レスリーと医者の日々と騎士
評価: +4+x

二つの本の山がその医者の隣に置かれていた。彼の左側の集まりは整理整頓されており、本の一冊一冊が丁寧に積み上げられている。彼の右側の堆積はより遥かに大きく、より遥かに盛り土めいた形をとっており、それぞれの新たな追加物がその山の上にぞんざいに放り投げられている。

医者は彼の両手の中にあるその本から、兄弟、ドラゴン、タイムトラベル、そして自己犠牲についてを描いた一つの物語を声に出して読んでいた。レスリーは彼女がそれまでに聴いてきた他の全ての物語と同じようにその物語を聴いていた、その医者の被っている革のフードの上で心地良く休みながら。これらはマールの本だったが、これらを読んでいるのはマールの声ではなかった。だがそれでも、彼女は短い間その物語が作り話であることを忘れた、その兄が篝火の明かりのそばの泥の中で一人のグロテスクなハーフ・オーガと戦うのと同時に。彼女は彼が地面に叩き付けられると同時にハッと息を呑み、そしてそれが彼の最初からの計画であったことに自身が気が付いた時に喝采を送った。

「キャラモンはとても勇敢だわ、ただ独りでこんなふうに奴と戦うなんて!」彼女はその章の終わりに対して見解を述べた、医者の指がそのページを繰るのと同時に。

「この場に勇敢さなどはないよ、彼は戦わなければ死ぬ身なのだから、」医者が答える、ページを繰りながら。「彼自身だけではない、彼の弟、そしてあの女性だってそうだ。彼は他に選択肢がないから彼のやる事をやっているんだよ」

レスリーはその答えに確信を持たなかった。「それは少しも彼を勇敢でなくするものではないわ。もしも彼がいなかったなら彼らはきっと死んでしまうし、彼は英雄なのよ」

「英雄とは――」

医者は彼女に英雄の何たるかを教えることはなかった。外の裏庭から一つのとてつもなく大きな騒音が聞こえてきたからだ。彼らがここで過ごしてきたそれまでの全ての時間の中で、彼らは風が何らかのひどく奇妙な音たちを作るのを聞いてきていたが、これはそれらとは異なっていた。その風は決してギャロップで駆けなかった。その風は決してその家を揺らすのに十分なほどの強さをもって何かに突っ込まなかった。その風は、とりわけ、決してスペイン語を話さなかった。

「そしてそれから、やっとのことで、最後の巨人が死して横たわる、そしてその地はもう一度平和を知り得る!」"Y así, finalmente, el último gigante a muerto, ¡y la tierra puede por fin vivir en paz!" 一つの声が轟いた。そのペスト医師とレスリーは勝手口へと辿り着き、外のその光景を目にした。

マールの装飾風車が死んで横たわっており、一本の箒の柄の端に結び付けられた一本のディナーナイフがそれのスポークたちを突き通っている。一頭の同様に崩れ落ちた馬がすぐ近くに横たわっており、そして医者の視界には、その獣はその風車よりもひどい状態にあるものとして映った。その老いぼれた馬は人類の終わりを見た経験があってもおかしくないほど歳を取っているように見えた。いや違う、それは人類の始まりを見た経験があってもおかしくないほどの年齢であるように見えた。

一人の見事な口髭を蓄えた男がその倒壊した建造物の上に立ち、それの翼に刺さっている彼の間に合わせの槍を引っ張った。彼は医者がコホンと咳払いをした時に動きを止め、その音の方にくるりと向きを変えると自身の腰元から自動車バンパーの先の尖った破片一つを取り出してその新たなる脅威に狙いを定めた。

「我こそはドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ、遍歴の騎士にして妖怪変化を退治する者なり! 汝の名を名乗れ、悪党よ!」"¡Soy Don Quijote de La Mancha, el valiente señor y enemigo de monstruos! ¡Identifícate, demonio!" 二枚の一時停止の標識、一緒にリベットで留められた、は彼の銅鎧となっている。一個の水切りボウルは彼の兜だ。鶏小屋用の金網は彼の脛当てを形作っている。

医者はどっと笑い出した。彼がレスリーの言うジョークに時々提供する穏やかで上品な笑い声ではない、一つのひきつけを起こした大爆笑が、彼を難破させ、彼の体を屈曲させた。程なくして、彼のマスクに涙が流れ落ち出す。レスリーはひどく戸惑った。彼女はスペイン語が話せないのだ。

騎士の剣はこの反応に合わせてわずかに下がり、その黒いローブに身を包んだ男を研究した。彼が気を落ち着け始め、自身のマスクを拭ってきれいにするのと同時に。「よかろう、然らば、」医者は最終的に言った。「そういう事なら、私はヴィクター・フランケンシュタイン、医者である」彼は皮肉った。彼は込み上げてくるもう一つの独り笑いを懸命にこらえた。

レスリーはペスト医師の頭から飛んでその黒いローブの男を研究した、戸惑いの中で。彼は以前彼女にフランケンシュタインの物語を読み聞かせたことがあり、それはあの本の山の麓のどこかにある。一体全体なぜ彼はそんなことを言ったのだろう? だがそれでもなお、彼女は今のところ口をつぐみ続けた、その二人の間で小さくなりそして気付かれないまま。

「お目にかかれて嬉しいぞ、良医のフランケンシュタイン殿。拙者はちょうどよい時に参ったようでござるな」騎士は剣を鞘に納めたのち兜を頭から取ると、それを自身の曲げた肘の中に抱きかかえた。彼の英語は流暢だったが、間違いなく訛りがあった。彼は医者に近付き、相手に古めかしい形の敬礼をし、それから物珍しそうに相手の周囲を、その家の中をじっと見た。

「失礼だが貴方の見ているもの、もしくは人物を教えてくれないか?」医者は困惑して尋ねた。そのラ・マンチャの男が探るような目つきでその暗い建物の中を覗き込んでいたからだ。

「姫君じゃ。あの巨人に捕らわれておられたお方じゃ、」彼は倒壊した庭の飾りを身振りで指し示した。「あのお方は自らの真実の愛から切り離されておしまいになっておられる」

「レスリーの事か?」

「私のこと?」

騎士はその小さな声の源の方を向き、彼の狂気じみた眼差しは最終的にその静かに浮かんでいる蚊へと行き当たった。「ああ、奥方様、さようでござる」彼は枯れた芝生にひざまずいた。「どうかこの賤しき騎士めにおん身をおん身の愛のおんもとまでお送り届けいたすことをお許し願いたい」

レスリーはこの嘲笑的な行為に胃がムカムカした。彼女は再び医者のフードに着地した。「マールは……」彼女は言い淀んだ。いや、それは真実なのだ、そして彼女はそれと共に生きることを学ばねばならない。「マールは死んだわ」

「あー、それでは我々がこの素晴らしきドクター・フランケンシュタインを同伴させることができることはこの上なく幸運なことでござるな」医者の目が見開かれた。

「いや、いや、私は――」医者の言葉は打ち切られた。

「おぬし自身を否定するでない、医者よ」ドン・キホーテは立ち上がってペスト医師の前腕に手を置き、相手の頭の上にいる小さな蚊の方に顎をしゃくった。「このお方のためであるぞ」

「ほ……本当にそれができるの、ドクター?」レスリーは尋ね、彼のフードの前面へ移動してその白く長いマスクを見下ろした。「あなたはマールをあなたが……あなたが私にしたように生き返らせることができるの?」彼女はその医者が歯を食いしばるのを彼のフードを通して感じることができた。

「多分」医者は認めた、ついに。「だが、我々は彼の事を見つける必要があるだろう」彼は自身の片腕を引いて騎士の手から離し、もう片方の腕を横に伸ばし、それらの周囲にある放棄された世界をそれらに抱かせた。「そしてそれは、間違いなく、私の能力を超えた所にあるものだ」

「ふふん!」騎士は素早く大股で歩いて自身の敵から自身の槍を引き抜いた。「それは最も簡単な部分じゃ」彼は移動して自身の馬、あらゆる論理に反しそして見たところいくつかの物理法則にも反しながら立ち上がっていた、のそばに立った。「我らは世に知られている最も偉大な航海の道具を持っておる。人を愛する者の心じゃよ」


その三人組は昼も夜も馬に乗り、ロシナンテに草を食ませる時と眠らせる時だけ止まった。ドン・キホーテが強く勧める毎に、レスリーがその老いぼれ馬に乗り、そして二人の男が徒歩でその後をついて行った。夜の後に昼が来、そして彼らは行進した。核爆弾の如き雨が降り、焼けるように熱い風がヒューヒューと唸り、そしてそれでも彼らは耐えた。

レスリーは抱いていた、彼女のプロセッサの奥深くに、一つの疑いの種を。彼女は自身の心臓、その狂った騎士が示唆したような、ではなく自身の脳の中にある衛星ビーコンに従っていた。サイト-42だ、彼女は確信していた。もし財団が彼を回収したなら、そうであるならそここそが彼らが彼を連れて行ったであろう場所だ。200年以上ぶりに、レスリーは彼女の子供たちの方へ心を向けた。それこそが彼らが興味を持ったであろうものだ、間違いなく、そしてサイト-42、そうだ……それは道徳的に正しいことのためのもの、だったのだろうか? その――そのようなことのための。彼女はその思考の流れに最早耐えられなくなっていた。それに加えて……

「あったわ」レスリーは一行の注意を一つの部分的に崩落した地下鉄トンネルの入口へと向けた。彼女は馬の背から一直線に飛んでその暗いトンネルの中へ入っていった。二人の男は互いの顔をちらりと見てから彼女の後について走り出し、騎士の鎧は一歩毎に騒々しくカンカンと音を立てた。ロシナンテ、その小休止を喜んだ、はその道の端にドッサリと倒れ込んだ。

二人は一つのロックされた通用口の外で彼女、それの隣にあるキーパッドの周りをブンブンと飛び回っている、に追い付いた。「入り方がわからない、開け方がわからない!」彼女は近付いてくる彼らに向かって必死に言った。

騎士はその扉を一瞬研究し、それから宣言した。「たとえ最も大きな障害であろうとも真実の愛の追求を妨げることはできぬ!」医者はドン・キホーテの槍がその金属製の扉を一突きで榴散弾の破片へと変えてしまうのと同時に脇へ避けた。

サイト-42の廊下群は白く、無菌で、そして完全に人間の生命を欠いていた。レスリーは弾丸の如く飛んで行った。サイトのマップは既に彼女の記憶装置に搭載されていたのだ。彼女は財団がマールを置いているであろう場所を知っていた……仮に彼がここにいるとすればだが。

そのとても小さな虫は追いかけることが難しく、その二人の男は何度か危うく彼女を見失いそうになった。「急げ、ヴィクター! 我らはあの愛の速さと同じように共に駆けてゆかねばならぬのじゃぞ!」騎士は怒鳴り、同時に彼のペースを上げた。医者は、悪化させ、倍加させた、彼の努力を、喘鳴を。彼はそれまでの数世紀の間沢山走ることをする機会を持ってこなかったのだ。

彼がようやく彼らに追い付き、体を折り曲げ、ゼイゼイと喘ぎ、そして死に物狂いで自分が汗をかくことができたらいいのにと願った時、その騎士とその蚊は一ダースの背の高いガラス製シリンダーを備えた一つの部屋の中に立った。彼は最終的に息を整えると同時にそれらのガラスの中にある体たちを研究した。霜のとても薄い層がそれらのチューブの内部を覆い尽くしている。彼は心が沈んでいくのを感じた。レスリーはそれまでにマールのことを極めて詳細に説明しており、そして彼はそれを、これらの人々のうちのいずれもマールではないことを確信したのだ。

それゆえ、レスリーの声が歓喜に沸き立った時、彼はまず最初に混乱した。彼が彼女の言葉を耳にするまで。

「この子たちは私の赤ちゃんたちよ!」彼女はそれらステイシス・チューブのうちの四つの間を軽やかに飛び回っており、彼らの顔を間近で研究していた。彼らは幼い子供たちだった、恐らく六歳か七歳だ。医者は目を細くして見た。彼らの顔は……彼女が説明していたマールのそれと全く似ていないものではなかった。「ドクター、騎士様! 私の赤ちゃんたちよ!」彼女は泣きじゃくっており、確かに感謝していた、自分に自分の視界をぼやけさせる涙が出なかったことを。「そうだわ、彼らをここから出すのよ! 大丈夫かしら? ドクター、どうか大丈夫だと言って! どうかあなたが彼らをここから安全に出す方法を知っていると言って!」

ペスト医師は少しの間それらの体を研究し、思案を巡らせた。彼はドン・キホーテを、顔を輝かせて愛というものの性質についての甘い言葉を他の誰でもない己自身にボソボソと囁いているその人物をちらりと盗み見た。なんと奇妙な奴なのだろう。彼は思った。だが、果たして私にそんな判断をする権利があるのだろうか? 彼は己の空想から己自身を引き抜くとともに頷いた。「ああ。それは簡単な手順であるはずだ」


その地下の施設の中で数ヶ月が過ぎて行った。その子供たちはもう食料押出機の使い方を学び終えており、そして医者は彼らがそれから先彼らの新しい家で生き残り、実際に健康に育ってゆくであろうことに何の心配も抱かなかった。

レスリーと彼女の子供たちはその財団施設の領域の中で彼らが必要としうる全てのものを持った。あれから手順はうまくいき、そしてその三男一女は速やかに回収され、無事に彼らの母のもとへと届けられていた。確かに、彼らに説明するのにはしばらくの時間を要した、レスリーが、事実、彼らの母であることは。だが彼女は彼らを愛し、そして彼女は将来のいつか、彼らが自分を愛するようになるであろうことを彼に保証した。彼女は心配していなかった。彼は彼女と自分が交わした最後の言葉を心に抱いた。

「私はあとどれくらいの間生きて彼らの世話をすることができるの、ドクター?」親が子供よりも長生きしてしまうことほど悲劇的なことはない。だが、レスリーはこれから永久に機能し続けるだろう、彼女の子供たちがこれから成長し、そして歳を取り、そして死んでゆくであろうことに反して。その質問は彼に決して少なくない苦悩をもたらしたが、しかし最終的に彼はそれを認めた。

「彼らの残りの人生よりも長くだよ」

それは真実だったが、しかしそれは彼女を幸せにした。彼はその点には慰めを見出した、少なくとも。

夜明けの光がその廃墟と化した街を、サイト-42への秘密の入口へと繋がる玄関に独り立つその黒いローブを纏った人影を照らした。ドン・キホーテはその前の晩に馬に乗って去っていた、騎士の仕事は決して終わることはないと彼らに言い、そして一つのガラス張りの店先を馬で走り抜けて時の彼方へと消えることで自身が彼らの前に現れた時と同じくらいの狂気を見せる別れ方をして。そしてそれからそのガラス張りの店先から馬で引き返して通りを進んで行って。しかし医者はその最後の部分は思い出さないようにしようと心に決めた。

彼は立った、独りで、そして彼を取り巻くその壊れた世界に目を向けた。

病んだ、死にかけている世界。

一つの救済を必要としている世界。

そして彼は歩いていった。


Othelloのエントリーも必ずチェックしてね: La Marcha GrenaDEETa
As well as Hippo's take on the power triangle: Down With the Sickness

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。