきた。
「もしあたしが写真で触れてスイッチをひねる前に扉を開けたら、あれが爆発するの」
防水バッグに写真を入れてしっかりと胸ポケットにしまいながら、彼女は言った。

076がひとつの班を率い、他のふたつはW███████とK████が先導した。俺とアイリスは、『特殊要素』チームとして076についていった。アイリスが俺を押し戻すまで、俺は076に離れず付いて行こうとしていた。
「近づきすぎちゃダメ」
彼女はそう言って、剣を振るような仕草をした。
「彼、ときどき間合いを最初に確認しないで振るときがあるの」
それを聞いた後、俺は二歩下がった。

俺たちが危険な区域に入った瞬間、076は変化を見せた。豹のように上体をかがめ、空気の匂いを嗅ぎ、ぬるぬるとした古い煉瓦の壁に指を這わせて、笑みを浮かべた。こっちはいい気分じゃなかった。デカく重いスーツは横と後ろの視界を塞いでいたし、自分の息遣いと心臓の鳴る音しか聞こえなかった。ライトの光は闇を十分には照らしてくれず、暗視装置も助けにはならず、緑色の粗い視界は気分を悪くするだけだった。

だから、それが俺の首根っこを掴んで下水に引きずりこんだ時も、俺は絶叫するしかなかった。ヘルメットが遮蔽され、水中に入ってすぐに酸素供給装置が作動したので、溺れ死ぬ心配はなかった。でも息苦しさが、そう、そいつの触手が首を絞めて、俺の命を絞り出そうとしていた。かろうじて銃の引き金を引く時間はあったが、安全装置を切っておくのを忘れたと気づいた時には、俺は気を失っていた。

疲れきった様子の男たちに囲まれて、俺はバンに戻った。バンの半分もあるバカでかい何かが、防水布とゴムロープで巻かれていた。そいつはイカと自転車と、MCエッシャーの絵の融合って感じに見えた。076はどこにもいない。
「何があったんだ?」
俺は苦労してしわがれ声をあげた。

「お前が捕まって、」
W███████が答えた。
「アベルがヤツを殺した。彼はまだ下で卵の焼却の見張りと、他のヤツらを探してる」

「俺はしくじった、だろ?」

「いや、上出来だ」
彼は俺の口に煙草を押しこみ、ジッポで火をつけた。
「お前は生きてる。新入りに俺たちが求めるのは、それだけだ」

後からスーツを綺麗にするのは面倒だった。こいつは宇宙服みたいなもんだが、排泄チューブがない。そして、俺の腹は、怖い目に遭ったときに誰もがやることをしっかりやらかした。(メモ: 次回現場に出るときはオムツを履くことにする)
076はあの後何も言わない。他の皆も、でもこう考えているだろう。俺はこのグループで一体何をやるんだ? 兵士じゃない。銃は撃てない、戦えない。俺にできるのは、単なる心理学じゃ分析できないものを精神分析しようとして、愚かな書類を書くことだけだ。

そう、俺はここで一体何をやっているんだ?


日付: November 19, ████

今日はラボで3匹の猫を殺した。手慣れてきたような気がする。それが怖い。悲鳴も鳴き声も、前ほど俺を悩ませない。多分、次は焼き殺してみるべきだろう。何かを感じようとしている。厭忌。恐怖。怒り。自己嫌悪。なんでもいい……空虚よりは。

俺たちは今日、人気のない小さな町での任務を遂行した。██████████近くの鉱山町だ。だが到着するまでに、街の約半分が感染していた。彼らは皆、眼窩からそれを生やしていて、血を流しているように見えた。俺たちは彼らを撃ち殺そうとしたが、彼らは撃たれた部位を再生させた。火を使おうとしたが、それが成長する方が速いらしかった。手榴弾で感染した人々を吹き飛ばしたら、胞子があたりにばら撒かれた。そのせいで、Y█████を喪った。いくつかの手段を試した。[削除済み]結局、L████が感染した家にVXグレネードを投げこんだ後、俺たちは戦略を切り替えることにした。彼女が焼夷弾と間違えて使ったために、その効果が分かった。神経ガスは、どういうわけか病原体に反応し、きれいに殺した。だが感染者も、感染した部位――心臓、目、肺、肝臓を激しくまき散らしながら死んだ。

アベルは再補給と再編成を要請した。俺たちは焼夷弾を、殺虫剤みたいな神経ガス兵器と交換した。手順は、建物ビニールの遮断シートで覆い、半ダースほどのガス兵器を投げ込み、中にガスが浸透するまで1時間ほど待つというものだった。少なくとも犠牲者の半数は間違い無く感染していなかった。部屋とアパートに隠れて、助けを待っていた人々だった。

小学校は最悪だった。一人の教師がドアにバリケードを作り、彼女のいる幼年学級が何も知らず楽しく安全でいられるように、化け物が外を闊歩してるときもゲームをしたり音楽を流したりしていた。俺が2階の窓で彼女を見たのは、カバーをかけ始めたときだった。彼女が俺の目を見つめた。次は何をする気なのか教えてくれ、という顔をしているのが見て取れた。彼女を見て、なにか伝えようとした。何も伝えられず、彼女は窓から離れた。

俺がその教室に入った最初の人間だった。1ダースほどの5歳児が、小さなベッドで幸せそうに眠っていた。彼らが昼寝をしている間に、神経ガスは速やかに、きれいさっぱりと命を奪った。教師は彼女のデスクに就いて、一休みしているかのように頭を垂れながら、背筋を伸ばして座っていた。彼女は手にマグカップを持っていた。『せかいいちのせんせい』だとでも言うように、小さな女の子を抱きしめる青い服の老女がクレヨンで描かれていた。彼女の目には涙が浮かんでいた。神経ガスの滴であればいいと思った。

感染者が屋上にいた。ガスは、彼を完全に殺すほど高くに行き渡らなかった。彼は肺が裂け、僅かにぴくぴくとうごめいていた。だが彼はまだ死んでなくて、歩くことができ、俺が彼の方に向かったとき、こっちに突っ込んできた。彼は門番だったんだろうと俺は思った。彼は青い作業服を着ていて、左手首が複雑骨折し、骨が飛び出していた。俺は頭を撃ち、鋼の入ったブーツの爪先で彼を蹴り飛ばした。5回目のキックで目玉が落ちた。踏み潰すと、それはブドウのように弾けた。

俺たちは皆、すっかり押し黙って戻ってきた、アベルを除いて。076はいつも通り楽しそうだった。(皮肉だ、皮肉) 残りは……そう、俺たちは兵士だ、でも怪物じゃない。町を一掃しなければならなかった、そして風下にガスが流れるリスクを抱えて空爆が行われ、███████に落ち、さらに一万人以上の哀れな魂が天に召された。爆発は多大な連鎖反応を引き起こし、大陸の半分に渡って、火種がばら撒かれたかもしれない。俺たちは必要とされることをやる、だがそれが良いことだと感じるようなものは、要求されない。

B███████が2、3分前、ちょうど俺が残ってたものを火葬しようとしているときにラボに来た。彼女はつかれているように見えた。俺も眠れないのか、と聞いてきた。もう午前二時だと気づいた。彼女は俺の部屋で、俺と一緒にいたいと言ってきた。すぐに手についた血を洗い流そう、彼女に応じるために。


日付: November 24, ████

感謝祭おめでとう! 現実の世界に暮らしていた頃を思い出すと、七面鳥の日に一番面倒臭かったことは、父さんが俺らに、今年感謝することを少なくともひとつ言えと要求してくることだった。ああ、感謝することは何個かある。死んでないことに感謝してる。世界が終わらなかったことに感謝してる。アベルが俺らを皆殺しにして、剥いだ皮で太鼓を作らなかったことに感謝してる。誰も死体を例の地獄から来たスライムに漬けようとしなかったことを感謝してる。そしてあとのほとんどはB███████に。世界一素晴らしい女の子だ、[削除済み]できるだけじゃなく、とびきりのターキーを作ってくれた。

でも、ほんのちょっと感謝すべき出来事があった。砂糖工場の周りで暴れている巨大な錆の化け物を追いに、アベルと1班が土壇場で出て行ったので、そのほとんどが、俺、B███████、アイリス、そしてカフェテリアの大量生産品の代わりに本物の感謝祭の食事をしたくて寄ってくる奴ら皆のものになった。俺は施設を歩きまわり、立ち寄ってターキーを食いたい人は誰でも訪ねて回った。何人かかき集めた道すがら、俺はフランク博士のオフィスに、俺の古い上司も何か食い物を欲しやしないかと立ち寄った。

博士はえらくハンサムな男と話をしていた。おそらくインド人かアラビア系のようで、機動部隊の最新の現場報告を入念に調べていた。男はずっと話を聞いて、頷いたり、額の刺青に触れたりしていた。俺は彼も来るかどうか尋ねた。
「いいね」
彼はそう言って微笑んだ。
「私たちはしばらく忙しいんだ。でも、君がいいなら、あとでターキーの脚を持ってきてくれるかな」

「それはいいアイデアだ」
フランク博士が言った。
「あと、わたしの分を一皿取っておいてくれ。終わってからつまみに行くよ」

男は忙しそうに見えたので、ディナーの後、俺は付け合せを全部載せた二つの皿をフランク博士のオフィスに持っていった。部屋に近づくにつれて、けど、なにかおかしなことが起こっているのに気づいた。コーンブレッドの詰め物から悪臭がし始めた。扉の外についた時には、それは肉にまで波及し始め、ひどく腐っていた。客の男がドアを開けて出てくる前に、俺は『封じ込め違反』アラームに匹敵するような悲鳴をあげて皿を落とした。

「ああ、参ったな」
彼はため息をついた。
「次はいいよ」

これが、俺が初めてカインに会った顛末だ。いい男だ、たとえ庭師に全く向いてないとしても。この日、彼はファイルをいくつかバックアップして、フランク博士を手助けするためだけに町に来ていたことが分かった。
「アベルが戻ってくるときは、このあたりにいないことが一番なんだ」
数時間後にヘリに乗って帰る前に、彼は言った。そして彼は俺に向けて、奇妙な表情をしてみせた。
「時が来たら」
彼は言った。
「ためらわないで。君がなすべきことをやれ。私は大丈夫」
それが何を意味しようとしたのか、まったく解らない。

メモ: ██████ブランドのクランベリーソースはどれでも、どうやらクランベリーを使ってないらしい。カインの周りにあっても一片たりとも悪くならなかった。来年は別のブランドを選ぶことを覚えておく。


日付: November 19, ████

いや、日付はタイプミスじゃない。そう、最後の日記から4日前だ。クソッタレの時間SCPめ。

タイムラインを俺たちが偶然にも汚染していないことを確認するために、残りのメンバーと一緒に監禁されて次の4日間を費やす。俺はセキュリティスタッフと、俺たちを解放しても大丈夫だろうということについて議論している。なぜなら、知っての通り、時間が無限ループだとして、もし俺が過去の俺に会おうとしたら、なんにせよ俺はそれをやるだろう。でもやってないという事実があるから、やるつもりがないということだ。彼らは俺に、俺が未来の自分に会った記憶が無いのはこれから監禁されるからだと言うので、議論の余地はない。日光の下でちょっと散歩するくらいのことを頼むのもいけないのか? ふざけた防音壁がこっちに動き始める。

これっぽっちも気に食わない。

任務は成功した、どちらかといえば。俺たちは隔離スーツを着て、その物体を回収しに施設に向かった。機動部隊██████ ██, "███ ████ ████"との共同任務だった。俺らよりももっと多くの潜入経験を持っていたので、彼らがリードを取った。彼らがそれに出くわしたときに困難を散らすためだけにそこにいた。

二分後に、俺たちは3班を失った。班の奴らは、物体の所持者と接触して3分以内に、いきなり急激に老衰して死んだ。2班は死ぬ前にどうにかSOSを発した。そのあと、アベルが目標に近づいた。異様な事だ、彼の周りにいる人々は老化して死んでいく。その間、彼は老いを近づけさせず、髪は伸び、爪も長くなるのに、身体はまったく変化していない。

[削除済み]はI型鋼で彼を押さえつけたが、その腕は切り落とされていたので、物体に手は届かなかった。そして彼は化け物を押さえつける他のものを欲していた。俺が一番近かった。非常用の006を一回分開け、走り出す前に飲み込んだ。

それに触れた瞬間、俺の手はすぐに衰えはじめた。周囲で遮蔽スーツが腐り始めたので、俺は小さく叫んだ。だがなんとかアベルと“モルフォ・ファージ”からそれをぐいと引き、箱へ投げ込んだ。B███████が蓋を閉め、鍵をかけた。そしてすべてのものが[削除済み]

そう、それで、俺たちは4日前のここに巻き戻った。彼らを説得して、なんとか日記を確保した。さらに過去の俺が行く前に、彼に006の非常用レーションを支給させた。なんで彼がそれを欲したか、彼は混乱するだろうとわかっている。俺にはわかってる。

アイリスは……わからない。最近彼女はうまくやってない。任務のストレスが影響してるようだ。チームの最年少メンバーの一人でいるのは簡単じゃない。


日付: ██████████ ██,████

今日はB███████が部屋に来て、Ω-7から離れて小さな任務を受けたと俺に言った。
「█████に何か悪いことが起きてるの」
彼女は言った。
「彼女と話すように言われたわ」

█████。それはSCP-███になるだろう。[削除済み]

とにかく、B███████はΩ-7に配属される前は███████だったので、████ ██████と話すには向いている人物だと彼らは思ったのだろう。彼女はそう思っていなかった。
「あたし、今まであんな酷い目に遭ったことなんてないのよ、A█████」
彼女はそれを気にしていた。
「そんな人にどういうふうに接したらいいの?」

「そうだな……聞いてくれ。彼女が自分自身を責めないようにする。誰も彼女を責めてないって知らせる。そして、彼女の人格を尊重する。心的外傷後ストレスに苦しんでいるだろうから。小冊子も見繕っておいたよ」

「いったいなんで、そんなになんでも知ってるの?」

「俺は兵士になる前は心理学者だったじゃないか、覚えてる? 俺の仕事じゃ慣れっこだったよ」
「ああ、そうだった」
彼女は言って、微笑んだ。
「たまに忘れちゃうわ」

「俺もだよ」
俺は言った。


日付: ██████████ ██,████

奪還任務だ。ダンテンセン博士が理由をつけてアイリスを外に出させた。彼らには孤独で良い医者がついている。よくもそんなおかしな真似を……


日付: ██████████ ██,████

奪還任務は成功した。『SCP-173からの死の痛みによる回復』と俺には聞こえる。
報告書の上ではいい響きだ。

俺たちはダラス空港でアイリスに追いついた。彼女は待合室で待っていた。B███████と俺が近づいてくるのを見た瞬間、彼女は涙を溢れさせた。
「どうしてあたしを放っておいてくれないの?」

[削除済み]銃を俺の頭に突きつけて、中で作業させるためのポラロイド写真を手渡した。
「君なら俺が自分を撃ち殺すのを止められる」
「君にできるのは写真の中に入って、撃鉄を引くことだけだ」

「できっこないわ」
彼女は呟いた。

「俺は空港のセキュリティを越えてまで弾の入った拳銃を持ってきた。できるしやるさ。そして君がまだ君にできることをするなら、君は俺を死なせない。なぜなら、君はいい人だから、こんなことさせられない」

俺は引き金を引いた。カチッと音が鳴った。彼女は片手で写真を持ち、もう片方で撃鉄を押さえていた。そして彼女は崩れ落ち、泣きだした。

B███████に残りの面倒をみてもらう。俺の仕事は終わった。


日付: ██████████ ██,████

彼らはみんな死んだ。

V█████、 N█████、L████、J██████。彼ら全員が死んだ。

待った、司令部から連絡が来た。


機動部隊Ω-7現場指揮と財団輸送機223の通信記録

エージェントAA: フィールド。

司令部: 司令部です。アベルに繋いで下さい。

エージェントAA: なんてこった……

SCP-076: 兵士ならできるだろう。私は胴体を無くしたが、君に食らいつく顎はまだある。汚染の状況は?

エージェントAA: その……コロニーは██████へ飛来しています。███████のあとは……ああ、あれがもし大量のシリコンを得たら、そのあとは……

SCP-076: 私は、この状況の指揮権を君に渡す。

エージェントAA: ……え?

SCP-076: 君がΩ-7の司令官だ。班にはもう知らせた。君は[削除済み]

エージェントAA: そんな……わかりません。もっといいエージェントが……

SCP-076: いい戦士はいる。でも、戦士では今の状況を止めないだろう。欲しいのは戦略家だ。君が戦争ゲームで私を負かしたときに、君は戦略家だと分かった。君はこの敵を打ち負かさなければならない。拳ではなく知略で勝つんだ。考えろ!

エージェントAA: 考えろ……待って。思いついた。大将だ。でも工兵はいない。あれを爆弾に誘いこめれば……

<通信終了>


公式引用

この日に知られているよう、エージェントA█████A██████(機動部隊Ω-7、“パンドラの箱”)――生命と人体が極めて危険な状態にある――は、奪還任務を遂行することを目的に、直接KeterレベルSCPと交戦しました。エージェント=ベアトリス・マッドドックス(Beatrice Maddox)の死亡を含む、攻撃におけるいたましい負傷者が出ましたが、エージェントA█████の行動により、財団施設での暴走時、SCP-073のSCP-███の攻撃範囲への侵入が認められました。敵との交戦により███████は[削除済み]


日付: ██████████ ██,████

きょう アベルがきた。 彼はbについてy聞いた。 葬儀には行きsづらかった。fでも、俺たちは友だちをみんななくした。

手と指なしで タイピングするのはむずかしい。 n棒をくわえて使うのにはなれた。とlきどき、キーをまちがえtる。これは俺の日記だ、だから助けrはぜったい うけない。

頭のなかにも破片がある。ひとかけらが、頭蓋骨のなかにはいった。あいつらが言うには、それが俺の脳の一部を傷つけた。m俺の共感は、なくなったかもしれない。いったいどういうyことだろう。

おれは チームが死んでいく光景qをみた。異様だったt。もっと感じるとおもったのに、猫の解剖を見てるみたいだった。:もっと、内臓と血を。

彼らは、もっとg良くなるような機械をもってると聞いた。
運rだめしをしようとおもう。


エージェントA█████A██████のSCP-212による改良手術の許可 - 承認

- O5-██


記録終了: さらなる情報は、SCP-784-ARCを参照

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